shine−冬・家族の肖像−
scene1






 「遥はっ?!」

 突然出入口から顔を覗かせた男の叫び声に、2ーCの教室に居た人間は驚いてその声の主の方へ一斉に視線を向けた。
 男は、目的の人物がいない事をその目で確認すると、「チッ」と舌うちをしてその場を去っていった。
 
 残された人間は、呟く。
 「東雲のヤツ・・・どうしたんだ?」


◇◆◇


 「遙がいないっ!」
 突然教室に飛び込んできた涼に、智紀は驚いて顔を上げた。

 「どうしたんだよ?」
 「遙が・・・いないんだ。」
 独善的な態度で全てを余裕にこなしていた男が、明らかに動揺した姿で智紀の前に現れたのだ。
 智紀は彼に落ち着きを取り戻させるように肩を軽く叩くと、もう一度「どうしたんだ?」と尋ねた。
 涼も自分の情けない姿に気がついたのか、右手で髪の毛をかきあげ、小さく溜息をつくと、こう切り出した。

 「今日、遙のアパートに迎えに行ったら、誰も居なかった。いつも、一緒に学校に来るのに・・・。」

 「ああ。」
 続きを促す。

 「それで、慌てて学校に来たんだけど、学校にもいない・・・。遙が、行く所なんて考えつかない。行くところなんて、ないはずだから・・・。」
 
 遙は、親が居なく一人暮らしだ。
 頼れる人間が、周りに居ないことも聞いている。

 「例の、幼なじみには聞いたの?」
 智紀の横にいた雅也が、口を挟む。

 「あ、アイツなら詳しいから・・・」
 その言葉に、涼はキッと智紀睨みつけた。
 未だに、涼は遙の幼なじみである智を嫌っている。
 自分にはない、あの二人の繋がりと信頼関係が気に入らないのだ。

 「ま、どっちにしても・・・遙さん今から学校に来るかもしれないし、幼なじみも学校に行っているから連絡取りようもないね。」

 ―――雅也の言葉に、涼もしぶしぶ肯くしかなかった。





 結局放課後まで、遙が学校に現れることもなく、アパートに電話をかけても留守番電話しか出ない。

 涼は、智の高校の前まで来ていた。

 「遙はっ!」
 「はぁ?」

 校門を出たところで、突然現れた涼に詰め寄られた智は、驚きに声をあげるしかなかった。

 「なんの事だ。」
 「・・・遙が、居なくなった。お前しか思いつかない。」
 「・・・・・・・」

 涼の言葉に、智は言葉を失った。
 そして、己の考えを張り巡らせる。

 「・・・残念ならが、俺は遙の行方は知らない」
 「嘘だ。お前しか考えられない・・・!」
 掴み掛かろうとする涼の手を智は遮る。

 「だけど、遙が自分で行方をくらませる理由がない・・・・」
 「・・・・」
 涼は何も云えずに押し黙った。
 今の遙が、涼に何も告げずに居なくなる・・・というのが、考えつかないのだ。
 彼はもう、逃げていた以前の彼ではない。

 「あの人に会いに行こう。もしかしたら、何かわかるかもしれない・・・。東雲、お前も来るか?」
 「あの人・・・・・?」
 怪訝な顔をした涼を、智は真正面から見据えた。

 「遙の、叔父だ・・・」


◇◆◇


 「久しぶりだねぇ、智君」
 思っていたより若い遙の叔父という人物は、部屋に入ってきた智を見つけると、大きく手を振って歓迎した。
 「ご無沙汰しております。」
 深く礼をした智にならって、涼も軽く頭を下げる。

 「どうしたんだい?今日は遙はいないのかい?」
 「それが・・・」
 遙を探すように辺りを見回す彼に向って、智は云い難そうに口を開いた。

 「遙が・・・昨日から、行方不明なんです。」
 「えっ?」
 今まで穏やかな笑みを浮かべていた遙の叔父は、智の言葉を聞いて顔が強張る。

 「遙が・・・自分から何も云わず姿を消すなんて、考えられない。」
 今まで黙っていた涼が、口を開いた。

 「君は・・・?」
 「彼は、遙と同じ高校の生徒です。」
 「遙・・・と?」
 不思議そうな顔をした遙の叔父に、智は涼を紹介した。

 「遙が・・・心を許した、友人です。」

 涼は、智の言葉に耳を疑った。
 まさか、智がそのように涼を紹介するとは思っていなかったのだ。

 「遙が・・・心を・・・。」
 しばらく黙り込んだ遙の叔父は、涼に向き直った。

 「・・・遙は、私にも何の連絡もしてきていない。」
 「そんなっ・・・」
 最後の頼みであった遙の叔父にも行方が判らないとわかった智は、落胆の声を上げる。

 「私は、遙の保護者として警察に捜索願を出す。思い当たる場所も、手当たり次第探そう。」
 「叔父さん・・・。」

 「あの子は私達にも迷惑がかかると断ってきたのだが、私達・・・私と妻はあの子の保護者としての後ろ盾を辞める気はない。どうか・・・君たちも、あの子を見捨てないでやって欲しい」
 「もちろんです。」
 「そんな事するわけがない。」

 遙の叔父の真摯な言葉に、即答する二人。
 彼は二人をジッと見て肯き、早速警察に連絡を取ったのだった。


◇◆◇◆◇


 「捜索願いが、取り下げられている?!」

 次の日、昼休み。
 遙からは連絡が無く、涼は自分の使えるだけのツテを使って、遙を探していた。

 「かなり、上からの力が廻されたみたいだよ。」
 情報をつかんできたのは、雅也。
 彼の情報網は、やはり侮れないらしい。

 「芙蓉家・・・。」
 「なっ?!芙蓉家が・・・何故?」

 芙蓉家とは、東の東雲・西の芙蓉と呼ばれるぐらい、芙蓉グループとして多くの傘下を持ったグループ会社だ。

 「何故芙蓉と・・・遙が・・・?」

 その関係が判るだろう人間は、一人しか思いつかなかった。


◇◆◇


 ガッシャーン
 地面にガラスが飛び散る。

 「す、すまん・・・・」

 手に持っていたグラスを落とした遙の叔父は、上の空で謝りながら、それでも涼の口から聞いた“芙蓉”の名のショックを隠しきれない様子で呆然としている。

 「芙蓉と、なにか関係が・・・?」
 涼の言葉に、遙の叔父はポツリと呟いた。



「芙蓉本家は・・・私の実家であり、遙の母親の実家・・・今の当主は実の兄なのだ。」



続く




ああ、やっと2年も前から書きたかった事が書ける・・・。

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