SHINE
−春・新入生騒動−




「おはよう、遙」
「………東雲」

朝一番、涼は遙のアパートを訪ねていた。
昨日宣言した『明日から一緒に登校する!』という言葉を実現するために。

「ホントに来たのか……。」
「あったりまだろう?俺、遙の事、愛してるもの」
遙は思わず、飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。
「な…何だよ、それ」
「何が?」
「あ……愛してるって」
「昨日も言ったじゃん。『好きだ』って」
「言ってたけど……」
困った顔をしている遙は、涼にはグッとくるモノがあった。
泣き目ぼくろが艶っぽい。
思わず、ギュッと抱きしめて顔中にキスを落とす。

「ちょっ!ちょっと待って」
顔を必死に背けながら遙は叫んだ。
「東雲の好きって……?」
「Loveの好きだよ」
「僕は男だよ!」
「関係ないね」
「東雲………ホモなの?」
遙の唇にキスを落とそうとしていた涼は、遙の言葉に一瞬息を詰まらせる。
「……男を好きになったのは初めてだ」
「東雲……腕はなして」
「涼」
「はあ?」
「涼って呼んでくれなきゃ、離さない」
涼の駄々をこねるような口調に、遙は思わず笑みが漏れる。
「涼、ちょっと離して」

遙にジッと見つめられ、涼はジブシブという感じで離す。

「ずっと気になってたんだけど、涼、僕は一応先輩なんだから、呼び捨てはないんじゃないか?」
「な……?」
遙の突然の物言いに、一瞬付いて行けなくなった涼だが、すぐに頭を切り換え憮然として答えた。
「俺は人を"さん"付けで呼んだことはない。」
「と、年上の人にもか?」
「ああ、どんな年上の人でもだ。」
涼はどうしてそんなことを聞く?
という顔をした。

そんな顔を見て、遙はせめて"さん"付けにでもさせて一応自分が年上ということを涼にも、自分自身にも知らしめたかったのだが、コレは無理だなということで諦めた。

「じゃあ、涼。」
「なに?」
涼は遙に答えながら、また抱き寄せて頬にキスを落とそうとしていた。
遙はその唇を手のひらで阻む。
「こんな風に同意もなく、キスしないでくれる?」
「じゃあ、同意があれば良いわけだ。遙、キスするよ」
「ちがっ!待……!!」
涼は遙の答えを聞かず、遙の唇を自分のそれで塞いでしまう。
「ん…!んん……!!」
唇を優しく噛み、歯列をなぞる。
誘うように少し開いた口に、舌を潜り込ませ、逃げまどう舌を追いかけ絡ませる。
「…ぁ………んぁ………」
絡み合った舌を誘い出し優しく噛むと、遙の肩がビクビクッと揺れる。
眉間寄せ瞳を潤ませて切なく啼く遙に、理性のたがが外れたのを涼は感じた。
百戦錬磨の手つきで、制服のボタンをはずしていく。
その間もキスは休むことなく続け、遙の考える力を奪っておく。
チュッチュッと音を立てて、額・目尻・頬とキスを落とす。
そのまま、白い項へと唇を持っていき、そこからシャツのボタンを外して露わになった鎖骨へと滑らしていく。
脇腹に滑らせた手が、その胸の二つの突起物に到達しようとしていたとき、

ピリリリリ・ピリリリリ・ピリリリリ

涼の携帯電話が鳴った。

ぼうっとなっていた遙は一瞬で現実世界に戻り、自分の状況を把握して真っ赤になって、涼を突き飛ばした。

「お………おま……何を……!!!」
「何って、セッ…」
「だあ―――!!!もっ、もう、なっ、何も言うなぁ!!」
遙は、真っ赤になって叫びながら、羞恥心と怒りと何がなんだかわからないもので、頭の中がぐるぐると混乱し、今にも気を失いそうになった。

