「・・・そこ。視線は前」
男の声が鋭く飛ぶ。
比伊呂は頭の中を無にして、男の言葉に従った。
―――そうしていないと、どうしてもあの夜のことを思い出してしまいそうだったから。
二人の男に、比伊呂の躯は弄ばれた。
こんな業界にいながら、比伊呂は至極まともな性知識しかなく、開放的な淳士のSEXは想像を絶するものだった。
―――あの夜に、自分の中の何かが壊れたような気がする。
もう、元の・・・男の躯を知る前の自分に戻れない事を、比伊呂は薄々気付いていた。
その考えを必死で否定しつつも。
淳士は次の日、何事もなかったように帰って行った。
「また、全員で合宿に入った時に会おう」
そう、言い残して。
深い意味を、比伊呂は考えないようにしている。
考えても、無駄なのだが。
3人でのSEXは・・・もう、したくない、と。
ただそれだけを、思っていた。
淳士が帰った後も、二人の生活は変わる事はなく。
昼は、男とのマンツーマンでのレッスン。
夜は、我が物顔の男にベットの上で組み敷かれた。
反抗的な態度を取れば、お仕置きだと言いながら酷い行為で。
順応的な態度を取れば、優しく・・・まるで―――そう、まるで恋人のように、だ。
比伊呂は、怖かった。
3人でのSEXの日から、なにか自分でおかしくなっているような気がした。
弱った己の心のほんの隙間に、男が入り込んでくるような感じに襲われるのだ。
憎い男。
力で自分のねじ伏せる、憎むべき人間。
なのに―――
優しくされると、ギュっと心が痛くなる。
あの大きな手で髪の毛を頭を撫でられると、湧き上がる安堵感。
おかしい。
あの男に変えられたのだ。
もう、以前の自分には戻れないような気がした。
躯だけではない。
高慢で、自信家で、プライドの高い―――HI−ROには。
―――憎い。
自分を根本から変えてしまいつつある男が、比伊呂は心底憎いと思った。
「いい感じになってきたな、比伊呂」
男の言葉に、無言で頷く。
「最初はどうなるかと思ったが、このままだったらお前も使えそうだ」
男が比伊呂を認めるような言葉を発したのは、初めてだ。
比伊呂は驚きに、思わず顔を上げた。
「・・・んだよ、その顔は。俺は真実は捻じ曲げない人間だぜ?」
驚いた比伊呂の顔がよほど面白かったのか、男はクックックと腹を抱えて笑い転げた。
「合流まで、あと3日だ。それまでに、お前を仕上げてやる。俺のショーで完璧なモデルになるように」
「・・・うん」
比伊呂の否定し続けていた男の言葉に、比伊呂は胸が熱くなる。
「最高の服。最高のステージ。絶対、成功させてやる」
男が夜遅くまで机に向っているのを、比伊呂は知っている。
朝早くから電話で指示を飛ばしているのを、比伊呂は知っている。
男がショーに・・・自分のブランドにかける思いを、比伊呂は全く知らなかった。
モデルに選ばれた時も、自分のプライドをいたく満足させる仕事の1つだという認識のみだった。
今は、違う。
このショーに参加できてよかったと思えている。
成功したい、と思っていた。
夜と反対に昼間の男は、比伊呂にとって尊敬すべき人間に変わりつつあった。
その狭間で、比伊呂は揺れ動いていた―――。
「・・・うっ」
「―――力を抜け」
耳元で囁かれる男の吐息のような声。
少し掠れていて、比伊呂の躯をゾクリと粟立たせる。
今日は反抗的な態度を取らなかったせいなのだろうか?
男はひどく優しい。
優しく愛撫され、快楽に慣れてしまった比伊呂の躯は蕩けていた。
「い、やっ・・・あっ・・・ふぁ」
「ココが、好きなんだろう? 比伊呂」
男が比伊呂の最奥をその熱いもので突き上げると、比伊呂の躯はビクンッと跳ね上がる。
「後ろダケで、イクか?」
男の言葉が一瞬理解できなかった比伊呂だが、その意味が判った途端、必死に頭を振って拒否を示した。
後ろダケで、前立腺を刺激されるだけで、比伊呂は達する事が出来る躯にはなっている。
だが、その行為は男である比伊呂には屈辱的だった。
どうしても、受け入れられない。
「前・・・触って」
「後ろだけで、イケるだろ?」
男は低く笑い、グイッと腰を突き上げた。
男の亀頭が、比伊呂の前立腺を擦りあげる。
「ひっ―――」
目の前が真っ白になって、比伊呂の思考回路がショートした。
こうなってしまうと、もう何も考えられない。
ただもう、与えられる悦楽に身を委ねるだけ―――。
「あっ、やぁ、イク・・・!」
「イケよ、」
男は比伊呂の両足を抱えあげると、激しく腰を動かす。
比伊呂は言葉さえまともに発する事ができず、目の前の男の肩に縋りついた。
「あっ、あっ、あぁ―――」
―――比伊呂は無意識だったが、男とのSEXで比伊呂から男の躯に触れたのは、その背に手を伸ばしたのは、この時が初めてだった。
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