「俺は、ぜってー認めねぇ〜〜〜〜〜!!!」
昼休み。
籐華学園屋上に、涼の叫びがこだました―――
「別に、涼に認めて貰わなくても、全然かまわね〜よ。ねぇ、遙さん」
「うん」
突然話題を振られた遙は、弁当をつついていた箸を止め、智紀の言葉に肯く。
「はるか〜〜〜」
情けない涼の声に、その隣にいた雅也は肩をすくめ、智紀は肩を震わせ笑っていた。
「だって、仕方ないだろ?学校行事だし」
平然として答える遙に、涼は諦めきれないようにブチブチと文句を垂れた。
籐華学園演劇祭。
3−A、2−A、1−Aが1つの劇を、と学年関係なくクラス単位でグループを分けられ、脚本・演出・出演を生徒が全て行う。
演劇祭が行われるのは、夏休み明けの9月。
その準備は、2ヶ月も前から着々と進められ、1ヶ月前からは、出演者による稽古が始まり、夏休み中も続く。
演劇祭当日には、華宮学園グループの理事長である華宮栄一を審査委員長に迎え、理事全員、籐華学園PTA会長、同窓会会長などのそうそうなるメンバーを揃え審査が行われる。
優勝クラスに商品が出るわけではなく、全員に記念バッチを与えられるだけであったが、コレは籐華学園では大変名誉なことであり、卒業後もこのバッチは元籐華学園生達との付き合いで、有効に使うことが出来た。
故に、籐華学園学園祭は全生徒が真剣に取り組むのである。
―――この演劇祭は、籐華学園開校以来の伝統あるものであった。
「遙さんこの顔なんだから、ヒロインに選ばれて当然だろう?」
智紀は飄々と涼に向かって云うと、涼はギリッと唇を噛み締め智紀を睨み付けた。
「だからって・・・何でお前が相手役なんだ」
「だって、選ばれたんだもん〜〜〜文句があるんなら、Cクラス総監督の先輩に云うんだな。ま、云っても無理だと思うけど―――」
智紀のふざけた口調に、涼のこめかみに青筋が幾つもできる。
そう、この涼の怒りの原因は、今日発表になった演劇祭の配役発表であった。
だいたい、3年生がこの演劇祭の中心となる。
監督・脚本・演出などは3年生が携わる。
2年・1年はほぼ裏方で、大道具や小道具の制作に当たった。
7月、夏休み前には制作が終わり、脚本などもほぼ固まる。
そして、全学年から見栄えのいい生徒が出演者として選ばれ、選ばれた生徒は夏休み返上で練習をするのだ。
―――涼も遙も智紀も雅也も、選ばれた。
そこで問題の配役だ。
全生徒に発表された公番表を見て、涼は叫んだ。
Cクラス
『ロミオとジュリエット』
ロミオ・・・1−C赤坂智紀
ジュリエット・・・2−C桜庭遙
智紀がロミオで、遙がジュリエット・・・・・・・。
涼は失念していた。
自分は1−D。遙は2−C。同じ舞台に立てないことを。
そして、智紀がC組だった事を。
客観的に見て智紀の容姿は、自分にも劣らず人目を引くモノを持っている――つまり、主役級に選ばれるであろう事を。
遙が、ヒロインに選ばれないハズがないという事を―――。
「僕は赤坂君が相手で良かったよ。知らないヤツと見つめ合うのなんて、まっぴらゴメンだし」
「オレも光栄ですよ、遙さん―――」
二人の世界が出来上がりつつあるのを見て、涼は本気で泣きたくなった。
「それにしても、結構平気でヒロイン役をうけましたね、桜庭先輩。」
横で傍観していた雅也が突然口を挟んだ。
「籐華出身者は中学の頃から男子校だから、男がヒロイン役するのも慣れてるし、この“演劇祭”の真剣さも知ってるけど、遙さんずっと共学でしょう?」
「うん―――。別にやりたいってワケじゃないけど、断れない真剣さは去年の“演劇祭”で知ってるし、ヒロイン役は・・・慣れてるんだよ」
―――慣れてるって?