ぜいぜいと肩で息をする遙に涼はニヤリと笑いながら
「遙、そろそろ家でないとやばいんじゃないか?」
「えっ?うあああ、もうこんな時間…!」
遙ははだけられた服を直しながら、あわてて鞄を取り眼鏡をかけ靴を履いた。
「行くよ!涼」
「別に俺はこのまま二人でさぼって楽しい時を過ごしてもいいんだけどなぁ」
涼はセクシャルに口の端をあげた。
「涼、次あんなコトしたら……もう口も聞かないからな!」
涼の言わんとする事がわかった遙は、さっきの事がフラッシュバックして、真っ赤になりながら叫んだのだった。



その日の籐華学園の話題は涼と遙の事で一色だった。
まとわりついてくる人間を軽く冷たくあしらってきた、学園の有名人であり人気者の東雲涼が、誰だか判らない一人の生徒と共に登校してきたのだから。
しかも、どう見ても涼がまとわりついているようにしか見えない。

アレは誰だ?
野暮ったい眼鏡をかけた、今まで目立ったこともないヤツ。
アレはいったい誰なんだ?

涼と一緒に登校するのが、こんなに話題になるとは思っても見なかった遙は事態に困惑していた。
教室に入って、涼と別れるとクラスのみんなに囲まれたのである。
とにかく、笑って曖昧にかわしていると(『涼とはどんな関係か?』なんて聞かれても答えようがない)教師が来たのでその場は助かった。
しかし、休憩時間になるとまた、クラスメイトたちに囲まれたのである。
どうしたものか、と考えていると

「はーるーか♪」
教室の全員の視線がその扉の方向を向く。
「……涼」
助かった…と思えばいいのか、また新しい問題を抱え込んだ…と悩めばいいのか、遙には判らなかった。



昼休み。毎休み時間通ってきていた涼は、もちろん一番にすっ飛んできて昼ご飯を誘った。

「食堂?やだよ。僕は弁当も持ってきてるし。」
あんな大勢人にいる場所で涼と昼ご飯を食べるなんて、動物園の動物の気分になる……。
「じゃ、屋上で食べようぜ。あそこなら、人いないし。」
遙の考えてるこを察したのか、そうでないのかは判らなかったが、涼はあっさりと学食ランチの提案を撤回して、屋上へと誘った。
「ああ。あそこなら、いいよ。」
「じゃ、先行っといて。俺、メシ買ってから行くから。」
「わかった。」
涼は購買部に駆けだしていき、遙はゆっくりと屋上に向かった。

なんだか……涼に流されてるような気がする。
でも、それが不快じゃない。
いや、居心地が良いことに気付いて、離れないのは俺自身かもしれない。
他人を拒絶して、殻に隠っていた昨日までの自分に比べると何という変化。
その変化が………嬉しく、楽しい。

遙は自分の考えに苦笑しながら、屋上の扉を開いた。
扉を開くと人影が見えた。

……先客がいたのか。

仕方がない、他の場所でも。
遙が開けた扉をそのまま閉めようとした時

「遙さん、涼は?」
人影のうちの一人が、こちらに歩いてきながら言った。
逆光で顔が見えにくくて、遙は目を細めながら凝視していると近付いてきた人間は、先日涼と共に遙を捜しに来た内の一人だとわかった。
「君は…涼の?」
「ああ、自己紹介がまだでしたよね。オレは涼の友達で、1−Cの赤坂智紀です」
智紀は人好きのする笑顔を遙に向けて、握手してきた。
「お昼ですか?オレらも今から何です。一緒に食べましょうよ。な、雅也」
智紀が視線を向けた方に遙も視線を巡らすと、壁に背をもたれさせ座っていた人間が手招きをしていた。
「どうぞ、こちらへ。僕は1−Aの二階堂雅也です。」
「どうも。桜庭遙です。」
思わず自己紹介しながら、遙の中にはある疑問が浮かんでくる。

あいつは……友人を顔で選んでるのか?
智紀も雅也も、男の自分が見てもかなりイイ男に見えた。

智紀は顔はしっかり整っていて、涼とは違った男臭さを持ち、惹きつけられずにはいられない涼のようなオーラは持ってはいないけど、誰にでも好感を持たれる雰囲気を持っていた。

雅也は黒目がちの瞳に長い睫、色白の肌を持ちそれだけだと女と見まがうほど綺麗な顔立ちをしていた。
しかし切れ長になった目と、しっかりとした眉が男を主張していて、柔らかな雰囲気を持った綺麗な男という感じを受けた。

