| 永遠の感情 ーact・15ー |
「お前達―――」 英治は、水島の後からすごすごと入ってきたメンバーに驚きの声をあげた。 バスケ部主将の木下。 バレー部主将の町田。 テニス部主将の平井。 サッカー部主将の中嶋。 剣道部主将の竹原。 柔道部主将の三島。 弓道部主将の花咲。 先日、新キャプテンに選ばれた2年生ばかりだ。 「お前達、何故、ココに呼ばれたか。判っているよな?」 水島が振り返り、俯いている男達に声をかける。 「・・・・・・・・」 誰一人として、口を開く者はいない。 「俺が先日、羽田野と帰っていた時に、数人の男に囲まれた。」 ―――アレは、羽田野が階段から落ちた日だったよな。 水島は一樹の方を見る。 一樹は、肯いた。 「その中の一人のサングラスが飛んだ時、そいつの目を見て、俺は“どこかで見た顔・・・”と思ったんだ」 しかし、しばらくは思い出せなかった。 日々の忙しさに、その事を忘れそうになった頃――― 「思い出したんだよ。俺が副会長をやっていた頃、剣道部の主将の変わりに、1年のお前が部の書類を持ってきたことを。」 水島の視線が、剣道部主将の竹原へと移る。 竹原の肩が、ビクリと揺らいだ。 「俺は、結構人の名を覚えるのが得意だったからな。一度しか会ったことのない、学年の下の竹原の事を覚えていたわけだ。」 ―――で、その事を、藤岡さんに伝えた。 「水島から、一樹を襲ったメンバーに剣道部の主将がいたことを聞いた俺は、色々な方面から犯人を考えた。なぜなら、2年の剣道部の主将と、一樹の関係は、表面上全くないモノと思われたからだ。」 水島の言葉を継いだ藤岡は、己の推理と事実を説明していく。 「一樹に家と学校に送られてくる手紙を見せられた時点で、犯人は二人いると俺は判断していた。」 同じ無印良品の封筒。 同じワープロ印字。 よく似た内容―――だが、決定的に違う内容。 「別れろ」―――というのは、付き合っているの事を前提としている。 「近付くな」―――というのは、付き合っているかどうかは、判っていない。 男同士の自分たちに「別れろ」と云える人間。 それは、きっと男達が付き合っている事を当たり前として受け入れている環境にいる人間。 つまり、松華の内部にその人間はいるのだ―――。 「面白いことに、手紙のワープロ印字。最初パソコンのワープロソフトで打っているんだと思ったんだが、珍しく、ワープロ機で印字してある事がわかった。しかも、どちらのワープロ機も同じ機種だった。」 藤岡はテーブルの上の手紙を手に取る。 「この“藤岡零に近付くな”と打ったのは、君だね。美雪ちゃん。君の家にもたしかパソコンはなかったがワープロはあった。しかも機種もこの手紙の機種と同じだと判っている。」 そして――― 藤岡はもう一つの手紙を手に取った。 「コチラの手紙。面白いことに、このワープロ機種を俺は美雪ちゃんの家以外で、目にしたことがある。」 藤岡の視線が、スーと科学部部室の後ろの方へ流れた。 教室にいた人間全て、藤岡の視線を追う。 そして―――みんなの目に飛び込んできたのは、部屋の端っこに置かれた、ワープロ機が一台。 「そう、この教室で、だ。―――なぁ、大津。」 大津の名前に、それまで部屋の隅でお茶の後かたづけをしていた彼に、一斉に全員が振り返った。 「なるほど、と云うわけだよ。剣道部が・・・運動部の全ての主将が動いたワケ。例の賭博の件だろう?」 “賭博”の言葉に、ソコにいた主将達が、ハッと反応する。 「歴代、運動部で行われている主将達だけに秘密裏に行われている賭博。運動会での競技で賭をするんだが―――。それで毎年、主将達は足りない部費などを稼いでいるんだ。」 「生徒会も知りませんでしたが・・・」 藤岡の言葉に、水島が口を挟んだ。 「まぁ、ね。知っているのは運動部の主将と、科学部の部長だけだ。口伝で伝わっている。」 藤岡は、大津を真正面から見据えた。 「もちろん、お前にも俺が教えた。