10000HIT記念
視線で殺して、魂で縛れ!


「おいおい、英治―――いいのか、そんなに・・・」
「いいんだ、マスター。オレ、今日は酔わないと・・・」
 英治は、マスター自ら作ってくれたオンザロックをグイッと煽り、テーブルに突っ伏した。

 考えたくない・・・。
 何も、考えたくないんだ――――――。


◇◇◇


 悲痛な水島の叫び―――
 今でも、頭の中に響く。

『どうして貴方は・・・俺を見ない―――!!』
『こんなに・・・・・・こんなに、想っているのに―――』

 悲しみと苦しみを織り交ぜた・・・
 それでいて、自分を狂おしいほどに求める瞳。
 それに
 捕らわれた――――――



 あの日から、水島の事がひとときも忘れられない。

 ―――アキラが好きなはずなのに・・・。

 今でも、アキラのことを想い浮かべると、胸が熱くなる。
 だが、水島のことを想うと・・・
 胸が切なくなって―――――イタイ。

 オレはアキラのことが好きなんだ。
 好きなんだ。
 好きなのに――――
 なぜ、水島のことを想うと、こんなに苦しい?
 こんなに・・・切なくなるんだ?
 それは・・・・・・・・・・
 この気持ちは――――――

 自分の気持ちが分からなかった。
 考えると・・・ただ苦しくて。
 考えないようにしても、想い出す。

 学校では・・・・
 秋良の顔をアキラと見間違えて、思わず抱きしめにいきたくなる。
 水島の顔を見て、自然と涙が流れ出してくる。

 忘れたくて――――
 ひとときでも、この苦しみから逃れたくて
 英治は『MISSION』へと足を向けた。


◇◇◇


「もう、そろそろ止めておけ―――な、英治」
「・・・・・・・」

 もう一杯、と差し出した手を、マスターは優しく制した。
「何か、イヤなことがあったのかも知れないが、そんな酒に飲まれる飲み方じゃ―――忘れられないぜ」
 マスターの英治を心から心配する声に、英治も少し正気を戻す。
「・・・うん―――うん。ありがとう、マスター。」
 ジャケットを羽織って支払いを済ませる。
「今度来る時は、浮上しとけよ―――」
 声をかけたマスターに、英治は儚い笑みで答え、店を出ていった。

 その後―――マスターは接客に追われ、英治の後を数人の男達が着いて出ていったのを、見逃してしまった。


◇◆◇◆◇


「『MISSION』に行こーぜ、アキラ。あそこには美女が多いんだ、なぁ。」
「別に・・・・」

 アキラは大きく溜息をついた。
『MISSION』
 英治を見失って以来、足を向けていない店。
 英治との想い出がありすぎて・・・。
 あれ以来、行くことが出来なかった―――



 久しぶりに店内に入る・・・。
 相変わらず、人が多い―――。

 アキラに気付いた何人もの人間が振り返ったり、声をかけてきたりしたが、アキラは全てを無視していた。
 そして、いつものカウンターの席に歩いていく。

 ―――アキラ・・・。

 いつも微笑んで近寄ってきてくれていた英治は・・・いない。

 ―――こんなにも、イタイ。
 アキラは無意識に唇をかみしめた。



「―――お前、もしかして、アキラか?」
 その時、隣の客を接客していたマスターが、席に着いたアキラを見て声をかけてきた。

「アキラ――だよな。一瞬、判らなかったよ。髪の毛も短くなってるしな―――」
「ああ、コイツ、この4月に髪の毛切っちゃうし、黒髪に戻しちゃうし―――スゲーイメチェンしたんですよ。」
 アキラと共にこの店に入ってきた男が、答えないアキラの変わりに嬉々として会話に加わる。

「アキラ―――、お前あれ以来、全然来ないから、心配してたんだぜ」
「え―――?あれ以来ってなんだよ、アキラ」
 目の前で繰り広げられる会話に見向きもしないで、アキラは出された酒を静かに飲み干していた。



