SHINE
−春・新入生騒動−




全生徒から注目を浴びている2人の姿を見ながら、彼は唇をかみしめた。


涼のあんな顔…、見たことがない。
いつも、冷ややかに皮肉な笑みしか浮かべないのに……。
あの顔はなに?
ただの、16歳の高校生にしか見えない笑顔。
あの、瞳はなに?
全身・全霊で表している……愛情。
イヤだ。
イヤだ。
あんな涼……見たくはなかった。
知りたくはなかった。
あんな涼を、平然として受けとめている……あいつが……許せない。


全生徒から注目を浴びている2人の姿をみなが、男達は唾を吐き捨てた。


「何が、東雲、東雲だ。」
「1年のクセして。」
「気が付いたら、この学校をしきってやがる。」
「クソ生意気に、堂々と……」
「親のバックのおかげだろう」
「1度、痛い目を見せてやらないと…」
「だが、ヤツは強いぜ」
「何か…良い案がねぇかな」


◇◆◇◆◇


遙は玄関を開けて、溜息をついた。
「毎日毎日、飽きないね。君も…」
「だって、俺。遙と一緒に登校したいから」
悪びれない顔で涼は、遙の嫌みもかわす。
「……」

あの日から、涼は毎日・毎日、遙を迎えにアパートへ来る。
そして、共に登校するのだ。
全生徒の注目の中で。

「ちょっと今日は来るの早かったか―――?」
黙りこくってしまった遙に、心配げな声がかかる。

この1年間、全く注目を浴びずに生活していた遙にとっては、今の状況は結構なストレスで……。
だが、注目を浴び慣れている涼にとってはどうって事ないことであり……。
この遙の不機嫌さを、涼はどうやら全くわかっていないようだ。

ふぅ――
遙は大きな溜息をついた。
「コーヒー飲んでくか?」
困った顔になっていた涼の表情が、パッと輝く。
「えっ、いいのか!!」
「いらないなら、いいけど。」
「いる!飲む!!」
「じゃあ、上がれよ。玄関先で話し込んでたら邪魔だから」
「ああ。おじゃましまーす。」

奔放で、自分の思い通りにしか行動しない、涼。
凄く……振り回されてる。
でも、振り回されてるおかげで、あまり考え込まなくて済むのかもしれない。
恐れないで……済むのかも知れない。
思い出してしまった真実も…考え込まなくてもいいのかも知れない。
真実を事実と受けとめる力を―――涼は分けてくれている、ような気がする。
涼といると安心する。
そして、心地よい。
他人にこんな気持ちを持ったのは、幼なじみで親友だったあいつ以来だ。
もう……親友とは呼ばせてもらえないけど。

この心地よさを―――遙は、離したくはなかった。


◇◆◇◆◇


その日は、校門をくぐったときから雰囲気がおかしかった。
いつも、注目されていたのだが、どうも、みんなの目線は遙に集中していた。
何かを窺うような。
何かを探るような。

遙はイヤな予感がしていた。
ただ、自分は立ち向かっていける…そう確信していたから、何も気付いていない涼に、いつものように笑いかけながら、校舎に入った。

人垣が出来ていた。
涼と遙が入ってくると、ザワッとみんなが騒ぐ。
「なんなんだ…?」
涼は不機嫌そうな声を上げた。
「涼。遙さん。」
人垣の中から、智紀と雅也が出てきた。
「どーしたんだ。何なんだよ。」
涼は友人達の登場に、この状況の説明を求めた。
「どうって事ないよ、関係ないことだ。さ、上に行こう。涼、桜庭先輩」
2人の顔色は、心なしか悪い。
遙は、何が起こっているか確信した。
小学校でも
中学校でも
同じ目にはあったことがあるのだ。
あの時は、逃げ出すことしか。
親友の腕の中に逃げ込むことしか……出来なかったけど。
今は、立ち向かっていくって決めたのだから。

「遙さん!」
「桜庭先輩!」
2人の悲痛な声が後ろから聞こえる。
だが、遙はその声をあえて無視して、固まっていた人垣を押しのけて…いや、人垣は遙が近付くとサッと割れていき、遙はその人垣の中心部へまっすぐに歩いていった。

その中心部には、思った通りのモノがあった。
『桜庭遙の真実』
そう大きく見出しを書いた紙には、あの当時の新聞とその事を詳しく書いた文章が載っていた。
遙の後ろをついてきた涼が息を呑むのがワカル。