科学部の部長になると云うことは、あらゆる裏活動を把握し、手綱を握り、学園の全ての組織を動かしていくことだと俺は云ったよな。」 ―――こんな事をするために、教えたわけでは決してない。 藤岡の言葉に、大津は何も応えなかった。 「ワープロの事を思い出した時、すぐに賭博の件を思い出した。そしてその方面から竹原を揺さぶれと水島に指示した。」 「簡単だったですよ。俺が知るはずのない賭博のことを口にすると、それまでだんまりだった竹原は全てを話してくれました。―――賭博の件で脅され、羽田野一樹を襲えと・・・・科学部部長大津に指示された・・・・とね。」 水島は、部長達7人に視線を向けた。 7人はうなだれている。 そして、その態度から、水島の話が真実だと云うことを、皆は知った。 「大津が―――」 英治は呆然と呟いた。 大津は優秀な生徒であり、温厚な性格と思っていた。 科学部顧問と部長として、お互い支えあってきた人間でもある。 「この糸、見覚えがあるか―――?」 水島が出してきた、透明の糸。 「コレは、羽田野が階段を下りる前に仕掛けられていた糸。羽田野は知らずにそれに引っかかり、階段のてっぺんから落ちた。」 知らなかった事に、美雪や拓巳が驚いた顔をした。 「コレは、釣り糸。ルアー用の。」 「大津、お前の趣味・・・釣り、だったよな。よくブラックバスを釣りに行っていた事を、俺は覚えているんだが。」 藤岡の問いに、大津は唇を噛み締めた。 そして、藤岡を睨み上げる。 「何故、何故―――羽田野一樹なのですかっ!」 大津の突然の叫び声に、藤岡さえも驚いた。 「僕は、ずっと藤岡さんを尊敬していた。科学部から誘いがかかった時も凄く嬉しかったし、部で藤岡さんと一緒に実験できる日々は幸せだった。部長に指名して貰ったときは、本当に天にも昇る気分でした。」 冷静沈着で、美しい先輩。 見ているだけで幸せになった。 彼の言動1つ1つに周りは左右されたが、彼は何1つ動じない。 彼に群がる女達も美しく彼を彩る美しい花達だったが、彼は何1つ顔色を変えずにその花達の間を飛び回った。 全てが完璧で、欠点など何1つない―――憧れであり、自慢であり、自分の全てだった。 ―――なのに。 「羽田野が宮下サンと別れて、藤岡さんと付き合っていると云う噂を聞いた時も、嘘だと思っていた。まさか藤岡さんが、羽田野なんかと付き合うなんて思っていたなかったから・・・。でもこの前、羽田野が倒れたと云って真っ青になってバイクを飛ばしてきた藤岡さんを見て―――」 それが真実だと知った。 藤岡の必死な顔など、見たことなかった。 見たくもなかった。 いつも、冷静に判断し、正しい道のみを歩いている人だったのに・・・。 なのに羽田野を心配して、表面上は取り繕っていても、焦りや苛立ち、そして取り乱したココロが表れていた。 3年間、ずっと見てきたのだから、間違うはずはなかった―――。 そして知った。 噂は真実だと云うことを。 相手が男だと云うことは、いつも危険なマネをしない藤岡が、いつも本気にならない藤岡が、本気だと云うことを。 そして思った。 何故 何故―――羽田野一樹なのだ。 「羽田野に、何が出来る?藤岡さんをフォローするほどの能力があるわけでもない。男子校で少し可愛いと騒がれて、いい気になっているなんの取り柄もない男じゃないか。そして、男と付き合って堂々としている無神経さ。何故、羽田野なんだ。羽田野なんて藤岡さんには全く似合わ―――」 パァッ・・・ン――― 静まり返った部屋に、乾いた音が響いた。 「それ以上、一樹を侮辱するのは許さない―――」 振り上げ、大津を叩いた手をそのままに、藤岡は地を這ったような声で鋭く斬りつけた。 大津はノロノロと、自分が叩かれた左頬に己の手を当てる。 「お前が、一樹の事で何を知っていると云うんだ?何故にそこまで侮辱できる?一樹と俺の関係、一樹と宮下の関係、何も知らないくせに―――」 怒りのために声が震える。 こんな経験は、藤岡自体も初めてだった。 