「遙が、芙蓉・・・」
涼は驚きのあまり、言葉を失った。
東雲と芙蓉は同じ財閥である。
もちろん交流も昔から少なからずあり、涼は何度となく芙蓉のパーティー等には、出席していた。
「ということは、現会長の遙士氏も遙の伯父という事になるんですね。」
「君は―――」
遙の伯父は、驚いていた。
一般人は、芙蓉の名前はしっていても、現在の会長名まで知っている人間はそうは、いない。
ましてや、涼のような高校生では。
「僕は、東雲・・・。東雲涼と申します。」
「東雲っ!!」
「ええ、本家の次男です。」
―――遙の友人が、東雲とは・・・。これも何かの偶然だろうか。それとも、運命というものなのだろうか。
遙の伯父は小さくため息を吐くと、涼に向き直った。
「これは、芙蓉の家族の話なのだけれどもね―――。」
話は、遙の母祥子が、芙蓉の家に来た頃に遡った―――
芙蓉本家は、芙蓉グループを統括する会長"芙蓉漱石”とその妻、そして3人の息子の5人家族であった。
優秀な長男“遙士”
真面目な次男“敬二”
放蕩ものの三男“省三”
学生だった省三は遊び歩いていたが、遙士と大学を卒業したばかりの敬二は父を支え、しっかりとした土台を作っていた。
そんな時、漱石の妻が死んだ。
そして3人の息子は、今まで知らなかった“妹”の存在をしらされたのだった。
「祥子です―――」
初めて紹介された妹は、父の背中に隠れながら、小さな声で挨拶をした。
そして、兄たちを見た。
父の背中からそっとのぞかせる顔に、3人の息子達は全員魅せられたのだった。
可憐で美しく、清楚。
だが、どこか男を虜にさせる視線。
見たすべての男を、魅了せずにはいられない美貌。
父と3人の兄達は、慕ってくる妹に、はちきれんばかりの愛情で答えた。
「お兄さま―――」
妹は、日々美しくなっていった。
その間に3男である省三が「芙蓉のやり方にはついていけない」と家を飛び出すという事件もあったが。
芙蓉家は、穏やかな家族関係を築いていた。
「私は芙蓉の家を出てしまったから、その後あの家でなにがあったのか・・・本当の事が、判らないのだ。」
ただ、突然・・・芙蓉の家を出た自分を訪ねてきた妹。
『ごめんなさい、省三お兄様。お兄様しか頼る人がいなくて・・・』
聞けば、祥子は駆け落ちしてきたという。
男は使用人の息子で、あまりいい話を聞いたことのない人間だった。
だが―――
『省三お兄様、彼を愛しているの。助けて。』
見たこともない程、必死だった祥子。
それを、誰が断れよう・・・。
大切な、愛しい、妹の頼みを―――。
「追ってくる。と思っていた父や兄達は追ってこなかった。私は二人の後継人としてな名を貸し、二人は地味な新婚生活を始めた。」
そして、すぐに遙が生まれ・・・。
だが、真面目に働いていた男が、急に身持ちを崩し始めた。
「理由は、わからない。やはり、それだけの男だったのだろう・・・と、私も思った。祥子・・・妹には遙と二人で、私の家に何度も来るように勧めたのだが・・・。」
妹は、断固として断った。
もう少し、頑張るから―――と。
なぜ、無理にでも引き離しておかなかったのだろう。
あんな悲劇になる、事前に・・・・・・・・・。
「祥子が芙蓉の家を出てから、芙蓉は一切祥子にコンタクトを取ってきた事がなかったのだ。祥子が入院した時も、死んだ時も・・・。なぜ、今頃・・・・なのだ。」
そう云ったきり、遙の家族をずっと暖かい目で見守ってきた遙の伯父である省三氏は、黙りこんでしまった。
「芙蓉の家に、遙さんがいるのなら、連絡は取りにくいね・・・。」
芙蓉と手をきり自分の力で事業を立ち上げた、省三氏の自社ビルを出た涼と雅也は、結局なんの手がかりも得られぬまま、自分の家に向かって歩いていた。
「とりあえず親父と兄貴も使って、芙蓉とコンタクトを取れるように・・・芙蓉の家に入り込めるような何か手段がないか考えてみるわ。」
「僕も、お父様に聞いてみるよ。引き続き遙さんの行方も芙蓉を中心に捜させる。」
涼は、どうしても省三が漏らした一言が忘れられなかった。
―――祥子を一番可愛がり、執着していたのが、遙士兄だった。それは、兄妹間では異常とも云えるくらいに。だからいまだに、なぜあの時祥子を追いかけてこなかったのかが、判らない・・・・。
遙を奪ったのは、この男ではないのだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
|