SHINE−春・新入生騒動−



『もう、僕には近寄らないでくれ。』
一昨日言われた言葉が、頭の中から離れない。
眉間にキュッとしわを寄せて、
辛そうな……
泣きそうな顔をしていた。


昼休み、涼は一人で屋上にいた。
何かと寄ってくる人間たちにウンザリしていたからだ。
ボーっと煙草をふかしていると、屋上の扉が開いた音がした。

「涼」
智紀と雅也だ。
「今日も遙さん休みだったぜ」
「知ってる」
遙は昨日今日と欠席していた。
「雅也………判ったのか?」

雅也はずっとある人を密かに捜している。
親にも内緒で。そのため、親の力も関係ない、雅也だけの強力なツテがそっち方面にあることを、涼も知っていた。
今回、それを使ってくれているということも。

雅也は神妙な顔つきをしていた。
「判ったよ………。」
「雅也、あいつの、桜庭遙の隠しているモノ―――知られたくない過去って何なんだ?」
「……涼。その前に、もう一度君の気持ちを確認したい。」
「……?」
「涼は本気なの?本気であの人・桜庭先輩のこと想ってる?本気じゃないんなら、今回調べたあの人の過去を涼に教えるわけにはいかない。遊びで済ませられない。そんな軽い問題じゃないんだ。あの人を本気で想ってる?あの人の過去も全部抱えられる?じゃないと僕は教えるわけにはいかない。」
雅也のいつになく真剣な顔と、言っていることの重さに隣で聞いていた智紀はびっくりした顔になっている。
涼は雅也の目を反らすことなく
「本気だ。この前も言ったけど、こんなに人を想ったのは初めてだし、もう、こんなに人を想うことはないだろう。あいつの過去が何であろうと、受け止めて、抱きしめる覚悟はできている。」
何十秒か黙って涼と雅也は視線を交わす。
智紀はそんな二人をハラハラとしてみていた。

フゥ。
雅也は目を閉じ、息を吐く。
「わかった。僕の手の者で、とりあえず調べたことたモノを見てくれ。それからゆっくりと今日まで調べて判ったことを話していこう。」
雅也は持っていた紙を涼に渡す。

古い新聞のコピーだった。
線で囲んである記事を読む。

内容は7年前に起こった、妻が夫を刺し殺すという記事だった。


――――――警視庁の調べでは、繰り返される夫・桜庭昭彦さん(29)の浮気に耐えられず、深夜0時に帰ってきた昭彦さんを口論の末、妻・桜庭祥子容疑者(27)が9歳になる子供の目の前で刺し、自分も手首を切った。昭彦さんは即死。祥子容疑者は命に別状はなかったが、意識が戻ってからの言動がおかしく、精神鑑定をする――――――

被害者・桜庭昭彦
容疑者・桜庭祥子

桜庭……………?

まさか?!
ハッと顔を上げた、涼は雅也と目がある。

「わかった?それが、桜庭先輩の知られたくない、触れられたくない過去だよ。書いてあるだろう?"9歳の子供の目の前で"って。それが桜庭先輩のことなんだ。」
「そんな…………」

目の前で、母親が父親を殺した………?

「その後、母親は警察内の精神病院でずっと入院していて、桜庭先輩が中学卒業直前に死んでいる。桜庭先輩は近くに住んでいた叔父の家で、その事件後ずっと育ててもらってた様だ。けど、小さな町だったからね。みんなが事件を知っていた。これは僕の憶測だけど、ずっと後ろ指を指されてたんじゃないのかな?だからかどうかは判らないけど、先輩は中学卒業を期に、叔父の元を離れて、学費免除特待生制度のあるウチを受けて、残った財産とか保険金とかで慎ましやかに一人暮らしをしているみたいだ。桜庭先輩、成績はトップらしいから。」

外部入学は競争率が激しく、外部生は賢いということにはなっているが、学年トップだったのか。

「きっと桜庭先輩は、ここに移ってきて過去を捨てたんじゃないのかな?でも、目立つときっとどこからか、この事件が明るみに出てきて、どうしても過去と向き合ってしまう。だから目立たないように、ひっそりと、息を潜めて、生活してきたんだよ。この1年間」

「確かに………俺が付きまとうと、目立つな。」
涼は自分が人の目を引く質ということは自覚している。
利用もしている。
だが、
「俺は諦められない。諦めない。あいつの親の事なんて俺には関係ない。」

「でも、遙さんは拘ってるんだろう?俺にもあの人は必死に日影に潜り込もうとしているように見える。」
今まで黙って聞いていた智紀が口を挟んだ。

「俺が太陽の下へ出してやる。潜り込んで、隠れていたって何も変わらない。息を潜めて生きていたって何になるんだ。」

弱さを知らない涼の言葉はある意味残酷だ。
けれど、涼の言っていることも正しいとは思う。
逃げていたって何にもならない。
でも、遙が隠れていたい気持ちもわかる。

「そして、俺があいつを包み込む樹になって、あいつを灼熱の太陽から守ってやる」

強靱な精神を持った涼の強さは眩しかった。
すべてに冷めていた涼の熱は熱かった。
それが、桜庭先輩の救いになるといい……心から願う。
涼に通じる、自分の中に燃え続ける熱い想いをぶつけることもできない。
会うこともできない想い人を、雅也は心の中に浮かべた。

「遙さんの心を掴むのは大変だぜ、きっと。」
智紀は熱くなっている涼を見て嬉しそうにいった。

「ああ、それでもだ。あいつが太陽の下であの眼鏡を取って、ニッコリと笑えるようにしてやる、俺が。」


続く

暗い・・・暗いです。
いつ、甘々になるんでしょうか・・・?
・・・そして、クサイわ(笑)

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