「一樹が何を出来るって―――?俺は一樹に助けられている。いつもいつも、一樹に救われている。お前達など、俺の表面上の姿しか見ていないだろう。」 完璧な先輩―――? 完璧な人間など、いるわけがないというのに。 「俺に似合うなど、何故、お前に判断されなければならない。俺のことは、俺が決める。お前には、全く関係ない事―――」 「関係なくなんて―――」 思わず大津が反論した。 関係ないなんて・・・云われたくない。 「藤岡さんは、科学部の前部長だし・・・それにそれに―――」 科学部は特別な環境のためか、結束が固い。 また社会に出ても優秀な人間の集まりであった為、限られた特別な世界でかなりの関わりをもつ事も多いので、一生の付き合いになることが多々あった。 「俺は、そんな事はどうでもいい―――科学部の関わりなんぞ、どうでもいい。それを理由に、一樹の事でとやかく云われるくらいなら、俺はそんなしがらみ、いらない。今すぐに捨てよう―――」 「そ、そんな―――」 大津にとって科学部は藤岡との繋がりであり、全てであった。 それを簡単に切られてしまう、切られるなんて――― 優しく賢い、尊敬する先輩だったのに。 全ての事柄で自分たちを導いてくれる・・・・。 それを、簡単に捨ててしまう。 自分たちとの絆を。 自分との繋がりを――― すべて、全て、すべて 羽田野一樹のために――― 憎い――― キッと自分の方を見た大津に、一樹は一瞬怯えを見せたが、すぐに負けじと睨み返した。 全ての人から憧れを抱かれている藤岡に愛された時から、いつかこのように憎しみをぶつけられることはあると思っていた。 いままで、起きなかったのが不思議なくらいに。 きっと、藤岡が在学中は、藤岡自身を恐れて誰も手を出せなかったのだろう。 そして、藤岡がいなくなった今―――やっと、一樹にぶつけられるようになったのだ。 負けない――― 一樹のココロは、その一つだった。 自分の過去を嘲られ侮辱されても。 自分が、藤岡ににあわないと罵られても。 ―――それは、真実だから。 でも藤岡のことが、好きだから。 藤岡に愛されていると、知っているから。 だから、負けない。 負けるわけにはいかない。 藤岡を、手放す事なんて、出来ない。 二人のにらみ合いで、先に視線を外したの大津だった。 大津の手が動く。 「危ない―――!!!」 誰の叫び声だろう。 一樹に向かって大津が何かを投げつけるところまでは見えたが、すぐに遮られた。 「藤岡―――!!!」 「零っ!!」 「藤岡さん!」 「きゃ―――!!!」 一樹にはとっさに何が起こったか判らなかった。 自分の躰を誰かが抱きしめていることだけ。 その匂いは・・・ 「―――くっ。」 藤岡のうめき声に、一樹は我に返った。 「零・・・零―――!!」 慌てて藤岡の腕からのがれる。 そして、一樹の目に入ってきたのは――― 藤岡の濡れた背中。 そこからシュウシュウと音がなり、白い煙が立ち上っている。 「零、服を脱げ―――いや、もう張り付いているから無理か。早く薬品を流さないと・・・!だれか、バケツに水を―――!!!」 拓巳の言葉にいち早く動いたのは水島だった。 部室内にある水道へ走ると、とりあえずその辺にあったビーカーなどに水を次々と張る。 続いて他の人間達も動きだし、ビーカーの水を藤岡の背中にかけたり、バケツを取りに行ったりした。 藤岡は水をかけられるたび低く呻いたていただけだったが、最後にバケツの水をかけられ「もういいだろう、―――零、病院に行くぞ」という叔父の言葉に、首をゆっくりと振った。 そして、呆然と立ちつくしている大津の前にゆっくりと歩いていく。 藤岡から出る怒りのオーラに、誰も彼を止められなかった。 「大津・・・お前はこうして、一樹を傷つけてきたのか?」 藤岡の手が、水で濡れてしまった手が、ゆっくりと大津の首に伸びた。 「こうして、一樹の躰中に痣を作り、手には傷を作ってきたのか―――」 大津の首に伸びた手は、大津の首を握り、次第に力を入れていく。 