踊り狂うキャピレット家の仮面舞踏会―――
運命的な出会いをした、ロミオとジュリエット・・・。
「もしもこの卑しき我が手が、貴方の手に触れ聖堂を汚せば、罰はもとより覚悟。この唇は、はにかむ巡礼が優しい口付けで、手荒な手の痕を拭うべく控えております・・・。」
ロミオは一目で恋に落ちてしまったジュリエットの手を引き寄せ、その手の甲に優しく口付けを落とした。
「や―――むぐっ・・・!!!!」
叫んで飛び出しそうな涼を、雅也は必死で取り押さえ、口を塞いだ。
「バカッ!今飛び出したら、練習覗いてるのバレるだろう!!」
小声で涼を叱ると、涼の恨みがましい目が雅也に向けられた。
「仕方ないだろう。智紀だって、桜庭先輩だって、台本通りやってるだけなんだから・・・」
溜息を吐きながら涼を諫める雅也に、涼は食ってかかる。
「俺だって・・・遙の手にキスした事ナイのに―――あんな・・・あんな・・・」
窓の隙間から覗き込む二人の前に、ロミオとジュリエット――智紀と遙――のシーンは進んでいく。
「―――聖者の胸は動きません。祈りを許しても・・・」
ロミオ=智紀は、ジュリエット=遙の腰を抱き引き寄せる。
「動きなさるな、祈りの印を受け取る間。この唇は貴方の唇で清められます―――」
そのまま頬に手を置き、瞳を閉じた遙の顔に智紀は自分の顔を近付けていく―――。
「ムグッ・・・!!モゴモゴッ―――!!」
「馬鹿!もうこれ以上いられないよ。覗いているのばれたら、ホントにやばいんだからな―――」
今にも窓を開け、智紀に殴りかかっていきそうになる涼を押さえ込み、雅也はその場から涼の躰を引きずっていった。
夏休みも、残りわずか―――。
そして、演劇祭まであと一週間。
演劇祭の練習も、最終を迎えていた。
全てのクラス力が入り、最終の練習を重ねている。
お互いのクラスがライバルなので、情報はシャットダウン。
スパイ活動に、神経をとがらせていた。
涼は遙と両想いになって迎えた、初めての夏休み。
イロイロと夢を描いていた。
二人で毎日遊びに行って
海もいいな・・・
旅行なんて、イイんじゃないか―――?
どこか、海辺のいいところに別荘に二人で・・・
そして―――。
だが、現実は―――
お互い、練習練習の日々。
ライバルクラスの為、まともに会うこともできない。
遙は台詞・劇を覚えるのに必死で、全く涼を構ってくれず
正念場だったここ1週間など、まともに顔も会わせていない―――。
―――俺、遙欠乏症で死ぬかも・・・・・・。
毎日毎日愚痴を聞かせてくる友人のために、雅也は仕方なく涼に情報をもたらした。
「明日、Cクラスは劇場で通し稽古するそうだよ」
というわけで1年に1度、この演劇祭にしかまともに使われない籐華学園の籐華劇場に涼は嫌がる雅也を連れて忍んできていたのだった―――。
「信じられないよ、涼。まさか、あそこで叫ぼうとするなんてさ―――」
カフェテラスでコーヒーを飲みながら、雅也は本気であきれた顔をしていた。
「わかってるよ―――」
だが、耐えられなかったのだ。
遙に触れるすべてのモノが・・・・・・。
呆れ返るほどの、独占欲。
自分でもらしくないと思っている。
だが・・・・・・。
我慢できなかった。
遙が見つめるのは、自分だけでいいのだ。
遙が笑いかけるのは―――俺だけでないと耐えられないのだ。
黙り込んでしまった友人を横目で見ながら、雅也は大きく溜息を吐いた―――。
「涼は帰ったのか?」
カフェテラスで本を読んでいた雅也に、智紀は声をかけた。
「―――何のこと?」
しらっとした顔で面を上げた雅也に、智紀は苦笑する。
「涼とお前で、覗いてただろう。練習―――みんな気付いてたよ。涼だから、あえてみんな何も云わなかったけどな・・・」
4月に起こった騒動は3年生数名の停学処分などで、全校生徒の知ることとなった。
そして、涼と遙のことは全校生徒の暗黙の了解とかした。
「監督も、仕方ねーなって笑ってたよ。遙さんが揶揄われて照れてたけど―――」
「涼があまりにも五月蝿くってね・・・・」
仕方なしに、雅也は覗いていたことを認めた。
「あいつも、仕方ねーよな・・・。遙さんが絡むと、いきなりガキっぽくなるんだからさ」
「けど、あんな涼を見てると聞いてあげたくなっちゃうんだよ。あんな年相応な態度を取る涼なんて、僕は初めて見るからさ―――」
「ガキの頃から冷めてたのか、あいつ。」
幼なじみである雅也ほど、中学校からの付き合いである智紀は、涼のことを知らない。
「冷めてた・・・っていうか、何か全てを達観してたよ。自分の事も、コレからの事も。」
「か―――、やなガキ・・・」
ケッと云うように、智紀は空を見上げた。
「たぶん初めて何じゃないかな?涼が何かを欲したのは。欲しいと思う前から、全てを並べられていたからね」
「で、初めて欲しいともうモノが出来て、必死なのか。」
「そう―――。やっと手に入れて夢中。思い通りに行かなくて必死・・・ってとこかな?」
何でも、思い通りになっていた涼。
そして、欲しくない物が思い通りにならなくても、どうでもいいと云う態度をとっていた涼。
子供の頃から、冷めた目をしていた。
友人である自分でも、時々ゾッとするくらいに。
だから、嬉しかった。
熱い瞳をした涼が―――。
「―――でも、お前も一緒じゃないのか雅也。お前だって涼と環境変わらねーじゃねぇか」
二階堂コンツェルの一人息子。
欲しいと思う前に、並べられていた環境は変わらないはずだ。
「僕?僕は・・・幼い頃から一番欲しいモノが手の届かない所にあるから」
写真でしか知らないあの人・・・・・・。
あの人は、何処にいるんだろうか―――。
「雅也―――」
いきなり遠い目をしてしまった雅也に、智紀はおずおずと声をかけた。
「ごめん、話が途切れちゃったね・・・。」
「いや・・・。そうそう。それでだ―――オレ、いいこと思いついたんだけど・・・」
「え?何―――?」
「オレが嫉妬で涼に殺されない方法」
イタズラッ子のような表情をした智紀に、雅也も微笑んで耳を寄せた―――。
「ダメだよ。逢えない―――。もう、時間無いんだって」
『夜だけでも、逢いたい。いいだろ、遙?』
「だめ、今は劇に集中したいんだ。涼と遊んでるヒマなんてナイ―――」
『そんな・・・・1日1回キスしたいって、俺云ったじゃん―――』
「あ―――もう、切るよ。涼」
『ま・・・!待って遙―――!!!』
切られた電話を握りしめ、涼は溜息を吐いた。
一目逢いたいと願った言葉を“遊んでるヒマなんてナイ―――”と一刀両断。
―――俺・・・ホントに、愛されてるんだろうか。
受話器を叩きつけ、遙は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「1日1回キスだってぇ―――。そんな事したら、涼のことしか考えられなくなって、劇に全然集中出来ないじゃないか―――!!!」
涼の声聞いているだけでも、頭の中、涼だけになってしまうのに―――。
人々の思惑が色々と交錯しながら、ついに『籐華学園演劇祭』当日を迎える―――。
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