Would you love me?
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 「―――ここ、あんたの家?」

 合宿所として連れてこられた家は、比伊呂の思い描いていた所よりずっと大きかった。

 「ああ。」
 男は多くは語らず、その“お屋敷”と呼んでもいいような大きな別荘のドアを開けた。

 「・・・うわっ」
 ドアを開けた途端、大きなエントランスが広がっている。
 トップモデルといっても、もともと庶民の比伊呂にとっては目新しい。

 「すげぇ・・・絨毯張りなのに、土足かよ。」
 エントランスの上を見上げると、大きなシャンデリアがかかっていた。

 「あんた、本当はおぼっちゃんなのか?」
 「お前のおぼっちゃんというのがどんな基準でなされているかしらないが、コレは俺が働いて買ったモノだ」

 先を歩く男は、比伊呂の言葉を振り返らずに答える。
 
 「そんなに・・・儲かるんだ・・・」
 「別に、俺はそんなに稼いじゃいない。この屋敷はバブルの遺産なんだよ。どっかの金持ちが見栄とプライド大枚叩いて建てたが、結局バブル崩壊で売りに出されて、それを俺が破格の値段で買ったってだけだ。」

 そう云いながら、男は比伊呂を部屋へと案内した。

 「ココが、お前の部屋だ」
 男に導かれた部屋は、華美ではないが一つ一つの家具等が高価なモノだと比伊呂にも一目で判った。
 「すげぇ・・・・」
 大きな窓の外には、手入れされた庭。

 「この家を選んだ理由は、前の持ち主が作ったパーティー用の広間があるからさ。リハを行うにはもってこいだからな。」

 比伊呂は男の話を聞きつつ、荷物をベットの上に降ろした。

 「で、俺はコレからどうしたらいいわけ?」









◇◆◇◆◇










 「違うっ」

 飛んできた花瓶を、ギリギリの所でかわす。

 「あっ、ぶねーなっ―――」
 ―――怪我したらどうしてくれるんだ。
 
 比伊呂の言葉は、男の怒鳴り声に遮られる。

 「お前、俺の言葉を聞いているのかっ。それじゃ、ダメだと何度云わせるんだ。」
 「わ、わっかんねぇよ!俺はちゃんとあんたの云うとおりにやってるだろうっ!」

 早速始まったレッスン。
 だが、速攻10回以上リテイクをくらい、遂に比伊呂はキれた。
 男をギッと睨み付ける。

 男は、つかつかと己を睨み上げる比伊呂に近付くと、その髪の毛をグイッと掴んだ。

 「痛いッ」
 「お前は、自分の立場を忘れているようだな。」
 「・・・・・・立場?」



 ―――お前は俺の下僕となり奴隷となるのだ。



 サッと顔色を変えた緋色を見て、男はニヤリと笑う。

 「まずは、躾が必要のようだな。この、玩具<ペット>には。」

 それは、支配者の残酷な笑いだった・・・・・・。









◇◆◇◆◇









 「お、お前、何をする気なんだっ―――」

 比伊呂は、今まで己がウォーキングをしていた場所に強引に押し倒されていた。
 体格と力で、男には敵いそうにない。

 「抵抗するな―――」

 鋭い眼差しで睨み付けられ、一瞬固まるが、どう考えても身の危険を感じざる得ないこの状況で、抵抗しないわけがない。
 暴れる比伊呂に男は舌打ちすると、己のネクタイをするりと外し、押さえつけていた比伊呂の両手首を強引に結びつけた。
 そして、馬乗りになると比伊呂のシャツを引き裂いた。
 弾け飛ぶボタンに、比伊呂は絶句する。

 この、男は―――何を?
 俺は―――

 「お、お前、ホモか―――?!」

 今更な台詞に、男はクッと喉を鳴らした。

 「あえて云うなら、俺はバイだが。」
 「・・・・や、やだ。」

 比伊呂の躰がブルブルと震えだした。

 この業界では、ゲイというのは珍しいことではない。
 比伊呂は己の容姿のお陰で、いままでモデル仲間や男のようなデザイナー・カメラマン・メイクアップアーティストなどから、迫られた経験はある。
 だが、比伊呂は男は受け付けなかったのだ。
 ありとあらゆる手段で、比伊呂は逃げまくっていた。
 そして、運のいいことに、それは成功していたのだ。

 だが―――

 「お前、初物か・・・・・・。めずらしいな。」

 男は、比伊呂はとっくに経験済みだと思っていた。
 比伊呂の容姿では、触手の動く人間など山のようにいるだろう。
 モデルが、己のポジションを手に入れるためデザイナーと寝るという手段は常套でもある。
 トップモデルの地位を築き、キープしている比伊呂に経験がないというのは、にわかに信じ難い。

 ―――が。

 「面白い・・・。俺がしっかりと躾けてやろうか?男が無くては生きていけないくらいに―――」
 
 必死で頭を振り、真っ青になっている比伊呂は、男の嗜虐心を更に奮い立たせる。

 男はペロリと乾いた唇を己の舌で潤すと、比伊呂の首筋にゆっくりと唇を落としたのだった。












 「やっ・・・」
 カリッと胸の突起物を甘噛され、比伊呂の口から小さな悲鳴が漏れる。

 「なにが、イヤなんだ?こんなに起たせて」
 
 胸の紅い突起物は、己の存在を主張するかのように立ち上がっている。

 男に触れられるダケで、比伊呂の躰には電気が走り、
 男に息を吹きかけるだけで、比伊呂の躰は魚のように跳ねた。

 「お前は、女のようだな。胸を触られるだけで、こんなに感じて―――」
 「感じて、な・・・いっ」
 高いプライドが、男の言葉を許せない。

 「ほぅ、コレは感じていないという意味か?」

 男は、比伊呂の下腹部に手を伸ばす。
 そこは、既にゆったりと首を擡げていた。

 「ぁっ・・・」
 「感じていないというのなら、ここも縛ってしまおう。」
 「なっ・・・・・・」
 「感じていないのなら、苦しくないはずだよな?比伊呂。」

 残酷な微笑みを浮かべた男は、己の髪の毛を縛っていた紐を取ると、それを立ち上がっている比伊呂自身にの根本にくくりつけた。

 「やっ、外せよ・・・」

 痛くて、苦しくて・・・必死に藻掻くが、躰はびくともしない。
 残酷な男は、嗜虐的な笑みを浮かべ比伊呂の内股をゆっくりと撫でたのだった。









2002.3.23
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