shine−冬・家族の肖像−
Scene6







 涼はかなりイライラしていた。
 遙のコレといった手がかりが掴めないからだ。

 遙の行方がわからなくなって、3日が過ぎていた。

 学校には来ないがどうやら連絡が来ているらしく、教師達はその事についてなにも云わない。
 それが芙蓉が関わっているという事を、決定的にした。

 ただ、相手が芙蓉というのが、まずい。

 東雲の力を持ってしても、芙蓉という組織を探れないからだ。
 いや、涼が東雲だからこそ、まずい。
 芙蓉と東雲は、どちらも日本における・・・いや、世界と云ってもいいだろう、経済界のTOPに位置している財閥である。
 お互い、ある所ではぶつかり合い、ある所では協力し合い、均衡した力で成り立っている。
 今、東雲が芙蓉に何かをしかけるワケには、いかないのだ。
 己の為に一族に迷惑をかける訳にはいかない。
 涼は、その事を十分に理解していた。
 だが己が東雲だから、芙蓉にいるであろう遙の状況を知ることが出来ないというジレンマに、口惜しさを隠しきれなかった。





◇◇◇







 「涼。お前にプレゼントをやろう」

 久しぶりに会った兄は、突然涼の目の前に1枚の封筒を差し出した。

 「・・・?」

 怪訝な表情の弟に、涼の兄である槇はふふんっと弟を鼻で笑う。
 「お前の望むモノだと思うけどな。この借りは今度返してもらうから。」

 ポンッと涼の肩を叩くと、日本の経済界のTOPを毎日走り続けている男は、その場を去った。

 手に残された、封筒。
 涼は兄の言葉の意味を考えながら、ソレを開封した。

 「あ・・・」

 中に入っていたのは、招待状。
 主催者は、芙蓉グループ。

 「・・・兄貴のヤツ」

 いつの間に、知ったのだろう。
 いや、珍しく涼が動いていたのは、きっと直ぐに兄に報告されていたはずだ。
 相手が、芙蓉だという事も。
 一言も口にしなかったが、遙の事も知っているのかもしれない。
 
 ―――それでも、この封筒を、自分に与えてくれた。

 兄の考えを読む。
 東雲の人間としては、必ず反対の地位に立つであろう、兄。
 なぜなら・・・。
 相手が芙蓉。
 そして、男。

 だが、兄は黙ってこの封筒をくれたのだ。
 そういう事なのだ。

 涼はまだまだ槇には追いつけそうもないと、心から思った。






◆◇◆◇◆






 「なるほど。流石だね、槇さん。」
 涼の話を聞いた雅也は、槇への賛辞を口にした。

 「以前、兄貴には遙を紹介した事がある・・・。」
 「それがよかったのかもな。しかし、相変わらずお前に甘いなぁ・・・」

 槇の有能ぶりは有名だ。
 東雲は槇の時代になったら、さらに一段と大きくなるであろうというのが経済界の一致した意見である。
 そして、雅也も智紀も・・・涼も知っている。
 槇は、懐に入れたもの・・・、
 己の内の者だと認めた人間には、必ず守るいう事も。
 そう云う意味では、涼の親友の雅也と智紀も槇の“内”に入っている。
 故に、将来・・・雅也も智紀も己の一族の長として経済界に出て行く時には、東雲という大きな後ろ盾が付いている事が確約されていた。
 涼に媚諂う人間が多いのは、この辺の理由もある意味大きい。

 そして、槇は遙の事を“内”として入れていた。
 そうでなければ、昨日の招待状は涼の手には渡らなかっただろう。

 「槇さんがバックにつくのなら、なんとかなるかもしれないな・・・」
 流石に表立っては芙蓉に手を出せないにしても。

 とにかくこのパーティーに出て、遙の無事を確認する。
 そして、今更芙蓉が何ゆえ遙を取り戻そうとしているのか。

 それを知らなければならなかった。







◆◇◆◇◆





 「今日はごゆっくりお楽しみ下さい。」
 芙蓉の長である遙士の挨拶で、パーティーは穏やかに始まった。

 芙蓉の新事業発表会でもあったこのパーティーには、大勢の人間が招待されていた。
 東雲の人間であり、すでにいくつもの事業を任されている事が有名な涼にもたくさんの人間が挨拶にくる。

 そんな合間を縫って、涼は遙を探す。
 だが、見当たらない。



 ―――参加、していないのか。

 していなくても、当たり前といえば当たり前なのだが。
 少し、期待しすぎたのかもしれない。
 もしかしたら、会えるかもしれない・・・と。

 涼は作戦を変え、芙蓉関係の人間と接触を図る。
 誰か、遙の事を知っている人間がいるかもしれない。


 その時、芙蓉遙士が、舞台に立った。

 「私の跡継ぎを紹介したいと思います。」
 突然の言葉に、客たちは息を呑む。

 芙蓉遙士に子供がいない事は有名だった。
 故に、跡継ぎ問題は、いつでも話題の的だったのだ。

 パッとライトがあたる。


 ―――遙っ


 涼は、思わず叫びそうになった。
 理性で押さえる。
 舞台に向かおうとした時、槇に肩を掴まれ涼の足は止まった。

 「待て。」

 判ってる。
 判ってる。
 けど・・・。

 弟の必死の訴えを、槇は厳しく制す。
 そして、視線を舞台に戻した。

 話を、聞こう。
 それからでも、遅くない、―――と。





 「私の甥にあたる、遙です。彼を養子に向かえ私の跡継ぎにしたいと考えています。」

 ザワリッと客たちが騒いだ。
 そして一番動揺したのが、芙蓉の一族だ。

 聞いていない。
 誰だ、アレは。
 甥だと?
 跡継ぎは次男の子供ではなかったのか?!

 口々とそんな言葉が飛び出す。

 そして舞台上の遙は、真っ青な顔をして己の伯父を見ていた。






 遙。
 遙。
 顔色が悪い。
 そんなに震えて。
 
 今すぐ抱きしめてあげたい。
 大丈夫だよ、と。囁いてあげたい。

 俺はここにいる。
 ココにいる。








 涼の心からの叫びが聞こえたのか、空ろな目の遙がゆっくりと涼の方に視線を向けた。














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大きい事を書くのはやめましょう(反省)
平凡な学生モノにすればよかった。
と、後悔しても・・・時すでに遅し。