「しかし、今日は珍しい人間ばかり来るな―――アキラは来るし・・・英治は来るし・・・」
「―――英治?」
 思いがけない名前に、アキラは思わず口を開いた。

「そう、英治さっきまで丁度そこで飲んでたんだよ。何かあったみたいで、凄い勢いで飲んでたな・・・。アキラ、お前英治に何かあったのか知らないか―――?」
「知るも、知らないも・・・・俺は英治とは―――」
「もしかして、あれ以来あっていないのか!?」
 マスターは信じられないという表情をした。

 何も答えないアキラに、マスターはその意味を肯定と取って、そのまま話を続けた。
「アキラ、お前も英治を捜してたけど、英治もお前を捜してたんだぞ―――ほら」
 マスターは胸元から1枚の紙切れをアキラに渡す。
「これは・・・・英治の名刺―――?」
「ああ、裏を見てみろ。住所を書いてるだろ?『アキラが来たら渡してくれ―――』って、置いていったんだぜ」
 アキラは受け取った名刺を、マジマジと見た。

 ―――逢いたがっている?
 英治が・・・俺に―――?

 どうでもよかったんじゃなかったのか・・・?
 何も云わず、俺の前から消えて―――
 今度、目の前に現れたら『よろしく』と、全く他人の態度で・・・。

 ―――だが・・・・・・

 何も云わず立ち上がったアキラに
「駅の方に向かったと思うよ―――!」
 声をかけたマスターには振り向きもせず、アキラは店を飛び出していった。

「友情の復活に乾杯だな―――」
 マスターは嬉しそうに、アキラの連れであった男に話しかける。
 だが、アキラの気持ちを知っている男は、マスターの“友情”という言葉には、苦笑を返すしかなかった。


◇◆◇◆◇


 ガッシャーン

 吹き飛ばされた英治の躰は、ビールケースやゴミの中に突っ込んだ。

 英治は店を出てすぐに、後からついてきた6人の若い男達に囲まれ、「お前が『MISSION』にいた頃から、気にくわなかったんだ」とか、何だと因縁をつけられ、突然殴りかかられた。
 最初はかわしたり、殴り返したりしていたが、限界をはるかに超えた酒量が足にきている。
 ふらつきだした英治を、喧嘩慣れした男達が見逃すはずはなかった―――。

「ほらほら、もう反撃は終わりか―――?顔と同じで甘チャンだな―――」

 先ほど、英治に殴られ鼻血を吹いた男は、顔を狂喜に歪めながら、英治の倒れている方へ近づいてきた。
 英治の目の前に、足を振り上げた男が迫り――――

 蹴られる―――!!

 思わず、ギュッと目を瞑り、顔を背けた。
 だが、思ったような衝撃は訪れない・・・・。

 ―――?
 いつまでも訪れない衝撃に疑問を感じて、そろそろと目を開けようとした英治の耳に

「あ・・・・、アキラさん―――!」

 男達の怯えた声が届いた。

 ―――アキラ!?

 その名前に反応して、英治はハッと顔を上げると
 英治を庇うようにして、背を向けている男が、英治を囲っていた男達に、飛びかかって行くところだった。
 目の前の男は、次々と男達を倒していく。

 この流れるようなフォーム。
 スキのない動き・・・
 何度も見た―――。
 髪の毛が短くなっている。
 色も・・・黒くなっている。
 でも・・・・・・でも――――
 間違いない――――――!!!

 アキラ
 アキラ
 アキラだ―――


◇◇◇


 最後の一人を見事に右ストレートで倒した男は、肩で大きく息をついて英治の方に振り返る。

「英治―――」

 暗闇から近付いてくる男を夢見心地の表情で見ていた英治は、建物の隙間からさす月の光で男の顔が見えた途端、凍り付いた―――。

「―――お・・・まえ・・・・・・・・」

 それ以上言葉を紡ぎ出せない英治に、男は深く溜息をついた。
 髪の毛をかき上げながら、倒れ込んでいる英治に腕を伸ばす。



「あんたは・・・どうして、いつもそんなに無防備なんだ―――」



続く・・・


次の更新予定は・・・カウンター11000を越えた日だと思うんですけど・・・。

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