親友と恋人
比べられるモノでもないし、比べるモノでもない
自分にとっては、どちらも大切でどちらも失えないものだから・・・
だから、彼からは一番聞きたくない言葉だったんだ。




「ヤツと俺、どっちが一番大切なんだよ!」


でも、そんな言葉を云せてしまったのは、俺の罪・・・



SHINEー秋・親友と恋人−
-4-







遙が智のバイクから降り、お礼を云っている時だった。

「―――遙!!」
コチラに向かって一直線に走っている人間。

「涼?」
遙は不思議そうに呟いた。

「誰だよ!そいつはっ!!」
遙と智の目の前に立つと、乱れた息もそのままに捲したてる涼に、遙は呆然と呟く。
「―――涼?どうしたんだよ」

涼は、自分が居るべき場所に立っている男を睨み付けると、遙の腕を掴み、グイッと自分の方へ引き寄せる。
「涼?!」
親友の前で抱き寄せられた遙は、ジタバタと涼の腕の中で暴れたが、涼は解放してやる気など一切なかった。

「お前、誰だよ。遙のなんなんだ?」
メットを片手にもっている男を、涼は威嚇する。

「・・・・・お前こそ、遙のなんなんだ?」
男は、不審そうに涼を見た。
そして、涼の腕を取って「遙を離せ」と睨み付けてきた。

―――遙・・・・だと?

涼の腕にギュッと力がこもった
「痛いよ、涼。智。」
自分の腕の中で藻掻く遙を、力で押さえつける。
だが、男も遙の腕から手を離そうとしない。


―――この男は・・・。

「涼!!智!!」

睨み合いを続けていた二人は、怒りを含んだ叫び声に、視線を遙に移した。

「手、離せよ」
「あ・・・ああ」

低く静かな遙の声に、二人は思わず手を離す。
遙は腕をさすると、小さく溜息を吐いて涼を見上げた。

「涼。コイツは友人の久屋智。」
智を指さし、涼に告げる。

「智。コイツは後輩の東雲涼」
涼を指さし、智に告げる。

「他に何か?聞きたいことある?」
開き直った遙の態度に、「いや・・・」「べつに・・・」と二人は曖昧に呟き黙り込んだ。
「そう、じゃ俺は教室行くから。」
呆然としている二人を後目に、遙はスタスタと教室へ歩き出した。
「は、遙・・・!!ちょ・・・」
遙の後ろ姿を追いかけながら、涼は男の方を振り返った。

―――敵だ。

ジッとコチラを見ている男に強い視線を送ると、涼は遙を追ったのだった。



◇◇◇



「後輩って、後輩ってどういう事だよ」
「だって、後輩だろ?」

昼休み。
いつもの屋上で、涼は遙に詰め寄っていた。
どうやら先ほど智に紹介した言葉”後輩”という単語が気に入らなかったらしい。

「後輩って後輩って後輩って・・・・・!!」
「まぁ、恋人とは云えないよな、普通は。」
「いきなり友達にカミングアウトしろっていうのはねぇ。」

ブツブツと不満を云っている涼に、その友人二人は畳みかける。

「き、昨日は・・・ど、何処行っていたんだよ」
反論できなくなった涼は、話題を変えた。

「何処って、智の家だよ。」
何故そんな事を聞くのかと、遙は不思議な顔をした。

「あ、あの男の家に泊まったのか!?」
「うん。」

興奮して遙に詰め寄る涼。
涼に詰め寄られる理由が判らない遙。

「なんだかさぁ・・・夫の不貞を罵る妻って云うか・・・・」
「無断外泊した彼氏を疑ってヒステリーを起こす彼女と云うか・・・」

傍観する智紀と裕哉

「友達の家に、泊まって何が悪いんだ?」
「あいつは、あいつはダメだっ」
「何故?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

あいつはあいつはあいつは・・・・
あの挑戦的な目。
勝ち誇った・・・・

ギリリッ
涼は唇を噛み締めた。

「もー、教室戻るよ。次は移動なんだ」
悶々と考え込んでしまった涼に、遙は肩をすくめて立ち上がった。

「遙・・・・・・・!!」
呆然と遙を見送る涼。

「なんだか、キャラ変わったよな。涼。」
「尻に敷かれてる」



◇◆◇◆



涼は、これ以上とない強い視線で睨み付けていた。
男は、ソレを受けとめる。

「お前、何しに来たんだよ」
「遙を迎えに」
「迎えになんて来なくていいんだよ。遙は俺と帰るんだからな」
涼の言葉に、智はフンッと笑った。
「また、ムシが一匹」
「・・・・・・どういう意味だ」
智の言葉に、涼は反応する。

