兄の隣で微笑むあの人が好きだった。
兄が一生懸命話して、あの人はそれに2・3言答える。
二人、目と目があって…
兄は大声で笑い、
あの人は穏やかに笑う。
肩を抱き合ってじゃれあい、
あの人は、兄に対して優しい優しい瞳を向ける。
私はそんな二人を見ているのが大好きだった。
そんな日々はずっと続き
私はずっと二人を見つめることができると信じていた……
『―――遙さん!!!』
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「遙、デートしようぜ」
いつもの昼休み。
涼のその一言から始まった。
「・・・・・・・デート?」
「ああ、ほら今度の日曜。映画見て〜、昼飯食って〜、ブラブラ歩いて〜、そしてそして・・・・」
最近遙の家もいってないし・・・
いや、別にホテルでも・・・
「俗物だね。」
「その後、何をする気だ、涼」
激しい友人のツッコミに、涼はムッとした顔を二人に向けた。
「お前達には関係ないだろっ」
友人に食ってかかる涼に、遙はそっと彼の肩を叩く。
「涼、そんな云い方ナイだろう?」
恋人に優しく窘められ、涼はしぶしぶ口を閉じた。
「映画・・・見たいのあるから、いいよ。何処に行く?」
大人しくなった涼に、遙はニッコリ笑いかける。
「渋谷・・・池袋・・・原宿・・・・新宿・・・うーん」
遙の言葉に、親友達への怒りなど忘れて、涼はイロイロとデートコースを考え始めた。
「飴と鞭・・・」
「流石だ、遙さん・・・」
天気のいい午後。
平凡で幸せな風景。
訪れる小さな嵐など、二人は気付くはずもなかった・・・。
◇◆◇◆◇
「前評判通り面白かったな」
「遙は、アクション物が好きだよな〜」
遙はアクション物やSF物などが好きで、恋愛物が苦手である。
以前二人で『タイタニック』のビデオを見て、最大に盛り上がるシーンでで寝てしまっていたという過去を持っていた。
「これから、何処行く?」
「うーん、俺は何処でもいいけど・・・」
最近遙は二人きりになると“僕”から“俺”と自ら指す一人称が変わる。
それは、涼に心を許し本来の彼の姿を現してくれているモノなので、ソレを聞くたび涼は嬉しくなった。
内心“僕”の方が、合っていると思いながらも・・・。
「とりあえず、腹減ったよな。」
「うん、そうだね。」
時計を見れば、午後1時。
昼ご飯を取るには丁度いい時間だった。
「何食べる?」
「んー、どうしようか・・・」
雑踏の中立ち止まり、二人して昼ご飯に頭を巡らしているときだった。
「―――遙さん!!!」
人混みの中から、その声は聞こえた。
ハッキリと。
涼も遙も、その声の方向に振り返った。
すると、人混みの中から一人の少女が二人に近付いてくる。
「――――――真由美ちゃん・・・?」
遙は小さく呟いた。
ソレを聞き逃す涼ではなく、
「知り合い?」
「・・・・・・ん。」
少し口ごもっている遙を不思議に思いながら、涼は声の主に視線を移した。
コチラに近付いてくる少女。
幼さから中学生ぐらいだと、涼は思った。
「遙さん・・・お久しぶりです。」
「・・・真由美ちゃん。大きくなったね・・・」
遙は懐かしそうな目をした。
「だって、私も来年は高校生なのよ。」
「・・・そっか。」
小さな沈黙。
「・・・遙さん、兄さんと会って欲しいの。」
突然の言葉。
「・・・・・・会えないよ。会わせる顔がない。」
遙は、辛そうに笑った。
「そんな事ないわ!兄さんだって、あの時は驚いて・・・。でも、ずっと後悔してた。ずっと遙さんのことを心配してた。ううん、してる。だから―――」
「・・・・・・」
涼は、二人の会話に苛立ちを感じていた。
知らない遙の過去の人間関係。