そして、(涼を含めて)みんな背が高かった。

“選ばれた人間”・・・そんな言葉を思い出してしまうな。
もごもごと弁当を食べながら遙はそんなことを思っていた。



「あ――――――――お前ら何してるんだよ!」
「何って、お昼ご飯を食べてるんだよ、涼。」
「見ての通りだよな〜、遙さん。」
「うん。」

智紀と雅也は、遙の両脇に座って楽しそうに話しながら昼ご飯を食べていた。
しかも、智紀から頼み込まれて眼鏡を取って、その綺麗な素顔を惜しみなく二人に晒している。

「お前らが何で遙の横に座って楽しく三人でメシ食ってるのかって聞いてんだよ!!」
「いいじゃん、お前いなかったんだし。」
「僕らも仲良くなりたかったんだから。」
「よくないよくない〜!!退けー。」
涼はマジ切れしている。
「べつにいいだろ。」
「ほらっ、遙さんもそういってるじゃん」
「落ち着きなよ、涼。」
「……てめーら、覚えとけよ。」
熱くなっている涼に、智紀は嬉しそうに、雅也は平然と答える。

遙は、そんな3人の様子を見て
―――こいつらホントに仲いいのか?
と、疑問に思いつつも
「友達にそんなこと言うなよ、涼。ほら、ここに座れば?」
と、自分の前を示し、とりあえず涼を落ち着かせた。

4人で楽しく(?)昼食を取った後、缶コーヒーを飲んでいた雅也がおもむろに口を開いた。

「僕は、桜庭先輩に謝らなければいけません。」
「へ?」
和やかムードの中での、突然の重い発言に他の3人がキョトンとした。
「桜庭先輩の過去を調べたのは僕です。涼のためだったとは言え、プライバシーを侵害し、かなり不快な思いをさせてしまいました……。」
「あ、オレも……涼と一緒に聞いちゃったから」
智紀もすまなさそうな顔をしている。
「……」
遙は二人をじっと見た。
二人も遙から目を反らさずに、じっと見つめた。
「いいよ、いつか越えなくちゃいけない事だったし。いい機会だった。」
「怒ってないんですか?」
「うん。」

以前なら許せなかっただろう。
傷を暴いた彼らに対して、きっと辛らつな言葉を吐いて一生自分のテリトリーには近づけなかったはずだ。
だが、今は違う。事実は事実として受け止めている。
母が父を刺した。
本当のことだ。
その過去を変えることは出来ない。
素直に認め、その過去をも受け止めてくれる人間と付き合っていけばいい。

「それよりも、君たちの方が……」
僕なんかと付き合ってもイイのかい?
遙は、そう言葉をつなげようとした。
だが、自分と付き合うのがイヤならば近寄ってはこないだろう。
彼らならば。
こうやって話しかけてくるのは、気にしていないという彼らの意思表示なのだろう。
付き合ってもいいのか?なんて聞く方が失礼だ。

「遙さん?」
「どうしたんですか?」
黙り込んでしまった遙を気遣って智紀と雅也が声をかける。
ハッと現実の世界に戻ってきた遙は
「ううん、なんでもない。それよりまた屋上で昼飯食おーな」
とフワリと微笑んで「次、体育だから」と教室に戻っていった。

顔を真っ赤にした3人には気づかずに……。



「ありゃあ、男殺しだぜ、涼」
「ああ」
「そうだね、一瞬僕でもグッときたもの」
「オレも。涼の存在忘れて押し倒しそうになったなぁ」
「ああ、お前らいなかったら押し倒してた。」
「守らなきゃいけないよ、これから。」
「殻、剥いじまったからな。まだ眼鏡してるからいいけど、ドンドン無防備になるぞ、絶対」
「ああ、わかってる」

先ほど遙が見せた艶っぽい微笑みを思い出して3人は溜息をついた。






やっと、甘くなってきたかな〜?
どうも、涼が思う通りに動いてくれない・・・
馬鹿なことばっかり言い出す。
お前、設定ではクールなはずじゃなかったのか?
遙は、泣き目ぼくろがあることが判明。
水貴の趣味です(笑)


back top next