shine−冬・家族の肖像−
Scene11









「遙君の・・・お友達」
「はい」

 涼が訪れた葉山かおりという人は昔、警察病院に勤めていた。
 そして、入院していた遙の母祥子の面倒を見ていた人だ。
 涼は、祥子の入院時代の話を聞く為に来た。
 たとえ、それが役に立たないとしても。
 もしかしたら、何かに繋がるかもしれない。
 藁にも縋る気持ちだった。


「祥子さんは、綺麗な人でした。そして、いつも私に喋ってくれたわ。『優しい父親、優しい兄さん、大好きな家族』、と」
「家族の話・・・ですか」
「そう、彼女は丁度・・・10代前半の頃に戻ってしまっていた。だから、家族と過ごした時代の話ばかり」
「じゃあ、遙の事は―――」
 祥子が遙を産んだのは18の時。
「もちろん、全く覚えていなくて・・・。彼女は遙君の事を“遙士兄さん”と呼んでいたわ。きっと似ていたのね―――」

 涼は、かおりの何気ない言葉に、目を見開いた。
 そして、慌てて彼女に聞きなおす。

「遙の母親は、遙の事を『遙士兄さん』と呼んでいたんですかっ!?」
「・・・ええ」
 涼の迫力に驚いたものの、かおりはその言葉を肯定した。
「遙君は悲しそうな顔をしていたけれど・・・仕方ないと笑っていたわ。そして祥子さんの話にあわせていた。夢の中で幸せなのだから、壊したくない・・・と」




 涼は一通り話しを聞くと、御礼を言って葉山家を出た。
 そして、考えをまとめる。



 遙と遙士
 甥と伯父。

 ―――似ている? 見間違うほどに?

 いや、そこまでは似ていない。
 血の繋がりが、あるのだが―――それほど、面影があるとは思えない。

 だが、祥子は・・・『遙』を『遙士』と呼んだ。

 何故?
 遙士の異常な程の執着。
 祥子の妊娠。
 そして、駆け落ち。

 自分が想像した事に・・・そして、真実であろう事に、涼は眩暈を覚えた。
 そして遙の言葉の意味も、なんとなく判った。




 抱きしめたい、遙。
 今すぐに。
 そんな事は、どうでもいい事だと・・・貴方に言いたい。







ポケットの中で震えた携帯電話を取り出すと、涼は通話ボタンを押した。


「・・・省三さん? どうしたんですか?」








◇◆◇◆◇








 遙は、あまりの苦しさに目を覚ました。

「・・・っ!」


 喉が。
 空気が―――。
 吸えない。


 目を開けると、目の前に鬼の形相をした人間の顔があった。


「あ、ら―――。目が覚めたの? このまま夢の中に落ちてしまえばよかったのに」


 遙士の妻、隆子。歪んだ口元に遙はゾッとした。
 遙の首に隆子の爪が刺さる。
 遙は苦しさと痛さにに藻掻いた。
 流石に細身とはいえ男である遙の力に、隆子が叶うはずはない。
 遙の首に伸びていた隆子の腕は、取り払われた。


「お前なんて、死んでしまえばいいのよ!」


 遙に腕を払われた隆子は狂ったように叫んだ。


「兄と妹の子供ですって! 禁断の子よ!! 汚らわしい! 汚らわしい! 汚らわしい!!!!」


 叩き付けれる、言葉。
 容赦ない、罵り。

「人として、生きていてはいけない存在なのよ! お前はっ! 許されない存在なのよっ」


 ―――ケガラワシイ、キンダンノコ。
 隆子の言葉が、遙を貫いた。


「お前の存在が、あの使用人の子供を殺し、祥子を狂わせたんだわっ。そして、遙士さんも狂わせるのよ! お前さえいなければっっっ!!」


 再び、隆子は遙に手を伸ばす。
 遙は、一切抵抗しなかった。











「おっ、奥様っ!!」
 遙の首を絞めている隆子を発見した使用人が、慌てて止めに入る。
 何人もの使用人に抑えられ、隆子は引きずられていく。


「殺してやるわっ、祥子! お前なんか・・・! お前なんかがいたからっ!!」


 隆子には、いつの間にか遙が遙の母祥子に見えていたらしい。

 殺してやる、祥子! と
 隆子は呪詛をはきながら、部屋を出て行った。









◇◇◇










 人としては、生きていてはいけない存在。

 父を殺し、母を狂わせた。

 俺さえ、いなければ・・・。




 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。
 ケガラワシイ。
 汚らわしい。







 お前なんて、死んでしまえばいいよの!










 ―――ああ、そうか。






 遙は夢遊病のように、歩いた。








 ―――涼。俺さえ、いなければ・・・皆が幸せになれたんだって。






 蛇口を捻る。
 水が勢いよく、流れ出した。
 視線を上げると、大きな鏡に色白い人間が写る。

 いつも悲しそうな顔をしていた、母の顔。




「ごめんね、母さん。ごめんね、父さん」
 二人とも、大好きだった。
 俺さえいなければ、幸せになれたのに。



「涼・・・」
 愛していた。愛している。
 自分には、そんな資格はないのだけれど。






 遙は、右手に持った剃刀を、力いっぱい左手の手首にあてた。





















「きゃ、キャ――――――――――!!!!!!」









 その使用人が見つけたのは、倒れた遙と、あたり一面の真っ赤に染まった水だった。








BACK TOP NEXT




この事については、完結した時に後書きで語りましょうか。
ラスト1話+エピローグです。
長い長い連載も、やっとゴールが見えてきたみたいです。