闇の足跡
 <中編>







 毎日悶々と対処の仕方について考えたが、良い考えが浮かぶはずもなく完全に困り果てていた。
 ストーカーの正体は、依然全くわからない。
 だが、MDは毎日ロッカーや靴箱に届けられ、視線はいつも感じ、確実に尾行されているという事実に、オレは怯えた。
 脳天気な恋人に言い出す事などもちろん出来ず、一人で抱え込むしかないオレは、夜はあまり眠れなくなり、自分でも痩せていくのが手に取るように判ったが・・・どうしようもなかったのだ。






 「羽田野、ちょっといいか?」
 そんな時、彼がオレの教室を訪ねて来た。
 教室の視線を、一身に受ける。
 当たり前だ。
 あの、藤岡零がオレを訪ねて来たのだから。
 普段全校生徒から、憧れと畏怖を受けている人である。
 そんな人が、一学年下でなんの関わりもないオレを訪ねてきたら、誰もが興味を抱くに決まっている。
 オレは、好奇心いっぱいの視線を受けつつ教室を後にした。

 彼は、人気のない屋上に連れ出すと開口一番
 「大丈夫か?」と、真顔で聞いた。

 「え・・・・・・?」
 「凄い顔色だ・・・。しかもこの前話しをした時から比べるとだいぶ痩せている。」
 「そ・・・うですか・・・・・・?」
 そう答えるしか、今のオレにはない。
 そんな反応を見た彼は、オレの前に手を差し出した。
 その手の中には―――

 ・・・・・・MDだ。

 「コレが原因か?」
 一瞬で凍りつく。
 「昨日ロッカールームで拾った・・・。持ち主もわからないから、とりあえず聞いた。悪かった」
 「・・・・・・・・・・・・・」
 黙ってしまったオレに、彼はあわてて付け加える。
 「俺以外、誰も聞いてないから」

 「―――驚か、れたでしょうね・・・」
 やっとの事で出たオレ声は、低く乾いていた。
 彼も一瞬押し黙る。
 「いや。・・・・・・驚いたけど」
 「軽蔑するでしょう? 男同士なんて」
 どこか被虐的になっているのは、自分でも判っている。
 だけど・・・。

 ―――この人には、知られたくなかった・・・・・・。

 「そんな事は、ない。他のヤツも何人か知ってはいるし・・・な。俺は、誰にも言う気はない」
 軽蔑した言葉を紡ぎ出すと思っていた彼の口から、意外な言葉が漏れた。
 「・・・・・・先輩」
 その事実に、ホッと小さく息を吐く。
 「だが、コレはなんだ?お前達自分でこんなモノまで録っているのか?」
 「そ、そんなこと、するわけないっ」
 オレの反論に、彼は頷く。
 「だよな・・・。どう言う事だ?」
 知られてしまった事と、その事実をあっさりと認めてくれた彼。そして、オレの中に誰かに相談したかったという心があって、気が付けばここ一週間の出来事を彼に話していたのだった。



 「なるほど・・・完璧な、ストーカーだな」
 「はい」
 オレの言葉をしっかりと聞いてくれた彼は、オレと同じ意見を述べた。
 「宮下は何と言っているんだ?」
 「寛・・・宮下先輩には何も言っていません」
 「なぜ?つき合ってるんだろう?」
 「宮下先輩に相談したら・・・・・・」
 彼の当然な疑問。なんと言っていいのか判らず、オレは言葉尻を濁す。
 だが、言えなかった頭の中の言葉が、目の前の人の口から漏れた。
 「公の場でいってしまいそう・・・か?」
 ズバリな彼の言葉に、思わず顔を上げる。
 「ま、あいつのあの性格なら、全校生徒の朝礼の時にでも言いそうだな」
 「―――はい」
 ほとんど話などした事のない寛の性格を、しっかり把握している彼の鋭さに、舌を巻く。
 そんなオレに、彼は思いがけない提案をした。
 「ま、コレも乗りかかった船だし。相談に乗ってやるよ。俺が役に立つのであれば」
 いい・・・のだろうか? 迷惑じゃないんだろうか? でも、彼が相談に乗ってくれると言うのは、これ以上ない程、心強い。

