楽園5 −前編− |
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「やっと何かがおかしいと気付いたのか。凡庸だな――」 本社からまわって来た書類を指で弾くと、渚は目の前にいた志野へニヤリと笑った。 志野は何も言わず、フッと笑う。 その書類というのは、瀬野グループ幹部役員の招集を求めるもので、今日回ってきたわりに、明日の会議という緊急を要したものだった。 しかも、どの仕事も後回しにして、全員必ず参加という――。 「相変わらず本社というのは、こっちの都合を全く考えないな・・・」 「まぁ、大きな会社になればなるほど、下々の事など考えないものですよ」 皮肉な志野の言葉に、渚はフフンと鼻を鳴らした。 本社の人間が聞いたら、怒りで顔を真っ赤にしそうな事を、鼻で笑ってあげつらう。 「さて、明日はあいつらの間抜け面でも・・・見に行くかな」 「ふふっ」 渚は手を伸ばしてテーブルのカップを掴むと、冷えかけたコーヒーを一気にあおったのだった。
「なーぎーさー」 向こうから走ってくる甥っ子に、渚は軽く手を上げた。 勢いよく飛び込んでくる躯を、両腕で受け止める。 「和成、お前な。いつもそう、力いっぱい飛び込んでくるなよ。躯でかいんだから」 渚ほどではないが、和成も170センチを超える身長を持ち、既に青年期へと入りつつある肉体を有している。 勢いよく飛び込んできた躯を受け止めるのも、なかなか大変なのだ。 「えへー」 渚の苦労を判っているのかいないのか、和成は渚の首筋に己の鼻の頭を摺り寄せる。 「お前は・・・」 仕方ないな、とばかりに渚は和成の頭をぽんぽんと軽く叩いた。 「だって渚。久しぶりだしー」 「・・・久しぶりって、この前会ったじゃないか。香港で」 先日、博隆に無理やり連れて行かれた香港で、和成親子に会ったのだ。 思い出したくも無いコトを渚は、博隆と・・・そしてこの子犬のように尻尾を振っている和成にまでされたのだが――。 「あん時は、おっさんだっていたじゃん。二人きりは久しぶりー」 ゴロゴロと懐く姿は、この大きな体格をしていても子供としか思えなくて。 やぱりこの甥っ子が可愛くて仕方の無い渚だった。 「なーなー。オレ、渚のパスタ食べたい!」 無邪気な和成の言葉に、渚の苦笑が漏れる。 「そんなのでイイのか? どこか美味い飯を食いにでも――」 渚の言葉に、和成はブンブンの頭を横に振った。 「ううん、いらない。そんなのいつでも食べれるし。それより、オレは渚のうちで渚のパスタを食べたい!」 「わかったわかった」 腕を絡めてくる和成に苦笑しながら、一緒に車へと乗り込む。 以前はプライベートでは電車を使っていた渚だが、さすがに今の立場や安全性などを考え、今は車を使っている。 「渚、なぎさっ。今日は泊まってもいい?」 二人が乗り込んだのを確認して、運転手はスムーズに車を出発させた。 「ちゃんと、義姉さんに連絡するんだぞ?」 「うんっ、もちろん」 いつも和成を心配している義姉に、よけいな心配をかけさせるわけにはいかない。 和成も、母の事を大切にしているので、渚の気遣いについてはキチンと理解しているようだ。 車は渋滞に巻き込まれる事もなく、スムーズに渚のマンションへと横付けされた。 「ありがとう。また明日頼む」 「お疲れ様でした」 運転手と挨拶を交わすと、渚は車を降りる。 先に降りていた和成が、早く早くと手招きしているのを苦笑して見ると、マンションのエントランスへと足を進めた。 暗証番号とカードを差し入れてると、強化ガラスで閉ざされた入り口が開く。 エレベーターで最上階まで行くと、そこには一室しかない。 渚が本格的にケヴィン達と動き出してから、よりセキュリティーが強固なこのマンションに移ってきた。 瀬野から与えられたマンションに警戒していた・・・というのもあったのだが。 「おじゃましまーす」 和成は部屋に入る時、無意識に口にする。 この辺礼儀の正しさは、きっと義姉の教育の賜物なのだろう。 「その辺でくつろいでおいてくれ」 渚は服を着替える為に、クローゼットのある部屋へと足を向ける。 ほとんど生活臭のしない部屋は、まるでモデルルームのようだ。 確かにこの部屋には、寝に帰っているだけだったりするのだが。 クローゼットのみがあるだだっ広い部屋で、スーツを脱いでラフな格好へと着替える。 