永遠の感情
ーact・4ー



暗闇に浮かび上がる白い煙。

藤岡は、躰中に染みついた香水の匂いをすべて落とすためシャワーを浴びた後、ベットの端に座り煙草を吹かしていた。
ベットの中には、満足そうな表情で眠る女が一人。

―――面白いモノだ。こんな感情でも、女はちゃんと抱けるのだから。

いままでも、愛して女を抱いてきたわけではない。
はっきりいって性欲処理の為だけだった。
だが、羽田野一樹という最愛の人間ができたのに、いつもよりは時間がかかったが激しく奉仕してきた美夏に、キチンと反応した自分。

―――男はケダモノだな。
藤岡は声もなく笑った。




バイブレーションにしていた携帯電話がベットの端で震える。
藤岡は手を伸ばすと、落ち着いた声で出た。

「ああ、さっき留守電に入れたとおりだ。」
「わかったよ。あんたの条件を呑む。だから、今回のことは協力してくれ」
「よし。取引は成立だ。まずはさっき頼んでたことから調べてくれ。至急。」
「わかってるって。明日帰りそっちに寄るよ。ああ。じゃあ、またな。」

通話ボタンを切り、藤岡は隣へ視線を移す。
ベットには、今だ夢の中の美夏がいる。

藤岡はサッと立ち上がり、かけてあった服を全て着ると、無言でその部屋を出た。
エレベーターを待ちながら、もう一度携帯電話を取り出し、短縮機能で電話をかける。

「久しぶりだな、藤岡だ。今、時間あるか?ああ。少しお前達に頼みたいことがあるんだ―――」


◇◆◇◆◇


藤岡から連絡がなかった次の日。
すぐに、彼からは連絡が入り、日曜日映画を見に行く約束ができて一樹は機嫌がよかった。
何の変わりもない学校生活が終わり、家へと足を向けたが少し足取りは遅い。

今日は、茉莉耶さんの来る日だ―――。

彼女の積極的なアプローチに、一樹は始終振り回されていた。
女の人の扱いなど知らない一樹を、彼女はからかっているのだろうか?

―――はぁ。今日もからかわれるのかなぁ。

自宅の玄関を開けると、目に入ってくるピンヒールの派手なミュール。
茉莉耶がもう来てるのだ。


◇◇◇


「そう。その公式を入れればいいのよ。」
茉莉耶の教え方は上手く、判りやすい。
家庭教師としては、合格だった。

茉莉耶の指が、するりと一樹の首筋を撫でる。

―――こうして、さり気なくセクハラをする以外は・・・。

毎回毎回、茉莉耶は一樹の頭、頬、首筋、胸元まで触ったり撫でたりする。
そのたび、慣れない一樹は心臓が壊れそうなくらいドキドキするのだ。

―――疲れる。
茉莉耶が帰った後は、いつも疲れ果てる一樹であった。

「一樹君。今度の日曜遊びに行かない?」
「え?」
突然の申し出にキョトンとした一樹に、茉莉耶はニッコリと笑って顔を近付けてくる。

「せっかく仲良くなれたんだから。私一樹君とデートしたいの。ね?いいでしょ?」
否とは云わせない口調。
彼女は、このような誘いを今まで断られたことはなかったのだろう。
だが・・・。

「スイマセン。日曜日はちょっと約束が・・・。」
「もしかしてっ、デート?」
うそをつけない一樹は、頬を染める。
「ふーん、デートなんだ。彼女は、可愛い?綺麗?年上かしら?」
何も答えない一樹に、茉莉耶は質問を繰り返す。
「ま、いいわ。その彼女と飽きたら、いつでも私を誘って。一樹君のためなら、スケジュール絶対空けるから」
約束よ?
と、無理矢理一樹の小指に自分の小指を絡ませ、「指切りげんまん」と茉莉耶は一方的な約束をしていったのだった。


◇◆◇◆◇


「やっぱ、前評判通り面白かったな」
エンディングテーマとスクリーンの下から流れるキャストを見ながら、一樹は上機嫌で自分の隣に座っている恋人を見た。

日曜日。
約束通り2人は、以前から一樹が見たがっていたSF映画を見に来ていた。

「これから、どこに行く?」
嬉しそうな一樹の表情を見ながら、藤岡は一樹にしか見せない優しい表情で彼に問うた。
「んー。零と居れるならどこでもいいけど・・・」
嬉しいことを云う恋人の唇に、藤岡は自然に自分のそれを重ねる。
「零っ!こ・・・こんな所で」
真っ赤になった一樹に、藤岡は面白そうな顔で
「大丈夫だよ。まだ真っ暗だし、ほとんどの人間はエンディングロールを見ずに出ていってしまった。」
だから、もう一度―――。

