| 永遠の感情 ーact・6ー |
| 誰かの声が聞こえる。 その声は、とてもとても辛そうで・・・ どうしても、オレは慰めたかった。 ―――ごめん・・・一樹。 零? ―――ゴメン・・・ 零なのか? 零のこんな声、聞いたことない。 胸が痛くなるくらい、悲痛な声。 零・・・どうしたんだ? 零・・・ 伸ばした手が、ギュッと何か温かいモノに包まれる。 優しい唇の感触。 ―――一樹・・・。 零・・・オレは大丈夫だよ。 そう云ってあげたかった。 そして、優しく抱きしめてあげたかった。 けれど、オレの意識はどんどんどんどん、遠のいていく。 ただ、温かい手のひらに包まれながら。 零・・・オレは大丈夫。 だから、自分を責めないで―――。
藤岡は、水島からの電話を受け、そのまま大学から母校である松華学園へとバイクで直行した。 ―――藤岡さん。羽田野が、倒れました。 水島は、絶対私用で俺に電話をかけてくる相手ではなかった。 その相手からの突然の電話。 そして、その衝撃的な内容。 ―――今から、ウチに来れますか?保健室で今寝てるんですけど、ご両親に連絡が取れなくて。それに、ちょっと藤岡さんに云いたいこともあるし・・・。 校門から少し離れた所にバイクを停め、藤岡は松華学園の正面玄関に走った。 何の躊躇いもなく校門にはいると、そのまま保健室に向かう。 藤岡とすれ違う生徒達が、一応に驚いた顔をし藤岡のことを囁き会うのが聞こえたが、そんな事に構っているヒマはなかった。 校舎に入り、1階の端にある保健室に向かう。 その時正面から、藤岡の知った顔の人間が歩いてきた。 「藤岡先輩。どうしたんですか?こんな・・・」 後輩であり、現科学部部長の大津だった。 「大津、久しぶりだな。今日は私用できてるんだ」 目の前で立ち止まっている大津をかわし、藤岡は保健室へ急いだ。 藤岡が何を急いでるのか知らない大津は、首を傾げながら藤岡の後を追ってくる。 「部に来てくれたんじゃないんですか?久しぶりなのに・・・」 大津は藤岡に懐いていた後輩のひとりだ。 普段は、藤岡もゆっくりと会話を楽しんでいた所だったが、今日は大津のことなど構っているヒマはない。 追ってくる大津もそのままに、藤岡は保健室へ飛び込んだ。 「ああ、藤岡」 「藤岡さん、流石早い・・・」 そこには、藤岡の携帯を鳴らした水島亨と、社会科の教師である麻生英治が居た。 「一樹は・・・」 「其処のベットに・・・」 水島が指さした方に、藤岡はよそ見もせず歩いていく。 「あれ?大津・・・どうした?」 藤岡の後ろに付いてきた、科学部部長に科学部顧問である英治が気付いた。 「麻生先生に、水島・・・?こんな所で何を?」 「お前こそ、何故ここに来た?」 英治の前に、スッと水島が立つ。 入学以来、学年TOPと2位である二人は、何かと意識しあう関係であった。 しかも、部長と顧問という関係の為、英治がなにかと大津に構うようになってから、水島は大津を毛嫌いる節がある。 「俺は、藤岡先輩がいたから・・・何かと思って着いてきただけだ・・・」 「ふんっ、相変わらずの、信者ぶりだな」 「水島・・・!」 鼻で笑い大津の事を小馬鹿にした水島を、英治は窘める。 「羽田野が倒れてね。羽田野のご両親に連絡が取れないから、私的に羽田野と仲良くしていた藤岡に迎えに来て貰ったんだよ。」 英治は穏やかに、藤岡が来た“いかにも”理由を大津に教えた。 「というわけで、邪魔者はこの部屋から出るんだっ」 やはり、英治が優しい態度を取る大津の事が気に入らないのか、いつになく不機嫌な表情を隠そうともしない水島が、大津の腕を掴んで保健室から外へ出そうとする。 「どうして、俺が邪魔者なんだよっ」 「お前だけじゃなく、俺達も邪魔者なの。英治、外に出よう」 「お前・・・学校では名前で呼ぶなといつも行ってるだろう―――」 大津への牽制のためワザとそう呼んでるのが判るだけに、相変わらずの水島の嫉妬心の深さには頭を抱えたくなる英治だった。 「なぜ・・・」 判らない、という表情をしている大津を連れて水島と英治は、藤岡と未だに目を覚まさない一樹を置いて保健室を出た。