「昔から遙の周りには、遙の蜜に集るムシだらけだったんだよ。ソレを俺が排除してきた。」
「・・・・・俺をそのムシだというのか?」
「それ以外、あるまい?」
智の決めつけた言葉に、涼はニヤリと笑った。

「俺は、遙と付き合ってる」
「・・・・・何を寝ぼけたことを」
「キスだってしたし、それ以上のこともしてるさ。」
「ありえないことだな」

涼の言葉を、智はキッパリと否定した。
智にとっては涼の言葉は戯れ言にしか聞こえないから。

遙に云い寄る人間は、昔から大勢いた。
だが、遙は「キモチワルイ」と云っていたのを智はいつも聞いていた。
そんな遙が、目の前の男と付き合っているとは、信じられない事だ。

「お前はムシだ。排除すべき、な。」
「なにっ!?」
「万が一恋人だというのなら、俺を信じさせる証拠を見せることだ。」
「・・・・・証拠」
「そう。事実を見せて貰ったら、俺も口出しは止めよう。なぁ、“後輩”君」
「っっ!」

悠然と智は笑うと、丁度校門に来た遙に手を挙げた。

「遙」
「遙っ」

涼と智が並んでいることに、遙は驚いた表情をした。

「二人して、どうしたんだ?」

「一緒に帰ろう、遙。いつもそうしてたんじゃん」
「遙、昨日云ってた所に行こうと思って、迎えに来た」

涼と智を見て、遙は少し困った顔をした。
そして・・・

「悪い、涼。帰っておいてくれ。智と行くから」
「遙っ!」
涼の信じられないという表情に、遙もゴメンと云った。

「久しぶりに智と会ったんだ・・・だから」
「いくぞ、遙」
「遙・・・・まてよ、遙。」
涼は、智と行こうとする遙の肩を掴んだ。

「ヤツと俺、どっちが一番大切なんだよ!」

云ってしまって、涼は後悔した。
遙が・・・泣きそうな表情をしたからだ。
最低な言葉。

「・・・・・・・比べられるモノじゃないよ。」

遙はそう呟くと、智のバイクに跨り・・・涼の目の前から去っていった。


「『仕事と私、どっちが大切?』って云ってるようなモノだな」
「いやいや『お母様と私、どっちが大切なの?』だって」
「どっちにしても、云っちゃあいけない言葉ってやつかな」

どっぷり落ち込んでいる涼に、親友二人は塩を塗り込むような言葉を続けた。

くそ・・・
くそ・・・
遙、どうして・・・

涼は男の言葉を思い出す。

『万が一恋人だというのなら、俺を信じさせる証拠を見せることだ。』


・・・・・・・見せてやろうじゃないか。



◇◆◇◆◇



「お、前・・・」
突然目の前に現れた男に、智は驚いた声を上げた。
「付き合えよ」
「・・・・・・何処に」
「遙の、アパート」

”遙”という言葉に、智は反応する。
そういえば、遙のアパートを智は知らなかった。
遙のことはなんでも知っている・・・ハズだったのに。
失われた2年が、憎かった。
愚かなのは自分なのだが。

「案内しろよ、後輩君」






「・・・涼?」
「遙、待ってた」

学校から戻ると、部屋の中に涼が居た。
涼には合い鍵を渡しているから、別におかしいことはないが、いつも自分と一緒にこのアパートには来ていたのでその鍵を使ったのを見たのは初めてだ。

「どうしたんだ?先に帰ったと思ったら・・・・」
「・・・・・遙」

遙は突然抱きしめられた。
涼は、「遙・・・はるか」と髪の毛にキスを落とす。
「どうしたんだよ、涼」
性急に求めてくる涼の背に、遙は苦笑しながら手を回した。

「遙・・・俺のこと好き?」
「・・・マジで、どうしたんだ?」
「好き?」
「・・・・好きだよ。じゃなきゃ、こんな事許さないさ」
ふんわりと笑う遙に、涼の理性は失っていく。

「遙・・・欲しい」
制服を脱がしながら、自分の腰を押しつける
遙は頬を染めると、自分を抱きしめる男を睨み上げた。
「もう・・・ガンガンにその気じゃないか」
「いい?」
遙は答える変わりに、涼の唇をそっと塞いだ。



