智紀は涼の告白を聞きながら内心かなり驚いていた。
智紀の目から見ても、何でもでき、何でも手に入れることのできる涼は、すべてのことに冷めていて、すべてのモノから一線を引いていた感があった。
自分のバックグラウンドを目的として近づいてくる者には、氷のように容赦なく切り捨て、人には執着せず、女も男も寄ってくる者と暇つぶしのように遊び、捨てる。
自分が涼の友人としてのポジションにいるのも謎なのだが、智紀は涼のバックグラウンドにも容姿にも興味がなかった。
その事を涼も感じていてそばでいても安心できるから、友人関係が成立して、この3年間ずっと続いているのだろう。
そんな涼が、人、ひとり、―――しかも、この学校の生徒だから、男だ。―――に執着するなんて………。
共に裏で遊んでいた中学の頃、男もつまみ食いはしていたみたいだったが、基本的には女専門のはずだ。
恋人として連れ歩いていたのは女ばっかりだったから。
涼が男に執着……?
いや、違う。
これは恋だ。
激しく燃え上がる恋。
こんな目をした涼を見るのは初めてだ。
―――それを、涼が自覚しているかどうかは知らないが。
―――初めての執着。
初めての恋。
協力してやりたい、と智紀は思った。
「涼が顔の知らないヤツ?」
「ああ、きっと外部生だ」
籐華学園は幼稚舎からのエスカレーター方式になっていて、中等部と高等部で外部入学者を10人程度採る程度である。
中等部の外部入学組の智紀と違って、涼は幼稚舎からの籐華組で、殆どが幼稚舎からの付き合いだ。
しかも、1学年200人程度の人数である。
前後2〜3学年の顔と名前はほぼ…いや、完璧に一致する。
しかし、あの時の彼の顔も名前も全く知らなかった。
「3学年分の外部入学組をどう調べるかな?」
「あては、ある。」
そういうと、涼は歩き出した。
******
ガチャッ
突然開いた扉に、籐華学園生徒会室にいた生徒会執行部の面々は会話を止めて振り返った。
「涼!どうしたの?」
嬉しそうに駆け寄ったのは、副会長の清水由宇だ。
大きな目をキラキラさせて、由宇は涼の肩に手をおいた。
「どうしたんだ、涼。ウチに何か用か?それとも、後期生徒会の生徒会長になってくれるのかな?」
穏やかににこりと笑って聞いたのが、会長の岡嶋貴士である。
「生徒会なんて面倒なモノしねえよ。それより、頼みがあってきた。」
「涼の頼み?なんだい?」
「1年〜3年までの外部入学者のリストと全校生徒の写真」
「何でそんなモノが欲しいんだ?」
涼は意味ありげに、ニヤリと笑う。
由宇は一瞬それに見惚れるが、ハッと気付いて
「いいけど、ただでは貸せないね。」
いたずらな瞳をして涼を見上げる。
「………何が欲しいんだ?」
こんな時の由宇は何を望んでいるか判りきっているだけに、涼は内心ため息を付きながら聞く。
「キス。」
生徒会室にいる面々、涼の後ろにいた智紀も『またか』とため息を付いた。
由宇はずっと涼のことが好きだった。
親同士の付き合いから、小さな頃からよく会っていた。
小学部の入学式で涼の制服姿を見て、落ちた。
それから、ずっとずっと、この2歳年下のつれない男を想い続けていた。
醒めた目をした、それでいて人を惹きつけずに入られないカリスマを持った涼。
そんな彼がずっと好きだったのだ。
あの顔・視線・オーラ魅了されない者なんていない。
涼から女の影が消えたことはなかったけど、本気でないのは判っていた。
冷たく、人から一線引いている涼は、すべてに冷めているのも判っていた。
でも、涼は由宇のわがままを結構聞いてくれた。
仕方ないな、という顔をして。
年上とか、プライドとか、そんなの構ってられなかった。
涼が夜遊び回ってるときもずっと付きまとって、よってくる人々に自分が特別なのを見せつけるようにした。
涼が中2の時、「男もいいらしいよ、僕と試してみようよ」と、いい加減女遊びに飽きていた涼を誘って、関係したこともあった。
涼はただの興味だけだったけど由宇には幸せなひとときだった。
幼なじみだから………。
それでも、涼にとって自分が他の人間とは違う……その事実だけが救いだった。
だから、試してしまう。自分のわがままを聞いてくれるか………。
ふっ。
涼は鼻で笑って、グイッと由宇の腰を引き寄せ唇を重ねた。
「……ん……」
歯列を割って、口腔を蹂躙する。
舌をからめ取り、裏側をなめると由宇から一気に力が抜けた。
「んぁ……は…」
角度を変えるときに漏れる、由宇のとろけそうに艶っぽい声と、濃厚なキスシーンに生徒会室にいた面々は顔を背けた。
ゆうに2分を越えて、あふれ出た唾液がツウッと一筋口の端を伝って首筋に流れた時、涼は由宇の躰を離した。
ガタンッ
腰が抜けた由宇はその場に座り込んだ。
「相変わらず、うまいね……涼」
「お褒めに与り光栄だな。じゃ、約束のモノもらうぜ。」
「ああ貴士、悪いけど出してあげて。」
「いいよ。」
机の中からファイルを取り出す。
他の生徒会員が本棚から写真を何枚か取ってきた。
「そんなモノ、何に使うのさ?」
「…さあね。」
涼はニヤリと笑って、智紀と共に生徒会室を出た。
「相変わらず、手玉に取ってるな。」
生徒会室を出た智紀は、からかうように涼を見た。
「由宇は結構可愛いところがあるから、無視できないんだよ。…使えるしな。」
智紀は涼の目の中に光った一瞬の冷たい光を感じる。
絶対的支配者がする、上に立つ者が持つモノ。
「フッ、怖いヤツだよ、おまえは。」
智紀は自嘲的に笑った。
******
「いない?」
「ああ……。」
生徒会室で借りた写真と、外部生の一覧表を全て照らし合わせても、涼の捜している人は見つけることはできなかった。
「もう一回見て見ろよ、見落としてないか?」
「俺があいつを見落とすわけがない……」
「どういうことだ。この学校の生徒じゃないのか?」
「わかんねぇ……。」
涼は頭を抱え込んだ。
3へ続く