顔色が悪い。 ぐっすりと眠っている節もある一樹を見ながら、藤岡は嫌な考えが渦巻いていた。 美夏が・・・何か手を出して来たのだろうか。 昨日別れたときには、いつもと変わらず元気だったのに。 携帯電話を聞いて・・・という節が気になる。 美夏は一樹の携帯電話番号を知っていた。 何かを仕掛けていたのでは・・・ないだろうか? 理由が判らない一樹が追いつめられて・・・。 一樹は、精神的に追いつめられると弱い面がある。 以前ストーカーにあったときなど、追いつめられてボロボロになっていた。 あんな一樹を、二度とみたくなかったから――― 「ゴメン・・・ゴメン一樹―――」 また、護ってやれずに。 「ごめん・・・」 俺の所為で、お前を傷つけてしまったのだろか――― その時、意識のない一樹の手が、ゆっくりと藤岡に向かってのびてきた。 思わずその手を握りしめる。 護る 必ず、護ると誓ったのに――― 手の甲に、唇を寄せる。 ―――ハヤク、早く決着をつける。つけなくては・・・・!! 一樹・・・。
「意識が戻ったら、俺が連れて帰る」 保健室を出ると心配した表情の英治と、大津を睨み付けている水島と、藤岡に縋り付いた目をしている大津がいた。 「それより聞きたいんだが、一樹が倒れたときの状況を詳しく教えて欲しい―――」 いつになく真剣な顔の藤岡に少し驚いた顔をしながらも、英治が説明を始めた。 「放課後すぐ・・・丁度俺達と廊下ですれ違った後だった。」 「たぶん、図書室に向かってたんだと思います。方向的に―――」 水島が、英治の説明を補助する。 「突然立ち止まって・・・多分携帯が鳴ったんだろうね。俺達には音が聞こえなかったけど、鞄をゴソゴソして携帯電話と取りだしたんだよ」 「俺達も何気なく見てただけなんですけど。一言二言・・・何か云った後、急に羽田野は震えだして・・・」 「震えだしたのか?」 「ああ。そして、アッという間にその場に倒れたんだよ」 一言一言思い出すように、水島と英治は言葉をを紡いた。 突然、震え出すような相手・・・? 相手は、誰だ・・・。 何を、云われたんだ・・・。 考え込んでしまった藤岡に、英治はおずおずと声をかけた。 「藤岡・・・羽田野が何かに巻き込まれているのか?」 「いえ・・・」 藤岡は言葉尻を濁す。 藤岡の性格上、そう云うことはいっさい漏らさないのは水島も英治も判っていたので、それ以上追求することは諦めた。 だが、そこに居たもうひとりの人物は違った。 「藤岡先輩と羽田野って・・・どういう関係なんですか?そんなっ・・・部の後輩でもないし、何の関わりもないはず―――」 大津は理解出来ないとばかりに、藤岡達に言い募る。 「もしかして、この前電話下さった“学校の周りに変出者が出ているらしいから、部連の方でも警戒した方がいい”っていうのも、今回の羽田野のことが関係あるんですかっ・・・!」 しかし、そんな大津に藤岡はゆっくり歩み寄り、誰もが見惚れるような艶やかな笑みを湛えながら、その言葉を否定した。 「気が合う友人なんだよ。大津も知っているだろう?俺が推理小説が好きなのを。一樹も無類の推理小説好きで、本の趣味が合うんだ。お互いそれを知って以来、卒業した後も仲良くしているんだ」 そこで、藤岡はいったん言葉を区切る。 「この前の連絡は、俺の方にそう云う情報が入ったから、俺の跡を継いで部連を取り仕切ってる大津に知らせただけだよ」 「そ・・・そうですか―――」 さも当然のように説明をしながらその綺麗な笑みを絶やさない藤岡に、大津は見惚れながら頷いた。 後ろで、水島と英治が固まっていた理由を大津は知らない―――。 その時、藤岡の背にあった保健室の扉が開いた。 「一樹・・・!」 「羽田野―――大丈夫か?」 「零・・・どうしている・・・んだ?」 