水島は、いつものように英治を捜していたが見つからず、イライラとしていた。
その時、廊下を歩いていると前方から、会いたくもない男が手を振って近寄って来るのが見え、思わず顔をしかめた。
「よっ、なんつー顔をするんだ。冷たいヤツだな。」
「何のようだ。俺は急いでいるんだ。」
「別に用はないが・・・麻生先生がさ」
水島が英治を探していることが判っていて、意味深に言葉を運ぶ男に、水島はイライラとして珍しく突っかかっていった。
「英治がどうしたんだ、何処にいた。」
「ほっほう、先生を呼び捨てするなんて―――」
「五月蝿い!質問に答えろ」
「麻生先生なら、自習室で可愛い生徒に告白されて困惑している所を、“クールビューティー”にカウンセリングを受けているぜ」
「―――ふ、藤岡さんと・・・!」
水島は、――口でも行動でも――1度も勝てない先輩の顔を思い出し、ゾッとした。
どうせ、水島が英治に構っているのを知って、暇つぶしにいつもの嫌がらせをしてきたのだろう。
―――あの人に一体、何を吹き込む気なんだ・・・。
それに・・・可愛い生徒に告白だと――――――!
何度、無防備すぎると云わせるんだ―――あの人は!!
水島は男を振り返りもせずに、自習室へ走って行った。
「で、どうするんですか?」
藤岡は英治の前に座ると、机に片肘をついて優雅に質問をしてきた。
「何を・・・?」
藤岡が聞きたいことはわかっていたが、英治は答えたくなかった。
「可愛いじゃないですか。“先生といると、胸がドキドキするんだ”なんてね」
英治の顔をニヤリ、と藤岡は覗き込む。
―――答えたくないが、許してくれないらしい。
英治は大きく溜息をついた
「お前な・・・男同士で、好きとか嫌いとかなんて―――」
「別に、俺は好きになれば、男も女も関係ないと思いますよ。」
「えっ?」
英治は藤岡の思いがけない言葉に目を見張った。
「恋愛感情なんてモノは、理性的に処理できるモノではないでしょう。好きだって思ってしまったら、性別なんて後からついて来るんじゃないんですか。男とか関係なく“そいつが好きだ”と思ってしまったら、もう、否定は出来ないでしょう?たとえ自分がノーマルな体質であってもね。」
同性なんて馬鹿馬鹿しい・・・。
一番そう云いそうな人間に、同性との恋愛を肯定され、英治は何とも云えない気分になってきた。
「そんな・・・お前は経験あるのか―――?」
「俺はまだ、“恋愛感情”というモノ事態を人に抱いたことがないです。」
「ってお前、確か梅華の美女と・・・?」
「恋愛感情なんてモノはなくても、つき合えるんですよ。」
「―――お前はそういうヤツだな・・・」
英治は藤岡に答えながらも、頭の中では1つのことでイッパイだった。
『―――好きだって思ってしまったら、性別なんて後からついて来るんじゃないんですか。男とか関係なく“そいつが好きだ”と思ってしまったら、もう、否定は出来ないでしょう?―――』
自分のアキラに対する感情・・・・・・。
もう、友達というだけでは、説明できないモノ。
男同士だから―――そんな感情あり得ないモノだと思っていた。
けど―――。
「藤岡」
「何でしょう、先生?」
「も、もしも、な・・・。いつでもそいつの事が頭の中にあって、ヒマさえあればそいつの事を思い出して、凄く会いたくて・・・・他のヤツと・・・・その、してても・・・・そいつの事を思ってしまうのは―――恋愛感情だと、思うか―――?」
英治の真剣な顔に、藤岡も真剣な顔になった。
「第三者から言わせてもらうと―――間違いなく。」
「そうか―――」
英治は立ち上がり、自習室の扉に向かった
「―――藤岡」
「はい、なんでしょう?先生」
「ありがとう」
「―――いいえ」
藤岡はフワリと笑って、英治に手を振った。
準備室に向かいながら、英治は自分の気持ちを整理していた。
この気持ち。
アキラに対するこの気持ち
コレは
そう―――恋愛感情なんだ。
アキラが好きだ・・・
英治はパッと顔が紅くなるのがわかった。
思わず顔に手を当てしゃがみ込む。
―――うわっ、何だよコレ・・・。
でも、はっきりと自分の感情がわかった。
オレはアキラが好きなんだ―――。
その時―――
「先生」
突然、後方から声がかかる。
今、一番聞きたくなかった声かも知れない・・・。
「水島・・・・」
しゃがみ込んだまま、振り返ると、少し息を切らした水島が立っていた。
いつも以上に感情を読みとれない表情・・・。
怒ってる―――?
