| 永遠の感情 ーact・7ー |
| 一樹がおかしい。 あの様子は、尋常じゃない。 そして、あの言葉・・・。 『アイシテルって云って―――』 アイシテル。 この言葉で思い出すのは、半年前の事件。 一樹を言葉で縛り付けた、一人の男。 あいつが・・・? まさか!? あいつは卒業と共に逃げるように東京を離れたハズだ。 永遠に一樹には近付けない―――そう仕向けたのは、自分。 だが―――。 藤岡は実家へもどると、手の着けられていない自分の部屋へ向かった。 まだ、真新しい卒業アルバムを開くと連絡先名簿を1つずつ辿る。 宮下寛。 傍らにあったコードレスホンを取り、正確にボタンをプッシュした。 電話に出た母親に、息子の連絡先を訪ねる。 松華の名前を出せば、快く相手は答えてくれた。 そして、もう一度・・・。 『―――はい』 だるそうな声。 「・・・久しぶりだな。」 『・・・・・・!!』 息を呑むのが、コチラにも伝わる。 「誰か、判るか?」 『ふ・・・藤岡―――』 怯え、震えた声。 「俺の、云ったことは守ってるんだろうな?」 『も・・・もちろん・・・東京には戻ってないし・・・一樹の前には―――』 「電話は?」 『か・かけてないっ!!自宅にも!携帯電話は・・・番号を知らないっ!』 「本当だろうな?」 『ほ・・・本当だ!!信じてくれ―――』 引きつった小さな叫び声に、藤岡は自分が卒業式の日に念のため教え込んだ上下関係がちゃんと残ってることを感じた。 「判った、信じよう。お前の周りに何か変わった動きはないか?」 しばらく考え込んだ様子だった宮下が、「ああ」と口を開いた。 『―――卒業してから、藤岡の云うとおり松華の人間とは関係を絶ってたんだが・・・一昨日いきなり電話が・・・』 「―――何?それで」 『取り留めもない話をして・・・切ったんだが、何の用事だったのかさっぱり・・・』 「なるほど、相手の名前を教えてくれるか」 『林幸治』 「判った。」 林幸治・・・・顔も思い出さない相手だな。 『―――一樹に、何かあったのか・・・』 おずおずとした口調で、聞いてきた宮下に、藤岡はカッとする。 「お前には全く関係ないことだし、コレからも絶対関係しないことだ。」 『・・・・・・・』 「切るぞ」 そう云って、一方的に電話を切る。 これは、嫉妬と八つ当たりだ。 ツーツーツーと鳴る受話器を見ながら、藤岡は溜息を吐いた。 一樹の最初の男。 一樹を初めて抱いた男。 未だに“一樹”と呼び続け、一樹の安否を気にする男。 時々ふとした瞬間、一樹が思い出す男。 これほどまでに、憎らしいと思う人間はいなかった。 何事も上手く進まない今の状態での苛立ち。 平然と『―――一樹に、何かあったのか・・・』と聞いてくるヤツに、思わず感情をぶつけてしまった。 全くもって自分らしくない。 焦れったい。 自分で何も出来ないというのは・・・これほどまでに、苛立つモノなのか。 手は尽くしているハズなのに――― 自分が動けば、向こうに感づかれてしまう。 だから、ココは待つしかないんだ・・・。 待つしか―――ないのだ。 藤岡は、通話ボタンを押すとかけ慣れたナンバーをプッシュしていく。 「俺―――そっちはどう?調べは・・・?ああ。もう一つ調べて欲しいことがあるんだ。・・・別件かもしれないし、全く関係ないかもしれないんだが・・・・ああ、判ってる。今度事務所に顔出すよ・・・。じゃ、名前を云うぞ―――」 宮下から聞き出した男の名と、卒業アルバムを見て判る限りの情報を相手に伝える。 「じゃ、頼んだ。ハヤク・・・早く―――お願いします」 受話器を切って、藤岡はその場に突っ伏した。 ―――自分で動けたら・・・・。
