shine−冬・家族の肖像−
Scene5













 「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!!」













◆◇◆◇◆








 遙は一瞬ココが何処かわからなかった。
 思わず、手を見る。

 血が・・・。
 血の匂いがするような、気がした。










 「だ、大丈夫・・・・ですか?」

 ジッと手を見つめていた遙は、頭上からかけられた声にビクリと肩をゆらした。

 「あ・・・あの」

 遙がぼんやりと自分の手から視線をあげると、そこには見た事のない女性がいた。

 「あ、なた・・・は?」
 「あ。私はここのお手伝いの者で・・・。あの、遙様、ご気分は。」





 ここ
 ここは、何処なんだろう。

 遙は記憶を探る。



 そう。
 そうだ。
 母の兄という人から、連絡を受けて。

 母の、兄。
 遙士。
 母の兄。
 そして自分の―――



 これ以上思い出さないように、遙は深呼吸をした。
 心臓が、ドキドキしている。

 心に鍵をかけて、閉じ込めていた真実。
 それは、あまりにも辛い現実。
 自分が壊れないように、そうせざるを得なかったのが判る。
 そして、今になって思い出したということは、ソレを耐えうることができると判断したから?



 ―――思い出したく、なかった。



 それとも、思わぬ人が目の前に現れたから?
 伯父であり、
 そう。
 父親であろう、人の。



 ―――思い出したく、なかった。



 涼。
 涼。
 涼。
 君に、会いたい。
 でも、会えないよ。

 ギュッと手を握り締める。



 だって、

 洗っても、洗っても・・・。

 血の匂いが、消えない―――










◇◇◇









 「食事をしないようだね。」

 夜更け、遙が寝かされていた部屋に訪れたのは、遙が一番会いたくない男だった。

 「・・・家に、帰して下さい。」

 まだ、顔を見る勇気がない。
 遙は俯いたまま、男に告げた。

 「家?家とは何処だ。君に帰る家など、あったのか?」
 「どういう、意味ですか」

 遙の言葉を無視して、男は続ける。

 「君には、うちの籍に入ってもらうよ。来週からお披露目パーティーが詰まっているから今のうちにはやく元気になってもらわないと。」

 「・・・・・・・・・・・・どういう、意味ですか」

 男の云っている意味がわからない。
 遙は、意を決して顔を上げた。
 
 視線が合う。
 予想に反して、視線を外したのは男だった。



 「―――芙蓉には、跡継ぎがいない。」

 視線を外した男は、ベットから少し離れ窓際に立った。
 満月の光が煌々と部屋に差し込んでいる。

 「私と妻の間には、残念ながら子供が出来なくてね。そして弟の子供たちは、使えない。」

 外を見ていた男が、遙を振り返る。

 「お前の存在など、芙蓉の中では抹殺していたのだがね。まさか、藤華に行って主席だとは。初めて聞いたときは耳を疑ったよ。」

 「私を、どうする気ですか。」
 遙の言葉に、男は口の端を上げた。

 「お前も一応は、芙蓉の血を・・・私の父の血を継いでいるからな。継ぐ権利はあるというものだ。弟の息子などにこの芙蓉を継がせたら、10年持たない事が目に見えている。お前の頭があれば大丈夫だろう。このまま藤華を首席で卒業してT大の経済学部にでも進んでもらおう。そして、私の跡を継いでもらう。」
 「なっ・・・」

 思いがけない言葉に、遙は言葉を失う。
 芙蓉の、跡を継ぐ?

 母の捨てた、この家を?
 母を捨てた、この家を?

 ―――母の人生を壊した、この男の下で?



 男はゆったりと遙の側まで来ると、顎をその指で捕らえた。

 「祥子にそっくりだな。魔性の顔だ。・・・・・あの男の血が入っていると思うと汚らわしいが、仕方ない。」

 それだけ云うと、男は部屋を出て行った。
 遙の意見など、聞く気もないように。










◆◇◆◇◆


 自分は、どうなるんだろう。
 遙は暗闇の中で、本気で怯えた。









 涼。
 涼。
 君に会いたい。
 会って、夢だと云って欲しい。
 抱きしめて欲しい。
 「愛している」と囁いて欲しい。

 それだけで・・・。





 助けて、涼。
 頭が、オカシクなりそうだよ。















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短いとかいう突っ込みはやめましょう(笑)
キリがよかったんっす。

やっと初期設定の「包容力大」「カリスマ大」「パーフェクト男」の涼を出すことが
果たしてできるのか・・・・?
犬だからさぁ・・・。