嫌な夢を見た。
遙が、誰かの手に連れて行かれる夢。
今まで、自分の直感や予感が外れたことは、一度もなかった。
俺は、自分の直感を疑ったことはなかった。
それは常に正しい選択。
そして全ての勝負を勝ち続けてきた。
だが、今度の夢は信じたくなかった。
信じるつもりはなかった。
遙の腕を掴むのは、俺。
遙を腕の中に抱え込むのは、俺。
それ以外は、認めない。
認めるわけにはいかない。
俺は、負けるわけはないのだから。
『遙――――――!!!』
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―――だるい
東雲涼は、窓の外をボーっと眺めていた。
夢見が悪かったせいか、遙と共に帰れないからか、機嫌も気分も最悪。
毎日、遙と涼は仲良く帰るのだが、今日は父親の命令で涼は放課後そのままあるホテルへ連れて行かれることになっていた。
所謂、なにかワケの分からない肩書きが付いた東雲グループ主催のパーティーなのだが。
どうしても、ソレに参加しろと命令が下った。
涼の父親は、大概の事は大目に見てくれるし口出しもしないが、一度口にしたことは絶対譲らない人間でもあった。
そんな父親の気質を知りすぎている涼は、仕方なく恋人との放課後を諦めなくてはならないのだった。
で、今はその迎えの車待ちなのだ―――
―――あ、遙。
校門へ向かって歩いている遙を、涼は発見した。
視線は一点集中。
遙は、数人の生徒から声をかけられながら、スタスタと早足で校門を出―――
―――?
校門の前で立っていた、一人のガクランを着た男が遙を呼び止めた。
足を止める遙。
何か二人は会話を交わしている。
誰だあいつ?
他校の人間なんかが、なぜ遙に―――
胸が騒ぐ。
警報が、鳴る。
ダメだ。
あいつは、近付けたら―――
涼は、立ち上がると教室を走って出ていく。
廊下を全力疾走で駆け抜ける。
玄関口から、表に出ると校門へ一直線で走った。
だが、ソコには遙の姿も、先ほどの男の姿もなかった。
―――ちっ、何処だ!!
校門から表に出ると、そこには―――
バイクの後ろに乗った遙とその前にいる、先ほどの男。
「遙!!」
ヴゥルルルルン!!!
噴かした音と、涼の声が重なる。
「遙ぁ!!」
ヴィルルルルルルルルゥゥン!!
涼は叫びながら、そのバイクの方へと向かった。
しかし、涼の叫びは聞き止められず、バイクは涼の目の前でアクセルを全開にし、走り去ってしまった。
遙を連れて。
「遙―――!!!」
涼は、目の前で遙を奪われて事実に、呆然と立ちつくした。
驚くようなスピードのバイクの後ろで、遙は必死に男の背中にしがみついていた。
―――さっき、涼の声が聞こえた気がした。
まさか、ね。
こんな時まで、涼のこと思ってる俺って・・・。
昼休みに会った恋人の顔を思い出し、遙は一人で照れた。
今日は一緒に帰れないと、昼休み恋人に云われていたので、遙はとっとと帰ってスーパーの特価品を買おうと急ぎ足で歩いていた。
校門に差し掛かったところで、
「遙―――」
懐かしい声だった。
まさか・・・とも思った。
顔を上げると、懐かしい親友の顔。
「智・・・」
最後に会ったのは、いつだっただろう。
中学の卒業式。
肌寒い日だった。
忘れることの出来ない、彼の最後の言葉。
『親友だと思っていたのに・・・それは俺の思いこみだったんだな』
『さ・・・とる・・・』
『お前と一緒の高校へ行こうと大騒ぎしていた俺は、ただの道化だったわけだ。』
『ち・・・違う―――』
『見ていて、楽しかったか?お前は、一人で何も言わず指定校を決めていたんだもんな。誰にも・・・俺にさえ云わず』
『そんな・・・』
『俺は、お前を一番の親友だと思っていた。けれど、お前にとって俺はどうでもいい存在だったわけだ。俺はそれを認めるほど、プライドは低くない』
「さとし・・・」
『さよなら、遙。』
『・・・・・』
『裏切り者―――』
冷たい声。
歪んだ顔。
他人を見る目。
裏切り者―――
そう。
ずっと地元の公立高校へ行こうと――それも、彼が遙の家の経済状況を考えて、学力を下げてでもと――約束していた。
遙自身、そうしようと思っていた。
だが―――
突然の、母の死。
自分を繋ぎ止めていた一本の糸が、ぷっつりと切れたような気がした。
手元に残った、僅かな母と・・・そして父の保険金。
偶然知った、籐華学園の奨学金制度。
自分の知らない人間の空間への憧れ。
叔父の援助も断って、親友にも黙って、籐華学園を受験した。
新しい、自分になりたかった。
合格通知が届くと同時に、叔父に保証人となってもらい、学園の近くにアパートを借りた。
引っ越し準備も一人でした。
―――だが、どうしても親友にだけは云えなかった。
後ろめたかった。
失いたく無かった。
ずっと包み込んでくれていた、唯一の温かい手を。
彼が事実を知ったのは、卒業式の日。
担任の口から、不意打ちに聞かされた。
そして、あの言葉。
ウラギリモノ。
そう、全ては自分が悪いのだ。
彼を裏切ったのは、自分。
そして、失いたくなかった大切なモノを、失ったのだ。
新しい自分と引き替えに―――
「着いたぞ」
「・・・あ・・・・」
遙が考え事をしていたウチに、どうやら目的地に到着したらしい。
視線を上げると、見覚えのある家―――
「お袋が、真由美からお前の話を聞いて、会いたいって五月蠅いんだ。」
「おばさんが・・・?」
「ああ、今頃腕ふるって晩飯作ってる。食っていけよ。」
「―――いいの、か?」
「ああ・・・。」
彼はそう云うと、バイクをガレージに仕舞いに行った。
遙は、ジッと門の前で立っていた。
智と出会ったのは、幼稚園。
智の家は、理想的な家庭だった。
家にいて、毎日手作りのお菓子を焼いてくれる母親。
ませた口を聞くが、素直で可愛い妹。
休みの時は、一緒に遊んでくれる父親。
ずっと不仲だった遙の親たちとは全く違う世界―――
この家に来るのが、大好きだった。
毎日のように通っていた。
誰も、嫌な顔することなく笑顔で迎えてくれて・・・。
特に、9歳の時のあの事件以降・・・彼の家族は遙を今まで以上に歓迎してくれた。
「入れよ―――」
「うん・・・。」
そして遙は、一歩踏みだした―――
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全然、進んでいませんね。
涼、恋人を目の前で連れ去られる!
てな、所ですか。
遙ちゃん、結構最低なことしてます。
親友だったのに。
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