楽園5 −中編− |
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「おっさんっ!」 「・・・博隆?」 突然頭上から降ってきた声に、和成も渚も驚きの声をあげた。 寝室の入り口に立っていた博隆は、つかつかとベッドの方へと近づくと、渚に圧し掛かっていた和成の腕を掴んで、そのまま力いっぱい引き摺り下ろした。 「う、わっ――!!」 「和成っ」 引き摺り下ろすというより、放り投げたという言葉が近いかもしれない。 男に力いっぱい引き摺り下ろされた和成は、そのまま横の壁まで吹っ飛んだ。 ガンッ! という音を立てて、和成が壁に叩きつけられる。 うずくまった和成に、渚は真っ青になった。 慌てて起き上がって和成の元へ行こうとした渚を、男は押しとどめる。 「離せ、博隆っ!」 「それは、できねぇ相談だな」 肩を押さえられ、渚は身動きがとれない。 「いい格好してるな、渚ぁ…」 ニヤリと笑う男の口の端から犬歯が見える。 だが、目が笑っていない。 渚はその目と笑いに、躯中がゾクゾクゾクッと総毛立つのを感じた。 ――や、ばい。 「く、くるな…」 「ヒドイ男だよな。俺というモノがありながら、若いツバメちゃんと乳繰り合ってるなんて、なぁ――」 「ち、乳繰りって…ち、違うぞっ」 ブンブンと頭を振って否定するが、男の手は緩まない。 ニヤニヤと笑うその笑顔に、渚は恐怖を感じた。 「どこ、触らせたんだ? ん?」 「や、やめっ! お前っ、離せっ…! 落ち着けって」 男は渚の足を掴むと、その腕を左右に大きく開く。 男の目の前でさせられた無防備な格好に、渚はカッと頬を染めた。 「離せっ・・・! 博隆っ!!」 「ココに、挿れさせたのか?」 伸ばしてきた指が、渚の奥に触れる。 その感触に、ピクリと渚の躯が揺れた。 「っ・・・!」 入り口を数度その冷たい指でなでると、博隆はその中へ指を躊躇なく突っ込む。 「んー? もっと欲しい欲しいって締め付けてくるぜ。ガキのを咥え込んでたんじゃねぇのか?」 「っ・・・ヤ、って・・・ないっ」 中をグチャグチャと強引にかき回され、渚の息があがる。 さらに指を増やされ、中を広げるように動く博隆の指を、渚は中でダイレクトに感じた。 「んなの、判んねぇなぁ。挿れて確かめないと」 「たかっ・・・! やめっ」 あられもない格好をしていうだけで、渚の羞恥心はピークに達しているというのに。 このまま、博隆に挿れられてしまったら――。 「お前に、拒否権なんてないだろ? 渚」 顔を近づけて渚に宣言した博隆の目は、獣そのもので。 抵抗する為暴れていた渚は、思わず躯を固くした。 「俺ので確かめてやる。お前が他の男を咥え込んでよがってたのか、違うのか」 「俺は和成とは、ヤって――」 渚の言い訳など聞く耳持たないとばかりに、男はベルトをはずして自分のスラックスをずらすと、既に臨戦態勢となっている己のモノを掴んで、渚の暴かれている蕾へと先端を押し当てた。 クチュリといやらしい音がして、熱い男を己の入り口に感じだけで、渚の躯は震える。 そう、これから訪れる快楽を期待して――。 「ぁ――」 ゆっくりと進入してきた男のソレを、渚の内壁は喜んで喰い締める。 男の形。 男の熱さ。 全て、渚の躯は覚えている。 誘うように、奥へと奥へと誘導する。 そんな動きがダイレクトに渚に伝わり、渚はギュッと目を閉じた。 ――結局、この男がする事を俺は受けてしまう。 理性が「イヤだ」「駄目だ」というのに。本能はこの男を待ち望んでしまっているのだ。 「こんな風に、ガキにも奥まで擦ってもらったのか? んー?」 「・・・っ、て、ないっ・・・ひろ・・・!」 男は容赦なく、渚を攻め立てる。 渚をいたわることなく、いつにも激しいその動きは、まるで渚を責めているようだ。 「ココ、お前のイイとこ・・・、ガキのアレで突いて貰ったんだろ?」 「あぁっ――」 奥に眠る渚の快感のツボを、博隆は何度も突きあげる。 それだけで耐え切れなくなった渚は、男に触れられる事なく欲望を介抱した。 ゼイゼイと息をきらして、ベッドに力なく横たわる渚に、男は容赦なく腰を動かす。 「今日はこんなもんで終わると思ってねぇだろうな。お前のココが何も出なくなるまで搾り出してやる・・・!」 「ぁ・・・うっ・・・たかっ、も・・・」 言葉通り、渚はその夜一睡も出来なかったのだった。