広いキッチンから繋がるリビングへと戻ると、和成がテレビをつけてソファへ転がっていた。 「ほんと、渚の部屋って殺風景だよねー」 「別に、不便じゃないからコレでいいと思うんだけどな」 キッチンへ向かいながら、渚は和成に答える。 「だって、なんか寂しくない?」 観葉植物の一つでも、置けばいいのに――。 そういう甥っ子に、「そうだな」と、渚は苦笑した。 あえて。 あえて、殺風景にしているのかもしれない。 ここは、長くいる場所ではない――そう、今動いている事が成功しても、たとえ失敗しても、ここにはいられないだろうから。 確実に時間は動いているのだ。 「うまいー」 「それはよかった」 もぐもぐと豪快に食べる和成の様子を、渚は優しい目で見る。 「渚、どうやってこんな店で食べるみたいなの作れるの?」 「ん・・・? 別に。ソフリットを入れてるから、それらしい味になるんだと思うよ」 「ソフリット・・・何それ?」 「ああ――」 普段、外で食べるか仕事相手の会食か一人で食べる事しかない渚にとって、和成との食事は楽しいものだ。 食べてくれる人がいれば、作りがいもある。 「そーいえば渚。最近、忙しいの?」 「いや…普通だが。どうしたんだ?」 ガーリックトーストを頬張っていた和成は、ゴクンと口の中のモノを飲み込むと、上目遣いに渚を見上げる。 「いや、さ。最近親父が――、全然家に帰ってこないんだよな。どうも、仕事で色々トラぶってるのか、忙しいみたいで」 「ん――。本社の方で、何かあったのかな? 俺の方には何も伝わってきてないけど」 「だよな・・・」 和成は、普段は父親に対して特に何かをいう事はない。 特に仕事の事に関しては。 その和成が、こうして渚に父親の事を聞いてきたのである。 それほどまでに、基は何かに追われているという事だ。 「大丈夫だよ、きっと。何か大きなことが起こったら、きっと俺まで話が回ってくるはずだから」 「・・・だよね」 ホッとした表情をして、再び目の前の食事に目を向けた和成は気づいていなかった。 渚の口の不敵な笑みを浮かべていたことに。
「ちょっと、待て――和成」 「何を?」 余も更けて寝ようという段階で、渚は目の前の甥に向かって引きつった顔で問うた。 「どうして、俺のベッドの中に入ってきているんだ?」 「一緒に寝たいから」 さすがにこの甥っ子が、ただの子犬ではない事は判っている。 あの不遜極まりない男と一緒に、何度痛い目にあっているか――。 「あっちの部屋にベッドがあるだろう。そこで寝なさい」 「渚と一緒がいい。駄目?」 じっと渚を見る目に、一瞬息がつまる。 ――だから、そんな目で俺を見るなってば。 子供の頃から変わらない瞳。 純粋な、目。 瀬野の家で蔑んだ目で見られ続けていた渚にとって、純粋な和成の目は何度となく救いになった。 だからなのか。 和成のこの目には、渚は弱い。 とても。 「渚――」 伸びてきた手が渚の肩にかかる。 「か、かずな・・・り?」 ぐっと和成の手に力が入り、渚はそのままベッドへと押し倒される形になった。 「ちょ、っと・・・待て」 「待たない。待たないよ、渚。俺、渚が欲しい・・・」 「ま、ま…」 ――待て待て待て待てぇぇい! という渚の叫びは、和成の口腔内へと飲み込まれる。 「…っ、う、っん…」 歯列まさぐり、和成の舌は易々と渚の奥へと入り込んだ。 思わず逃げる渚の舌を捕らえ、和成は己のモノと絡ませるて歯をたてる。 ピクリと、揺れる肩に笑みを浮かべると、和成はさらに深く唇を合わせた。 ――く、っそ。なんでこんなに上手いんだ…。 なんて感心している場合じゃない。 渚は、のし掛かっている和成をどけようと、両手で彼の肩を掴んで押しのけようと力を入れた。 だが、思ったより和成の力は強い。 「んっ! っなせ、和成っ」 やっと和成の唇から逃れた渚は、叱り付ける様に圧し掛かる甥っ子に向かって叫んだ。 「やだ。離したら、渚させてくれないじゃん」 「ったりまえだ!」 「じゃ、やだ」 「和成っ!」 和成の肩にかけた渚の腕が、和成に掴まれる。 「くっ…!」 思ったより強い力に、渚は顔をしかめた。 和成の肩から引き剥がされそうになる手に、力を込める。 「渚…」 「和成、離せ。俺の上からどくんだ」 真剣な顔で渚が和成に言った途端、和成の動きが止まった。 