楽園2
完結編



 



 「ほら、引越祝い」
 呆然と博隆を見ていた渚に、博隆はバラの花束を投げた。

 引越祝いに薔薇なんて・・・
 俺はお前が遊んでいるそこらの女達とは違うんだぞ。

 色々と文句は云いたかったが、博隆がすぐに自分のマンションを探してくれたのが、意識している以上に嬉しかったらしく、思っていたこととは違ったことを、渚は口にした。

 「よく、ココが判ったな・・・」
 「俺の情報網を馬鹿にするなよ。昨日お前がホテルに戻ってこなかったから、調べたさ」
 「ああ、ここのセキュリティーは・・・?」
 「偶然、親父も部屋がこのマンションにあったんだ。だから入れた。」
 「なるほど・・・」
 セキュリティーが簡単で、入れたわけではなかったのだと判り、渚はホッとした。

 そんな渚の様子を見ていた博隆の目付きが、突然鋭くなる。
 玄関口に立っていた渚を押しのけ、部屋に入ってきた。
 「どうしたんだ・・・? 博隆」
 態度の急変に驚きながら、渚は博隆の後を追う。

 「クソッ。いきなり浮気かよ。誰を連れ込んでやがる!男だったら、ぶっ殺してやる・・・」
 「な・・・・・浮気? 何のことだ?」
 「その首筋と鎖骨を見て見ろよ!!」
 振り返りもせず、博隆は次々と部屋のドアを開けていく。

 首筋・・・・・・?
 丁度バスルームの前を通りかかったので、そのまま鏡を見た。

 「ゲッ・・・・・・!!」

 首筋と鎖骨に生々しい赤い痕。
 昨日寝るまではなかったモノだ・・・。
 コレは―――



 「テメーかぁ!!」
 博隆の叫び声に、渚はゾッとした。

 和成―――!!

 渚はそのまま寝室に駆け込んでいき、寝ぼけている和成の胸ぐらを掴んでいる博隆を後ろから羽交い締めにした。

 「待て、博隆!コレは誤解だ!!」
 「何が誤解なんだ!! 俺のモノに手を出したヤツはぶっ殺してやる」
 「あんた、誰だよ」
 3人の声が交互に重なる。

 「和成は俺の甥っ子だ」
 必死に言い募る渚に、博隆は、和成の胸ぐらを離して、渚の方に振り返って渚の首筋を撫でた。
 「ほう、甥っ子が、こんな所にマーキングするのか?」

 やばい、目が据わっている。
 どうにかして、誤魔化さないと。

 渚は慌てていいわけを頭の中で張り巡らせた。
 「こ、コレはちょっとした事故だ」
 な?
 必死に宥めようと、博隆の頬を両手で掴みながら顔色を窺う。
 渚の態度に、博隆を取り巻いていた殺気ほどの怒気がやわらいだ。
 だが・・・
 「違うよ。俺が付けたんだ。昨日一緒に寝たんだぜ」
 和成の平然とした一言で、せっかく収まってきていた博隆の表情が一気に怒気をはらむ。
 「かーずーなりー」
 渚は、思わず頭を抱えた。
 「おっさん。あんた、渚の何なんだよ」
 「俺は、渚の最愛のラバーであり、ハニーだ」
 博隆は、真剣な顔と口調で、馬鹿げたことを答える。
 「ひ、博隆!!」

 渚は、和成には渚と博隆の関係を云うつもりもなかったし、知られたくもなかった。
 誰に嫌われるのも平気だが、和成に嫌われたり軽蔑されるのは・・・辛い。

 そんな渚の心配をよそに、和成は博隆に宣言した。
 「渚のラバーはオレだぞ!!4歳の時にプロポーズしたんだからな」
 「何?!」
 「和成?」

 渚の驚きをよそに、和成は真剣な顔をして渚に向き直った。

 「オレ云ったよな『渚、綺麗だよな―――。オレ、渚に一目惚れした。』って」
 「た、確かに・・・云われたが」
 アレは、ガキの戯言だろうとしか取っていなかったんだが・・・。