 「あ・・・ありがとうございます」
 オレの返事に、彼は「うん」と頷くと、指を3本立てた。
 「とにかく、盗聴・尾行・視線この3つか?」
 「はい・・・・・・」
 オレは思いつくまま、今までの感じたことを述べる。
 「で、ほぼ毎日届くMDの内容は、毎回違う時のモノ、と」
 どうしても腑に落ちなかった事は、どうやら彼も疑問に思ったらしい。
 MDの事を深く聞かれる。その時になって、あの声が入っているMDを彼に聞かれていた事に気付いて、だんだん恥ずかしくなって来た。
 「MD。全部、残しているのか?」
 「一応・・・。棄てたかったけど、何かの証拠になるかと思って」
 オレの言葉に頷いた彼は、とんでもない事を言いだした。
 「明日、それ全部もってこい。何か手がかりがあるかもしれない」
 「・・・・え」

  ―――アレを、全部聞かれる・・・?

 「既に一回聞いているから、別に気にすることはない。」
 オレの考えたことがわかったのか、彼はニヤリと笑って続けた。
 「たしかに、お前の声はかなり色っぽかったがな」
 カッとして、オレは右手を大きく振り上げたのだった。





□□□





 次の日の昼休み、MDを全部持って科学部の部室に彼を訪ねた。

 「なるべく、誰かと行動するんだ。行き帰りには宮下についていて貰うとか」
 「はい。そうします」
 「何かあったら言ってくれ。俺も何か判ったらすぐ報告する」
 「ありがとうございます。色々して頂いて・・・」
 本当に心から感謝する。
 自分ひとりでは、なにも踏み出せなかったから。
 「言っただろう。乗りかかった船だと。ま、学園の有名人とせっかく知り合ったことだしな」
 そう言うと、彼は悪戯っ子のような顔で笑った。そんな表情に、何故かオレの心臓は早鐘を打つ。
「また、そんなことを・・・」
 冷めた言葉で、オレは必死に動揺を隠した。
 しかし「学園の有名人」とは、よく言ったものだ。自分の方が、百倍も有名人だということを、この人は知らないのだろうか・・・?
 「あ、そうそう、この前言っていた本。持ってきてやったぞ」
 突然話題が飛ぶ。彼の手の中には、1冊の文庫本。どうやら、この前話した時の事を覚えていてくれたらしい。
 「え?エラリークイーンの本ですか?」
 「ああ」
 こうして、心が安まる楽しい昼休みは過ぎていった。



 「最近、顔色よくなってきたな」
 学校からの帰り道、不意に寛が口を開いた。

 「え・・・そ、うかな?」
 オレの顔色?
 寛がオレの躯を気遣うなんて・・・。
 「今日・・・昼休み・・・どこにいたんだ?」
 「は・・・?」
 いきなり飛んだ話題に、思わず寛を顧みる。
 「科学部の部室で、何をしてたんだ?」
 ばれ・・・た?
 鋭い言葉に息を呑んだオレに、寛は不機嫌そうに呟いた。
 「何故、藤岡と知り合いなんだ?」
 その言葉で、先ほどからの意味を理解した。
 ・・・そうか。ばれたワケじゃなくって、彼との仲を疑っているだけか。
 彼と話をしているところとか、今日科学部の部室に行くところとか誰かに見られて、それが寛に耳に届いたんだろうなぁ・・・。彼は目立つから。
 「藤岡先輩は、よく図書室に来られるんだ。で、偶然本の話とかをしていただけだよ?」
 「本当にか?」
 「ホントだぜ」
 男の嫉妬とは恐ろしい。寛の目はマジだった。
 ―――仕方ない。
 「オレを信じろよ・・・なぁ、寛」