大津の表情が歪む。 空気を求めるように、口が開かれ・・・ ―――誰も、誰も止めることが出来なかった。 「苦しいか?だが、一樹はもっと痛かったはずだ。」 「う・・・・あ・・・・」 大津の口から、流れ出る唾液。 「一樹が頭から今の薬品を被っていたら、どうなっていたんだろうな、大津?」 無表情の藤岡の顔は、秀麗な分、あまりにも恐ろしかった。 誰も、金縛りにかかったように動けない。 「俺に、似合う、似合わないは、俺自身が判断することだ。そうやって、俺の関係ないところで俺という人間を勝手に作り上げ、勝手に判断されたりするのが嫌いだと、以前俺は云わなかったか―――?」 指先に力がこもる。 大津が声にならない声をあげた時、その藤岡の腕にそっと手が伸びた。 「落ち着け、零。人殺しでもする気か?」 叔父の声に、藤岡の手の力が緩む。 大津はその手を振り払うと、床に崩れ落ち、激しくせき込んだ。 藤岡は無表情に、それを見つめる。 そんな藤岡の頬を、拓巳は軽く叩いた。 「しっかりしろ。」 叔父の声に、藤岡も我を取り戻す。 怒りの感情に捕らわれて、大津の首を締めた自分を情けなく思った。 深く溜息を吐くと、叔父に向かって腕を差し出した。 「肩、貸してくれ。」 藤岡の声に、固まっていた周りも、正気を取り戻した。 「ふ、藤岡・・・救急車・・・!!」 「騒ぎにしたくないから、叔父の車で行きます」 「お前ら、このことは、他言無用だ。判っているな。」 「もちろんです・・・・。」 「君もね。」 「うん・・・。」 藤岡はゆっくりと、自分の恋人の方を向く。 呆然と彼を見ていた一樹も、ハッと正気に戻った。 ゆっくりとさしのべられた手に、一樹は思わず身じろいだ。 「俺が・・・恐い?」 藤岡は自嘲的に笑う。 違う。 そうじゃない。 一樹は必死で首を振る。 「ゴメン、ゴメン、零。オレを庇って・・・!」 一樹の言葉を藤岡が制す。 「それを云うなら、俺が悪いんだろう。今回の事・・・一樹の身に起きた全てのことの原因は、俺だったんだから―――」 美夏の事も。 美雪の事も。 大津の事も。 すべて、藤岡に想いを寄せる人間の犯行だった。 「零が悪いんじゃないよ。それは―――」 「一樹・・・」 辛そうな藤岡の顔。 それが、一樹のココロを苦しくする。 「コレは、零と恋人になった人間の宿命なんだよ。でも、オレは負けないから。」 零に対する気持ち、負けたりしない。 零を想う気持ち、負けるわけがない。 いくら邪魔されても、諦められるわけがない。 そんな簡単な気持ちじゃないんだから―――。 「オレだって戦うよ?零を守るため。零を奪う人間とは―――」 ニッコリと笑う一樹に、藤岡もうっすらと微笑み返す。 「そうだな、俺も一樹を奪う人間となら、全身全霊で戦おう・・・」 さしのべられた手を、一樹はギュッと握った。 藤岡もその手を握り返す。 「はいはい、ソコのカップル。愛の確認作業はいいけどね。そろそろ病院行ってもいいかな?」 拓巳のからかいの声に、一樹は我に返る。 ニヤニヤと笑う拓巳から、藤岡は一樹を隠した。
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| あうーん。 なんか、書こうと思っていたことの半分も書けなかったような気がする・・・ ような気がする(溜息) つじつまも合っているような・・・あっていないような・・・。 会話がかみ合っているような・・・かみ合っていないような(笑) ここに来て弱気になってきた水貴でした。 藤岡さんが背中に被った薬品を、水で流すという叔父の判断が正しいのかどうかは謎ですが。 知識のない人間のとっさの判断というやつです。 薬品関係に詳しい方、本当はどうすべきか教えて下さい(笑) さて、残すところも・・・エピローグのみ。 事件のその後・・・ちゅうヤツですかね。 ラストまでお付き合いよろしくお願いします。 |