WeekEnd
〜始まりと終わりの、週末〜





-Sunday-

「ん・・・・最高。」
なかなかの出来に、亨は満足げな声を上げた。

「何が最高なんだ?」
テレビを見ながら彼の作る食事を待っていた英治が、亨の呟きを聞きつけてヒョイッと後ろから覗き込む。

「コレだよ―――」

菜箸でナベの中の鶏肉を取り、フーフーと自分の息を吹きかけ冷ますと英治の口元にソレを運んだ。
あーんと開ける彼の口の中に、その鶏肉を放り込む。
もぐもぐと口を動かして、ゴクリとソレを呑み込む彼を亨はジーと見つめた。

―――全ては彼のために、美味しい食事を作っているのだ。

英治は亨が自分の口に運んだ鶏肉を呑み込むと、ニッコリ笑って
「最高―――」
そう云って、彼の頬にチュッと音を立ててキスをした。

「―――英治」
「飯にしようぜ。早く食べたい」
恋人のおねだりに、亨は満足げに頷いた。


◇◆◇◆◇


「日曜の夜って、ブルーだよな。」

食事を食べ終わり、手分けして後かたづけした後の二人でくつろぐ大切な時間。
英治の言葉に、亨はなぜ?と首を傾げた。

「ん?だってな、明日からまた仕事仕事・・・だしさ。お前とも一緒にいる時間が極端に少なくなるだろう?」
日曜日の二人は常に触れあえる距離にいて、お互い一時も側を離れる事などない。
それ故に、月曜からはまたお互いの生活に戻り、側にいる時間がほとんどなくなってしまう事が近付いているこの“日曜の夜”というのは、英治の気持ちを沈ませるのだった。
だが反対に亨は喜色浮かべて、英治に抱きついた。
なぜなら英治の言葉は言外に「亨とずっと一緒にいたい」と行っているようなモノだったのだから

「ちょ、亨。ダメだって。明日から仕事・・・・・」
「ンな事云う、英治が悪い!!」
ベット脇に座っていた英治を、亨はそのまま押し倒す。

「ばっか・・・・最後までは、ダメだ、ぞ。」
「ん、キスだけ・・・・」

そういいながら、亨の手は忙しなく動き、いつの間にやら英治のシャツは脱がされ、パンツは降ろされている。
「あ、―――」
「やっぱ、ココにもキスしておかないと・・・」
首筋から鎖骨、そして胸の突起物に舌を這わせて、吸い上げる。

「ダ、ダメだって・・・」
英治は胸元の飾りをしつこく舌で愛撫している亨を押しのけようと頭に手をかけるが、快感に震えた手では全くもって威力はなかった。

「あ、は―――」

亨の手は英治の下着をかいくぐり、少し熱を持ちつつあった英治自身に触れる。
「やっぱ、ココにも―――」
「し、しなくていい!」
そんな事をされたら、抑えが効かない―――
今日だって、一日中ベットの中で二人で居たのだ。
敏感な肌が、躰が、その感触を忘れているはずもなく・・・。

アッという間に、英治の躰は熱を帯び始めた。



「あ、あ、―――」

英治の下腹部に顔を埋めている亨の髪をまさぐる。
抵抗するように、だが、促すように・・・。
亨は、英治自身の根本を手で支え、ねっとりと舐め上げる。
震え先端から流れ出した先走りの液を、亨は口に含み吸い上げた。

「あ、き―――」
「欲しい?でも、英治がダメだって云ったんだからな」
意地悪な言葉。
ココまで追い上げられて、亨に貫かれて得る快感を知ってしまった英治の躰が満足するわけがない。

「も、いいか、らぁ・・・・・」
「何が、いいの?」
どうやら野獣モードに入った亨は、英治が最後の言葉を云わない限り許さないらしい。
「亨ぁ―――」
普段はその大きさで包み込むような愛を注ぐ英治だが、ベットの上ではその立場はたちまち逆転してしまう。
特に一緒に住むようになってからは、英治自身以前なら押さえてしまっていたモノを素直に出すようになてしまっていたし―――

「や―――」
亨を求めて収縮を繰り返す蕾に、亨は舌を伸ばす。
今日一日中亨を含んでいたソコは、紅く色づいていた。
つつくように刺激すると、英治の躰が弾んだ。

「亨、あきら―――」
求める英治の言葉を無視して、亨は更にその奥へと舌を尖らせて突き進む。
「あ、あ、あぁ―――」


駆けめぐる快感。
だが、それだけでは物足りない。
熱い亨のソレで、貫いて欲しい―――

「お、お願い・・・」
「―――何?」
切羽詰まった声に亨が顔を上げると、恋人は泣き顔で亨に哀願した。
「挿れて・・・・」
その言葉と共に流れ出す、一筋の涙。
余りの色っぽさと誘い文句に我を忘れて、亨は英治の足を抱え上げると既に高ぶりきった己自身で英治を貫いたのだった。