 甘えるような口調。そして上目遣いの目。
 色仕掛けである。
 寛は、オレのこんな甘えた態度が大好きだった。
 オレは情けなくなってくるので嫌なのだが、寛にこれ以上突っ込まれるのも困る。
 ―――非常事態だ。しかたがない。
 そして想像通りオレの態度が効いた寛は、オレの腰を抱き寄せて「ホテルに行こう」と言いだした。
 普段なら殴って断るところだが、これ以上彼との関係を突っ込まれたくないのと、なぜか少しの罪悪感のせいで、オレは寛の言い出したことを断れなかったのだった。

 そしてその日から、ストーカー行為が一つ増えた。
 オレの携帯電話にかかる『無言電話』である。





□□□





 「携帯に無言電話か・・・」

 朝の科学部部室。
 彼が朝早くからここに来て本を読んでいる事を前に聞いていたオレは、昨晩から鳴り続ける携帯電話の事を相談しようと、朝一にココに来ていた。
 「昨日夜から、もうずっと・・・」
 オレの言葉に、彼はゆっくりと己の顎に人差し指をあてた。
 「声は?」
 「何も言ってこないです」
 「番号はもちろん・・・」
 「非通知です」
 彼は、少し考え込むように押し黙る
「この携帯、少し貸してくれないか?」
 ふと思いついたように、彼は言い出した。
 「いいですよ。って言うか、オレ今日の帰りに携帯買いに行くんです。気持ち悪いから変えようと思って・・・」
 オレの言葉に、彼も頷く。
 「そうだな。新しいのに変えた方がいい。だが、この携帯ちょっと調べたいことがあるから、このまま契約切らないでくれるか?」
 彼の考えは判らないが、異論はない。
「はい」
 頷いたオレに、彼がうっすらと笑った時だった。

 ブブブブブブ・・・・・・

 不意に、携帯電話が震えた。
 ディスプレイを見ると『非通知』
 カッとして、オレは通話ボタンを押す。
 「あんたいったい何なんだよ! いい加減にしろよ!」
 相手は、やはり無言。
 オレの言葉を待って、じっと耳を澄ましているのだ!
 ―――許せないっ
 怒りにまかせて切ろうとしたとき、不意に彼がオレから携帯電話を取り上げた。
 「お前、誰だ」
 低く静かな声。
 「・・・・・・・・・・」
 無言。静寂。
 そして彼はゆっくりと瞼を閉じると、耳にあてていた携帯をそこから離して切ってしまった。
 「先輩?」
 「いきなり、ガチャッだ」
 オレと彼との対応の違いに、さらに怒りがこみ上げる。
 「オレだったら絶対切らないのに・・・」
 「とにかく、コレしばらく預からせてくれるな?」
 「はい。お願いします」

 その日の放課後、寛と一緒に街に出て新しい携帯電話を買った。
 しかし・・・・・・。






 「新しい携帯にまた掛かってきた?」
 「はい。昨日の夜から」
 オレの言葉を聞いた彼は、右眉をあげた。
 「それ、昨日買ったところなんだろ?」
 「はい」
 「番号、誰に教えた?」
 「え・・・。一緒に買いに行った寛と、友達数人と、家族だけだけど・・・」
 癖なのだろうか。考え込むように、彼はゆっくりとシャープな己の顎に人差し指を持っていく。
 「犯人は、お前が携帯電話を変えたことをもう知っているという事だな」
 「ええっ?」
 昨日だ。この新しい携帯電話を買ったのは。
 「ああ、昨日からこっちは全然ならないからな」
 彼は、昨日預けた以前の携帯電話を指した。
 「よし。そっちの携帯電話を貸してくれるか?」
 「え?」
 指されたのは、昨日買った新しい携帯電話。
 「で、携帯を預けた事を誰にも話すな」
 「誰にも?」
 「ああ。どこかで聞かれているか、盗聴されているかわからないからな。ここは安全だけど」
 「なぜ?」
 オレの疑問に、彼は当たり前のように答えた。
 「ここには、盗聴防止の機械を取り付けてあるから」

