親友と恋人
比べられるモノでもないし、比べるモノでもない
自分にとっては、どちらも大切でどちらも失えないものだから・・・
だから、彼からは一番聞きたくない言葉だったんだ。
「ヤツと俺、どっちが一番大切なんだよ!」
でも、そんな言葉を云せてしまったのは、俺の罪・・・
|
|
|
遙が智のバイクから降り、お礼を云っている時だった。
「―――遙!!」
コチラに向かって一直線に走っている人間。
「涼?」
遙は不思議そうに呟いた。
「誰だよ!そいつはっ!!」
遙と智の目の前に立つと、乱れた息もそのままに捲したてる涼に、遙は呆然と呟く。
「―――涼?どうしたんだよ」
涼は、自分が居るべき場所に立っている男を睨み付けると、遙の腕を掴み、グイッと自分の方へ引き寄せる。
「涼?!」
親友の前で抱き寄せられた遙は、ジタバタと涼の腕の中で暴れたが、涼は解放してやる気など一切なかった。
「お前、誰だよ。遙のなんなんだ?」
メットを片手にもっている男を、涼は威嚇する。
「・・・・・お前こそ、遙のなんなんだ?」
男は、不審そうに涼を見た。
そして、涼の腕を取って「遙を離せ」と睨み付けてきた。
―――遙・・・・だと?
涼の腕にギュッと力がこもった
「痛いよ、涼。智。」
自分の腕の中で藻掻く遙を、力で押さえつける。
だが、男も遙の腕から手を離そうとしない。
―――この男は・・・。
「涼!!智!!」
睨み合いを続けていた二人は、怒りを含んだ叫び声に、視線を遙に移した。
「手、離せよ」
「あ・・・ああ」
低く静かな遙の声に、二人は思わず手を離す。
遙は腕をさすると、小さく溜息を吐いて涼を見上げた。
「涼。コイツは友人の久屋智。」
智を指さし、涼に告げる。
「智。コイツは後輩の東雲涼」
涼を指さし、智に告げる。
「他に何か?聞きたいことある?」
開き直った遙の態度に、「いや・・・」「べつに・・・」と二人は曖昧に呟き黙り込んだ。
「そう、じゃ俺は教室行くから。」
呆然としている二人を後目に、遙はスタスタと教室へ歩き出した。
「は、遙・・・!!ちょ・・・」
遙の後ろ姿を追いかけながら、涼は男の方を振り返った。
―――敵だ。
ジッとコチラを見ている男に強い視線を送ると、涼は遙を追ったのだった。
「後輩って、後輩ってどういう事だよ」
「だって、後輩だろ?」
昼休み。
いつもの屋上で、涼は遙に詰め寄っていた。
どうやら先ほど智に紹介した言葉”後輩”という単語が気に入らなかったらしい。
「後輩って後輩って後輩って・・・・・!!」
「まぁ、恋人とは云えないよな、普通は。」
「いきなり友達にカミングアウトしろっていうのはねぇ。」
ブツブツと不満を云っている涼に、その友人二人は畳みかける。
「き、昨日は・・・ど、何処行っていたんだよ」
反論できなくなった涼は、話題を変えた。
「何処って、智の家だよ。」
何故そんな事を聞くのかと、遙は不思議な顔をした。
「あ、あの男の家に泊まったのか!?」
「うん。」
興奮して遙に詰め寄る涼。
涼に詰め寄られる理由が判らない遙。
「なんだかさぁ・・・夫の不貞を罵る妻って云うか・・・・」
「無断外泊した彼氏を疑ってヒステリーを起こす彼女と云うか・・・」
傍観する智紀と裕哉
「友達の家に、泊まって何が悪いんだ?」
「あいつは、あいつはダメだっ」
「何故?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
あいつはあいつはあいつは・・・・
あの挑戦的な目。
勝ち誇った・・・・
ギリリッ
涼は唇を噛み締めた。
「もー、教室戻るよ。次は移動なんだ」
悶々と考え込んでしまった涼に、遙は肩をすくめて立ち上がった。
「遙・・・・・・・!!」
呆然と遙を見送る涼。
「なんだか、キャラ変わったよな。涼。」
「尻に敷かれてる」
涼は、これ以上とない強い視線で睨み付けていた。
男は、ソレを受けとめる。
「お前、何しに来たんだよ」
「遙を迎えに」
