当たり前の・・・
ごく自然なことだと思っていた。
儚げな友人が、自分の右隣に立っていると云う事は。
決して、終わらない日々だと思っていた。
彼を親友だと思っていたし、彼にもそう思われていると自負していた。
だから、あの時・・・・
『ウラギリモノ』
子供だと・・・。
今なら、そう思える。
だが、あの時は裏切られたとしか思えなかった。
落ち着いて考えてみると、自分は判っていたはずだ。
自分の隣で笑っていてはくれるが、彼が傷ついた表情をしない日が無かったことを。
新しい世界へ行きたいと強く願っていても、何の不思議もない事を。
一番その事を理解してやるべきだったのは、自分だったのに。
ただ、彼は永遠に自分の隣にいるモノだと、
いるべきだと
何処かで信じて疑わなかった。
子供ながらの、独占欲。
そして、傷つけた。
大切な、友人を。
後悔した。
すぐに、後悔した。
彼を失って・・・・・・。
だが、自分から尋ねていけなかった。
恐かった。
彼に、拒否されることが。
取りすがってでも親友に戻ってくれと云うには、自分のプライドが邪魔した。
忘れた日など、一日もなかった。
だから、妹から彼に会ったと云われ・・・・
矢も楯もたまらずに、彼を訪ねてしまったのだ―――
「遙―――」
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「まーまぁ、遙ちゃんいらっしゃい!相変わらず、可愛いわぁぁ」
玄関に入った途端、奥からエプロン姿の智の母親が出てきて、遙を歓迎した。
「お、久しぶりです・・・おばさん」
「さぁさぁ、入って!今日は遙ちゃんの好きなアップルパイ作っていたのよ?食べてくれるわよね?」
数年前よりふくよかになった婦人の言葉に、思わず遙は苦笑する。
小学生の頃から再三この家を訪れて、彼女の作るアップルパイに舌鼓を打っていた。
彼女はきっとソレを覚えていて、今日遙が来ることを聞いて作ってくれたのだろう。
そういう温かいこの一家を、遙は昔から好きだった。憧れていた。
そして、決して自分には手に入らないモノだと云うことも、知っていた。
「遙さん―――」
案内されたキッチンには、エプロンを付けた真由美が立っていた。
どうやら母親と一緒にお菓子作りをしていたらしい。
「さぁさぁ、遙ちゃん座って。お茶入れるからね」
そう云うと彼女は、ぼんやりと立っている二人の子供を押しのけ遙をキッチンにあるテーブルへ導いた。
香ばしい香りに、思わず微笑む。
数年前にデジャヴした気分になる。
彼との友情を失う、その前に―――
「ご馳走様でした。」
お茶とパイをたいらげ、遙は手を合わした。
「うーん、相変わらず小食ね?」
「遙さん、細いもんなぁ・・・羨ましい」
お茶の席は、始終女性二人のマシンガントークに遙は微笑んで聞き手に回った。
だが、智は全く口を開くことはなく、無表情で黙々とパイを食べていた。
「んー、本当に面白くもない息子だわ。遙ちゃんみたいに可愛くもなく無愛想で・・・特に最近は一言も口を利かない日なんてのもあるのよぉ。」
そんな彼の態度を母親は、度々ぼやいて息子を当てこすっていた。
「遙、俺の部屋に行こう―――」
ずっと黙っていた智が口を開いた最初の言葉。
「智―――?」
「まぁ!遙ちゃんを独り占めするつもりねっ」
「ずるーい」
女性陣の反発にも目もくれず、智は遙を2回の自分の部屋へと導いた。
「悪かったな。あの二人の相手も疲れるだろう?」
部屋に入った途端、智は苦笑しながら決して勝つことの出来ない二人の女性のことを謝った。
「全然。とっても楽しかったよ」
ドキドキしながら彼について来た遙だったが、彼の柔らかな態度にホッと息をつき微笑み返した。
「遙、変わったな―――」
「え・・・?」
突然の台詞に、遙は驚いてかつてに親友を見る。
「いや、イイ意味でだが・・・・以前の遙はそんなに笑うことがなかった。何処かで全てを諦めていて・・・・何かにずっと遠慮していた。」
親友の言葉に、遙はハッとする。
そう、彼の云う通りだった。
かつての遙は全てに諦めて。
目立たぬように、影の中でひっそり生きていくことだけを・・・思っていた。
涼に逢うまでは。
「眼鏡もかけなくなって、笑顔も惜しみなく誰にでも振る舞って・・・・・・」
「・・・眼鏡は、もう必要ないんだ。アレは俺の心をガードするモノ―――他人から一枚壁を作るために必要なモノだったけど・・・・もう、ソレはいらなくなった。」
「俺が渡したあの眼鏡は、不必要なモノだったのか・・・・」
遙は親友の言葉に、違う、と頭を被り降る。
「あの時は、アレが必要だった。アレに救われた。アレがなかったらきっと・・・ダメになっていた。だから智の心使いに感謝してる。でも、俺も1つ・・・・乗り越えれたから」
涼のおかげで―――
「強く、なったな・・・遙。もう、俺は必要ないのかも知れない―――」
守らなくてはイケナイ、親友。
自分以外の誰が、彼を守るのだ。
弱くて、すぐ壊れそうな殻に閉じこもっている雛を。
ずっとそう思ってきた。
だが、彼は少し自分が目を離したスキに孵化していた。
ずっと強いモノに生まれ変わっていた。
嬉しい事だと思う反面、どこか心に穴があいた風に智には思えた。
「必要ないとか、そんな―――」
遙の中で彼は、大切な幼なじみでもあり親友でもある。
それは2年前に、切られてしまっていたが・・・。
「俺は、遙に謝らなくてはならない。卒業式のあの日のことを」
沈黙を破ったのは、智の方だった。
「そんな・・・俺の方が謝らなくちゃならないのに・・・・・」
