8000HIT記念
視線で殺して、魂で縛れ!


 英治は『MISSION』の前に佇んでいた。


◇◇◇


 最近、英治が考えるのはアキラのことばかりだった。
 それまでも気になってはいたのだが、水島と関係を持ってしまってからは、特にアキラの事ばかり考えている。
 そして、水島と関係する度に、アキラのことばかり思い出すのだ。
 先日その事を、水島に指摘され初めて知った。

 だから・・・・・・今日は確かめに来たのだ。
 
◇◆◇◆◇


「んん・・・」
 生徒に抱かれているという現実を忘れるため、英治は与えられる快感だけを必死に追っていた。

 水島の愛撫は優しい。
 言葉と行動は強引だったが、英治を抱くとき水島は、英治を傷つけないように細心の注意を払う。
 そして、英治が快感を得られるように・・・・自分の快感よりもそちらを優先するように、抱く。
 それが、英治には辛かった。
 暴力的に抱かれている方が、自分に言い訳が立つからだ。
 だが、水島に抱かれることに、溺れていく・・・・・・・。
 3日触れられないと、焦れるほどに。
 抵抗も、もう、言葉だけのモノになってしまった。

「ほら、足あげて・・・そう、腰にまわして・・・。」

 5月とはいえ、外は寒い。
 普段締め切っている屋上に来る人間など、一人もいなかった。

 誘ったのは、水島。
 自分に言い訳しながらも、着いてきたのは英治。

「ああぁ・・・!!」
 立ったまま貫かれて、英治は短く高い啼き声をあげた。
「イイよ・・先生。ほら、誘うように俺にまとわりついてくる。」
「くぅ・・・いうな・・・!」

 自分でもわかっている。
 水島を少しでも奥に飲み込もうと、ひくついてる蕾。
 誘い込むように、自然と揺れてしまう腰。

「ほらっ、イイ声・・・もっと啼いて」
 耳元で囁かれ腰の力が抜ける。
 不安定な格好のまま揺さぶられ、その刺激に快感の声を上げる。
 倒れ込みそうになる躰を支えるため、英治は水島の背中に必死にしがみついた。

「んあぁっ・・・んぁ・・・・んっ・・・」
 体中に渦巻く快感の嵐。
 頂点まで高ぶってくる、躰と心。
「だめっ・・・・もっ・・・だめ・・・」
「英治・・・英治・・・・・」
 噛みつくように口内を犯され、英治は一気に上り詰める。
 そして、頭の中ではいつものように一人の名前を繰り返す。

 アキラ
 アキラ
 アキラ――――――

◇◇◇

 そのまま座り込んだ英治の躰をハンカチで拭いながら、水島はポツリと呟いた。

「貴方は、誰に抱かれているんでしょうね」

「え・・・?」
 英治が水島を見上げると、水島の瞳がスッと翳った。
「貴方は俺に抱かれながら、別の人間を見ている・・・・」
「・・・・・・」
「それでも・・・それでも、貴方は俺のモノだ」
 そう言い残すと、水島は屋上から出ていった。



『貴方は俺に抱かれながら、別の人間を見ている・・・・』

 誰のことを言っているのかは、すぐにわかった。
 だが、水島にそれを指摘されるまでは、無自覚だったのだ。
 水島に抱かれながらも、アキラを思う自分。
 この感情を・・・なんというのだろう。

 もう一度、アキラに会いたかった。
 会って、自分の気持ちを整理したかった。


◇◆◇◆◇


 大きく深呼吸して、英治は『MISSION』の店内に入った。
 相変わらず、大勢の人間が騒いでいる。
 英治は、他の人間には見向きもしないで、カウンターの方へ向かった。
 アキラの姿は見えない。
 少し期待していただけに、残念な気持ちは抑えきれなかった。

 落ち込んだまま、英治はいつもアキラが座っていたカウンターにの席に着いた。
「おぉ!英治じゃないか〜!!」
 奥でいたマスターが、英治に気付いてそばに寄ってくる。
「マスター」
 久しぶりに見る顔に、英治も思わず笑顔が出た。

「お前、なにしてるんだよ〜。全然連絡ないからどうしたかと思ってたぜ」
「ええ、何かと忙しくって・・・」
 昔話に花が咲き、しばらくマスターと大声で笑いながら喋っていたが、ふとマスターが真剣な顔になり、英治に顔を寄せて囁いてきた。

