涼のヤツ・・・・。
友達だからって、人前であんなマネ・・・・!
だけど―――
それでも、嫌悪感を覚えない俺は―――?
涼に、あんな事――キスとか・・・その他の事――されても、全然嫌だと思わない。
それより、妙に安心する自分がいる。
人に触れられるのは、子どもの頃から嫌いだった。
たとえ自分の母親でも―――
それが、涼になら触れられたい
触れて欲しい
これは―――
「桜庭君―――」
考え込んでいた遙に、後方から声がかかる。
「はい―――」
振り返ると、上級生――のバッチを付けている――が2人手招きをしていた。
「東雲涼君の事で、少し話があるんだ―――」
「涼の―――?」
「ああ、少し桜庭君にも協力して欲しくて―――」
「なんでしょうか」
上級生だった事と、涼の名前が出た事で、普段なら他人を酷く警戒する遙が、警戒を解いてついて行ってしまった―――――。
しまった―――――。
裏庭に連れてこられ、数人の生徒を見たとき、遙は、自分の陥った事態がようやく判り始めてきた。
「ようこそ、桜庭遙君―――」
真ん中に立っている男が、手で顎を撫でながら声をかけてきた。
「別にオレら、桜庭君には恨みも何にもねーんだけどさぁ」
一人の男が、ニヤニヤと下品な笑い顔を向ける。
「恨むんなら、東雲を恨めよな〜」
遙の目の前に顔を持ってきて、煙草の煙を吹きかける。
思わず、ゴホゴホッと遙はせき込んだ。
そうか、涼を恨んでいるヤツらか―――。
妙に、ホッとした―――――。
副会長、清水由宇と同じ事を云われるのではないか―――と、遙は思っていた。
由宇にはあのような口を利いたが、遙は由宇の云っていることは当たっていると思っていた。
東雲グループの次期当主候補―――。
当主でなくても・・・・・。
―――ジブントトモニイルベキニンゲンデハナイ。
あの時、それを突きつけられたような気がした。
だが―――離れられない。
離れたくない―――――。
「―――で、僕をどうする気ですか?」
遙は、落ち着いた声で、男達に質問した。
「へぇ〜。自分の陥った立場が判ってるのか。あんた。」
「だから、どうする気だ、と聞いているんだ・・・・」
「―――オレ達は、あいつを、東雲を痛めつけてやりたい。それには、あんたを傷つけるのが一番だと判断したんでね・・・・・」
「それで―――?そうか、なるほど。涼にはかなわないから、その変わり僕を殴るのか。確かに僕なら、先輩方にはかなわないでしょうから。」
淡々とした口調で答える遙の言葉に、男達はいきり立った。
「なにぃ―――!!あいつにかなわないだとぉ―――――!!!」
「何も知らねぇくせに。ナマな事云いやがって」
「へぇ――、人間図星を指されると、怒り出すって本当だったんですね。」
皮肉な笑みを浮かべて、遙は男達を見やった。
「てめぇ―――!!!」
遙の一番近くにいた男が、遙に飛びかかって頬を殴りつける。
ガッシャーン
遙のメガネが宙を舞う。
遙は殴られた頬に手を当て、自分を殴りつけた男をキッと見据えた―――。
「あ―――――」
男達が息を呑む―――。
しまった
メガネが―――
遙が気が付いたときには、遅かった。
「なーるほど。東雲がお前に拘るのが判ったぜ。」
リーダー格らしき男が、遙に近付いてきた。
まわりの男達も、ジリジリと近付く。
「その顔か―――。あいつは女好きらしいけど、コレじゃ転ぶのも判るな。俺も男を襲う趣味はないが、ゾクゾクするぜ―――」
「なあ―――。やっちまおうぜぇ」
息を荒くした男が、遙の肩に手をかける。
「はっ、離せ―――」
遙は反射的に、その手を払いのけた。
それが、切欠になる―――――。
「やめ―――!離せっ!!!」
シャツが強引に破かれ、ボタンが飛ぶ―――
遙は、持てる力を全て使い抵抗を試みた。
だが
6人の男に
両手両足を押さえつけられ―――
のし掛かられ―――
全く身動きができなかった・・・・・・・。
「やだっ、やめっ―――んうっ」
のし掛かっていた男に、唇がふさがれる
そのまま侵入してきた舌に、口腔内を蹂躙される
きもちわるい
気持ち悪い
キモチワルイ
涼とキスをしたときは、こんな気持ち一回もなったことがなかった―――。
