永遠の感情
ーact・9ー






藤岡は、O女子大前に来ていた。
美夏に関する資料を受け取り、その足でコチラに向かったのだ。
大きな門の前で、藤岡は落ちてきた前髪をかきあげながら、溜息を吐いた。

―――思わず来てしまったが、今日美夏が大学に来ているかどうかも判らないな・・・。
やはり携帯を鳴らして呼び出すべきか。

藤岡が携帯に手をかけた時、後方から声が掛かった。

「キミは・・・?」
突然声をかけてきた女に、藤岡は怪訝な顔をする。
「あ、あの・・・先日コンパで・・・」
「ああ―――」
美夏と会ってしまったコンパだ。
嫌な印象しかないし、もちろん声をかけてきた女のことを藤岡が覚えてるはずはなかった。

「藤岡サンは、今日はどうされたのですか?ウチの大学に何か用事でも・・・?」
媚びを含んだ女の表情にウンザリしながら、美夏との繋がりがあるかも知れないと、理由を話した。

「美夏なら・・・先ほどカフェで見ましたけど・・・」
どうやら美夏とは知り合いだった女は、先日の藤岡と美夏の関係を思い出したようだった。
「ご案内しましょうか?多分まだソコにいると思いますし―――」
「いや、女子大に俺が入ったら・・・」
戸惑う藤岡に、女はニコリと笑って
「大丈夫です。ウチの大学は、カフェなどの施設は一般の方々にも開放しているので、近隣の人達が大勢いらっしゃってますから」
その言葉を聞き、藤岡は彼女の誘いに乗ることにした。


◇◆◇◆◇


「零・・・」
カフェでお茶をしていた美夏は、突然目の前に現れた藤岡に驚いた顔をする。
「美夏・・・。ソレに、お前は―――」
藤岡も、美夏の隣でお茶をしていた人間に驚きを隠せなかった。

「うふふ、久しぶりね。藤岡君」
一樹の家庭教師である此花茉莉耶は、藤岡を見てニッコリと笑った。



「以前付き合ってた女が二人、お茶を飲んでてビックリしたのかしら」
茉莉耶は未だに怪訝な表情を崩さない藤岡に、席に座るように視線を促した。
「何故お前達二人が・・・。いや、そんな事はどうでもいいんだ―――」
藤岡は、美夏に向き直る。

「美夏・・・来月に結婚だってな」
「なっ」
それまで穏やかな顔をしていた美夏の表情が、一瞬にして氷る。
「お前の父親の会社、相当ヤバイらしいじゃないか。で、今の婚約者との結婚焦ってるんだろう?いいのか、婚約者がいるのに浮気なんざしてても―――」
誰もが俯かずにはいられない藤岡の冷たい視線をむけられ、美夏は唇を噛んだ。
「ばれたら、婚約破棄。そして、お前の父親の会社も倒産。何故、そんなリスクを犯してまで俺との刹那的な遊びに走ったのか理解に苦しむな―――」

「藤岡君には、判らないわよ―――」
何も云えなくなってしまった美夏のかわりに、茉莉耶が口を挟んだ。

「家のために、したくもない人間との結婚。縛られる生活。そんなの耐えられる?」
「耐えられないし、耐えるつもりもないな―――。本気で嫌なら、家を出ればいいだろう?親の恩恵を受けて贅沢三昧をしてきたお前にそんな事を出来るとは思わないがな。美夏、お前の親への反抗に、俺が使われるのは不愉快だし迷惑だ―――」

「違うっ―――!!」
美夏は、テーブルを叩いて立ち上がった。

「私は、私は・・・貴方を愛してた―――」
美夏の意外な台詞に、藤岡は眉を上げた。
「別れを云われた時だって・・・縋る女は貴方が嫌いだと知っていたから、諦めた。貴方は誰も愛さない人間だと思っていたから―――。なのに、なのに・・・・」
ポロリと涙を流した美夏の肩に、茉莉耶は優しく手をかける。

「貴方と一樹君が、仲良く街で歩いてるのを見たわ。貴方の瞳は見たこともない優しさと慈愛に満ちていた。私が・・・いえ、貴方と今まで付き合ってきた全ての人間が見たこともない―――幸せそうな顔。それに比べ自分はどう?隣にいる男。人のいいこと意外なんの役にも立ちそうにない、面白みのないお坊ちゃま。こんな男と今後の人生を暮らしていくなんて・・・絶望した。」
美夏はキッと視線を上げ、藤岡を・・・ずっと想ってきた男を見つめた。

「貴方だけ、本当に好きな人と一緒に幸せにいるなんて、許せない―――そう思った。私だって・・・私だって・・・少しは好きな人と一緒にいたっていいじゃない・・・・・・」
そのまま美夏は両手で顔を覆ってしまった。

