「僕の母は・・・イイ所のお嬢様だったんだ」
遙は遠い目をして、1つ1つを思い出すようにゆっくりと語り始めた。
「で、どこかで遊び人で仕事もまともにしていなかった父と知り合って・・・。結婚するのを家族に反対され、駆け落ち。実家からは勘当された。」
「なんで、遙がそんな事知ってるんだ・・・?」
「叔父さんが・・・俺を引き取ってくれた叔父さん。その人は母のお兄さんの一人なんだけど、その人も母の実家からは勘当されていて・・・元々、駆け落ちした母をずっと援助くれていたのはこの叔父さんなんだ。その叔父さんに聞いたんだ―――」
まだまだ、冷たい風が吹く季節。
涼は風が吹くたび、遙をギュッと抱きしめた。
「でも、お嬢様と、遊び人の生活なんて・・・うまくいくはずがない。僕が物心ついた頃には、父は家にはほとんどいなかった。母は毎日父を待ち続ける日々だった。」
「それで・・・?」
「母は・・・父に凄く依存してるのが、幼い僕でも判るくらいで・・・はっきりいって僕の事なんて見えてなかった。・・・それで、母は少しずつ・・・・・・おかしくなっていった。」
涼は遙の髪の毛にキスを送りながら、続きを促す。
「あの日・・・久しぶりに父が帰ってきて・・・・でも、すぐ出ていこうとして・・・母が必死に止めていた。」
「『少しは家に居てくれてもいいでしょう?遙とも遊んであげて』母はそう言ったんだ・・・その途端、父の顔が歪んだ。そして大笑いをしながら・・・こういったんだ。『俺の子でもないのに、面倒なんぞ見たくないね・・・と』」
「何を言ってるの・・・あなた。遙は、貴方のコドモよ」
「いつまでも、俺を騙せると思うな!!判ってるよ・・・あいつは、お前と―――のコドモだろう」
「!!」
「・・・・・・・・・汚らわしい!!」
「遙・・・・はるか・・・・・・・」
「あっ・・・涼。ゴメンちょっとボウッとした」
「無理・・・しなくてもいいんだぜ。俺は遙が遙であればいい―――」
この、何気ない涼の言葉が、遙には嬉しかった。
その後、2人は・・・屋上からみえる街の景色を――遙は涼の腕の中で、涼は遙をすっぽりと抱きしめて――無言で見続けた―――――
―――言葉のない、沈黙の時間だったが・・・それはお互いにとって、全く不快な時間ではなかったのだった。
昼休み―――。
屋上から、教室に戻った遙は、クラスの人間からあからさまに視線を反らされて、自分の陥った事態を思い出した。
そうだ・・・、コレが普通の人間の反応だ。
涼達は特別なのだから―――。
傷付きはしない・・・。
ただ・・・
胸が痛むだけだ―――。
遙は、フッと自嘲めいた笑みを浮かべると、自分の席に戻る。
クラスメイトの殆どの視線は、遙を軽蔑するモノではなく、遙のことをどう扱えばいいのかわからない―――というモノだったので、きっと時間が解決してくれるだろう―――と、遙は確信した。
教室から弁当を持って、涼達と待ち合わせをしている屋上へ向かっていると、遙は後ろからふいに―――声をかけられた。
「遙・・・来ねーなぁ。」
「確かに、遅いよな〜もうすぐ、予鈴だぜ」
「探しに行った方がいいんじゃないのかな―――涼」
雅也が冷静な声で、忠告した。
「ああ・・・探しに行く、手伝ってくれ―――」
イヤな・・・予感がする。
「お前なんかに、涼は似合わない―――ハンザイシャの息子のくせに!!!」
「・・・・・」
「涼は、東雲グループの将来TOPに立つ人間なんだ。お前がまわりでウロチョロしてたら、それだけで涼の傷になる」
「―――――」
「今回のことで、思い知ったのなら、もう、涼には近付くな―――!!」
突然呼び止められ、「涼のことで話があるからついてこい」と、遙は無理矢理、副会長・清水由宇に人気の少ない階段の踊り場に連れてこられていた。
「―――云うことは、それだけですか?副会長」
それまで黙ったまま、由宇の言葉を聞いていた遙は、静かに言葉を返した。
「なに―――?」
「涼自身に云われたのならともかく、貴方にとやかく云われて、涼との関係を切るつもりは、僕にはありません。」
弱い存在だと思っていた遙に、噛みつかれた由宇は、怒りのため一気に顔が真っ赤になる。
その怒りを、力で発散させようと、由宇は遙に掴みかかっていった―――。
「待て―――」
振り返ると、階段の上には息を切らせた涼が立っていた。
「お前の仕業だったんだな―――由宇」
涼は、由宇が遙に掴みかかっている姿を見て、全てを理解した。
あの・・・あの掲示板の暴露記事は、由宇の仕業だと―――。
由宇のシンパ。
家の力・財力。
これらを使えば、普通の高校生では調べられないような遙の細かい過去など、すぐ調べれるのだ・・・。
そして、由宇がナゼこんな事をしたのかも、すぐに判った。
―――自分への執着だ。
使えるから―――と、由宇との関係をキチンと切っておかなかった事を、今更ながら、涼は激しく後悔した。
自分が原因で―――遙を傷つけることになるとは・・・・・・。
涼は、唇を噛み締めながら、ゆったりと由宇に近づいていった。
由宇の目に、怯えが走る―――。
それさえも、憎らしくなった。
無言で、手を振り上げた時―――
「涼―――!!」
遙のキツイ声が飛んだ。
「その人を、殴るな―――」
「・・・遙」
「いっただろう、僕は傷ついていない―――。こんな事で、屈しない。だから・・・涼がその人を殴る理由はないんだ。」
「・・・はるか」
「いこう、涼」
恐怖でその場に座り込んでしまった由宇を一瞥して、遙はその場を立ち去った。
「―――由宇、今度、こんなコトして見ろ・・・俺は遙がなんと云っても、お前を許さない」
仲良く並んで歩いていく2人を見つめ―――
由宇は唇を噛んだ。
どうして・・・
どうしてそんなヤツがいいんだ・・・?
僕だって
僕だってこんなに好きなのに―――!!
何の変哲もない・・・地味な男のどこがいいんだ・・・!
涼には絶対似合わないのに―――。
どうして・・・・・・・・・・
僕には、あの笑顔を見せてくれないんだ。
「由宇―――」
由宇が顔を上げると、そこには自分の“相棒”と呼ばれる、会長の岡嶋貴士が立っていた。
「貴士・・・・・・」
由宇は、救いを求めるように貴士に――いつも彼は、由宇をフォローし、全てのことから助け守っていた――いつものように、手を伸ばした。
しかし、岡嶋はその手をグイッと払いのけた。
「失望した――。」
「今度の事は軽蔑したよ、由宇―――」
岡嶋はそう云い残すと、由宇に背中を向け立ち去っていった。
そして、由宇は一人取り残された―――。
|