近付いてきた唇を、一樹は今度は素直に受けた。


◇◇◇ 


結局、お台場にでも行って海でも見ようか。という事になり、2人はユリカモメに乗り込んだ。
席に座らず、ドアにもたれ2人で景色を見ながら話し込んでいた時

「センセイ―――藤岡センセイ」
振り返るとそこには・・・

「美雪ちゃん・・・?」
「やっぱりセンセイだ〜。こんな所で会うなんて・・・」
藤岡の家庭教師先の生徒奥山美雪が、連れの女の子2人とコチラに近付いてきた。
藤岡は内心ヤレヤレ、と思いつつ
「一樹。この子は家庭教師先の生徒さんで、奥山美雪ちゃん」
展開にイマイチついて行ってない一樹に、藤岡は聞かせるように紹介する。

「美雪ちゃん。彼は―――」
「知ってます。羽田野一樹さん・・・ですよね?」
美雪は一樹の顔を覗き込むように云った。

「そう・・・だけど、どうして―――?」
オレのこと知ってるんだろう、という顔をした一樹に

「藤岡センセイは有名だけど、羽田野さんも有名人なんですよ?人気あるんです、近隣の学校では」
ね―――。と、美雪が後ろの2人に話を振ると2人は赤くした顔で何度も肯いた。

「センセイ用事あるから今日遊べないって云ってたけど、羽田野さんとのお出かけだったんだ?」
「ああ―――」
藤岡は先日、家庭教師に行ったときに「日曜日一緒にお出かけしてっ」という美雪の頼みを断ったことを思い出した。

「ねっ、センセイ。今からお台場行くの?美雪達も今から行くから一緒しようよ」
ねだる美雪は、世間一般の男どもから見ると、放っておけない可愛さだった。
だが、いい加減女の子達にそう云う態度を取られ慣れている藤岡には、鬱陶しいモノしかなく―――
藤岡の隣で、微妙に表情を強ばらせた一樹の方が、藤岡には気になる存在だった。

「悪いね、俺達は今からお台場に行くんじゃないんだよ。それに遊びに行くわけでもないんだ」
藤岡は、誰の目から見ても魅惑的な顔を作り彼女たちに微笑んで、丁度着いた駅で一樹を連れて降りた。

「零、お台場に行くんじゃなかったっけ?」
キョトン、とした顔の一樹に、藤岡は悠然と微笑んで
「2人だけの時間を、邪魔されたくないだろう?」と、一樹を赤面させる台詞を平然と吐いたのだった。


◇◆◇◆◇


週明け。
授業も終わり、一樹は自宅への道のりを一人で歩いていた。

―――昨日楽しかったな。
久しぶりに会えた藤岡は、相変わらず優しく綺麗だった。
夕食を藤岡の家で食べようかと話していた時、急に藤岡の携帯が鳴り「急用が出来た」と、藤岡と別れるまでは。
―――仕方ないよな。零だって大学とかの付き合いあるんだし・・・いつまでもオレが独占できるワケじゃない。
落ち込みつつある自分の気持ちを、明るい気持ちで一樹は振り払った。

―――ゾクッ
一樹は、サッとその場で振り向いた。

―――誰もいない・・・でも。

絶対に誰かがいた。そして自分を見ていた。
過去に自分の身に起こった事件以来、こういう視線には敏感になっていた。

「うっ」

思わずこみ上げてきたモノに、一樹は口元を押さえた。
自宅までの急ぎ足で帰る。
玄関で靴を脱ぎ捨て、一樹は洗面所で全てを吐いた。
どうやら昼食はほぼ消化されてたらしく、胃液しか出てこない。

―――嫌だな。もう、忘れたと思ってたのに。
思い浮かぶのは、かつての恋人の狂気の顔。

一樹は、口を濯いでタオルで拭うと、母親のいるリビングへと向かった。



「一樹、手紙届いてたわよ?」
テレビを見ながら振り向いた母親は、テーブルの上に置いてある封筒を指さした。
「サンキュ」

封筒には、宛先もなく切手も貼っていない。
一樹は少し変に思いながら、封筒の端を破った。

―――っ

チクリとした痛み。
ブックリと、指先に浮き上がってくる紅い体液。

一樹は、おずおずと封筒を見てみると、縫い針がセロハンテープで貼ってあった。
要するに、封筒を破ると刺さる仕組みになっていたらしい。

―――誰が、こんな……。
封筒の中から、手紙を取り出す。

ゴクリッ

一樹が、意を決して見た手紙の内容は―――



『藤岡零に、近付くな』



続く・・・



さ、やっと事件が・・・。
・・・・・・・
・・・あれ?
昼ドラじゃなかったっけ?確か。
どうやら、『○曜サスペンス劇場』のノリになってきました(笑)
あはははっ。
いままでは、プロローグみたいなモノだったみたい。
今から、ようやく動き出すって感じかな。


藤岡は、相変わらず女の敵みたいな事ほざいてるし・・・
コレでファンは減ったかしらん?うふふっ。


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