「だーから、俺は云っただろう?」
「・・・・・」
得意満面の顔で、秋良怜一は水島に向かって指をさした。
昨日2人は、自分たちの想いを確認しあい、お互い身が溶けるほどまで愛し合った。
目が覚めると朝で、英治は慌てて自分のアパートへ戻り学校へ行き、水島は一度家に戻って、ゆっくりと学校へ来た。
昼休み。
水島が学校に来たか心配になった英治は、生徒会室に訪ねていき、登校してきた水島と無事会えたのだが、同じく生徒会室にいた秋良に捕まってしまったのであった。
「ずっと云ってたんだよ、俺は。『麻生先生は、お前のことを忘れてない』ってね。なのに、この意固地が『絶対、忘れてる。何度俺を見ても、何をやっても・・・あの人の口から、俺の名前が出たことがないんだから・・・』とか、ブツブツ云って、全然俺の云うこと聞かねえの」
「・・・・黙れよ、怜一」
どうも水島は、この生徒会長の前では分が悪いようで、窓の外を見ながら不機嫌な顔をしていた。
「でも、先生もよくあれだけヤられといて、コイツがアキラだって判らなかったよな〜。」
ニヤニヤしながら、秋良は英治の顔を覗き込んでくる。
「―――あれだけって・・・・・、お前」
「コイツにヤられちゃったんだろ、センセイ?」
自分たちの関係を秋良に、開けっぴろげに答えられ、英治の頬は一気に真っ赤に染まった。
「あはは、センセイかわいーなぁ。」
「―――怜一!」
牽制するように、水島は秋良にキツイ視線を投げかける。
秋良は「悪かったよ〜」と、両手をあげ、降参のポーズを取った。
「なんで、俺が先生達の関係を知ってるかというと、センセイ、コイツに睡眠薬飲まされただろう―――?」
「え―――あ、ああ。」
いきなり話が飛び、英治は何を云われているか判らなくなったが、最初水島に無理矢理犯された生徒会室のことを云われているのだと気づき、うなずいた。
「あの睡眠薬、用意したの――俺なの」
「え・・・」
「オヤジの病院からくすねてきたの。内緒ね。」
「くすね・・・って、お前―――」
明るく笑い飛ばす秋良を見ながら、英治は脱力した。
秋良は、無口でクールな・・・アキラみたいなヤツだと、英治はずっと思っていたのだ。
―――こんな、軽いヤツだとは思わなかった。
「俺はね、センセイ。アキラから相談受けてたんだよ。あんたがいなくなった時から。俺の方が顔が広いから探してくれって―――ね。この、人に頼み事をすることが大嫌いなプライドの高いコイツがさ―――」
秋良は、窓際にいる水島の隣へ歩いていき、頭を小突いた。
「アキラの気持ちも、ずっと知ってたから―――。ほんと、よかったと思うよ、俺は。昨日『MISSION』で、明け方まで祝杯を挙げたんだぜ―――?」
「悪かったよ―――――」
色々心配させて・・・。
口にはしなかったが、水島の顔はそう物語っていた。
英治は、普段では決して見せないような子どもっぽい態度で、秋良に答える水島を見ながら、“ふーん、こん水島も・・・いいなぁ。可愛くって―――”と、2人を見ていた。
「―――で、マジで全然気付かなかったのか―――?センセイ」
ボー、と惚けていた英治に突然話題は振られた。
「え・・・・」
自分の間抜けさ加減を離すのがイヤで英治は渋ったが、2人から促されて、仕方なく話し始めた。
「・・・ゼンゼン気付かなかった。オレ・・・アキラの事、夜の街とか家とかでしか会ったこと無かったから、顔と云うより雰囲気で見てた方が、強かったし。考えてみれば、アキラの顔近くでマジマジ見ることもなかった―――。水島は・・・メガネかけてて、いまいち像が・・・判ってなかったし・・・雰囲気で云えば、水島より、秋良の方がアキラに似てて・・・顔の感じも・・・・だからオレは、けっこう秋良見て、アキラと錯覚したりしてたんだ―――」
ボソボソといいワケをする英治に、秋良は「なーるほど」という顔をし、水島は見るからにイヤな顔をした。
「俺達、似ていて手当たり前なんだよ、センセイ。だって、オレら親戚だもん」
「親戚―――――?」