「そんな時に、私たち仲良くなったのよ」
話の後を、茉莉耶が継ぐ。

「いつの間にか、貴方の話になってたわ。笑っちゃう事に二人とも同時期にふられていた。原因は一樹君。私は美夏ほど貴方に執着はしていなかったけど、貴方が痛い目に遭うのは少し見てみたかったの。愛されなかった女として。」
茉莉耶はフッと笑う。

「偶然だったわ。私が一樹君の家庭教師になったのは―――」
「家庭教師・・・お前が一樹の・・・」
驚きの事実に、藤岡は目を見張る。
「そう―――ソレから具体的にこの話になったの。美夏は、もう一度・・・結婚まででもいいから貴方とよりを戻したかった。私は、美夏に同情していたこともあるし、貴方が少しでも困ればいいと思って協力することにした。」
冷たくなったコーヒーを、茉莉耶は口に運んだ。

「一樹君を得た貴方が、昔のように美夏と躰だけの関係を了承するとは思えなかった。だから、貴方の弱みを探した―――ソレが一樹君。あっさり貴方は引っかかったわ」
ニコッと笑う茉莉耶に、藤岡は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「美夏が云っていた一樹君の事・・・ソレは全部私が流した情報よ。部屋の配置。携帯電話のナンバー。」
「なるほど。茉莉耶、お前の復讐は成功したみたいだな。おかげで俺は痛い目にあった。だが、一樹を巻き込んだのは許せない―――」
「確かに・・・一樹君には可哀想な事をしてしまったわ。一生懸命貴方を想っている彼のことを知るたび、辛くなった。」
茉莉耶は、少し辛そうに息を吐いた。
「手紙に、ストーキングに、無言電話。可哀想なことでは、済ませないんだがな―――」
睨み付けながら藤岡の吐き捨てた言葉に、茉莉耶も、そして俯いていた美夏も、驚いた表情をした。

「し、知らないわ。そんなの―――」
「私達は、貴方にしか手を出していないわ―――。一樹君にはそんな事・・・」

美夏も茉莉耶も、必死に藤岡に自分たちの無実を言い募った。
藤岡は二人の言葉を聞いて、何か胸につかえていたモノが、ポロリと取れたような気がした。

そう―――全ての事件が、美夏のしたことだと思っていた。
だから、どうしても解けない・・・納得できないことが次々と起きていたのだ。
だが、美夏が起こしたことではないと云うのなら・・・・・・・。
調べることは、まだまだある。
事件は終わっていないのだから―――

藤岡は、立ち上がった。

「零―――」
恐る恐ると、美夏が藤岡を仰ぎ見る。

「これ以上、お前達に構っているヒマはなくなった。」
そこで言葉を区切る。
「美夏。これ以上お前には付き合えない。判ってるな。今回のことを一樹に一言でも云ったら、お前のことも全て婚約者にばらす。」

「―――」
「相変わらず、ずるい男ね。藤岡君。」

「なんとでも云えばいい。一樹を傷つける人間は排除するだけだ。」
キッパリといいきる藤岡に、茉莉耶は首を傾げる。

「必死に守っているけど、一樹君はそんな弱い人間ではないわ。しっかりとした男なのよ、ソコを判ってるの?」
どこか一樹と親しい感をみせる茉莉耶の口調は、藤岡の神経に障る。
「そんな事、お前に云われなくても判ってる―――」

「そうかしら・・・・。ねぇ、藤岡君。この前の日曜日。一樹君と連絡取れなかったでしょう?」
気になっていた事を茉莉耶に云われ、藤岡はぎらついた目で茉莉耶を睨み付けた。
「お前・・・何を知っているっ―――」
「日曜日の朝。一樹君は貴方の家を尋ねていって、1人の女が部屋から出てくるの見たの―――」

「私『朝帰りの現場を見られるなんて、恥ずかしいわ―――』って、彼に云ったわ・・・」
「なっ・・・」
美夏の台詞に、藤岡は目を見張る。
「落ち込んでフラフラしている一樹君を、私は遊びに誘って、朝まで彼といた。」
そして、茉莉耶の台詞に愕然とした。

