Would you love me?
−8−







「・・・そこ。視線は前」

 男の声が鋭く飛ぶ。
 比伊呂は頭の中を無にして、男の言葉に従った。



 ―――そうしていないと、どうしてもあの夜のことを思い出してしまいそうだったから。







◇◇◇







 二人の男に、比伊呂の躯は弄ばれた。

 こんな業界にいながら、比伊呂は至極まともな性知識しかなく、開放的な淳士のSEXは想像を絶するものだった。

 ―――あの夜に、自分の中の何かが壊れたような気がする。

 もう、元の・・・男の躯を知る前の自分に戻れない事を、比伊呂は薄々気付いていた。
 その考えを必死で否定しつつも。



 淳士は次の日、何事もなかったように帰って行った。

「また、全員で合宿に入った時に会おう」
 そう、言い残して。

 深い意味を、比伊呂は考えないようにしている。
 考えても、無駄なのだが。

 3人でのSEXは・・・もう、したくない、と。
 ただそれだけを、思っていた。









 淳士が帰った後も、二人の生活は変わる事はなく。
 昼は、男とのマンツーマンでのレッスン。
 夜は、我が物顔の男にベットの上で組み敷かれた。

 反抗的な態度を取れば、お仕置きだと言いながら酷い行為で。
 順応的な態度を取れば、優しく・・・まるで―――そう、まるで恋人のように、だ。

 比伊呂は、怖かった。
 3人でのSEXの日から、なにか自分でおかしくなっているような気がした。
 弱った己の心のほんの隙間に、男が入り込んでくるような感じに襲われるのだ。
 憎い男。
 力で自分のねじ伏せる、憎むべき人間。
 なのに―――
 優しくされると、ギュっと心が痛くなる。
 あの大きな手で髪の毛を頭を撫でられると、湧き上がる安堵感。

 おかしい。
 あの男に変えられたのだ。
 もう、以前の自分には戻れないような気がした。
 躯だけではない。
 高慢で、自信家で、プライドの高い―――HI−ROには。



 ―――憎い。

 自分を根本から変えてしまいつつある男が、比伊呂は心底憎いと思った。













◇◇◇







「いい感じになってきたな、比伊呂」
 男の言葉に、無言で頷く。

「最初はどうなるかと思ったが、このままだったらお前も使えそうだ」
 男が比伊呂を認めるような言葉を発したのは、初めてだ。
 比伊呂は驚きに、思わず顔を上げた。

「・・・んだよ、その顔は。俺は真実は捻じ曲げない人間だぜ?」
 驚いた比伊呂の顔がよほど面白かったのか、男はクックックと腹を抱えて笑い転げた。



「合流まで、あと3日だ。それまでに、お前を仕上げてやる。俺のショーで完璧なモデルになるように」
「・・・うん」
 比伊呂の否定し続けていた男の言葉に、比伊呂は胸が熱くなる。

「最高の服。最高のステージ。絶対、成功させてやる」

 男が夜遅くまで机に向っているのを、比伊呂は知っている。
 朝早くから電話で指示を飛ばしているのを、比伊呂は知っている。

 男がショーに・・・自分のブランドにかける思いを、比伊呂は全く知らなかった。
 モデルに選ばれた時も、自分のプライドをいたく満足させる仕事の1つだという認識のみだった。

 今は、違う。
 このショーに参加できてよかったと思えている。
 成功したい、と思っていた。



 夜と反対に昼間の男は、比伊呂にとって尊敬すべき人間に変わりつつあった。





 その狭間で、比伊呂は揺れ動いていた―――。






◇◇◇






「・・・うっ」
「―――力を抜け」

 耳元で囁かれる男の吐息のような声。
 少し掠れていて、比伊呂の躯をゾクリと粟立たせる。



 今日は反抗的な態度を取らなかったせいなのだろうか?
 男はひどく優しい。
 優しく愛撫され、快楽に慣れてしまった比伊呂の躯は蕩けていた。

「い、やっ・・・あっ・・・ふぁ」
「ココが、好きなんだろう? 比伊呂」

 男が比伊呂の最奥をその熱いもので突き上げると、比伊呂の躯はビクンッと跳ね上がる。

「後ろダケで、イクか?」
 男の言葉が一瞬理解できなかった比伊呂だが、その意味が判った途端、必死に頭を振って拒否を示した。
 後ろダケで、前立腺を刺激されるだけで、比伊呂は達する事が出来る躯にはなっている。
 だが、その行為は男である比伊呂には屈辱的だった。
 どうしても、受け入れられない。

「前・・・触って」
「後ろだけで、イケるだろ?」
 男は低く笑い、グイッと腰を突き上げた。
 男の亀頭が、比伊呂の前立腺を擦りあげる。

「ひっ―――」

 目の前が真っ白になって、比伊呂の思考回路がショートした。
 こうなってしまうと、もう何も考えられない。
 ただもう、与えられる悦楽に身を委ねるだけ―――。



「あっ、やぁ、イク・・・!」
「イケよ、」

 男は比伊呂の両足を抱えあげると、激しく腰を動かす。
 比伊呂は言葉さえまともに発する事ができず、目の前の男の肩に縋りついた。

 「あっ、あっ、あぁ―――」





 ―――比伊呂は無意識だったが、男とのSEXで比伊呂から男の躯に触れたのは、その背に手を伸ばしたのは、この時が初めてだった。







小休止デス。
2003.5.17


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