一樹が倒れてから数日。 毎日かかってくる携帯電話。 毎日自宅へと届けられる、『藤岡零に近付くな』という手紙。 誰かから、着けられているという不安感。 いつでも感じる、視線。 ―――まるで、あの時みたいだ・・・。 嫌な、嫌な事だけが頭に回る。 学校の靴箱を開けると、そこにも手紙が入っていた。 コレは、一樹が倒れた次の日から毎日はいるようになっていた。 内容は『藤岡零と別れろ』 いつも通りの内容に、一樹は溜息を吐く。 一体・・・誰がこんな事をするのだろう? やっぱり、零のことを好きな人だろうか。 やっぱりオレ、零には似合わないから・・・・。 一樹の考えは、どんどんどんどん暗くなる一方だった。 「おはよう、羽田野」 後ろから声をかけてきたのは、社会科の教師・麻生英治。 倒れた日から、何かと一樹のことを気にして声をかけてくれるのだ。 「顔色悪いぞ・・・?ちゃんと寝てるのか」 心配そうに顔を覗き込んでくる英治に対し、一樹は曖昧に微笑む。 ここ数日、眠れないのだ。 一樹は英治と止めどもない話をしながら、教室への近道である中庭へと出た。 「英治―――」 中庭のベンチに座っていた水島亨が、二人に気付いて手を振った。 「お前・・・名前呼ぶなっていつも云ってるだろう」 一樹の横にいた英治が顰め面をして、水島の隣へと歩いていく。 一樹は二人の仲の良い様子を笑いながら見ていた時――― 「―――って、羽田野!!!!」 フッと一樹の方を見た水島が凄い形相で叫び、一樹へタックルしてきた。 「危ない!!!」 ガッシャ―――ン!!! 英治の叫び声と、何かが割れる音。 一樹は受け身も取れずに、背中が地面に激突して一瞬息を詰まらせる。 ―――何なんだ・・・一体。 「亨!!羽田野!!」 悲鳴に近い声で英治が二人の方へ走り寄った。 「大丈夫だよ・・・」 耳元で呟かれた声に、一樹はビックリして目を開ける。 間近にメガネが何処かへ行ってしまった水島の顔があった。 思わず、その獰猛な目に一樹の躰は震える。 「羽田野・・・ケガは―――」 「だ・・・大丈夫だけど」 のし掛かっていた水島が一樹の躰から退くと、一樹は自分の身に何があったのかを理解した。 割れた、植木鉢―――。 先ほど一樹が立っていた位置に、破片や土、花が散らばっていた。 コレが一樹の頭上から落ちてきたのだ。 それにいち早く気付いた水島が、一樹に自分の身ごと飛び込んだのだった。 「亨・・・血が・・・」 英治は真っ青になりながら水島に近付いた。 「大丈夫だよ、かすり傷だ。んな顔するなよ?」 「し・・・心臓が止まるかと思った―――」 「大丈夫だよ―――」 いつになく頼りない表情をしている恋人の手をギュッと握りしめると、水島は植木鉢が落ちてきた方向をキッと睨み上げた。
「なんだ、それ・・・。」 「どうしてこの前黙っていたんだ―――」 様子がおかしい一樹を、誰もいない社会科準備室へ連れ込み、水島と英治は問いつめていた。 そして、遂に一樹の口から漏れだした事件に、二人は愕然とした。 「手紙って・・・家でも学校でも―――?」 「はい・・・毎日・・・」 「携帯には夜な夜な?」 「―――ああ。」 一樹は宮下の声がするとは、二人には云わなかった。 過去のこともあるし、云いにくかった。 水島と英治はは、数少ない藤岡と一樹の関係を知ってる人間だし、今回の事を相談しやすかったのだが――― 「藤岡には云ってるんだろう?」 英治が当然のように一樹に聞いてきた。 「いえ・・・云ってません」 「何故!?」 英治は驚いたように一樹に聞く。 二人の関係なら、このような事が一樹の身に起こっている場合、真っ先に藤岡に相談していると思っていたのだ。 「迷惑・・・を、かけるわけには―――」 「迷惑?こんな事が身に起こっているのに、相談することが迷惑なのか!?」 「藤岡さんなら、すぐに手段を選ばず解決してくれるはずだぜ」 二人は判らないというように、一樹に言い募った。 そして一樹は、二人の言葉に自分の気持ちを見た。 「だから!!・・・だから云えないんだ―――」 「え・・・?」 「零なら・・・たぶん、いや絶対に他の何を置いてでも、オレを守って・・・そしてこのことを解決してくれると思う」 「そうだろうな。」 「だけど・・・それじゃあ、オレはずっと零のお荷物にしかなれない。零だって、大学に入って新しい生活で今凄く忙しいのに・・・。それらを全て捨ててでもオレのためにしてくれる・・・」 「ああ―――」 「それは、嫌なんだ―――」 一樹は初めて自分の想いを口にした。 「オレだって、零を支えたいし、零を助けたい。零の邪魔はしたくないし、零の負担にはなりたくない。