楽園4 -前編- |
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腰にあたる感触に、渚は目を開いた。 ――朝から最悪だ・・・。 としか、渚には言いようが無い気分だった。 何故、目が覚めた途端こんな感触――男の勃起したソレが当たってる感触など、感じなければならないんだ、と怒りがこみ上げてくる。 だが、今それで騒いだとしても・・・自分にとって何もいい事など起こらない事は判ってる。 いや、更に最悪な事態を招く結果になるという事を、この男との長い付き合いから渚には簡単に予測がつく。 ――とにかく起こさないように、この腕を解いてシャワーを浴びるんだ。 スーツさえ着てしまえば、朝からしかけて来ない。 その辺の線引きは、渚と博隆の間で暗黙の了解としてキッチリしていた。 腰に回っている手を、ゆっくりと外す。 男の様子をみると、気持ちよく夢の中らしい。 ホッとして渚は起き上がり、ベッドの端へと腰掛ける。 足元に落ちているバスローブを拾い、肩から羽織るとシャワールームへ行く為に立ち上がった。 ――はず、だった。 「ダーリン、つれないな。何も言わずに何処に行く気だよ」 背後から腰に回った男の手が、強引に渚を引っ張り、渚の躯はベッドへと逆戻りしていた。 そのままスッと腹から胸にかけて撫でられ、その感触に渚はゾクリ躯を震わせる。 「は・な・せ」 「起きぬけの一発といこうぜ――」 「お前、俺の言ってる事・・・聞いてるのか?」 博隆は渚の言葉を聞き流しながら、首筋に唇を落とす。 躯を撫でる博隆の手を押さえようとすると、反対に渚の手はベッドに縫い付けられてしまった。 「お前がこんなにしたんだ。責任取れよ」 「ただの朝勃ちだろ? 生理現象だ。放っとけば収まる」 「お前が裸で『挿れて』って誘ってるのに、コレでヤらなきゃ男じゃねぇよ」 「俺は、一切誘ってない! 離せ!!!」 暴れる渚を博隆はガッチリ押さえ込むと、下腹部に手を伸ばす。 ビクリッと反応した渚の躯に、博隆はフンッと鼻を鳴らした。 「欲しいんだろ? 我慢するなよ」 「ひ、ろたか――」 プックリと尖った渚の紅い乳首に軽く噛みながら、舌で転がす。 昨日散々開いてやった奥の蕾に人差し指を入れると、待ち構えていたかのように博隆の指をキュッと締め付けた。 「中は欲しいって言ってるぜ・・・?」 「くっ・・・うっ・・・」 すぐに2本に指を増やして、内壁を広げるように刺激する。 前立腺に触れるか触れないかの辺りを撫でてやると、渚はもどかしそうに躯を揺すった。 入り口はまだ足りないとばかりに、収縮を繰り返している。 博隆はダッシュボードの上にあった潤滑ジェルを手を伸ばして取り、淫猥な動きを繰り返す蕾の入り口へと運んだ。 3本の指でジェルを奥まで塗る。 ヌプヌプという音と共に、ジェルのついた博隆の指を渚の蕾は飲み込んでいく。 じれったそうに動く腰に、博隆はニヤリと笑った。 「指じゃ、足りねぇんだろ?」 「・・・る、さいっ」 ココに来ても、渚が観念する事はない。 博隆もそれが判っているので、渚の言葉など聞いていないのだが。 首筋にキスを落としていると、右肩に引き攣った赤い傷跡が目に入る。 博隆はソレを舌でなぞった。 渚の躯は敏感に反応し、震える。 右肩の赤く腫れている数センチのソレは、数ヶ月前に渚が襲われてつけられたものだ。 博隆はこの傷を見るたびに、己のモノを傷つけられた苛立ちを感じる。 渚に言っても仕方の無い事なので、口にはしないが。 その苛立ちを紛らわせるかのように渚の両足を持ち上げ、太いものを求めて収縮を繰り返すその襞に、望むものを押し付けた。 「あっ、くっ・・・あぅ・・・」 声を押し殺すように耐える渚の中を、博隆は蹂躙していく。 「すげぇ、締め付け。やっぱお前、欲しかったんだろ?」 コレをさ――。と、ズンズン腰を突き上げる。 漏れる渚の啼き声に満足しながら、博隆はその躯を存分に貪りつくすのだった。