◇◇◇



「・・・何時?」
遙の掠れた声に、涼は時計を見上げる。
「7時・・・過ぎたな」

執拗な涼の求めに答えた遙は、グッタリとシーツに顔を埋めていた。
そんな遙にそっとキスを落とすと、涼は立ち上がる。
地面に散らばった衣服を拾い上げ、自分の服を身につけると、涼はアパートに唯一ある押入に近付くと、力一杯に開けた。

「どうだ、判ったか?」
「・・・・・・ムゴムグッ」

涼以外の声が聞こえ、遙は慌てて顔を上げた。
そして・・・

「智ッ・・・・!!」

そこには、両手足をグルグル巻きにくくられ、猿ぐつわをされた智が藻掻いていた。

「なっ・・・なっ・・・」
驚きのあまり声にならない遙。
涼は、ゆっくりと智の猿ぐつわを外した。

「この、外道!」
智の罵りに、涼はニヤリと笑う。

「これで、お前の望む言葉は聞けただろう?」

確かに。
智は押入の中から遙の「愛してる・・・涼を愛しる」という言葉を、何回も聞かされた。
認めたくはない。
認めたくはない・・・・・が。

「遙・・・」
智は、布団に潜り込んでしまった遙に声をかける。

「無理矢理、じゃないんだな。お前が望んだことなんだな?」

それはまるで、兄のような・・・父のような・・・愛情に満ちた声。
潜り込んでいた布団の中から遙は顔を出すと、智をジッと見つめた。

「ああ、俺が望んだことだ。涼のことが大切なんだ」
「そうか・・・」

智は涼の方に向き直ると、鋭い視線を投げかけた。

「遙がこういうから今は引くが、遙を泣かせたらすぐにでも引き離すからな。」
「そんな事は、一生ないな。遙が啼くのはベットの中だけ・・・・」
「バカッ!」

涼の言葉を、遙は手元にあった本を投げて中断させた。

「俺はお役ご免と云うところか。」
「智・・・。」

寂しそうな顔をした智に、遙もなんと云っていいか判らない。

「それでも、お前は俺の親友だ、遙。いつでも。いつまでも」
「智・・・!」

二人のやり取りを見ながら、内心穏やかではなかった涼だが、智の遙を思う気持ちはよく判ったので何も口を挟まなかった。
それに・・・。
智の遙に対する気持ちは、涼が遙に対する気持ちとは・・・微妙なところで大きく違っていたから。



◇◇◇



「最低・・・」

智が帰った遙の部屋。
遙の冷たい視線に、涼は晒されていた。

「だって、ヤツに認めさせないといけなかったし・・・」

遙が怒ったら恐いことを涼は知っている。
そして、今彼は怒っていることも。

「・・・・」
「ゴメンナサイ」

ココは素直に謝るしかなかった。

「・・・・・・・・いいよ、もう。俺も涼のこと蔑ろにしすぎたし。」
「遙・・・」
「”どっちが大切”って言葉はきつかったしな」
「あれは・・・俺の失言だ。」

遙の自嘲的な笑いに涼は慌てて否定の言葉を口にした。

「いや・・・あんな事を云わせたのは、俺が悪いんだ。」
フッ・・・遙は溜息のような笑いを漏らした。

「涼と・・・智は・・・全然違うんだ。どっちも大切なんだけど・・・。智は智は・・・兄弟みたいな家族みたいな存在。大切なんだ。でも、涼は・・・」
「恋人?」
「うん。」
素直に肯いた遙に、涼はぎゅうっと抱きつく。

「俺こそ、ゴメン。辛い思いをさせた。ホントにホントに嫉妬してたんだあいつに。子供だよ・・・。」
「涼・・・」

自然と二人の唇は重なる。
夜はまだ・・・コレからだった。










ソレから1週間後。
遙は、周囲の誰にも告げず、突然姿を消した。



終わり




終わり。
秋編、終わり。
あ、ブーイングが聞こえる?
聞こえないふり〜。

SHINEは”目指せぼぉいずらぶ”です。
Hシーンは暗転を活用させていただいております(爆)
逃げたわけでは、決してありません。
あしからず。

というわけで、どんどん馬鹿ぶりを濃くしていく涼。
姉さん女房となり強くなっていく遙。

このシリーズも次回“冬・家族の肖像”で終わりです。
最後まで・・・ヨロシクお願いします。

2001年6月4日 水貴伽世拝
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