のほほんと、雅也の質問に対して答える遙に全員が引っかかりを感じ動きが止まる。
智紀は、え?と首を傾げ
雅也は、疑問に感じながらも、顔色を変えず受け流し
涼は、嫌な予感に眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めた。
一瞬の間に、遙も、ああ・・・と話を続ける。
「何故か女子もいるのに、劇となると女装させられてたんだよ。中学校の時は3年間とも―――」
「は、遙の女装―――」
「強烈だな―――」
「女子生徒もいるのに、って云う所が凄いよね。」
それだけ、可愛かったのか―――。
それが、3人の中に浮かんだ感想だった。
「だから、慣れてるって云っただけだよ。別にしたいわけじゃないんだ」
遙は照れたように早口で云うと、この話題は終わり、と真っ赤になって拗ねたように横を向いた。
その表情が―――
晒されたピンク色に染まった項が―――
「遙―――!!」
「うわっ、涼。こんな所で何する気だよ」
「すげー強烈だよ、遙さん・・・」
「最近涼の気持ちが判るようになってきたかも―――」
涼は、遙を押し倒し、二人の前で熱烈なキスをして遙に殴られ、
智紀は、鼻を押さえて上を向き、
雅也は、これ以上遙を視界に入れないように、視線を外した。
「ロミオとジュリエットって云ったら、『おお、ロミオロミオ・・・・どうして貴方はロミオなの?』っつーヤツだよな?」
ひと騒動収まったところで、嫌がる遙を自分の懐で抱きしめながら、涼は話題を戻した。
「あれ?涼は内容知らないの―――?」
少し驚いた口調で、雅也は涼に問いただした。
「ああ―――。俺あんまり文学に興味ねーから読んでない。シェイクスピアだったっけ?」
「僕も内容は簡単にしか知らないな・・・。確か、親が敵同志だったよな―――」
涼の言葉に遙も続く。
「そうそう。で、隠れて結婚するけど、ロミオが誰か殺してその罪で街から追放されて、ジュリエットは無理矢理婚約者と結婚させられそうになって、協力してくれた神父に貰った仮死状態になるクスリを飲んで死んだ状態になるんだよな―――」
「ああ、その本当は死んでいないという知らせを神父は送るんだけど、行き違いでロミオは受け損なってジュリエットは死んだと思って、彼女の元へ行きその場で命を絶つんだ。で、目覚めたジュリエットは自分の傍らで死んでいるロミオを見て、泣いて絶望して命を絶つ―――と」
智紀が続けた説明に、そうだそうだと涼が締めくくった。
3人がうろ覚えで辿々しく説明していくのを聞きつつ、雅也はフフッと口元を緩めた。
「だいたいあってるよ。ロミオのモンタギュー家とジュリエットのキャピレット家は代々争っていたんだ。で、ロミオが殺したのはジュリエットの従兄弟ティボルト。それは、ティボルトがロミオの親友マーキューシオを殺したから。」
そこで雅也はいったん言葉を切った。
「ところで、君たちの説明の中で出てなかったのは、きっと知らないからだろうと思うけど、ロミオとジュリエットは出会いでいきなりキスをするんだよ―――」
チラリと涼に視線を移すと、見る見るうちに険しい顔つきになってくる。
「キスシーン・・・・遙と智紀のキスシーン」
ブツブツ呟く涼を見ながら雅也はニヤリと笑う。
「そんな事で驚いてちゃダメだよ。二人の結婚式の後は、初夜だよ―――」
「しょ、初夜―――!!」
「ええ〜〜」
「そりゃ、役得だなぁ」
三者三様の声が重なる。
「ダメだ!ダメだダメだダメだぁぁぁぁ!!初夜なんて!!俺とだってマダなのにぃぃぃ―――!!」
涼の我を忘れた叫びに、遙は頬を真っ赤にし、智紀はヒューと口笛を吹く。
「りょ、な・・・・なんて事を大声で!!!」
「まだなのか・・・以外と遅いね―――」
「涼のことだから、その日に手を出してると思ってたぜ、オレ。」
涼の友人二人の言葉に、遙は全身が真っ赤に染まって絶句した。
しかし、涼は二人の言葉など全く聞かず、初夜の言葉にパニックを起こしている。
「お、お、お、俺はぜってぇぇ認めねぇ〜〜〜〜!!!!」
涼の絶叫が、もう一度屋上に響き渡った。
こうして約1ヶ月後の本番目指して、籐華学園演劇祭の練習が始まったのであった―――
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