-Monday-



―――亨のヤツ、結局昨日は寝かせてくれなかった。

英治は今日一日のけだるさの責任を、全て恋人へと擦り付けていた。
仕掛けたのは彼だが、最後全てを受け入れたのは英治自身であったのだが。

英治が職場である学校を出ると、既に日は落ち辺りは真っ暗になってしまっていた。

英治は、今頃自分の帰りを待ちながら晩ご飯作りに勤しんでいる恋人を思い浮かべる。

―――あいつ・・・サークルにでも入れっ何度も云っているのに。

バイトもサークル活動もせずに、友人達とも遊ぶことなく、亨は大学が終わるとすぐに“二人の家”であるアパートに戻ってひたすら永治の帰りを待つ生活をしている。
自分の大学時代と比べ、英治は何度も「遊べ」と彼に云うのだが、頑固な恋人は一向にソレを受け入れなかった。
そして英治自身、心の何処かで自分の帰りをジッと待っていくれている恋人を嬉しく思ってしまっているのを自覚していたので、『オレも、どうしようもないよな・・・』とも思っている。

『―――英治って、最近どんどん感度が良くなっているよな。ほら、ココを摘むだけでこっちがギュッと締まって中まで蠢く・・・』

「うわっ!」

昨日恋人に囁かれた淫猥な台詞が、突然英治の頭の中に浮かんだ。
英治は顔を真っ赤にして、不審者のように周りをキョロキョロする。
周りに誰もいない事を確認して、ホッと息づく。

―――本当に昨日はいいようにしやがって・・・・。
と、心の中で恋人に毒づいてみる。

どうやら最近亨はベットの中では獣とかし、英治を啼かせ続ける事が多くなった。
英治自身も、亨をどん欲に求める。
お互い、何処かに”生徒と教師”あった枷が取れた結果だろうと、英治は思っていた。

けど・・・アレはやりすぎだろう・・・。

昨日の自分の痴態を思い出すと、今でも頬が染まる。
そして躰が熱くなってしまう。



―――ん?
英治は自分の思考を中断した。

黒い車。
学校から駅までの道のり。
それは小さな駅前商店街。
こんな時間には、店は全て閉まり人通りも全くない。

なのに、黒い車がヘッドライトを煌々とつけている。

あれは、ベンツ―――?
不思議に思いながらも、狭い道で横を通ろうとした時・・・

ドン、と人にぶつかった。
ベンツばかりを見ていた英治は、前から来ていた人間に気付いていなかったのだ。

「あ、すいま―――」
瞬間見た男の顔。
どうみても焦った顔をした男は、英治といったん視線を交わすと、急いで横付けされていた真っ黒なベンツに乗り込んだ。
ベンツは男が乗り込むと、急発進する。

「なんなんだ、あれ―――」

英治は首をひねりながら、駅への道を急いだ。

まさかソレが、後で英治の身にもたらす事件の切欠だとは気付かずに・・・・。




-Tuesday-


「ああああっ!!!」
朝刊を読んでいた英治が上げた叫び声に、コーヒーを入れていた亨は、慌てて英治の元へと駆け寄った。

「どした?」
「こ、コレ―――」

小さな事件の記事。
だが、場所が・・・・

「コレ、学校の近くの商店街じゃないか。」
亨の言葉に、英治は言葉なく肯く。

店の店主の不審な死。
店主は多大なる借金があったらしい。
警察は、自殺と殺人の両方から調べを進めている。
そんな、記事だった。

「昨日、オレ・・・・・変な車みたんだよ。この商店街で」
「変な車?」
英治の言葉に、亨は先を促す。
「ベンツ。真っ黒な。普段そんなの見ないだろう?しかもあの時間に。で、慌てて男があの車に乗って行くのも見た。」
「―――考え、すぎじゃないのか?」
ベンツを乗っている人間なんて、日本には山のようにいるんだし、急いでいる人間なんて掃いて捨てるようにいる。

「だよな―――」
亨の言葉に、英治もホッと息をつく。
「ま、なんにしても早く解決して欲しいな。」
「ああ・・・って、もーこんな時間だっ。」
英治が時計を見ると、いつもの電車に乗るためにはぎりぎりの時間。
あわてて恋人の入れてくれたコーヒーを飲むと、玄関へと向かう。