判ってくれたのか、と渚は内心ホッと息をつき、手の力を少し抜く。 だが、渚が力を抜くと同時に、和成は渚の目の前へ顔と近づけてきた。 息と息が触れ合う。 長い和成のまつげが、渚の頬に触れてしまう程の至近距離。 目と目がその距離で絡んだ途端、和成は満面の笑みを浮かべた。 そして―― 「渚、大好き」 蕩ける笑みでの和成の言葉に、渚は思考回路が停止して硬直してしまった。 そんな渚を見て取った和成は、大胆に再び唇を合わせると、己の肩を抑えていた渚の両手首を掴んで、先ほど躯を拭いていたバスタオルで器用に縛る。 「ちょ、お前…」 硬直が解けた渚は、己の手が縛られ使い物にならなくなっている事に、思いっきり慌てた。 「和成、外せって」 「やだー」 甘えた声を出しながら、和成の手は大胆にも渚の躯をまさぐる。 シャツの中に手が進入し、胸の突起を人差し指と中指で挟まれた渚の躯は、ピクリと震えた。 「か、和成っ!」 「渚…抱きたい。抱かせて?」 耳元で囁く声は、渚の知っている子犬の甥っ子ではなく――男そのもので。 渚は本気の本気で焦っていた。 「和成、お、お、落ち着けっ。お前、俺は男だって…」 「そんなの、知ってるに決まってるだろ」 当たり前だ。もう、何年の付き合いなんだか。 「男が抱くのは、女だって! お前、ヤりたい盛りだからって・・・」 「――渚、おっさんに抱かれてるじゃん」 「…ぐっ」 身も蓋も無い言われようだ。 だが、確かに渚は何度か和成の目の前で博隆に抱かれている。 無理やりだったかが。 なので、言い訳のしようがない。 「だったら、オレもいいでしょ? 渚がいいんだ。渚じゃなきゃ嫌だ。渚以外、いらない――」 真剣な和成の言葉に、渚は息を呑む。 これまで和成は、単に渚に懐いているのだと思っていた。 可愛がってくれた叔父に対しての親愛の情。 行き過ぎた事もあったが、それも博隆に対する対抗心の賜物だと。 だが…。 この目は――。 雄の目だ。 「んっ…あっ」 伸びてきた手は、渚の下半身をまさぐり、その部分を手のひらで包み込む。 「和成、やめ――」 ギチギチと手を縛るバスタオルを外そうとするが、思ったよりソレは固くて外れない。 「やめない。やめないよ、渚…。ココにオレを挿れさせて――」 「んっ…!」 和成の指が、渚の奥の蕾に触れ、その指が中へと進入しようとその周りを撫でる。 ――洒落にならないって。止めさせないと…! 「渚、舐めて…」 渚の口の中に差し込んできた、和成の指。 噛めば…噛めばいい、と思うのに、やはり渚には噛めない。 彼を傷つける事は、どうしても渚には出来なかった。 そんな葛藤を知ってか知らずか、和成はその渚の唾液で濡れた指で、再び渚の蕾へと触れた。 敏感な部分への濡れた感触に、渚の躯は震える。 クチュ…という音と共に、その指は渚の中へと進入を果たした。 「あっ…」 「渚の中、熱い――」 駄目だ、駄目だと――思うのに。 博隆によって慣らされた躯は、その指を誘うように食い締める。 「すっげ、渚。中、動いてる。中に中にって…」 「か、ずなりっ! 抜けって…」 「挿れたい…渚」 挿れていた指を抜いて脱がしかけていた渚の服を下着ごと取り払うと、和成は渚の両足の間に己の躯を入れた。 「和成っ! 止めなさいって」 「渚、すごい色っぽい…」 肩足を抱え上げると、太ももの内側に歯を立てる。 「あっ…」 敏感な部分の刺激に、思わず渚の口から声が漏れた。 「ほんとは、もっと舐めて感じさせてドロドロにしてからヤりたかったけど、オレ…もう我慢できない。ごめん、渚――」 「和成っ! ごめんじゃないから、今すぐ止めろ・・・!」 「それは、無理」 両足を抱え上げられて、カチャカチャと和成が己のベルトを外す音がする。 足で暴れようとするが、すぐに和成の手で押さえられて上手くいかない。 ――マジで、洒落にならないって。男同士で、甥っ子となんて…!! 「和成、やめ――!!!」 「渚…」 ――神様仏様キリスト様…俺は無神教だけど、誰でもいいから…助けてくれぇぇぇ!!! 渚の心の叫びが、神に通じるわけは無かったが、とりあえず――。 「そこまでにしておくんだな、ボウヤ」 男には通じたらしかった。
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2004.11.1 |