永遠の感情
ーact・11ー






「なるほど・・・突然家と学校に手紙が投函され出したところから始まったんだな。」
藤岡は一樹の話を聞きながら、四方八方に考えを巡らせていた。

「零・・・コレ・・・」
一樹が自分の鞄から取り出したのは、おびただしい数の封筒。
今日、放課後に藤岡のアパートを尋ねて、彼に全て話そうと決めていた一樹は、学校に今まで取っていた手紙を全部持ってきていたのだ。

便せんと封筒は、シンプルなデザインで有名なメーカー――無印良品――のモノだ。

藤岡は封筒の中に入っている手紙を、次々と取り出し開けていく。

「これは・・・」
5通目の手紙を見て小さく呟くと、藤岡は今まで開けた手紙を2つに分けた。
そして、その後に開けていく手紙も、右、左、と手紙の内容を見て分けていく。

「一樹、コレのどちらが家に投函された手紙で、どちらが学校の靴箱に入れられた手紙かは、区別が付くか?」
「う・・・ん。最初の頃のは判らないけど―――」
自分で解決しようと決めた時から、一樹は家に届いた手紙の端に小さな丸印を付けていた。
何かの手がかりになるかも知れないと思って・・・・。

藤岡の分けた手紙の右側の山を見ながら、一樹は「どうして・・・」と小さく呟いた。
一樹の目の前には―――

右側に丸印―――自宅に投函された手紙。
左側に無印―――学校の靴箱に入れられた手紙。

と、1つの間違いもなく綺麗に分けられていたのだ。
一樹がその旨を伝えると、藤岡は「やはり・・・」と肯いた。

「一樹。この右側の手紙――つまり家に投函された手紙と、左側の手紙――学校の靴箱に入れられた手紙、を出した人物は、それぞれ別の人間だぞ―――」
「ええっ―――」
藤岡の言葉に、一樹は驚きを隠しきれない表情で「何故―――?」と返した。

「同じ便箋と封筒に、どちらもワープロで打たれた文字。同じ人間が投函した、と思ってしまうが、この二つの手紙――意味は似ているが、書いていることが違う―――」
「―――!?」

右側に置かれた手紙。
『藤岡零に、近付くな』

左側に置かれた手紙。
『藤岡零と別れろ』



「―――気が、付かなかった・・・」
呆然と、一樹は呟いた。
比べることもなかったし、内容が似ていただけに、深く考えたことがなかった。
それぞれ違う人物から、同時期に、似た内容の手紙を送り付けられるなんて思いもしなかったのだ。

「“近付くな”と“別れろ”では、結局は似ているコトを云ってるのだが、コチラに伝えている意味合いが微妙に違う。学校の方は『別れろ』と、明確に“俺達が付き合っている”のを前提にしているのに対し、家に投函された方は―――」
「あっ―――」

二人の会話は突然中断される。
原因は、不快な機械音―――

一樹はビクリッと肩を震わせると、一瞬で顔面蒼白になった。
「一樹・・・?」
一樹の異常な反応に、藤岡は驚き「どうしたんだ?」と顔を覗き込んだ。
しかし、一樹は頭を何度も振り、耳を塞ぎながら「なんでもない。違う。嫌。」と、口の中で繰り返す。
そんな一樹の反応をみた藤岡は、グッと自分の胸に一樹を抱き寄せると、即座に近くに置いてあった鞄の中から一樹の携帯電話を取りだした。
そして『非通知』の画面を見ると、迷わず通話ボタンを押したのだった。

「零ッ・・・!!」
一樹が悲痛な声で叫ぶ。



『・・・・・・・ずき』

携帯の向こうから聞こえてくる声に、藤岡の表情はサッと険しいものに変わる。

『か・・・・・ずき』

―――宮下!!!!
怒鳴って罵りたい気持ちを、今胸の中にいる一樹を傷つけてはイケナイという理性で必死に抑える。

『か・・・・・ずき』

俺の意志に逆らうと、どんな目に遭うか身をもって知らしめてやったハズなのに、それでもこんな馬鹿なマネをするのか、あいつは―――

『か・・・・・ずき』

――――――?

怒りに捕らわれていた藤岡の耳が、微妙な音を捕らえた。
“か”と“す”の間に入る、小さな雑音。

『か・・・・・ずき』

疑って聞いてみると“か”と“ずき”の声の大きさが少し違う。
語尾の上がり具合が少し妙だ。
次第に鋭い目つきになっていく藤岡を、一樹は見上げていた。

しばらくグッと唇を噛んで携帯電話を聞き入っていた藤岡だったが、不意に口を開いた。

「お前、誰だ――――――」



「零?」
何もいわない藤岡に、不安になった一樹は彼の名前を呼んでみる。
「切れた―――」
藤岡はそう呟くと、耳元にあてていた携帯を離した。
だがその間も、一点を見つめたまま藤岡の視線は全く動かない。
しばらくそのまま藤岡は、瞬きもせず身動きもせず、ずっと一点を見つめていた。

「れ・・・い?」
一樹は、藤岡の腕の中で不安に包まれていた。

以前、藤岡に云ったのだ。
『無言電話を受けている』
と・・・。

だが、ソレは一樹が『藤岡には頼らない』と、ついた嘘。
本当は、前の恋人からの電話だったのだ。
ソレを黙っていた自分。
藤岡が誤解していてもおかしくはない―――

「ああ、悪い。少し考えをまとめていたんだ―――」
藤岡は、胸の中にいる一樹に笑いかけた。
ギュッと唇を噛み締める一樹の頬を、藤岡の大きな両手は優しく包む。
「宮下からの電話。いつからかかっていた?」
一樹の肩が、ビクリッと動く。
そして、泣きそうな表情。