―――だから・・・だから云えない・・・」 そのまま俯いて一言も発さなくなった一樹を、水島と英治は困ったように見つめた。 「だけど・・・羽田野。自分ではどうする事もできない事は人を頼るべきだし、相談すべきだ。それがお前の一番大切な人間なら、特に。藤岡は絶対お前に相談して欲しいと思っているはずだし、それを負担に思うはずはない。」 静まりかえった部屋で、英治は淡々と一樹に話して聞かせる。 「けど―――オレだって・・・」 「お前が困っている時は頼ればいいし、藤岡が困っている時はお前が藤岡を支えればいい。“邪魔をしたくない”“負担をかけたくない”というのではなくて、お互いがお互いを助け合えばいいと、オレは思うんだけど―――まぁ、二人の事にオレがこれ以上口出しする事じゃないな・・・。だが、オレや水島はお前のことを心配してるし、何かあったら相談して欲しいと思ってる事は覚えておいてくれ」 「先生―――」 しかし、“邪魔になる”“負担をかける”と、思いこんでいる今の一樹の心には、英治の言葉はまだ届かなかった。
「藤岡センセイ・・・センセイ?」 美雪が藤岡の覗き込んでいる。 「ああ・・・ゴメン」 ダメだな・・・どうしても、イロイロと考え込んでしまう。 藤岡はそっと溜息を吐いた。 先ほど、水島からかかってきた電話。 一樹の身に起きていること。 「羽田野からは、口止めされてるんですが・・・英治と、藤岡さんの耳には通して置いた方がいいと判断したので」 そういいながら、水島は淡々と一樹の身に起こっている事件の数々を説明した。 ハリや剃刀の仕込まれた手紙。 夜な夜なかかる、無言電話。 何処にいても、感じる視線。 そして、頭上から降ってきた植木鉢。 どこまで、手を伸ばしてくるのだろうか――― 条件を呑んでいる間は、一樹には手出ししないハズではなかったのか? だが、何処かで何かが引っかかる。 それが判らなくて、藤岡はイライラと考え込んでいた。 「もーセンセイ。かまってくれないから、美雪つまんない〜。」 「悪かったよ。でも、全部出来てるね・・・」 「もちろん、予習復習ばっちりだもん。ねっ、先生!ゴホウビに明日デートしてっ!」 「―――え?」 「先週は羽田野さんと遊んでたんでしょ?じゃ、明日は美雪と遊んでよぉ」 駄々をこねるような美雪に、藤岡は困った顔を作った。 「悪いね、明日はバイトなんだ―――」 「えぇぇ〜〜。じゃ、次の週は・・・?」 「うーん、それも用事が入ってるね。ま、機会があったらね?」 「ほんとぉ?絶対よ!」 「ああ」 藤岡はニッコリ笑って、嘘を付いた。 美雪の家を出た所で、藤岡の携帯電話が鳴った。 「はい―――。ああ・・・・、開いてるよ―――相変わらず人使い悪いな・・・あんた。判ってるって、手伝いますよ。今から・・・・?ああ・・・判った、行く。」 藤岡は一方的に携帯を着ると、住んでいるアパートとは反対方向にバイクを飛ばしたのだった。
―――零に、会いたい。 貧血で倒れた時以来、藤岡には会っていなかった。 相変わらず鳴り続ける電話と、毎日家と学校に投函される手紙。 どうしても、つけられるとしか考えられない登下校。 一樹は疲れ果てていた。 日曜日の朝。 一樹は藤岡に抱きしめて欲しくてたまらなくなって、自宅を飛び出してきた。 藤岡のアパートの階段を上がる。 その時、声が聞こえてきた。 「―――れっ」 「―――ね・・・」 男女の声。 男の声は・・・・・ 零―――? 一樹は、階段を登り切る3段手前で立ち止まった。 そして、ソロリと壁の隙間から覗き込む。 そこには、藤岡の部屋の前・・・玄関口で何かを言い合っている綺麗な女性と、藤岡がいたのだった・・・。
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| 遂に、浮気発覚か?(爆) 話はどんどん進んでいっています。 どうにかなるかな・・・まだ判らない。 あいかわらず、藤岡より「視線」カップルのほうが活躍してるような気がする。 思わずアキラに戻っちゃってるし・・・。 英治はココゾとばかり・・・大人ぶってます(笑) 藤岡、ダメ男ですよね。 ふふふふのふ。 |