ビックリした英治の前で、秋良は水島の方を抱き寄せ
秋良しは嬉しそうに―――――
水島はイヤそうに―――――
「コイツは俺の甥っこなの。」
「怜一は、俺の叔父だ。」
と、同時に答えた。
「甥―――?叔父―――?」
「俺の母の末の弟が・・・怜一なんだ。」
「―――だから、顔も雰囲気も似てて当たり前。3等親だもんな。親戚内でも、コイツが猫を被ってない時、俺と似てるっていつも云われてるんだぜ―――」
―――なんだ・・・・親戚だったのか―――。それなら、似ていても当たり前じゃないか・・・。
英治は、ガックリと肩を落とした。
「オレ、1つ聞きたかったんだけど・・・水島は、なんで“アキラ”なんて、呼ばれてるんだ―――?」
英治がポツリ漏らした質問に、2人は一瞬固まり
秋良は―――大爆笑。
水島は―――深い深い溜息をついた。
「ええ?オレ、おかしな事云ったか―――?」
2人の態度に、あわてて英治は言い募った。
「センセイ―――俺、さっきからなんでコイツの事を“アキラ”って云ってると思ってんの・・・」
涙目になりながら、秋良は答える。
水島は、そっぽを向いてしまった。
「ええ・・・そういえば、何でなんだろう。なにかのあだ名なんだろう―――?」
「違う違う!水島アキラ――それがこいつの名前だよ」
「え?水島・・・とおるっていう名前じゃなかったっけ―――?」
秋良は、人差し指をチッチッチと振りながら、近くにあった紙に“亨”という字を書いた。
「コレで、亨−アキラ−って読むんですよ、センセイ。」
「えええええ―――――!!!」
愕然と叫んだ英治に、秋良は「やっぱり、センセイはカワイーよ」と云い、水島に叩かれた。
「悪かったよ。機嫌直してくれよ―――」
「・・・・・」
放課後。
あの後、不機嫌な顔をして、英治の事を見向きもしなかった水島が気になって、英治はもう一度、生徒会室を訪ねてきていた。
今、部屋に居るのは、水島だけだった―――。
英治の声に答えず、水島は窓際に立って、外を見ていた。
その姿が、ナゼかもの悲しくて―――。
英治はギュッと後ろから抱きしめた―――。
「俺は―――」
しばらく沈黙を続けていた水島が、ポツリと呟いた。
「あんたを無理矢理犯って、躰からがんじがらめに縛り付けた。躰だけでもいい、自分に縛り付けることが出来るのならって思ってた」
「うん―――」続きを促す。
「だけど・・・、それだけじゃ・・・そんなのじゃ、全く足りなくて―――あんたの気持ちが欲しかった。俺は―――手にいれたんだよな?」
手に入れるまでは、必死だった。
強気にしていないと・・・隙間から全てが流れ出すようで―――。
だけど―――
手にいれて・・・最初に味わったのは―――これ以上とない幸福。
そして、次に訪れたのは―――云いようもない不安。
自信がなかった。
あそこまでした自分が、愛されている事を―――――
今更、何を云い出すのかと思った。
自分の気持ちは云ったはずだった。
水島も
アキラも
愛していると―――。
だが、この年下の恋人は、今更自分のした事に、不安というなの代償で押しつぶされそうになっている。
確信をほしがっている。
自分が愛されていると云う―――。
英治は、内心苦笑した。
この、強引で、自分勝手で、一生懸命に自分を全身で愛してくれる可愛い恋人を・・・・・・。
―――オレは、甘やかさずにはいられないらしい。
英治は、水島の顔をグイッと自分の所へ引き寄せ、優しく口付ける。
「オレはお前に、気持ちも・・・躰も――夢中だよ。そうだな、きっと初めて逢ったあの夜から―――お前に・・・お前の視線に一瞬で捕らえられ、魂ごとがんじがらめに縛られたんだ―――。」
「英治―――」
「スキだよ、亨。お前を、お前の全てが―――。」
「俺も―――英治に捕らわれた。初めて、あんたの笑顔を見たときから―――」
夕焼けのさす生徒会室で、2人はもう一度、唇を合わせた。
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