 ―――今更ながら、オレはここが伝説の科学部だたという事を思い出した。

 科学部は、代々秀才達が入部し、その活動内容は秘密が多い。
 噂では、ノーベル賞モノの研究をしているとか、したとか・・・。
 まぁそれはただの噂の域だが、企業などがこの科学部が研究した『何か』を買いに来ているというのは事実らしい。
 松華学園の科学部とは、そんな部だった。

 「ヤツが携帯にかけてきたら逆探知をしてやろうと、昨日この携帯電話をかりたんだ。そこから必ず相手の尻尾を捕まえるからな」
 そう言うと彼は、昨日までオレのモノだった携帯電話の所まで導いた。
 そこには見たこともないような機械と共に、オレの携帯電話が沢山のコードに繋がれ、そこにある機械やノートパソコンに接続されていた。
 「2・3日我慢してくれ。ちょっと不便だと思うけど」
 「はい」
 オレにはどうすることもできない。
 全て彼に任せるしかなかった。



 放課後、オレは寛と一緒に帰る予定で、彼の部活が終わるのを教室で本を読んで待っていた。
 オレは、寛がバスケをしているところを見たことがない。
 はっきりいって、オレはバスケというか運動自体に興味がなく、寛がプレーしている所を別段見たいとも思わなかったからだ。
 ―――オレって、寛がしている事に興味持ったことないなよぁ・・・。
 オレはインドア、寛がアウトドア。趣味があわないのは判っている。あわせようとも思わなかったし・・・。
 ―――あうといえば、藤岡先輩だな。
 本の趣味もあうし、他のことでも話題に困らない。頭の回転が速い彼は、オレの話す事を直ぐに理解し、それ以上の返事をくれた。
 ―――そういえば、寛とはまともに話す事ってない・・・?
 いつも寛が「愛してるよ」と言っているか、SEXしてるかだ。
 二人の関係について考え出すと、ますますショックと共に、落ち込んでいく。
 ―――オレと寛って・・・何で付き合っているんだ?
 こんな事、今まで考えたことなかった。
 疑問に思った事もなかったんだ。
  
 立ち止まって考え込んでいたオレの背後から、カツン・・・カツン・・・という音が響いてくる。

 ―――音? 足音?
 ここ最近聞き慣れた音。それは・・・・・・。
 ―――ヤツの、足音だ!
 ゾッと背筋が凍る。
 逃げなくてはっ!
 でも逃げるより、ここで隠れていた方が、いい?
 混乱して、一歩も動けない。
 足音が、オレのいる教室の前で止まった。

 ―――恐い!

 誰かっ!
 藤岡先輩!
 寛!



 ガラッ

 扉の開く音が、背後でした。
 迫り来る恐怖に、その場にしゃがみ込む。
 「一樹?」
 頭上に降ってきた、その声は・・・・・・。
 「寛っ!」
 扉に立っている人物に、飛び付く。
 「どうした・・・んだ?」
 驚いた声で、寛はオレに問いかける。
 ―――ストーカーの事は、言えない。
 「ううん。ちょっと・・・寂しかっただけだ」
 「そうか?今日の一樹は一段と可愛いな」
 満足そうに、寛の唇はオレの頭・頬・唇・首筋・・・へと落ちていった。
 放課後・・・教室でしたのは、初めてだった。





□□□





 「おはようございます」
 「ああ、宮下はどうした?」
 偶然会った彼は、相変わらず麗容だ。
 「朝練、だそうです」
 「・・・羽田野。おまえどうした?」
 「え?」
 突然の言葉に、オレは彼を見返した。
 「体調悪いのか? だるそうだ」
 カッと頬が熱くなる。きっと赤くなっているのだろう。
 確かに怠いのだ。けど、体調が悪いわけではない。
 そう・・・。近寛は、会うごとに俺を求める。
 昨日も、教室で。
 帰り道の公園で。
 そして、家まで送ってくれて、そのままオレの部屋で。
 「もうダメだ」といっても止めてくれなかった。
 オレにも後ろ暗い所があるから、本気で止める事が出来ない。
 というわけで体力もないオレは、昨日部屋でヤッたまま気を失ってように眠ってしまい、目が覚めると朝だったのだ。
 躯中が痛い。
 「どうやら、いらぬ事を聞いたようだな」
 シラッと、あらぬ方向を見て彼は呟いた。
 頬が、一段と赤くなるのが自分でもわかる。
 何故、この人はこんなに察しがいいのだろうか。
 寛だったら、絶対気付かないだろうに・・・。