ナゼ―――
水島は英治のそばまで寄ってくると、手首をわし掴みにして、そのまま英治を引きずっていく。
「なんだよ・・・水島・・・?!」
英治は、角にあったトイレの個室に水島に引きずり込まれた。
水島は鍵をかけると、大きな手のひらで英治の両頬ををはさみこみ、視線をぶつける。
「藤岡さんと・・・何を話していたんですか」
「な―――」
何で、知ってるんだ・・・。
思わず絶句した英治に、水島は畳みかけるように話す。
「あの人は・・・あの人に関わってはダメだ。あの人は全てを見通していて、そして、その状況を楽しんでる。人の気持ちをもてあそんで、自分の感情はなにも動かさない―――冷たい、冷たい人なんだ。」
断言した水島に、英治は思わず反論する。
「なに云ってるんだ。藤岡はイイヤツだぞ。ちょっとイジワルだけど、顧問になったオレに良くしてくれるし、相談にだって・・・・・・」
「相談なんて、俺にすればいいじゃないですか!」
「そんなの・・・・・」
アキラの事なんて、お前に聞けるわけがないじゃないか―――
「それに・・・生徒から告白されたんだそうですね」
「あ・・・」
「何で貴方はそんなに無防備にしてるんですか―――」
「む、無防備なんて・・・知らないぞ!」
キッと見上げると、水島の顔がぐっと近寄ってくる
「その顔が無防備だって云うんです。その顔で・・・何人の人間が、そそられているか知らないんですか―――!!」
水島の手は英治のベルトに掛かり、それを一気に引き抜くと、ズボンと下着も英治の抵抗を全く無視して、膝まで下ろされてしまった。
「おま・・・こんな所で―――!!」
「関係ないです。貴方は俺のモノだって判ってもらわないと・・・」
「ちょっ、まて―――」
躰をひっくり返され、英治は思わず壁に手をついた。
水島の右手は英治の蕾に伸び、入り口を軽くつつくように刺激してくる。
濡れたジェルの感触に、ゾクゾクッと英治の背筋は泡立った。
入り口を焦らすように撫でていく水島の指の感触が、焦れったくてむず痒い。
奥への快感を求めるように、英治の腰は勝手に揺れてしまう。
そんな英治の様子を満足げに見つめながら、水島の反対の手は、敏感な内股を刺激しながら、半分勃ち上がった英治自身に軽く触れた。
「あっ―――」
英治は眉間に皺をキュッと寄せ、息を詰めた。
「もう―――感じてるんだ」
背中から囁かれる声に、躰がグッと熱くなる。
うなじを舌で這われ、食いしばる歯の間から甘い声が漏れ出す。
いつの間にかネクタイはくつろげられ、シャツのボタンは半分はずされ、胸の突起物はもてあそばれていた。
「んぁ―――」
クチュッ
濡れた音と共に、水島の指が英治の奥に差し込まれ、鼻から声がぬける。
「ああっ」
水島の指はグイッと英治の内部をかき回し、最も感じる部分をスッと掠める。
「やぁ―――ああぁっ、んぁ・・・そこぉ・・・」
もっと奥に・・・・・
もっと欲しい・・・・・・・
求めるように腰を突き出す。
「そんなに欲しいんだ―――先生」
煽るように耳朶を咬まれ、思わず壁に爪を立てる。
「あ・・・」
入り口に熱い感触を感じて、英治は自然に力を抜いた。
躰は、これからの快感を期待して震えている。
水島は英治の腰を抱え、ゆっくりと・・・強引に自分の猛ったモノを挿入していく。
「んあ・・・んぁ・・・あぁ・・・」
躰を押し開かれていく感触に、英治は苦しそうに眉を寄せた。
その顔に水島はもっと―――煽られる。
「ああ・・・!あふっ・・・」
英治の内部でより熱くなった水島の圧迫感に、英治は喘ぐように躰を反らした。
水島は、根本まで収まったモノをグラインドさせながら、この1ヶ月で知り尽くした英治の感じる部分に当たるように突いていく。
「はっ・・・ああっ・・・・・ん・・・」
啼き声が一気に高くなる。
英治は頭を振りながら、与えられる快感に悶えた。
その時―――
人の声が聞こえてきた。
トイレに誰かが入ってきたのだ。
水島は動きを止め、英治の躰は一気に固くなる。
何人かの生徒の話し声がトイレ全体に響き渡った。
「こんな所で、こんな事やってるって・・・思っても見ないんでしょうね・・・」
かかる熱い息に、心臓が高鳴り、力が抜ける。
「おま・・・やめ・・・」
抗議のため振り返ると、水島の顔が意地悪くなるのが判った。
そして、水島はゆっくりと腰を動かし始めた。
「――――ぁっ」
漏れそうな声を抑えるために、必死に唇を噛み、額を壁につけて耐える。
荒い息使いが、個室に響く―――。
緊張した状態に、2人とも異常なほど興奮していった。
生徒達が出ていったのが判ったところで、英治は抗議の声を上げようとまた振り返った所を、また唇でふさがれ舌を絡められた。
「んっ・・・んんっ・・・!!」
そのまま激しく突かれ、2人は際まで高まっていく。
意識は白濁してきて・・・英治はいつものように、一人の男の事を思い浮かべかけた時―――
「どうして―――」
水島の小さな・・・だが、血の吐くような声に、英治の意識が一気に現実に戻る。
「どうして貴方は・・・俺を見ない―――!!」
「んっ・・・・あぁ・・・」
「こんなに・・・・・・こんなに、想っているのに―――」
悲痛な叫び声。
胸が裂けそうなほど―――
思わず振り返って・・・目と目があう―――――。
あってしまった・・・。
そしてその視線に、英治は捕らえられる―――。
―――水島・・・・・・
「あぁ・・・!だめっ―――」
「英治・・・あぁ・・・・・英治・・・」
「イイ・・・もぉ・・・イクゥ・・・!水島ぁ―――」
「英治―――」
水島
水島
水島――――――
視線を反らさず、水島と見つめ合ったまま、英治は自分の欲望を解放した―――。
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