「迎えになんて来なくていいんだよ。遙は俺と帰るんだからな」
涼の言葉に、智はフンッと笑った。
「また、ムシが一匹」
「・・・・・・どういう意味だ」
智の言葉に、涼は反応する。
「昔から遙の周りには、遙の蜜に集るムシだらけだったんだよ。ソレを俺が排除してきた。」
「・・・・・俺をそのムシだというのか?」
「それ以外、あるまい?」
智の決めつけた言葉に、涼はニヤリと笑った。
「俺は、遙と付き合ってる」
「・・・・・何を寝ぼけたことを」
「キスだってしたし、それ以上のこともしてるさ。」
「ありえないことだな」
涼の言葉を、智はキッパリと否定した。
智にとっては涼の言葉は戯れ言にしか聞こえないから。
遙に云い寄る人間は、昔から大勢いた。
だが、遙は「キモチワルイ」と云っていたのを智はいつも聞いていた。
そんな遙が、目の前の男と付き合っているとは、信じられない事だ。
「お前はムシだ。排除すべき、な。」
「なにっ!?」
「万が一恋人だというのなら、俺を信じさせる証拠を見せることだ。」
「・・・・・証拠」
「そう。事実を見せて貰ったら、俺も口出しは止めよう。なぁ、“後輩”君」
「っっ!」
悠然と智は笑うと、丁度校門に来た遙に手を挙げた。
「遙」
「遙っ」
涼と智が並んでいることに、遙は驚いた表情をした。
「二人して、どうしたんだ?」
「一緒に帰ろう、遙。いつもそうしてたんじゃん」
「遙、昨日云ってた所に行こうと思って、迎えに来た」
涼と智を見て、遙は少し困った顔をした。
そして・・・
「悪い、涼。帰っておいてくれ。智と行くから」
「遙っ!」
涼の信じられないという表情に、遙もゴメンと云った。
「久しぶりに智と会ったんだ・・・だから」
「いくぞ、遙」
「遙・・・・まてよ、遙。」
涼は、智と行こうとする遙の肩を掴んだ。
「ヤツと俺、どっちが一番大切なんだよ!」
云ってしまって、涼は後悔した。
遙が・・・泣きそうな表情をしたからだ。
最低な言葉。
「・・・・・・・比べられるモノじゃないよ。」
遙はそう呟くと、智のバイクに跨り・・・涼の目の前から去っていった。
「『仕事と私、どっちが大切?』って云ってるようなモノだな」
「いやいや『お母様と私、どっちが大切なの?』だって」
「どっちにしても、云っちゃあいけない言葉ってやつかな」
どっぷり落ち込んでいる涼に、親友二人は塩を塗り込むような言葉を続けた。
くそ・・・
くそ・・・
遙、どうして・・・
涼は男の言葉を思い出す。
『万が一恋人だというのなら、俺を信じさせる証拠を見せることだ。』
・・・・・・・見せてやろうじゃないか。
「お、前・・・」
突然目の前に現れた男に、智は驚いた声を上げた。
「付き合えよ」
「・・・・・・何処に」
「遙の、アパート」
”遙”という言葉に、智は反応する。
そういえば、遙のアパートを智は知らなかった。
遙のことはなんでも知っている・・・ハズだったのに。
失われた2年が、憎かった。
愚かなのは自分なのだが。
「案内しろよ、後輩君」
「・・・涼?」
「遙、待ってた」
学校から戻ると、部屋の中に涼が居た。
涼には合い鍵を渡しているから、別におかしいことはないが、いつも自分と一緒にこのアパートには来ていたのでその鍵を使ったのを見たのは初めてだ。
「どうしたんだ?先に帰ったと思ったら・・・・」
「・・・・・遙」
遙は突然抱きしめられた。
涼は、「遙・・・はるか」と髪の毛にキスを落とす。
「どうしたんだよ、涼」
性急に求めてくる涼の背に、遙は苦笑しながら手を回した。
「遙・・・俺のこと好き?」
「・・・マジで、どうしたんだ?」
「好き?」
「・・・・好きだよ。じゃなきゃ、こんな事許さないさ」
ふんわりと笑う遙に、涼の理性は失っていく。
「遙・・・欲しい」
制服を脱がしながら、自分の腰を押しつける
遙は頬を染めると、自分を抱きしめる男を睨み上げた。
「もう・・・ガンガンにその気じゃないか」
「いい?」