「おはようございます」 「おはよう」 セノ・エンタープライズ社。 渚の会社である。 ビルの入り口をくぐると、渚に気付いた社員達がみんな挨拶をしてくる。 この会社を掌握する為に、渚は数ヶ月を要した。 渚を傀儡にしようとする義母達の手の人間が大勢入り込んでいて、それを一掃するのにかなりの手間がかかったのだ。 エレベーターで最上階にあがり、社長室の扉を開く。 「おはようございます。社長」 「おはよう、志野」 秘書の志野が渚の姿を確認して、近寄ってきた。 志野は、渚の持つ唯一の秘書。 そして、渚の野望を分かつ同志。 そう、渚には1つの野望があった。 一度は、全てが煩わしくて全てを捨てて逃げた事もあった。 守るべき母も失って、それでも攻撃を緩めない義母の怨念に疲れ果てたのだ。 そのままソッとしていてくれれば、渚は海外でそのまま生きていただろう。 だが、渚は連れ戻された。 渚の意思など、全く無視して。 傲慢な父の一言で。 ずっと渚には、秘めた思いがあった。 この父親さえいなければ、母は死ぬ事など無かっただろう。 縛り付けるだけ縛りつけ、守る事をしなかった男。 この父親という名の男を、完膚なきまでに叩き潰してやりたかった――それが、復讐と言う名の野望。 日本に連れ戻され、渚がこの会社を任されて半年以上がたつ。 瀬野に恨みを持つ志野を秘書にしてから、渚の計画はだいぶ起動にのってきた。 それでも、瀬野グループは大きすぎる。 血縁関係の結束も固い。 突き崩せない壁に、苛立ちを感じる事が多くなってきていた。 「社長、今日は夜からパーティーが入っています。タキシードの用意を」 「タキシード? そんな正式なパーティーなのか?」 渚ははっきりいって、パーティーなど肩のこるものは嫌いだ。 だが、顔を広める為に積極的に出るようにという志野の言葉に従っていた。 「ブラナー家の次男、ケヴィン・ブラナーが来るんですよ。繋がりを持てればラッキーってヤツなんですけどね?」 ブラナーといえば、アメリカ5大企業の1つとも言われているグループだ。 瀬野ともグループ会社同士で、提携を結んでいる所がいくつもある。 「ブラナー家は、ほとんど表に出てこないだろう?」 ブラナーも瀬野とよくにた感じの体制で、大きなグループを血族で仕切っている。 だが、表舞台にはトップに近ければ近いほど出てくる事が無いというのも有名である。 「ええ。今回も日本の企業とブラナー傘下の企業が提携を結ぶ記念パーティーなんですけどね。ブラナー一族、しかも直系が出てくるっていうんで、日本の経済界の人間がこぞって参加するとか」 渚はニヤリと笑った。 「お前、ブラナーより、そっち狙いだろう?」 「判りました?」 なんの面識も無く、たかだか瀬野グループ内の1会社社長なダケである渚が、いきなりブラナー家の中心人物である次男と知り合いになれる可能性など、ほとんど無いといって等しい。 それよりも、それなりに渚の名を知っている日本の企業家達のなかから有力な人間と懇意になっておいたほうが、有益なのだ。 「タキシード、用意しよう。面白いパーティーになればいいんだがな」
会場は、既に凄い人だった。 すれ違う人々に会釈しながら、渚も内部へと入っていく。 志野から数人のターゲットを示されており、声をかけるべく視線を彷徨わせた。 瀬野からもかなりの人間が来ているらしく、4人の兄達やそして父親である男ももちろん来ていた。 見つけたターゲットに声をかけ、名刺を交わす。 エンタープライズ社就任の折に業界を騒がせただけあり、皆渚の事を知っていたので、会話はスムーズに済んだ。 少し休憩を入れる為、ウェイターに頼んでワインを貰う。 壁際に背を持たれかけさせ、会場内を観察する。 1人を中心に、何重もの人の輪が出来ている所があった。 ――あれが、ブラナー氏を囲む輪か? まるで、珍獣を囲むようだと・・・渚は思わず笑みを漏らす。 「渚・・・」 ブラナーを囲む固まりを観察していた渚に、横から声がかかった。 長兄の――。 「・・・基、兄さん」 「お前が、こういう集まりに来ているのはめずらしいな」 「まぁ・・・」 ――最近は、よく足を運んでいるんです。 