扉を開けたところに、居るはずのない藤岡の姿を見て一樹は心の底から驚いた。 ―――さっきのは、夢・・・じゃない? 「一樹が倒れたって聞いてね・・・俺が迎えに来たんだ」 「あ・・・ああ―――」 倒れた・・・・ そうだ、あの電話・・・・・。 寛の声の――― 見る見るうちに一樹の顔色が青くなるのを、その周りにいた人間全てが見ていた。 「一樹、送っていくよ」 自然に藤岡は、一樹の腰を抱き寄せる。 一樹は、グッタリと藤岡の肩により掛かった。 「というわけで、俺は一樹を送っていく。水島、電話助かったよ」 「コレくらいで、藤岡さんに借りを作れるなら―――」 「水島っ」 素直に礼を受け取れない水島に、英治の失跡が飛ぶ。 「いいですよ、麻生先生。まだまだ、子供なだけですから・・・麻生先生もありがとうございました。」 「ははっ、確かに子供なんだよ。―――俺のことは気にするな。いつでも頼れよ。」 「英治っ!藤岡さんっ!」 二人に子供扱いされた水島はムッとしたて睨み付けた所を、「だから、子供なんだよ」と英治に小突かれる。 「大津。また部の方には顔を出す。部連の方は引き続き学校周辺を警戒しておくように指示を出して置いてくれ」 「―――はい」 そして、藤岡と一樹は松華学園を去った。
「も、大丈夫だよ―――」 自分の部屋まで心配して着いてきた藤岡に、一樹は明るく云った。 「顔色が、まだ良くない・・・ベットに横になるんだ。」 「うん―――」 心配と迷惑をかけたことに自覚のある一樹は、藤岡の言葉に素直に従う。 「一樹―――。携帯電話の相手は誰だ?何を云われた?」 「なっ―――」 突然切り出された藤岡の言葉に、一樹は何も言い訳できずに黙る。 ―――心配をかけたくない。 「携帯電話を取った後に、一樹が震えて倒れたって聞いた。」 ―――強くなりたい。 「相手は誰なんだ・・・。何を云われた?」 強くなりたい。 「別に、たいした電話じゃないよ。倒れたのはちょっと寝不足だったんだ」 「一樹―――」 一樹が何かを隠したのは、藤岡には判っていた。 だが、何故隠すのか。 理由が判らない。 そして、必死に隠す一樹から強く聞き出す事も、藤岡には出来なかった。 「零・・・愛してるって云って」 「一樹―――?」 また体調の悪い一樹を寝かせて、部屋を出ようとした藤岡の背後からか細い声がかかった。 「ね―――愛してるって・・・」 振り返った藤岡を捕らえたのは・・・ 縋るような声。 祈るような目。 「愛してる」 「零―――」 「愛してる、一樹。お前だけを、愛してる―――」 『アイシテル、カズキ』 違う 違う 全然、違う――― あの声では、こんなに躰が熱くなったりしない。 こんなに・・・胸が、切なくなってキュッと締め付けられたりしない。 「オレも、オレも愛してる・・・零」 「ああ、判ってる」 安心した表情でベットに横になった一樹を見届けて、藤岡は一樹の部屋から出た。 あの表情。 あの言葉。 思い出すのは、あの時の―――。 ひとりの男の名前を思いだした藤岡は、一樹の家の前に止めたバイクに乗り込むと、久しぶりに、相変わらず両親のいない自宅へと戻った。
夜中。 『――――――ズキ』 切っても、切っても鳴り続ける、携帯電話の音――― 『――――――カ・・・ズキ』 囁き続けられる、自分の名前――― 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 一樹は自分の携帯電話を壁に投げつけると、そのままベットに潜りむ。 だが、唯一の救いである眠りは、朝まで一樹の身に訪れることはなかった。 そしてこれは、これから一樹の身に起きる事の序曲でしかなかったのだ――― |
| おほほほほっ 話、全然進まねぇ・・・。 収拾つくのかしら。 一樹がどんどん不幸になってきます。 ゴメンよぉぉぉ〜〜〜。 最近、色気がないわね、この話。 色気所じゃなくなってるっていうのが、本当のところなんだけど。 |