スゥ―――、と一筋の涙が、自然に目尻から流れ落ちる。
その顔、その姿を見て、男達はゴクッと、音を鳴らして唾を飲み込み、乾いた唇を舌で濡らした―――。
イヤだ
イヤだ
イヤだ・・・・・・。
涼
涼じゃないとイヤだ―――――。
目を閉じ唇を噛み締め、遙は、涼のことだけを考えた―――。
その時―――
「貴様ら――――――」
涼の声が聞こえたかと思うと、遙の上にのし掛かっていた男が吹っ飛んだ。
「涼―――?」
遙が瞳を開けると、そこには
男達を殴りまくっている涼の姿だった―――。
涼の足下には、すでに3人の男が倒れており・・・・・・。
残りの男達も、フラフラだった。
涼はワケの分からない唸り声をあげながら、残りの男達に、拳と蹴りを繰り出していく。
遙の目の前で、一人、また一人と倒れていき
最後の一人も、遂に倒れた
だが、涼は倒れた男達をまだ蹴りつけている―――。
「涼―――!!」
様子がおかしい
遙は立ち上がって、涼の元へ行く。
「涼!」
声をかけても、全く反応しない涼に後ろから羽交い締める。
それでも、暴れようとする涼に、遙は必死に声をかけた
「涼。涼!僕は大丈夫だから―――!!!」
「―――――――――――――――――――――――――――は・・・・・・るか?」
「うん。僕だよ。僕はもう大丈夫だから。だからもう、やめるんだ―――」
フッっと、涼の肩から力が抜ける。
遙もそれで、ホッとし涼を羽交い締めしていた腕を下ろした。
「遙――――」
涼はギュッと遙を抱きしめた
その胸の中で、遙はホッと安心する。
「ゴメン、遙。俺の所為だ。俺の所為で―――。ゴメン。ゴメン。ゴメン―――」
「僕は大丈夫だよ―――。涼が悪いんじゃないから、謝らないで。」
「遙―――ゴメン。でも―――好きなんだ」
「涼・・・・・・・」
涼はそのまま、遙の髪の毛に顔を埋め「ゴメン――」と繰り返した。
遙はそんな涼を慰めるように、彼の背中をぽんぽんと優しく叩いてやっていた。
「涼――!遙さん――――!!」
「智紀・・・雅也・・・・」
「大丈夫か・・・・って、もう遅いな―――」
雅也は、地面に倒れている男達に視線を落とす。
遙は、智紀と雅也の後ろについてきたクラスメイトに目を向けた―――。
「君たちは―――?」
「この方達は、遙さんの危機を僕たちに教えて下さったんですよ―――」
「先に、俺の所に来た」
涼は、遙を腕の中で抱きしめながら、ボソッと呟いた。
遙は驚いて、クラスメイト達を凝視する。
クラスメイト達は、初めて見た遙の素顔を呆然と見つめていた。
涼―――
キミの云うとおりだ。
こうして、僕の過去を知っても・・・・・心配してくれる人がいる。
助けようとしてくれる人達がいる―――。
『7年前とは違う。きっと違う反応をする』
本当だ・・・・・・。
僕は
何をそんなに恐れていたんだろう―――?
「ありがとう。」
クラスメイトと智紀と雅也の方を向いて云う。
「ありがとう―――」
自然に微笑んだ遙の笑顔に、クラスメイト達は一気に顔を真っ赤に染め、智紀と雅也は「うわっ」と小さく叫ぶと視線を反らした。
そして、涼は―――
その場で頭を抱えたのだった。
智紀と雅也の首尾で、この事件は上手く処理され教師陣にばれることはなかった。
服を破かれ、ボロボロになってしまった遙は、とりあえず今日はこのまま帰ることにし、涼達は、事後処理のため学校に残ると云うことで、その場で3人とは別れた。
夜。
遙は風呂に入りながら、今日のことを思い出す。
色々あったな―――。
自分の過去の記事
清水由宇との事
自分を襲った男達
心配してくれたクラスメイト
そして
涼への気持ち―――。
涼への気持ちは・・・・・・・・・
もう、友人の好きではないことを自覚していた。
幼なじみであり、無二の親友の顔を思い出す・・・・・。
あいつにも、こんな気持ちになったことはなかった。
メガネ、壊れちゃったな・・・・・・。
中一の時親友がくれたのもだった。
『せめて、コレを架けて、身を守ってくれ―――』
そういって笑っていた、失ってしまった大切な親友―――。
ギュッと胸が痛くなって、遙はお湯の中に身を沈めた。
ピンポーン
いつもの時間に、いつもの様にチャイムが鳴った。
「おはよう、涼」