仕方のないことだが、だが、認めたくない。
全てを知っておきたい。
独占欲。
この少女の“兄”の存在が、妙に気にかかる。
これほどまでに、遙を動揺させる人間―――
「遙・・・」
少し苛立ちを含んだ声。
「あっ、涼ゴメン・・・」
遙は驚きと動揺のあまり、涼の存在を少し忘れていた。
それがまた、気にさわる。
「メシ、食いに行こう」
早く、この場から・・・この少女から遙を離れさせたい。
この少女は、きっと自分たち――いや、自分に害をなすモノ。
涼は本能で感じ取っていた。
「遙さん・・・その方は?」
「あ・・・ああ。東雲涼っていって高校の友達」
「友達―――!」
少女真由美のあまりに驚いた表情に、涼は妙に引っかかった。
「友達・・・そう、友達・・・。そういえば、遙さん眼鏡は・・・?」
「眼鏡、もうしない事にしたんだ。」
遙はフワリと笑った。
涼も、そして少女も一瞬見惚れる。
「でも、眼鏡がないと・・・危ない―――」
「大丈夫だよ―――抵抗できるし・・・」
一人じゃないから。
「遙は俺が守るから、あんたは気にしなくてもいい」
二人の会話に、涼が割って入った。
「あなた―――」
「涼っ」
「遙は、俺が守る。誰にも手出しはさせない」
少女は、涼を見据えた。
まるで、敵を見るかのように。
そして、涼も真正面からそれを受けた。
「涼・・・」
困惑した表情の遙に、涼は笑いかける。
大丈夫―――だと。
「いこうぜ、遙。俺腹減ったし」
「あ、ああ―――」
半ば強引に、涼は遙の手を引いた。
「は、遙さん・・・!」
「真由美ちゃん、またね」
振り返り、手を振る。
「遙さん―――」
雑踏の中、少女は見えなくなるまで彼らを目で追った。
あの人の隣にいるのは、兄のハズではなかったのか。
兄でないと、おかしい。
あんな男の隣にいるあの人など、見たくなかった。
帰ったら、兄に報告しよう。
あの人に会ったと。
ずっと、兄が気にし続けている、あの人に―――
◇◇◇
「あいつ、誰?」
しばらく歩くと、涼はぶっきらぼうな口調で遙に尋ねた。
「・・・友人の妹―――」
「友人?」
遙は過去――籐華学園に来るまで好奇の対象になっていた事を、涼は知っている。
まともに友人もいなかったことを、遙の口から聞いていた。
ただ、一人を覗いて・・・
「あの・・・あの眼鏡をくれたっていうヤツか?」
「よく、判ったね―――」
驚いた顔をした遙に、涼は内心苦虫を噛み潰した。
涼は知っていた。
あの事件で、ボロボロになった眼鏡を、遙は捨てきれずにいる事を―――
「もう、会えないんだけどね。俺は彼を裏切ったから・・・」
悲しそうな顔をした遙の手を、涼はそっと握りしめた。
少し恥ずかしそうにしながら、握り返してくる手に、ギュッと力を込める。
遙の心を占めている、男の存在に涼は嫉妬する。
過去も全てを独占したいという、無理な感情。
無理だと思いながらも、どうしても思ってしまう。
だから、知らない人間の登場はこれほどまでに、涼の心をかき乱した。
そして、今日のこの出会いに、嫌な予感がした。
本能的に、感じた。
そして、涼の本能が外れるということは、今まで一度もなかったのだ―――
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久方ぶりに、二人の話を書きました。
ふー、疲れた(笑)
春編から、さり気に存在を仄めかし続けた“遙の親友”の妹の登場です。
本命は次ぐらいかな?
涼、最大のライバル現る?!(笑)
長さがどれくらいになるか判らないのですが・・・。
お付き合いよろしくお願いします。
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