 「他にも、『渚を幸せにする』とも『一生大切にする』とも云ったよね!」
 「そう云えば・・・そんな事も・・・」
 子供の頃度々云われたような・・・

 「渚―――』
 低く唸った博隆の声が・・・渚には怖かった。

 「ほら、子供の云う可愛い戯れ言だと・・・さ?」
 「オレは今でも本気だぞ―――」
 真剣に云ってくる和成をどう説得しようかと・・・渚は言葉を詰まらせた時―――

 「悪いな、坊や。渚はもう俺のモノなんだよ。心も躰も・・・な」
 いきなり渚の腰を抱えて、博隆は意味深な台詞を口にした。

 「博隆・・・・・!!」
 この馬鹿が―――。
 振り返って文句を云いかける。
 「それって、どういう事だよ!!」
 一瞬怯んだ口調になった和成に、博隆はニヤリと笑い、自分の手を己の下半身に這わせた。

 「渚は俺のコレに貫かれて、俺のテクでしかもう啼けねぇんだよ。坊やのじゃたりねぇの」

 「な―――!!」
 「博隆っ!てめぇ―――」
 博隆の爆弾発言に、和成は真っ赤になり、渚は目を見開き、博隆に殴りかかった。

 しかし、博隆にその腕を捕まれ体重をかけられ、そのまま渚の背後にあったベットに二人で倒れ込む。

 「離せ―――離しやがれぇ!!!」
 博隆は渚の両手を、自分の手で押さえつけ、馬乗りになった。
 そのまま顔を近付けてくる。
 渚は必死に避けようと顔を反るが、追いかけてきた博隆の唇が渚のそれを捕まえた。
 「んっ―――うっうぅ―――」
 抗議しようと口を開けた瞬間、博隆の舌が侵入してくる。
 一気に渚の口腔内を蹂躙しようと、舌を絡ませてきた所で―――。

 「痛っ―――」

 博隆はバッと渚から顔を上げた。
 博隆の口からも、渚の口からも一筋の血が流れ落ちる。

 「舐めたマネしやがって・・・・・」
 「その言葉、そのままお前に返してやるよ、博隆。手を離せ!」
 「―――断るね」
 博隆の目に、獣の光が灯る。
 博隆はそのまま渚の首筋の動脈に己の犬歯を突き立てた。

 「博隆、止めろと云ってるだろう!!」
 渚は、力の限り全身全霊で抵抗する。
 そして、博隆も力一杯渚を押さえつけた。
 二人の躰はベットの中でもつれ合い、さながら格闘技をしているように暴れる。

 博隆は渚の肩を押さえつけ、胸の突起物をいささか乱暴に愛撫を施す。
 「――くっ」
 痛みと・・・違うモノが混じって、渚は屈辱で顔を歪めた。

 「このじゃじゃ馬。そろそろ大人しくなりな―――」
 博隆の一言に、渚は博隆の背中に手を回すと、思いっきり爪を立てる。
 「てんめぇ――マジで爪立てやがったなぁ!」
 博隆の背中からは幾筋かの血が流れ落ちていた。
 「当たり前だ!早く止めろ。離せ」
 「やなこった。――おい、ボウヤ。」
 突然博隆は横を向き、呆然と二人のやりとりを見ていた和成へと視線を向ける。

 「な・・・何?」
 「俺らはコレから取り込むんでな―――リビングの方で・・・」
 何かを云いかけた時、博隆は何か思いついたように口をつぐんだ。
 そして、犬歯を見せてニヤリと笑う。
 その顔を見て、渚はゾクリとした。

 この顔を見て、自分がよい思いをしたことはないのだ―――
 イヤな
 嫌な予感がする―――。

 「なぁ、坊や。リビングで待っておくか・・・。それとも、コレから俺の下で啼く渚を見るか――?」
 「はぁ――?!」
 渚の声を二人は無視して、ジッと視線を交わす。

 ゴクリッという、和成の唾を飲み込む音が響いた。
 一瞬の静寂――。

 「見る――見たい!」
 「よし。渚の腕を押さえろ、坊や。」
 「和成――!!」
 渚の悲鳴は虚しくベットルームに響いた。


 犬に咬まれた・・・。
 可愛がっていた飼い犬に咬まれた・・・・・。
 そんな気分だった。



 男二人に組み敷かれて、流石に渚の抵抗は無駄にる。
 「今日は拘束プレイを楽しもうと思って持ってきた」という博隆の手錠で両手首を固定され、ほぼ身動きがとれなくなった。