「いや、俺が一番判っていたはずなのに。お前がこの地を離れていたがっていた事を。そうすべき事を。ソレを俺のエゴで―――」
智の言葉を、遙は必死に遮る。
「そんな事ナイ!智は俺の事をずっと思っていていてくれた。智だけが俺に手をさしのべてくれた。智が居なかったら俺は、針の筵だったこの土地で生きていくことなどできなかった・・・!!」
「遙―――許して欲しい。そして、あの時の言葉を撤回させて欲しい。そして許されるならお前と親友同士に戻りたい・・・・」
智の言葉に、遙の胸は熱くなる。
自分が望んでいたことを、この友人もずっと望んでくれていたのだ。
「あ、当たり前じゃないか。俺だって、智と親友通しに戻りたいと思わない日などなかった。智さえゆるしてくれるなら・・・・・」
遙の言葉に、智はホッとしたように微笑んだ。
「じゃあ、友情復活・・・だな。」
「智―――」
「今日は泊まっていけよ。明日朝学校までバイクで送っていってやるし。」
「そんな、悪いよ」
「お袋達、その気だぜ?布団とか全部用意してたもん。」
「え・・・・?」
「コレでお前を帰したら、俺が悪者なんだよ。俺を救うと思って泊まっていってくれよ、な?」
中学生の頃に戻ったような軽口に遙はクスッと笑い、親友の願いを承諾した。
「・・・・でも、遙。眼鏡しないのは・・・・・まずくないか?」
豪勢な夕食頂き、帰ってきた智達の父親にも熱烈歓迎を受け、リビングでの語らいは尽きることがなかった。
流石に12時を過ぎ明日学校があると云う事で解散し、智の部屋に戻り用意されていた布団を智のベットの隣に敷いて、遙は潜り込んでいた。
「まずい・・・って?」
遙の言葉に、智は溜息を吐いた。
子供の頃は、本当に性別不明で天使のような容姿の遙は、何度も連れ去れそうになっていた。
ソレを守っていたのが智をボスとする、友人達だった。
彼らは、遙を守るナイトだったのだ。
両親の事件後ナイト達は遙の元を離れていったが、智はずっとその役目を降りることはなかった。
中学生になり性別不明の天使は、見た人をゾクリとさせる不思議な魅力の天使へと変化していった。
変化していくにつれ、遙は男女問わずして襲われる回数が増えた。
登下校時の電車の中を始め、普通に歩いている道で影に連れ込まれることもしばしば。
このままでは守りきれないと判断した時、智は伊達眼鏡を遙にプレゼントした。
これだけでも、少しは守れるだろうと・・・・。
そしてその作戦は見事に成功し、格段に遙が襲われる回数は減った。
その眼鏡は、遙の身も、そしていつの間にか心も防御するモノとなっていったのである。
智は、暗闇の中遙をジッと見た。
親友の姿形、そして取り巻く雰囲気は、以前よりも、魅せられてしまう何か・・・簡潔に云うとゾクゾクッと躰が熱くなってくる何かが格段増している。
子供の頃から見てきた、智さえも危うく魅入られてしまうほどに。
ましてや彼を知らない他人など、遙がジッと見つめればそれだけで簡単に落ちてしまうであろうほどに。
そんな遙が、無防備に素顔を晒して・・・いいモノだろうか。
いや、よくない。
智の考えはソコに至ったのだ。
「遙、お前眼鏡するべきだよ」
「大丈夫だよ。今は電車通学もないし、コレだって俺も男だし」
「とか云ってて、以前何度―――」
襲われたと思ってるんだ。
智はもう一度溜息を吐いた。
「以前は、どうでもいい・・・って何処かで思っていたところもあったから・・・。今は絶対嫌だし。それに本当にヤバイって時には絶対守ってくれるヤツがいるから」
そう云うと、遙は幸せそうに微笑んだ。
その微笑みを見て、智は云い出そうとしたことを喉の奥に呑み込んでしまったのだった。
涼は、苛ついていた。
苛つく・・・というレベルではなかった。
昨日、目の前で恋人を見知らぬ男に連れ去られ(と、涼は思っている)
何度電話しても、遙は電話に出ることがなかった。
夜、パーティーが終わり、気になり・・・気になりすぎて、思わず遙のアパートを尋ねたがソコはもぬけの殻。
そして涼には”外泊”という2文字が・・・。
考えられるのは、あの男の家だけだ。
あいつは、誰だ。
涼の知らない、遙の過去の人間。
苛つく。
涼が発するオーラに誰も近づけない教室は、静まり返っていた。
「恐ぇぇな。」
「・・・・遙さん絡みだろ?今日一緒に登校してこなかったしな」
友人二人も、一歩下がってしまっているありさまだ。
そこへ―――
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
涼の叫び声に、智紀と雅也も驚き立ち上がる。
「どうした?」
「涼?」
涼はガバリと席を立ち上がると、友人達を振り返ることなく教室をダッシュ出ていった。
「どうしたんだ・・・・一体?」
呆然と呟く智紀に、
「・・・・アレだ」
と、雅也は呟き窓の外を指さした。
ソコには、校門の前でバイクから降り、何かを談笑している遙と智の姿があった。
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色気、全くなし。
遙と智のくさーい友情物語・・・・・って違うだろ?
もう一人の主人公、涼はほとんど出番ナシ。
そして、情けない姿。
見ているだけで、ゾクゾクするフェロモンを振りまいている遙って、
・・・・・・何者?
でも、そういう設定だったんだもん(T▲T)←イイワケ
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