「よく、調べたね。新聞まで用意してるとは思わなかったよ。」
とても冷静に、見れた。
「……遙」
「コレは真実だ。僕の両親のことだ。どうしようもない事だ。コレでみんなが僕を偏見の目で見るのなら、仕方のない事だ。そうだろう?」
「遙……!」
涼の方が辛そうな顔をしてる。
大丈夫。
俺は、大丈夫だ。
「行こう、涼。」

遙は涼の肩をポンッと叩き、人垣から離れた。

「あいつは、あいつだ。親の事なんざ、あいつに何の罪もねぇ。この事であいつに何かしたら、俺がぜってー許さねぇ」
涼は低く吠え、壁に貼ってあった紙を引きちぎって握りつぶすと、遙の後を追いかけた。



「大丈夫だよ、涼。」
屋上でボーと空を見ていた遙を、追いついて、後ろからギュッと抱きしめてきた涼に向かって、遙は優しく声をかけた。
「あんな、卑怯な事をするなんて…男じゃねぇ…いったい誰が…!!」
「いいよ、いつ知られるかビクビクしてるより、こうやって知られた方が、かえってスッキリしたし……そんなに、僕は傷ついていない。」
「遙……」
「涼は、変わらないでいてくれるんだろ?」
「あたりまえだろう!!」
涼は遙の肩を掴んで、自分の正面に向かせた。
顔と顔がぶつかる。
「ゴメン……守ってやるって言っときながら、いきなり…傷つけた」
どこか泣きそうな、普段では見れない年相応の顔をした涼に、遙はフワッと笑いかけた。
「傷ついてないって言っただろう?それに、守ってくれなくてもイイ。俺も男だし―――涼が、隣にいてくれるだけで…いいよ。」
遙が自分のことを"俺"という時は、本音を話してくれている時だと涼は知っていた。
隣でいてくれるだけでイイ。
遙は、本音でそう言ったのだ。
涼の胸は色んな感情でいっぱいになり……どうしても遙にキスしたくなった。
「遙……キスしていい?」
いきなり聞いてきた涼に、遙は驚いて目を見開いたが、以前『同意もなくするな』と言ったことを思い出し、ぷっと笑い出した。
「な…んで、笑うんだよ」
ムッとした涼に、遙は「だってさ…」と笑いながら答える。
笑いの止まらない遙の腰に涼は片腕をまわし、もう一方で顎を捕らえる。
「……涼。」
「遙…イイ?」
耳元で囁く、甘い声。
遙は自然に目を閉じた。

「ん……」
涼は以前のしたように、遙の口腔内を蹂躙するような官能的なキスではなく、溢れだした自分の気持ちを表すようなキスをしていた。
やわらく舌を絡ませ…
優しく吸い上げ…
少し歯で刺激をする。
遙も涼に答えながら、2人は夢中でキスを繰り返した。



「涼、僕は少し思い出したんだよ」
屋上の壁際に座り込んだ遙を、涼は自分も座り、後ろから抱え込むように抱きしめながら、遙の耳朶や首筋に甘くキスを落としていた。
「ん…?」
促すように声をかけながら、もう一度、うなじに顔を埋める。
「もう。くすぐったいよ、涼。ちょっと聞けって。」
「ごめん。で、何を思い出したんだ。」
「母さんが父さんを刺した時の事」
「…遙?」
涼はギュッと腕に力を込める。
「大丈夫だって。でね、僕はずっと忘れていたんだ。あの時のこと。医者が言うにはショックすぎて脳が忘れようと記憶を閉じこめたんだって。その方が僕自身にいいから。だから、無理に思い出さなくいいって言われてたんだよ。だけどこの前、涼が『逃げてちゃいけない』って言ってくれた日から、少しずつ思い出してきた。」
「はるか……」
「そんな顔しないで。思い出してきたのは、きっと脳が『僕はもう大丈夫』って診断したからだと思うんだ―――だから」
「うん―――」
「でね、ひとつ思い出した…大きな事を」
涼は片腕で遙を抱きしめ、もう片方で、優しく遙の髪を撫でた。



「僕は……父さんの子じゃなかったんだ。」


続く・・・


やっと明るくなってきたかな〜って所で、また暗くなりそうなお話(笑)
遙の過去話は、後々いるんで削れませんでした。
春編はやっと佳境に入ってきたかなーって所です。
まま、のんびりのんびり。


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