 「ボウヤはそこで見ておきな。最高に啼かせてやるから――」
 「う、ん――」
 少し不満そうだが、好奇心には勝てないのか和成はすごすごとベットの横に置いてあったイスに腰掛けた。

 「なんて顔してるんだよ、ダーリン」
 「ぶっ殺してやる――」
 渚は低く唸った。
 その姿を見ながら、博隆はフッっとセクシャルに笑った。

 「最高の時間にしてやるよ」




◇◇◇




 「ああっ――あっ、んっ!」
 いつもよりも丁寧、且つ、しつこい愛撫に、渚はあられもない声を上げていた。
 高ぶった自身を、下から上へじっくりと舐め上げられ、快感に悶え、頭を振りながら達してしまいそうな快感をやり過ごす。

 「す・・・すげぇ・・・・・・」

 思わず呟いた和成の声が聞こえてきて、渚の羞恥心でカッと頬を染める。
 先端から流れ落ちる滴をチュッと吸われ、腰が浮く。
 そのまま枕を腰とベットの間に入れられ、露わになった奥に博隆は自分の唾液で濡らした指を差し込んだ。

 「や・・・・・うぁ――」
 「いつもより感じてるじゃねぇか、渚。やっぱ、見られてやると普段より感じるか?」
 「・・・ざけた、事、い・・・いやがってぇ――」
 「まだまだそんな口聞けるなんて、余裕じゃねぇか」
 博隆はそう云うと渚の奥に3本目の指を突っ込み、内部で自由に蠢かす。
 「ひくついて、誘ってるぜ――。指じゃ足りえねぇのか?」
 「だ・・・・・・まれぇ」
 知り尽くした渚の感じるところを、博隆はひっかく。
 「ん、あうっ―――」
 高い啼き声を上げ、渚の躰は弓なりになった。
 「そろそろだな――渚、お待ちかねのブツをぶち込んでやるよ」
 博隆は渚の足を抱え上げると、ヒクヒクと誘っているにしか見えない渚の蕾に己のモノをあてがい、渚が息を吐き出した瞬間を見計らって、グッと突きいれた。



 「あっあ、んっ・・・うあっ――」
 一段と高なる渚の啼き声。
 博隆が抜き差しするときに漏れる、濡れた音。
 「やめっ――博隆ぁ! 駄目・・・駄目だ・・・あぁ・・・」
 「ここがイイんだろ――ほら」
 博隆は、腰の位置を変えて、先ほどとは違うテンポで腰を押し進める。
 「ぁ――! 駄目、ダメダ! ひ、ろたか・・・」
 「いいぜ、よく締まってる。ほら、お前もイケよ」
 動かすテンポを早くしながら、博隆は渚の高ぶったモノを扱った。
 「はっ。ん、あは・・・・ひ・・・ろたかぁ・・・ん、ああ――」
 「くっ・・・」
 渚は、己を解き放ち博隆と自分の腹を濡らし、同時に博隆も渚の奥に自分のモノを放った。 



◇◇◇




 「・・・んっ」
 唇に濡れた感触を感じた後、口に流れ込んできた水を必死に飲み干し、渚はそれをもっと求めるように舌をつきだした。
 しかし与えられたのは、望んだ水分ではなくザラリとした舌の感触だった。
 「んんっ」
 それが、次第に渚の意識を覚醒していく。

 この気怠い感じ・・・・・。
 これは、博隆とした後必ずなる・・・。
 そうだ、博隆と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・和成!!