遙は答える変わりに、涼の唇をそっと塞いだ。
「・・・何時?」
遙の掠れた声に、涼は時計を見上げる。
「7時・・・過ぎたな」
執拗な涼の求めに答えた遙は、グッタリとシーツに顔を埋めていた。
そんな遙にそっとキスを落とすと、涼は立ち上がる。
地面に散らばった衣服を拾い上げ、自分の服を身につけると、涼はアパートに唯一ある押入に近付くと、力一杯に開けた。
「どうだ、判ったか?」
「・・・・・・ムゴムグッ」
涼以外の声が聞こえ、遙は慌てて顔を上げた。
そして・・・
「智ッ・・・・!!」
そこには、両手足をグルグル巻きにくくられ、猿ぐつわをされた智が藻掻いていた。
「なっ・・・なっ・・・」
驚きのあまり声にならない遙。
涼は、ゆっくりと智の猿ぐつわを外した。
「この、外道!」
智の罵りに、涼はニヤリと笑う。
「これで、お前の望む言葉は聞けただろう?」
確かに。
智は押入の中から遙の「愛してる・・・涼を愛しる」という言葉を、何回も聞かされた。
認めたくはない。
認めたくはない・・・・・が。
「遙・・・」
智は、布団に潜り込んでしまった遙に声をかける。
「無理矢理、じゃないんだな。お前が望んだことなんだな?」
それはまるで、兄のような・・・父のような・・・愛情に満ちた声。
潜り込んでいた布団の中から遙は顔を出すと、智をジッと見つめた。
「ああ、俺が望んだことだ。涼のことが大切なんだ」
「そうか・・・」
智は涼の方に向き直ると、鋭い視線を投げかけた。
「遙がこういうから今は引くが、遙を泣かせたらすぐにでも引き離すからな。」
「そんな事は、一生ないな。遙が啼くのはベットの中だけ・・・・」
「バカッ!」
涼の言葉を、遙は手元にあった本を投げて中断させた。
「俺はお役ご免と云うところか。」
「智・・・。」
寂しそうな顔をした智に、遙もなんと云っていいか判らない。
「それでも、お前は俺の親友だ、遙。いつでも。いつまでも」
「智・・・!」
二人のやり取りを見ながら、内心穏やかではなかった涼だが、智の遙を思う気持ちはよく判ったので何も口を挟まなかった。
それに・・・。
智の遙に対する気持ちは、涼が遙に対する気持ちとは・・・微妙なところで大きく違っていたから。
「最低・・・」
智が帰った遙の部屋。
遙の冷たい視線に、涼は晒されていた。
「だって、ヤツに認めさせないといけなかったし・・・」
遙が怒ったら恐いことを涼は知っている。
そして、今彼は怒っていることも。
「・・・・」
「ゴメンナサイ」
ココは素直に謝るしかなかった。
「・・・・・・・・いいよ、もう。俺も涼のこと蔑ろにしすぎたし。」
「遙・・・」
「”どっちが大切”って言葉はきつかったしな」
「あれは・・・俺の失言だ。」
遙の自嘲的な笑いに涼は慌てて否定の言葉を口にした。
「いや・・・あんな事を云わせたのは、俺が悪いんだ。」
フッ・・・遙は溜息のような笑いを漏らした。
「涼と・・・智は・・・全然違うんだ。どっちも大切なんだけど・・・。智は智は・・・兄弟みたいな家族みたいな存在。大切なんだ。でも、涼は・・・」
「恋人?」
「うん。」
素直に肯いた遙に、涼はぎゅうっと抱きつく。
「俺こそ、ゴメン。辛い思いをさせた。ホントにホントに嫉妬してたんだあいつに。子供だよ・・・。」
「涼・・・」
自然と二人の唇は重なる。
夜はまだ・・・コレからだった。
ソレから1週間後。
遙は、周囲の誰にも告げず、突然姿を消した。
|
|
|
終わり。
秋編、終わり。
あ、ブーイングが聞こえる?
聞こえないふり〜。
SHINEは”目指せぼぉいずらぶ”です。
Hシーンは暗転を活用させていただいております(爆)
逃げたわけでは、決してありません。
あしからず。
というわけで、どんどん馬鹿ぶりを濃くしていく涼。
姉さん女房となり強くなっていく遙。
このシリーズも次回“冬・家族の肖像”で終わりです。
最後まで・・・ヨロシクお願いします。
2001年6月4日 水貴伽世拝 |
|
|