「お前、アキラに会ったか・・・?」
 突然の問いかけに、英治が、えっ?という表情になる。

「いつだったかな〜?お前がここ辞めてちょっとした時、あいつが来てなぁ。お前が辞めたって言ったら、必死な顔して連絡先とか聞いてきたんだけど、俺も聞いてなかったから答えれなかったんだよ。一度お前のアパート行くって飛び出していったけど・・・」

 マスターから語られていく事実に、英治は愕然とした。

「そんで、結局お前にお前に会えなかった真っ青な顔して戻ってきたぜ。それ以来、ここには来てないんだけどな。お前、あいつに新しい連絡先、言ってなかったのか??」


 アキラ・・・・。
 アキラもオレを捜してた―――?


「うん。ちょっとすれ違いでね・・・。ねぇ、マスターもしアキラが来たらコレ、渡しておいてくれる?」
 英治は名刺を取り出し、裏に自分の住所を書いて、マスターに渡した。
「お前・・・先生なのか?」
「ええ、そうなんです。」
「しかも、松華だと〜。すげ―――進学校じゃねーか。」
 名刺を眺めながら、マスターは感嘆の声を上げる。
 しかしそうしているうちに、目敏く英治を見つけたOL達に囲まれ、英治はマスターにアキラのことを聞くことは出来なくなってしまった。

◇◆◇◆◇


 オレの、この、アキラに対する気持ちはなんなんだろうか―――?
 ただの友情では―――ない・・・?
 もっと、何か依存するような。
 もっと、胸を熱くするような。
 もっと
 もっと・・・・。

「先生」
 ボーと考え事をしていたしていた英治は、目の前にいた生徒の声で我に返った。
「ゴメン、で、その問題わかったのか?」

 放課後。
 いつも懐いてくる一人の生徒に頼まれて、問題集を見てやっていたのだ。

「先生。俺の言ってた事・・・全然聞いてなかったね―――」
 生徒のムッとした表情に、英治はしまったなぁ、と思い素直にあやまる。
「ちょっとボーっとしてた。で、何だって?」
「俺・・・先生といると、胸がドキドキするんだ」
「へぇ――――――、・・・えぇ?」
「気が付いたら、先生のことばかり考えてて・・・・俺、先生のことが好きなんだ」
「ちょ・・・」
 ちょっと待て―――!!
 そう、大声で叫びたかった。
 しかし、その生徒は真剣な目つきで、テーブルの上に置いてある英治の手に、手のひらを乗せてくる。
「お・・・オレは男だぞ。」
「そんなの判っています」
 どこかでした、会話だ・・・そう、初めて水島に襲われたときも同じ様な言葉を交わしたような気がする。
「お・・・お前ここが男子校でちょっと女っ気ないから、勘違いしたんだよ、な?」
「先生は、俺の本気をそうやって誤魔化すんですか―――?」
「そんな・・・誤魔化すなんて・・・」
 ただ、アイデンティティが崩壊しそうなだけだ。

「俺、本気ですから。返事待ってます。」
 生徒はそう言うと、自習室から出ていった。


 返事って・・・・。
 それより、男同士でそんな・・・。
 スキとか、本気とか―――。

 悩みこんでいると、頭上からクスッという声が聞こえてきた。
「あ・・・」
 人が居たんだ―――!!
 という事は、オレが男から告白されているところを見られてたワケで・・・・。
 英治は恐る恐る・・・視線を上げた。

 秀麗な顔をした男が、普段では見せない顔で笑っていた。
 その人間はこの学校に来て、すぐに覚えた生徒の一人。

「なかなか、大変ですね、先生も―――」
「見てたんなら、止めてくれよ―――」
「イヤですよ。あんな面白いもの止めるなんてね・・・」
 クックック・・・と、綺麗な顔を歪めもしないで笑う。

 新任教師の英治を自分のクラブ顧問として据えるため、上手い言葉で英治を惑わせ、裏から手を回し追いつめ、気が付くと顧問に着かざるを得ない状況を仕立てていた・・・

 ――――科学部部長。



「やっぱりお前、いい性格してるな―――藤岡」
「それは、誉め言葉として受け取っておきますよ」
「けなしてるんだ・・・」

 英治が大きく溜息をつくと、“クールビューティー”と呼ばれるこの学校の有名人藤岡零は、遂に声を上げて笑い出した。
続く・・・


次の更新予定は・・・カウンター9000を越えた日でだと、思うんですけど・・・。

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