 ガバッ

 渚は自分の上にのし掛かっていた躰をはねのけ、一気に起きあがった。
 「ちっ、折角イイ所だったのに、どうしたんだ、渚」
 はねのけられた博隆は、残念そうに口を拭う。

 「――博隆。和成は・・・?」
 「ん?あの坊やか・・・くっくっく、どうやら刺激が強かったらしいぜ。トイレに直行だ。今頃、抜いてるんだろ?」
 若いっていいなぁ〜と、軽口を叩く博隆を見ながら、今更ながら渚は自分のみに起きた不孝を思い出しつつあった。

 そうだ・・・。
 俺は、和成の前で博隆に
 和成に
 和成に・・・。

 抱かれている姿を見られてしまった――。

 一瞬目の前が真っ暗になり、倒れかけた渚を博隆が支える。

 「どうした?渚。今回は感じすぎてフラフラなのか――?」
 ニヤニヤしながら、下世話な事を口にする博隆を見ながら、頭・・・躰中に怒りがわき上がる。

 コイツが
 コイツが
 コイツが全て悪いんだ――。

 渚はキッと博隆を見上げると、そのまま足を振り上げる。

 「――――――!!!!」
 博隆はその場で股間を押さえて蹲った。
 渚は、蹲っている博隆の髪の毛を掴み、顔を上げさせる。
 「切られなかっただけでも、良しとしろ――
 「・・・・・・・」
 痛さの余り言葉を紡ぐこともできない博隆を放って、渚は素肌にガウンを着ると、ベットルームを後にした。





 服を着て、ダイニングに行くと、和成がぽつんと座っていた。
 「和成――」
 声をかけると、ビクッと反応して顔を上げる。

 軽蔑されたか――

 「お前は汚いと思うかもしれないが、確かに博隆と俺はあんな関係で・・・」
 ポツリポツリと、云いたくもないことを話し出した渚を和成は遮った。

 「そんな事ない―――!!」
 そのまま近付いて、渚の胸に飛び込む。

 「あの時の渚は凄く綺麗で―――」
 「―――」

 「喘ぐ渚は、何処の女よりも色っぽかった―――」
 「―――おい」

 「イク時の渚見てるだけで、オレもイっちゃいそうになったし・・・」
 「―――おい、和成」

 「やっぱ、オレには、渚しかいないと確信したんだ―――」
 目をキラキラさせながら告白する和成を見て、渚は・・・・・・・あまりの情けなさに、その場に突っ伏したくなった。

 「待っててね、渚。オレ、絶対あのオヤジより渚を啼かせるテクを身につけるから!!」
 「つけんでいい!!」
 思わずつっこんだ渚に、和成は首をに腕を巻き付け、唇を合わせてきた。
 「――!!」
 驚きとショックで目を見開き固まってしまって抵抗を忘れた渚をいい事に、和成は舌を差し込んできて、自由に渚の中を蹂躙する。

 上手い―――。
 何でこんなに・・・・
 って、感心している場合か・・・!!

 思わず感じそうになっていた自分を叱咤して、渚は抵抗を試みようとした時
 「てんめ―――ガキ!!何してやがる〜〜〜!!諦めたんじゃねぇのか」
 「何でオレが諦めなきゃならないんだよ。おっさんには負けないぜ!!渚はオレのものにするんだ!」
 「ざけんなよ、てめぇ。それにおっさんって云うが、オレは渚と同じ歳だ―――」
 「同じ歳になんて見えねぇんだよ!おっさん。オヤジなんてなぁ、すぐに飽きられるんだよ。今に渚も若い俺の方がよくなるに決まってるんだぁ〜〜!!」
 「こ――の――ガキがぁ〜〜〜!!!!」
 博隆が和成に飛びかかり、二人はもつれ合って喧嘩を始めた。

 「やめろ、このガキども――」
 思わず制止の声をかけた渚の言葉も聞かず、髪の毛の引っ張り合い・爪の立て合い・頬のつねり合い・・・と子供の喧嘩が続いていた。





 渚はそんな二人を無視して、ベランダに出た。

 ――空が、青い。今日も晴れてるなぁ。

 空を見上げながら、煙草を吹かす。
 思いっきり現実逃避していた。
 考えたくもなかったのだ―――。

 部屋の中から、博隆と和成二人が自分のことを呼ぶ声がする。
 だが、
 その声を無視して、渚は2本目の煙草に火を付けたのだった。




END





2000.3.13

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