 校門を過ぎ、真っ直ぐ玄関口にある靴箱に向かった。
 ―――今日も入ってるのかな・・・MD。
 ため息を吐きながら、靴箱を開ける。
 バサバサバサッという音と共に、沢山の紙くずが雪崩のように靴箱からオレの足下に落ちてきた。
 これは・・・写真?
 落ちてきた写真を一枚を拾い上げ、オレは何もいえなくなってしまった。
 「何だ、それは!」
 上履きに履き替えた彼は、いつまでたっても動かないオレのほうに近寄ってきた。そして、その異変を知った。
「写真、か?」
 オレの足元に落ちていた写真を数枚拾い上げた彼は、グッと眉間にしわを寄せた。
 「とにかく、部室に運ぼう」

 その写真にはオレが写っていた。
 いろんな所にいるオレが。
 学校で友達と話しているオレ。
 休日、家族と出かけているオレ。
 家のベランダに立つオレまで。

 吐き気が治まらなかった。







 ―――さっきから、つけられている。

 放課後、1人でいるはずの図書室で視線を感じたオレは、たまらず図書室を出た。
 その途端、跡をつけられる。
 オレが止まると、相手も止まる。
 振り返ると誰もいない。
 ここは別館。時間は5時を過ぎている。
 誰もいない。
 ―――自分とストーカー以外は・・・・・・・。
 ゾッとする。
 早く本館に戻ろう。
 オレが走り出すと、ストーカーもついてくる。早足に歩くと、早足で。走り出すと、走り出した気配を感じるのだ。
 ―――恐い! はやく、逃げないとっ・・・!
 誰か・・・! だれか・・・!
 前も見ずに角を曲がった所で、なにかにぶつかった。
 前に行きたくて、後から迫るヤツが怖くて、オレは藻掻く。
 「どうしたっ!羽田野?」
 慣れ親しんだ、今のオレを一番に安心させてくれる、声。
 オレは、彼にすがりついた。
「藤岡先輩! 誰かが・・・! 誰かが、つけて来るんです!」
 オレをのぞき込んでいた彼は、ハッとして視線をあげた。
 バタバタバタっと、誰かが走り去る音が聞こえる。
 「待て!」
 彼は、すがりついてるオレの腕を優しく押し戻してストーカーを追いかけようとする。
 けれどオレは、その手を離すことができなかった。
 恐くて・・・。
 不安で・・・・・・。
 自分でも情けないと思ったけど、今は側にいて欲しかった。
 「羽田野・・・?」
 離れないオレの腕に、彼は視線を落とす。
 自分では気が付かなかったが、オレは震えていたのだ。
 それに気が付いた彼は、優しくオレを抱きしめてくれた。
 「大丈夫だ、羽田野」

 心強い、言葉と共に―――。





□□□





 次の日の朝。
 靴箱にはMDが2本入っていた。
 ―――2本?
 2本入っていたのは、初めてだ。
 気になったオレは、科学部部室へ向かった。

 「これ・・・ホテルでの・・・」
 1本目を聞いたオレは、絶句する。
 この前のホテルは、デートの途中で突然寛が言い出した事だった。
 その時のも録られてたというのか?
 オレの疑問を聞いた彼は、苦い顔をした。
 「じゃあもう一本は―――」