「違うよ。責めてるわけじゃない。一樹が俺に云い出せない状況を作ったのは、俺自身だったんだから。」
「う・・・ん」
藤岡の言葉に、ホッとする。

「そうじゃなくて、事件の真相を探る上で、知りたいんだ。いつ頃から、かかるようになった?」
「・・・あの、倒れて迎えに来て貰った時が、初めてだった。」
「そうか―――」
そして、藤岡はまたしばらく黙り込みんでしまった。


◇◆◇◆◇


「じゃ。」

松華学園、校門前。
結局藤岡のアパートに泊まった一樹は、朝藤岡のバイクで学校まで送ってもらったのだった。

お互い離れがたく、校門の前でたわいもないことを喋っていたのだが、不意に藤岡は真剣な顔をして一樹を見た。
「一樹・・・」
「ん?」
「―――携帯の相手は、宮下じゃない。今日はソレの犯人を探しに行く。」
「え・・・」
呆然と見上げた一樹に、藤岡は肯く。
「アレは、宮下じゃない。絶対に―――。だから、あんな電話がかかってきても、何も気にする必要はないんだ」
「零、なんで・・・」
断言する藤岡に、ワケを聞こうとした一樹だったが、不意に後ろからかけられた声に中断される。

「朝から熱いですね、お二人とも。注目の的だってコト判ってます?」
「水島―――」
まわりを見ると、確かに登校中の松華学園の生徒達の注目を浴びていた。

「じゃ、俺は行くよ。」
藤岡は愛車に跨ると、一樹に「また、連絡する」と声をかけた。
そして藤岡は、水島の方へ振り返る。
水島も藤岡の視線を受け取り、左の口端をグッと上げた。
水島のその様子を見て藤岡は一度軽く肯くと、バイクを発進させた。



「―――どうした?」
水島は、ジッと自分の顔を見る一樹に声をかけた。
「いや・・・別になんでも・・・」
答えながらも、一樹の頭の中ではある疑問がぐるぐると回っていた。

―――零と水島は、仲が悪かったんじゃなかったっけ・・・?

一樹が見ている分では、いつも犬猿の仲のように(本当は、水島が一方的に噛みついているのだが)会うと何か云い合いをしていた。
なのに、今のお互いの目配せ。
何かを信頼しあったような・・・?

妙に納得しきれないまま、一樹は水島について自分の教室へと向かった。


◇◇◇


「そうだ。この前の悩み、解決した。」
一樹は、自分の前で教室にドアを開ける水島に、突如思い出したように告げた。
「・・・え?」
「ほらっ、あの・・・自立の・・・」
「ああ、アレか。」

先日から自分がぐるぐると悩んでいたことを、この水島と恋人の麻生英治にイロイロと相談していたのだ。
二人とも自分の話を親身に聞いてくれ、意見を述べてくれた。

「零に、俺の気持ちも判ってもらったし―――」
一樹は、自分の席に着くと鞄の中から教科書を出す。
「藤岡さんは、羽田野に関してだけは素直に意見を聞くんだな」
水島は一樹の2つ後ろの席なのだが、一樹と話をするため開いていたとなりの席に座った。
「零は、ちゃんと云ったら云うことを聞いて、考えて、そして自分の意見を云ってくれるよ。いつも」
「それは、羽田野だけだって・・・」
肩をすくめた水島に、一樹は藤岡の弁護をしながら、教科書を机の中に入れた。
「そんなこと・・・痛っ―――」

手に走った、鋭い痛み。
思わず、手を引く。

「どうし・・・羽田野!!」
机の中から出された一樹の右手を見た水島は、ギョッと目を見開いた。

右手の親指の付け根から手のひらに流れる、紅い―――

「それっ、どうした!!」
「判ら・・・」

水島の質問に、一樹は「ワケが判らない」と、力無く首を振る。

その間も、一樹の手からは、次々ととめどなく鮮血が流れ出る。
袖口は、どんどんと紅く染まっていく。
一樹は心臓の音が、何故か凄く近く感じた。

水島はあわてて一樹の右手首を掴むと、頭より高く上げるた。
そして、一樹の机を引き、机の中を覗き込んだ。

「コレは―――」

水島は、一樹の机に手を突っ込み、何かを取り上げた。
そして、立ち上がる。



「こんなふざけたマネをしたのは、誰だ!!!」

水島の叫び声に、クラスで談笑していた生徒達が振り返った。
その、生徒達の目に入ったのは―――

右手が真っ赤に染まっている一樹と、
右手に、血で染まったカッターナイフを持っている水島だった。



続く



あれ・・・?
いつ、終わるんだろう????
解決するはずじゃなかったんでしょうか?
何故か事件は・・・また起こってたりして(笑)

はい。
スイマセン。
まだ、終わるまでもうちっとかかりそうです。
うーん・・・残り・・・
あ、でも、やっぱ、もう少しだとは思うんだけどなぁ〜。

しかし、今回あわせて残り3話っていうのは、絶対無理になりました。
ゴメンナサイ、一部チャットでお話しをしていた人達(笑)

一樹君、ホント可哀想な目に遭わせてます。
肉体的に。
ふー、つくづく不幸な子だわ。


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