―――朝まで・・・。
一樹が、美夏との仲を誤解したのは確実だし・・・なにより―――

「朝まで、一樹と何をしていたんだ―――」
地を這うような低い声に、美夏は固まり、茉莉耶はフフッと笑った。

「一樹君、本人に聞けばいいわ。私は云わない―――」

茉莉耶の言葉に、藤岡はクッと唇を噛んで黙り込んだ。
そして、そこにいた二人の女性を睨み付け、藤岡はその場を後にしたのだった。


◇◇◇


「すごい―――」
「あんな感情を露わにしている零なんて・・・見たことない」
藤岡の立ち去る姿を目で追いながら、茉莉耶と美夏は思わず呟いていた。

「それだけ、一樹君の事に惚れてるって事ね。まぁ、今回の事だって、一樹君の事で脅さない限り、絶対成功しなかっただろうし―――美夏、踏ん切り着いた?」
「うん―――見せつけられたって感じね。あそこまで嫉妬する零なんて・・・見れると思わなかった。完全敗北ね。」
「私は、満足。藤岡君に痛い目も合わせられたし、あんなに動揺する藤岡君も見れたんだから」
フフフッと笑う茉莉耶に、美夏も笑い・・・そして涙をこぼした。

「でも、ホントに好きだったの。もし、一樹君と別れて私と付き合ってくれるのなら・・・家だって捨ててもいいくらいに―――」
「美夏―――」
再び俯いてしまった友人の背中を、茉莉耶は優しくなで続けた―――


◇◆◇◆◇


零に、零に会いに行こう―――。
一樹は決心していた。

今回、自分の身に起きていることを、自分の手だけでは解決できない事は、判っていた。
藤岡の手を煩わせたくなくて。
自分だけで解決できれば、藤岡の隣に立つことも許される気がして。
守られているだけの自分を、脱却したくて。

―――ただ、藤岡に似合う自分になりたかっただけなのだ。

『全て自分で解決できることなんて無いと俺は思うんだ。だから、自分が出来ることは精一杯するし、出来ないことは頼ればいい』
年上の人間と付き合っている、同級生。
彼の言葉を聞いて、目が覚めたような気がした。

頑なに『自分だけで解決する』と思っていた。
それが、対等になれる事だと信じて―――
でも、違う。
お互いが、お互いを全て見せあって―――お互いがお互いの足りないところを補い合う。
それが、自分の求めていたモノ。

だから―――

自分の身に起こっていることも、全て話そう。
そして、この前の日曜日の事も―――怖がらないで、全部聞こう。

一樹は決心していた。


◇◇◇


「一樹っ!」
放課後、藤岡のアパートへ向かおうと急いで学校を出てきた一樹に、一番会いたかった人の声が聞こえた。
「零っ!!」
藤岡が自分に会いに来てくれた。
その事実が嬉しくて、一樹は藤岡に駆け寄る。
だが、藤岡の目が異状にギラギラとしているのに気が付き、思わず立ち止まった。

「一樹」
藤岡は、一樹にヘルメットを投げ、受け取ったのを見ると自分はバイクに跨った。
かぶるのを躊躇している一樹に苛ついたように「かぶって乗れっ」と吐き捨てる。
藤岡が何故か怒っているのを知り恐怖を感じたが、一樹はおずおずとメットをかぶり藤岡の後ろに乗り込んで腕を廻す。
途端にバイクは急発進し、普段では考えられないようなスピードで藤岡は次々と車を抜かしていった。



藤岡のアパートの前でバイクは止まり、慣れない乱暴な運転に一樹は降りるとその場で立ちくらみをして膝をついた。
そんな一樹に構わず、バイクを車庫に入れると、藤岡は一樹の腕を持ち強引に部屋へと引っ張っていこうとする。
「痛いっ、痛いよ、零。オレ、足捻挫してるから、そんなに早く歩けない―――」
苦痛に顔をしかめ、一樹は初めて見た無口で乱暴な藤岡に、訴える。
すると藤岡は一樹に向き直り、一樹の腰を持って肩に一樹を抱え上げた。
「れ、零っ―――」
「黙ってろ」
静かに、だが怒りを含んだ冷たい口調に、一樹は唇を噛む。

何故・・・?
何故、藤岡が怒っているのか。
こんなに乱暴にするのか、判らない。

部屋にはいると、藤岡は一直線にベットへと足を向けた。
そして、ベットの上に一樹を下ろす。
起きあがろうとした一樹の肩を押さえつけ、藤岡は乱暴に一樹のネクタイはずし、シャツを強引に裂いた。
「なっ、何を―――」
飛び散るボタンに驚きの声を上げながら、信じられない表情で、一樹は藤岡を見た。

「日曜の夜・・・どこにいた」
静かな声。
「茉莉耶と―――いたのか?」
「なんで知ってるの・・・」
思わず呟いた一樹の声に、藤岡の双方の目が鋭く獰猛に光った―――


続く



野獣・・・藤岡。再来(笑)
藤岡サン、ヤバイです。
自分のことを棚に上げて、切れてます(笑)
こういうのは、どうなんでしょうねぇ?

さて、次回は・・・・・・・・・
話の流れ上、裏にも持っていけそうにないので
表で、やっちゃいそうです(笑)
酷いことをしないで・・・と祈るばかり。
コレばっかりは、藤岡氏まかせです。


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