遙はいつものように迎え入れる。
「遙・・・・・よかった。そんなに腫れてない―――」
涼はドアを開けた途端、遙の頬を触れて息を吐いた。
「大丈夫だよ。そんなにヤワじゃないって―――」
「遙を殴るなんて―――あいつら、やっぱり殺してやればよかった・・・・・・」
「馬鹿なこと、云ってるんじゃない。さぁ、学校に行こう」
まだ不満そうにしている涼の髪を、クシャッとかき分けてやり、遙は鞄をもって靴を履いた。
校門の所まで来て、涼はふと立ち止まった。
「涼?」
「―――遙・・・あの、これ」
涼が出してきた手の中には、レンズの割れた遙のメガネがあった。
「ああ―――」
「昨日のこと思い出すから、捨てた方がいいって雅也には云われたんだけど、遙のだから」
「ありがとう。このメガネには少し思い入れがあるから―――昨日のどさくさで諦めてたんだけど、とっておいてくれてウレシイよ・・・・・・」
遙は、涼の手からメガネを受け取ると鞄にしまった。
「遙・・・目、見えるか?今日帰りに買いに行く?」
不意に考え込んでしまった遙に、涼は心配そうに声をかけた。
「え―――」
顔を上げると、遙の目の前には『やっぱり、返すんじゃなかった。昨日のこと思い出したんだ―――』と顔中に“心配”の文字を刻んだ涼が立っていた。
そんな涼の姿が、遙は凄く愛しくなった。
普段毅然として他人を拒んでるくせに―――何で、僕の前ではこんなに可愛いんだろう・・・。
もう、目が離せないよ。全く・・・。
「涼。そんなに心配しなくて大丈夫だよ。それに気が付かなかった?あのメガネ。ダテなんだよ。」
「へっ?なんで」
「・・・実は、僕が中一に上がった頃から妙に痴漢には遭うし、一人で歩いてると声をかけられるし、暗い道を歩いてると、車に何度も連れ込まれるから・・・・・それを心配した友人が『せめてコレを架けて、自分の身を守ってくれ』ってくれたんだ。コレをかけてからは、グッとそんな目に遭うのが減って、それからずっとかけてたんだよな・・・・・」
「なっ・・・・・・・!」
「でも、コレも、もういらないかなぁと思ってたんだ。このメガネは、僕の身を守るモノでもあったけど、他人とは関わりたくなかった僕自身すべて隠すモノでもあったんだ―――」
「遙―――」
「でも、もうそんなモノいらない―――」
自信満々に答える遙は、綺麗だった。
会ったときより、どんどん綺麗になっている。
その姿を全ての人々にさらすのだ。
涼は、一気に心配になった―――。
「変なヤツに襲われそうになったら、涼が助けてくれるんだろう?」
そりゃ、僕も抵抗するけどね―――。
いたずらっ子のような表情で涼の顔を覗き込む遙は、この場で押し倒して抱き潰してしまいたくなるほど、魅力的だった。
出し惜しみなく振りまかれる笑顔。
登校してくる生徒達が皆振り返り、顔を紅くする。
殻を剥いでしまったのは自分だけど、すでにかなり後悔している涼であった。
遙を人目から隠したくて隠したくて仕方なかった。
悶々と自分の気持ちと戦っていた涼に、遙が近寄ってきて何か囁いた
「え・・・・・・・?」
「―――もう一回、云わせる気か」
遙は少しムッとした顔をしたが、頬は少しピンク色に染まっている。
もう一度、涼の耳元に口を寄せると、遙は優しく囁いた。
「涼―――。涼が好きだよ。一番好きだ―――」
「は・・・・・・るか・・・・・・・」
呆然と見返してくる涼に、遙は照れ笑いで答えると、そのまま教室に向かって走り出した。
「涼、何こんな所で座り込んでるんだ―――?」
登校してきた智紀の目の前に、頭を抱え込んで座り込んでいる涼がいた。
「涼―――?」
「――――――した。」
「へっ―――?」
「腰抜かした―――」
「はあ―――?」
それ以上涼は何も云わず、智紀の手を借り立ち上がる。
「俺、絶対、遙に振り回されるよ―――。今でさえ、コレだモンな・・・・」
智紀は、溜息を吐き愚痴る友人を見ながら、
「いいじゃん。お前今まで他人を振り回し続けたんだからさ。一人ぐらいお前を振り回したって―――」
初めての恋が成就した事を、心から祝った。
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