 『何をするんだよっ!』
 『好きだ・・・! ずっと欲しかった!』
 『や・・・あ・・・やめ・・・・・・!』
 続く、オレの悲鳴。
 そして、寛の荒々しい息。
「コレは・・・初めて・・・寛に、無理矢理やられた時の・・・」
 今、思い出しても・・・背筋がゾッとする。
「無理、矢理?」
 彼の驚いた声って、初めて聞いたような気がする。
 どういうことだ?
 目はそう語っていた。
 少し情けない話なんだけど、オレは寛と付き合いだした理由を口にする。
 「はあ・・・オレ達がつき合いだしたのは、去年の文化祭の最終日に、いきなり寛に襲われて」
 「それでつき合いだしたのか?お前は!」
 今までにない彼の迫力に、オレはタジタジッとなる。
「その時は怒りましたけど・・・その日から眠れなくなって。寛が言うにそれはオレに惚れてるからだって。だから忘れられなくて眠れない。恋煩いだって―――」
 「で、それを信じたのか?」
 いつもと同じ口調に戻ったけど、目が・・・恐い。
 「はい」
 気まずい沈黙。
 寛とオレの最初が、何の関係があるんだ?

 しばらく黙っていた彼が、口を開いた。
「お前、あいつ以外の恋愛経験は?」
 何で、こんな事答えなくちゃならないんだ?
 今はMDの話をしてたんじゃなかったっけ?
 でも、話題を逸らす根性はなかった。
 「・・・ないです」
 「一度も?」
 「いままでいいなって思う子は何人もいましたけど・・・別につき合うとかは・・・」
 彼は、そのまま押し黙ってしまった。
 「先輩?」
 オレ、変なこと言ったんだろうか。
 それとも、やっぱり男と付き合ってるオレを軽蔑したとか・・・?
 心配になって、声をかけてみる。

 「・・・お前、本当に宮下の事好きなのか?」

 「え・・・?」
 投げかけられた、一石。
 
 気もしなかった。考えた事もなかった。
 だけど・・・・・・。
 彼といるときみたいに、胸がホワホワしたり、妙に安心したりはしない。
 わからない。
 付き合いだして、9ヶ月と少し。
 彼の一石が元で、オレは寛に対する自分の気持ちに初めて疑問を持ったのだった。






 ―――ガラッ

 扉が開く音がして、意識を早朝の彼との会話から、現実の放課後の誰もいない図書館に戻した。

 ―――誰だ?
 顔を上げて入り口を見るが誰もいない。
 ―――え?
 ガチャ――
 どうやらさっきの扉が開く音は、普段あまり使われていない図書室の後ろ側の扉が開く音だったらしい。
 そして、今の音は・・・・・・?
 ―――扉の内側にある、鍵を閉めた音だ。
 「だ・・・誰だ!」
 声が、うわずる。
 答えはない。
 カ、ツン。カツン・カツン・・・・・・
 近付いてくる、足音。
 本棚の陰に隠れて、誰だか判からない。
 ―――前の、もう一つの入り口から逃げよう
 立ち上がったけど、足がもつれて扉の前でよろめいて転ぶ。


 近付く足音。

 誰か
 恐い
 誰か

 ―――藤岡先輩・・・・・・・!

 ガラッ
 目の前の扉が開いた。
 そこには―――

 「羽田野! 無事か!?」
 扉の前で倒れ込んでるオレを見た彼は、跪いて抱き寄せてくれた。

 「先輩・・・! 藤岡先輩!」
 恐怖と安堵感で涙声になったオレは、必死に彼にすがった。
 「ヤツが・・・そこに・・・!」
 「ああ・・・判っている」
 安心させるようにオレの背を撫でながら、彼は信じられない一言を発した。




「出てこい。そこにいるのは判っている」






























 「―――宮下」



<後編>へ続く・・・。


一樹どんどん情けない男になってくる・・・。
こんな受けイヤなのに〜。
まあ、次で終わりです。

あ、因みに水貴、盗聴器のこと全く知りません。
あまりつっこまないで下さい。



1999.12.4up
2002.8.10改稿
2003.10.20再up
書き直しようのない未熟な文章に涙

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