――一族経営、ココに極まれり・・・だな。 渚は、瀬野商事本社へと来ていた。 瀬野グループのトップ企業。 社長の名は、瀬野基・・・渚の兄で、和成の父。 本社ビルの29階にある、大会議室。 そこに集められた面々を見るだけで、渚は気分が悪くなる。 見事に、瀬野一族で固められた――瀬野グループの中枢を担う面子が、今日ココに集められていた。 もちろん、渚の兄達も。 「配った資料に目を通して欲しい」 基の言葉に、まわってきた用紙に目を通す。 渚は笑い出しそうなのを、こらえるのに必死だった。 ――今頃、こんな事を・・・。 瀬野が筆頭株主として株を有し、グループ会社としていた数十社が、瀬野以上の株を有した別会社に筆頭株主としての地位を乗っ取られていたのだ。 資料を読んだ役員達から、ザワザワと声があがる。 「なぜ、こんなに乗っ取られる前に判らなかった!」 怒りに声を荒げたのは、瀬野忠雄。 瀬野グループの会長として、いまだに一番の力と発言力を有している男――渚の父だった。 「IR担当は誰だ! 何をしていたっ」 忠雄の言葉に真っ青になったのは、瀬野純一。渚の3番目の兄。 「純一、お前は何を見ていたのだっ!」 「と、父さん・・・。抜かれた数十社は全部、外部だったし・・・そこまで見てられなかったんだよ――急にバババッと持っていかれちゃって・・・」 ボソボソと言い訳する純一に、忠雄の怒りが降り注ぐ。 「本当にお前は、何の役にも立たないなっ! 社を任せられないからと、内部の事を任せればコレだ・・・。で、小さな会社といっても我がグループ会社たち。乗っ取りをかけてきたのは、どこだ」 純一から基へと、視線を移すと、忠雄は冷静に問うた。 「MRA社。IEE社。TRI社。全て投資ビジネス系の会社です」 「聞いたこともない会社だな。3社もあるのか・・・ソレが連動したようにウチの株を買い上げた・・・?」 忠雄の疑問に、基は「ええ・・・」と答える。 「3社とも、新しい会社です。まだ調べがついていませんが、どこか大きな企業が関わってる会社だと思っているのですが」 「早急に調べろ。判ったら対策も立てられる」 「はい――」 それだけ言うと、忠雄は再びイスへと座った。 「役員の皆さんにも、注意しておいてほしいのです。それと、何か情報が入れば、すぐに連絡を――。コレは、たぶん瀬野始って以来の危機かもしれませんから」 基の言葉に、そこに居た面々はゴクリとつばを飲む。 全員が全員、瀬野にしがみついている人間だ。 瀬野の崩壊は、自分の身の崩壊。 自覚しているからこそ、基や忠雄の言葉の重みに、ただ息を呑むしかなかったのだ。 「李との提携はどうなった」 静まった会議室に、再び忠雄の声が響いた。 「それが――」 香港トップ企業の李との提携。 それは、瀬野商事が中国へと本格的に進出する足がかりだった。 「一度会見して、殆ど話しが纏まっていたのですが――。突然、断りの連絡が入りました」 「・・・何?!」 基の言葉に、再び忠雄が声を荒げる。 「お前が行ってまで、話をしたのではなかったのか? 基」 忠雄は基の力を信じている。 基だけは信じているといっても過言ではない。 あとの子――反抗的な渚を除いてだが――には、もう何も期待はしていない。 企業をすべるものとして器がないのを見抜いていたから。 自分に従順で、出来る力を持つ基。 