SHINE−春・新入生騒動−

3(改)



遙はいつもの通り、学校の裏庭に足を向けていた。
人の気配がなくなった所で眼鏡を取り一つ息を吐く。

そういえば、この前の入学式の時あの場所であったヤツ
………有名なヤツだったんだな。

入学式から数日後、学校内で見かけた。
一瞬ドキッとしたが、自分の事を判るわけがないと心を落ち着かせた。
そのとき一緒に歩いていた級友たちが教えてくれたのだ。
「あの目の引くヤツ、東雲っていってこの籐華の有名人なんだよ。」
「なんていったって、東雲グループの直系一族だし、勉強・スポーツ何でもできるし、あの顔に、あのオーラだろ?中学校の時から、梅華女子だけじゃなくって、近隣の女子校の美女たちとっかえひっかえだったよな。」
級友たちの話を聞いてなるほど、と遙は思った。
最初に受けた印象は全く間違っていなかったワケだ。
こんなに人のいっぱいいる場所でも、ハッと目がいく人間…………。

――――― 一番関わり合いたくない人間だ。

そう、もう関わり合うことはないハズ。
校内にいて、俺のことが判るはずがない。
なのに、わき上がるこの不安感はいったい何なんだろう。


ガサッ

遙は視界に入ってきたモノにグッと息を飲む。

先客がいる。

―――東雲涼……。
彼は、木陰で寝ころんで目を瞑っていた。

――――落ち着け。
寝ているんだ。
今振り返って、元来た道を戻れば気付かれない。

遙はきびすを返して、その場を立ち去ろうと一歩足を出しかけたとき、

「待てよ。」
低い声がした。


あれから毎日、この場所に来てあいつを待っていた。
あいつを見つける手がかりはこの場所しかなかったから。


「おまえ名前は?」
視線を逸らさず、真っ正面から遙を射抜く瞳。
「キミには関係ないだろう。」
思わず答えそうになる。
「知りたい」
「教えない」
「なんでだよ!おまえ本当にウチの学校の生徒か?」
「さて…ね」
顔では余裕そうな表情を作っていたが、内心かなり焦っていた。
心は警報を打ち鳴らす。
―――――これ以上こいつと関わっちゃいけない。

遙はその場から走り去る。

「待てよ!」

涼は体を起こして、脱いでいた靴を履いて遙の後を追いかけたが、校内に入られてしまい、大勢の生徒の中で見失ってしまった。

くそっ。
何故、逃げるんだ。

立ちつくす涼の肩を誰かが叩いた。

「智紀、雅也」
「何、ぼっとつっ立ってるんだ?」
「涼がそんな顔してるの珍しいね。」

智紀と共に現れた二階堂雅也は、二階堂コンツェルンの一人息子で、涼の幼稚舎からの本音を話せるただ一人の友人であった。(中等部で智紀も加わったが)

「あいつにあった。」
「え?じゃあ名前とか判ったのか?」
「いや、教えてくれなかった」
「教えてくれない?」
どういうことだ?、と智紀は怪訝な顔をした。
「『名前は?』って聞いたら『教えない』って言われて、逃げられた。」
「『教えない』って……」

「ふーん。で、何か手がかりは?」
横で、二人の会話を聞いていた雅也が口を挟んだ。

雅也も涼の初めての恋(智紀・談)は、智紀の口から数日前に聞いていた。
「これで涼も、いつも僕をバカにしていた恋の辛さが判っただろう」と雅也の感想は、至って冷ややかなモノだったが…。

今まで暗い顔をしていた涼が、雅也の質問を聞いて、ぱっと明るい顔をして意味ありげに微笑んだ。
「手がかりは……掴んだ。」
「マジか?」
ずっと一緒になって捜してきた智紀が身を乗り出してきた。
「2年だ。2年のバッチをしていた。」
「じゃあ、一人ずつあたっていこうぜ!」
「そのつもりだ。」



2−A・2−Bとあたって、涼の思い人には会えなかった。
涼と智紀・雅也は2−Cの扉を開ける。

ガラッ

ザワザワしていた教室が、いっぺんに静かになる。
この学校の有名人の登場に、クラスのみんなが涼を注目した。
「涼どうしたんだ?ウチのクラスに用事か?」
幼稚舎からの付き合いがある生徒が声をかける。
「桜庭さんってどの人?」
「桜庭?」
聞かれた生徒は思いがけない名前にビックリした。
「あの窓際でぼーっとしてるヤツだが、桜庭がどうしたんだ?」
外部生で地味な桜庭と、涼が関わり合うのが信じられない。
「いや、ちょっとね。」
涼はその生徒に礼を言いながら、智紀らと共に遙に近づく。
遙は、涼が教室に来たことにも気付かず、ボーっと窓の外を見ていた。
遙に近づきつつ、涼は確信した。

さらっとした茶色い髪の毛。
白い肌。
絶対こいつだ。

バンッ

机が鳴りビックリして視線をあげると、背の高い3人の男が目の前に立っていた。
机に手をついてるのは見覚えのある男。

東雲涼。

「捜したよ。桜庭さん」
―――しまった。
っと思った瞬間。
涼にめがねを取られていた。

涼の横にいた智紀と雅也が息をのんだ。
涼が惚れるくらいだから……とは思ってたけど。
ここまでとは………!