「英治、忘れ物」
「亨」
英治が振り返ると、亨は触れるだけのキスを恋人へと贈った。

「今日は、早く帰ってこいよ―――」
「ああ」

ホント、新婚みたいだよなぁ。
いってらっしゃいのキスなんて・・・。
毎朝欠かすことのないキスを思い苦笑しながら、英治はアパートの扉を開いた。


コレが亨が、健康な英治の姿を見た最後の時となった。
亨は後に、英治の言葉を真剣に受けとめなかった死ぬほど後悔する事となる。



◇◆◇◆◇



―――遅すぎる。
亨はイライラと、部屋と玄関を行き来した。

早く帰ってくるといったのに、時計は10の数字を過ぎても恋人は「ただいま〜」扉を開けない。

嫌だ。
早く、帰ってきて欲しい。
何故か、凄く不安なのだ。
心臓がドキドキする。
こんな事、ハジメテで・・・・。
早く。
英治。
早く帰って、抱きしめて―――





―――トゥルルルルル

静かな部屋に、響く電話の音。
英治の部屋なので、取るわけには行かない。
数回鳴って、留守電に変わる。

『私は松華学園の教頭で今宮申します・・・。もし、英治君の親しい方が英治君を心配して尋ねられたなら・・・・・・』
亨は思わず電話を取った。

「あ、あの―――」
『ああ、お知り合いが居られましたか・・・。実は英治君が―――』

亨はその言葉を聞くと、財布をもってアパートを飛び出した。
通りに出てタクシーを拾う。

「赤坂病院まで―――」




数十分後、病院の前に着いたタクシーを降りると、亨は急患用入口から中へ入った。
真っ暗の待合室で何処に行けばいいのか判らなくて、気持ちだけが焦る。
バタバタと廊下を走っていると、看護婦に呼び止められた。
「走らないで下さい。ココは夜の病院ですよ。」
「英治は・・・・!!事故で運ばれた麻生英治は何処にいるんですか―――!!」
亨の礼節を欠いた態度に眉を寄せながらも、看護婦は救急手術室を示した。



「教頭―――」
ベンチに座っている教頭を見つけた亨は、ソコへと走っていった。
「君は、水島君・・・?何故・・・」
去年卒業した優秀な元副会長を、教頭はよく覚えていた。
「英治・・・・・麻生先生は」
教頭の疑問には答えず、亨は英治の様態を聞いた。
教頭は不審にも思いながら、亨の気迫に押されつつ英治の様態を語り始めたのだった。

「車に跳ねられたそうなんだ・・・・。骨が何本か折れたそうだが、命には別状がないそうだよ。」
「そう、ですか―――」
亨はホッと、やっとホッと息をついた。

電話で『英治が事故にあって意識不明』と聞いたとき、そのまま心臓が凍り付くかと思った。
あの人を失う事なんて、考えたことがなくて。
ただ、耳元まで自分の心臓の音が聞こえた。
電話を聞いてずっと緊張した状態だったのが、プチンと糸が切れたように亨は力無く、ベンチに座り込んだ。

大丈夫。
あの人は、また目を覚まして微笑んでくれるんだ。
『大丈夫だよ、亨』
そう云って・・・。
そして、優しく抱きしめてくれる。


緊急治療室を、亨はジッと見つめていた。




-Wednesday-




窓から日が射してきた。

―――夜が明けたんだ。

亨は結局一睡もすることなく、病院のベンチで夜を越した。
昨晩、英治と亨の関係を不審がりながらも「ずっと親友として、卒業してから付き合ってきました。」という言葉を信じて、後は任せて欲しいという亨の哀願に折れた形で帰っていった。

カチャ
病室のドアが開く。
視線を上げると、看護婦が一人、出てきた。

「あの・・・・・麻生さんの?」
看護婦の言葉に肯く。
「目を、覚まされました・・・」
言葉尻を濁した看護婦を不審に思いながらも、亨は立ち上がる。




病室にはいると、ソコには色々な線に繋がれた英治の姿があった。

「英治!!」
亨は万感の思いを込めて近寄る。

だが、返された無機質な瞳。
そして・・・・・

「・・・・・・あんた、誰だ?」






続いちゃったりして・・・・(汗)




この作品は、美穂サンのリクエストを採用させて頂きました〜。
素敵なリクをありがとー!!美穂さん。
多謝多謝!
この場を借りて、お礼を申し上げますです。
さて、続きはだいーぶ先になりますが・・・楽しみに待ってて下さると嬉しいです。

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2001年3月18日 水貴伽世 拝
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