跡継ぎとして、不満はなかった。 「はい。後はお互い契約書を交わして締結するところまで行っていたのですが――急に昨日、白紙に戻したいとの」 「・・・どういうことだ」 忠雄の言葉に、基は冷静に言葉を紡ぐ。 「・・・判りません。ただ、何かあったのだと思います。何かが。それは今調査中ですが――」 「・・・・・・何か、が動いているというコトか」 忌々しい・・・と忠雄は吐き捨てると、立ち上がった。 「全て、調査中という事だな。とりあえず。ここ数日には必ず調べ上げて、答えを出せ。その時にもう一度話を聞こう」 そういうと、忠雄はそのまま会議室を出て行った。 その後ろには、もちろん飯島が付いて行く。 忠雄が部屋を出た途端、、どこともなくため息が漏れた。 皆が皆、緊張していたのだろう。 渚はその面々を見ながら、これ以上ここに居る必要はない――と、立ち上がった。 浴びせかけられる視線を感じながらも、平然と部屋を出ようとした時、背後から肩を叩かれる。 「・・・基兄さん」 「渚、香港以来か。急に呼び出して悪かったな」 「いえ・・・。兄さんも大変な事に」 先日、博隆に無理やり連れて行かれた香港で、偶然兄夫婦と和成と会った。 そして兄の目的を知った渚は、その取引の邪魔をするために画策したのだったが――それは、見事に成功したらしい。 そんなことは、基はもちろん知らないのだが――。 「いや。取引にかまけて、株の方まで見てなかった俺の責任だ・・・。アイツの無能さは、判っていたはずなのにな」 このように己の弟を辛らつに言う兄を見たのは、始めてみたかもしれない。 渚は驚きで、思わず兄を見入った。 そんな渚に、基はふっと笑う。 「・・・和成が、昨日お世話になったそうだな」 「あ、ああ――」 ――お世話どころか、襲われそうになりました。 とは、渚はもちろん口に出来ない。 昨晩は、結局明け方まで男にヤり続けられ意識が飛んだ。 目覚めた時には、男も・・・そして、男に放り投げられた和成も居なかった。 本来なら探すべきだったのかもしれないが、この会議があったから・・・探すことも出来なかったのだ。 「お前も、もし迷惑ならちゃんと和成に言ってくれよ。言えば判る子だから・・・」 「いえ。本当に迷惑ならちゃんと言ってますよ。俺としても和成は弟みたいに可愛いんで・・・」 「・・・・・・。そうか、それならいいんだが」 渚の言葉に一瞬視線を外した基だったが、小さく息を吐くとゆっくりと微笑んだ。 「数日後、また召集がかかるだろう。お前も自分の社で忙しいだろうが、参加してくれ」 「判っています」 ぽんぽんと肩を叩くと、基は他の役員の元へと行った。 ――兄は、どれだけ知っているのだろう。 自分の気持ちを。 考えても仕方のないことなので、考えないようにしているが。 兄の真意が判らない今、彼に全てをさらすことなど出来ないのだから。 「渚、様――」 本社ビルを出たところで、声がかかる。 「飯島・・・」 「お時間、宜しいでしょうか?」 「・・・俺に、断る選択肢があるのか?」 渚の言葉に、飯島はユックリと微笑む。 「昼食を、ぜひにと・・・」 「・・・・・・」 「社長」 黙りこくった渚に、背後へと控えていた志野が声をかける。 「ああ、判ってる。俺に断る術は無いんだ」 飯島に案内され、車に乗ろうとすると、志野もそのまま着いてくると言い出した。 「あの方は二人でお食事をと言っているので、志野君も控えてもらえるかな?」 「ええ、判っています。ただ、その場までは着いていかせて頂きますが」 「承知しました」 そうして、渚の大嫌いなベンツに、飯島と渚と志野が乗り込んだ。 車は首都高速を走る。 渚を、敵の元へと連れて行くために。
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2005.01.21 |