という言葉は、あえて言わない。 渚にとって基はどういう対象にとっていいか、わからない存在だ。 アメリカから帰国するまで――中学高校時代の渚にとっては、全く関係ない人間だった。 基は渚の存在を、無いものとして扱っていた。 そう、今の次兄・秀樹が渚に対するように。 だが、日本に戻ってきてからは・・・どちらかというと社長に就く事を推したりと、何故か庇われたりとされている。 その理由が判らない。 それでなくても、基は義母・光江の一番の自慢の息子なのだ。 基の息子であり光江の孫である和成の事は、目に入れても痛くないほどの可愛がりようである。 その基が、渚を推したり庇ったりする理由が無いのだ。 この兄の真意が見えない。 だから、渚はこの兄に対して慎重に動かざるを得ないのだ。 「和成が・・・お前を、心配している」 思わぬ名前に、渚は兄を見た。 和成とは、あの事件以来――あっていない。 電話やメールを度々貰うのだが、返す事が出来ていない。 可愛い可愛い和成。 彼を思うと、自分の決心が揺らぎそうになる。 醜い骨肉の争いなど見せたくない。 彼は、太陽の下で笑うべき存在なのだから。 「元気にしていると、伝えてください」 「あってやって欲しいのだが・・・。こんな事を頼むのは、親ばかとしかいいようが無いのだけれど」 「兄さん・・・」 基が自分に頼みごとをしてくるとは、思わなかった渚は驚きを隠せない。 その頼みごとの内容にも・・・。 「あいつがめずらしく、かなりへこんでいてな。理由を聞いてもはっきりとは言わないのだが――。和美に聞いたら、お前に会えないからではないか、と」 「義姉さんが・・・」 優しい義姉の微笑みを思い出して、胸が痛む。 「和成を、巻き込むわけにはいかないので・・・」 渚の身辺は、相変わらず安全とは言い難い。 和成がいれば、渚はかばってしまうだろう。 そして、それは自分の身の安全が危うくなるのだ――。 「和成から聞いた。庇ってくれたそうだな――。ありがとう」 「あれは、元々・・・私が狙われていたものです。彼を巻き込んで申し訳なかったです」 「お前――。まだ、母に・・・」 基は顔をゆがめた。 どうやら基は未だに渚が光江から狙われている事を、知らなかったらしい。 和成の誘拐事件を、渚が身を挺して庇ったとでも思っていたのだろうか? 渚は苦笑し、首を振った。 「それ以上は・・・。言っても仕方の無い事です」 「しかし――」 更に言い募ろうとした基は、渚を見て口を閉ざした。 「私の知らない所でも、未だに色々動いているみたいだな。判った――」 そう言うと基は、一歩前に進んだ。 視線を移すと、前方に基を呼んでいる人間がいる。 「渚。和成の事だが。一度、私の家ににでも会いに来てやって貰えないだろうか? 私の家なら安全だろう。和美もお前に会いたがっていたし・・・」 「・・・判りました。落ち着いたら、一度必ず――」 渚の答えを聞いた基は、振り返ること無く足早に去っていった。 ――やはり、基兄さんの真意が判らない。 自分を単に使える瀬野の人間として見てくれているのか。 それとも、裏があるのか。 基と語っている間に、例のブラナー氏を囲む固まりが近くまで来ている事に渚は気付いていなかった。 「ナーギーサー!!!!」 自分の考えに耽っていた渚は、自分の名前を呼ばれ、思わず顔を上げた。 目の前に何十人もの人と、その中心に金髪の男が立っている。 その男が渚の方へと向ってくると、モーゼのようにその前にいた人が道を開けた。 近付いてくる男をみて、渚は目を見開いた。 『ナギサ! 会いたかったよー!!』 英語を喋り、渚に近付いてくる男は―― 「ケ、ケリー!!!」 アメリカにいた頃の、ルームメイトだったのだ。
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2003.9.20 |
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