「やっぱり。」
あまりの嬉しさに、思わず笑みが出る涼。
その言葉を機に、固まっていた遙は立ち上がって、教室から走り出す。
「待てよ!」
涼も遙を追って教室から飛び出した。
クラス全員が何が起こったのか?と呆然としていた。

「ちょっと、待てよ!」
遙は、涼の言葉を無視して全力で廊下を走る廊下の全力疾走の追いかけ合いにびっくりして、すれ違う人々は彼らを振り返る。そんなことも気にせず遙は全力で走った。
しかし、スポーツ万能の涼にかなうわけはなく、人影のない階段の踊り場で涼は遙の腕を捕まれた。
「何故逃げる?」
言葉とは裏腹に、やっと遙の顔を間近に見れて涼は、こみ上げる喜びににっこり笑う。
「俺に何のようだ。」
遙は開き直ってキッと涼を睨み付けた。
その視線だけで涼は胸が熱くなるのを感じたが、それを抑えて遙の目を見つめる。
「話がしたかった。おまえを知りたかった。仲良くなりたかった。」
〜したい。
そんな言葉使ったのはいつ以来だろう。
その要求の前に、すべては涼の前に全ては並べらていたから。

「僕は…君とだけは、関わりたくなかった。」
遙に静かに告げられた答えに、涼は心の底から傷つく。
こんなに胸が痛いのは、初めてだ。
「何故!」
その言葉に遙は冷たい視線を涼に向けた。
「君が目立つからだ。」
「?!……どういう意味だ??」
「君といると僕は嫌でも目立つ。……だからだ。」
遙の声はどんどん小さくなっていく。
涼は遙の言ってる意味が理解できない。
二人は無言で視線を絡ませ、立ちつくした。
******



「涼!」
遠くから聞こえてくる、智紀と雅也の声に、二人はハッとそちらに視線を向けた。

遙は涼の手に握りしめたままになっているメガネを見つけると、すばやく取り上げて、かけ直すとその場を去ろうと、握りしめられてた腕を払いのけた。
「遙…。」
「もう、僕には近づかないでくれ。」
そういうと、遙はその場から走り去った。

立ちすくんでる涼の元に智紀と雅也は走ってきた。
「どうだったんだ?」
「近づくな、だと」
「え…?」
この友人に近づくなと言ったヤツを見るのも聞くのも初めてだし、この完璧な友人が、こんな自信なさげに切ない声を出したのを聞くのも智紀も雅也も初めてだった。
「どういう意味だ?」
智紀が怪訝な顔をした。
「俺といると目立つんだそうだ。」
「………」
「くそっ!わかんねぇ!!何故だよ!?どう言う事だよ!?どういう意味だよ!?」
涼は吐き出すことのできない熱い想いに苛立ち、壁に拳を打ち付ける。

「うーん。そうだね……」
今まで黙っていた雅也が口を開いた。
「お前わかったのか!?雅也!」
「何故かはわかんないけど、どう言う事かはわかった。」
「どう言う事だよ?」
「桜庭先輩は目立ちたくないんだよ。」
「…?」
「先輩の言う通り涼といると嫌でも目立つ。みんな涼を注目しているからね。」
「ああ。」
それは自分でも自覚はしている。
そしてそれを当たり前だと受け止めてもいる。

「そして、先輩は目立ちたくない。あれだけ綺麗なのに、普通なら目立ってるはずだろう。なのに、誰も先輩の美しさを知らなかった。何故だと思う?」
「隠していたからか?」
「そうだ。隠していた。目立つあの人の美しさを。それは何故だ。目立ちたくないからだろう?きっと桜庭先輩はこの一年間、目立たないように目立たないようにひっそり学生生活を過ごしてきたんじゃないのかな。クラスメイトでもあの反応だからね。」
「何故……?」
「それは僕には分からないな……。目立ちたくない傷でもあるのか。知りたいのならあの人の過去でも僕は調べることもできるけど、そこまで関わるの?」
そこまで関わるとタダの興味だけじゃ済まなくなるよ、と言う目で雅也は涼を見る。
「頼む……調べてくれ。俺は…あいつのことなら何でも知りたい。すべてをモノにしたいんだ。」
これはただの興味じゃない。
あいつが欲しい。
桜庭遙が俺は欲しい。
たとえ何があっても受け入れてみせる。

雅也は黙ってうなずいた。

へ続く・・・<



ちょっと改訂。
中間にあった詩(みたいなもの)をとりました。
話の流れ上かなり違和感があったし・・・
あまりにも、クサかったからさ。

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