−夜桜−
「視線で殺して、魂で縛れ!」番外編




「また来てたのか・・・」
 アパートの玄関に佇んでいる恋人を見て、英治は溜息を吐いた。


◇◇◇


 麻生英治が全国で有数の進学校『松華学園』で教師をするようになって、1年が過ぎた。
 そして、生徒である水島亨と付き合うようになってからも・・・1年が過ぎようとしていた。



 英治と水島の出会いは、2年近く前になる。
 水島は、高校に入学した途端、全ての事が馬鹿馬鹿しく虚しくなって自暴自棄になっていた。
 そしてその憂さを夜の街で晴らしていたいた時、絡まれていた英治を助けたことが二人の出会いのきっかけである。
 そのまま二人は、気が合い友人となる。
 だが、その関係も英治の就職と同時に壊れた。
 連絡なしに自分の前から消えた英治に対し、水島は自分の想いを自覚した。
 そんな中、再び学校の教師として現れた英治を、躰だけでも自分に縛り付けようと強姦したのだ。
 お互いの気持ちが錯綜した後、結局二人は結ばれ、それからは片時も離れないほどの熱い恋人同士になっていた。

 しかし、そんな水島も高校3年。
 受験の年である。
 英治は、はたして自分と一緒にいるのが水島にとってモノか考えることが多くなった。
 仮にも自分は教師である。
 そんな英治の感情を敏感に感じ取った水島は、前にも増して英治のそばから離れない行動を取るようになっていた。


◇◇◇


「英治」
「亨、今日は会議で遅くなるって云っていただろう?まだ、寒いのに・・・」
 さしだした手に絡み付いてくる指は、冷たくなっていた。
「迷惑か・・・?」

 寄せられた眉に、胸が痛む。
 こんな顔をさせたいわけじゃない―――
 ただ、大切なだけなのだ。

「誰もそんな事言ってないだろう?入れよ」
 鍵を開けて部屋へと導く。
 ホッとした顔をした水島に、また英治の胸が痛んだ

 ナゼ、そんなに不安そうなんだ―――?
 自分は彼をそんなに不安にさせているのだろうか。



「コーヒー入れるよ。」
 自分のマグカップと、半年前からおいてある水島のマグカップを並べる。
 インスタントコーヒーの粉を一杯ずつ入れ、お湯を注ぐために、英治はカップを両手に持ってポット方へ振り返った。

 ガッシャーン

 キッチンの床に広がったコーヒーの粉。
 転がる二つのマグカップ。

「どうした、亨?」
 突然背後から抱きついてきた水島に、英治は優しい声で問うた。

「英治・・・俺と別れたい―――?」
 首筋に鼻をすり寄せ、小さな声で聞いてくる水島。
 学校では、堂々とした態度で、冷たい視線で、斬りつけるような口調で、鉄壁の副会長として生徒や教師からでさえ恐れられ一目置かれている水島亨とは思えない態度。
 だが、英治の前だけで見せる甘えた態度だった。

「何を急に云い出すのかと思ったら・・・。お前、いつ俺がそんな事云った?」
 あきれた声を出す英治に、水島はギュッと英治を抱きしめる両腕に力を込めた。
「最近、一緒にいる時間が少ない・・・」
「年度始めなんだから、仕方ないだろう?」
 4月は教師として忙しい時期。
 そんな事は水島にも判っているはずだ。
「わかってるけど―――」
 そして、また黙り込んでしまう。
 言外に聞こえてくる、不安を現す態度。
 最初の出会いが特殊すぎた。
 付き合うきっかけも・・・特殊だった。
 それが、彼を不安にさせるのだろうか?

 だから、英治はこうすることしか出来ない―――

「亨、腕を離せよ」
「英治―――」
 恐る恐る、という感じで・・・英治を後ろから抱え込んでいた水島の腕の力がゆるむ。
 それを見計らって、英治は水島の正面を向いた。
 そして、殆ど背の変わらない――数センチ水島の方が上だが――恋人の首に自分の腕を巻き付けた。

「愛してる。愛してるよ、亨―――。」
「英治・・・」
「何がお前を不安にさせているか、俺には判らない・・・」
 英治の言葉が終わらないうちに、水島は英治をかき抱き、貪るように唇を合わせた―――。

「何が不安なのか・・・自分でもわからない。けど、英治が俺の隣からいなくなったらどうしようかと・・・いつもそれが頭にあって―――」
「オレはお前の側にいるよ>―――。ずっとだ。お前が嫌になるまで―――」
「嫌になるワケないだろ―――!ずっと一緒だよな、英治」
「ああ、愛してるよ。ずっと一緒だ―――」
「俺も、俺も愛してる。愛してるんだ―――」
 英治にギュッとしがみつきながら、水島は「愛してる」を繰り返した。

 初めて欲しいと想った人―――
 手に入れたら、離れていくことばかり考えてしまう。
 そして、気が狂いそうになる。
 どうしたら、この人を自分のモノだけに出来るのだろうか―――

 だから、すぐに「愛してる」を求めてしまう。
 それだけで・・・・・・。
 その時だけは―――心から安心することが出来るんだ。


◇◇◇


 テーブルの上には、ビールの瓶が数本転がっていた。
 英治はキッチンの床に撒いてしまったしまったコーヒーは諦め、「酒のもうぜ」という、水島に一応教育的指導をしながら、「MISSIONで飲ましてたの英治じゃん」という水島の言葉に負け(その頃は、水島のことを英治は大学生か会社員だと思っていたのだが・・・・・・)結局二人で飲み明かすことにしたのだった。

「サクラ・・・綺麗だな―――」
 英治はふと立ち上がり、窓を開ける
 その時フワッと風が吹き、アパートの外にポツリと1本だけ立っている桜の樹から飛んできた桜の花びらが何枚も部屋の中に舞った。
「英治―――」
 窓の手すりに肘をかけて外を見ている英治を、水島はフワリと抱きしめる。

「亨・・・」
 近付いてくる気配を感じ、英治は目を閉じていった―――

「ん・・・」
 侵入してくる舌に自分のを絡める。
 夢中でキスに答えてくる英治に、水島は笑みを浮かべながら、ゆっくりとシャツのボタンに手をかけた。

「ちょっと待て、亨―――こんな所で・・・」
 ぼうっとした夢の世界から一瞬で現実に戻った英治が、3つ目のボタンを外しかかっている水島の手を掴んだ。
「いいじゃん、ココで―――。もう、俺ガマンできないし・・・」
 そう云いながら、水島はベルトに手をかけた―――
「ま・・待てよ。外から見えるって・・・!!」
 英治は焦りながら水島の肩を押すが、力では水島の方が数段勝っているのだ。
 そのまま、グイグイッと既に猛っている下半身を押しつけられる。
「見えたっていいだろ?俺はみんなに見せつけたい―――」
「ばっ、バカ―――ああっ」
 ギュッとズボンの上から、握り込まれる。
 そのままヤワヤワと揉み込まれて、英治の息は一気に上がった。

「英治・・・・・」
「やっ、もう―――あ・・・亨ぁ・・・」

 こんな焦れったい愛撫では、全然物足りない―――。

「亨・・・あきらぁ・・・・」
 求めるように、英治はギュッと水島の頭を抱き込む。
「英治・・・・好きだ―――」
 水島は英治の耳元で甘く囁き、そのまま英治のズボンを膝まで落とした―――。



「んぁっ、あぁ・・・・・んぁぁ!!」
 英治は手の甲を口にあて、必死に声を押し殺そうとするが、水島の与える快感にそれは抑えきれない。
 水島はしゃがみこみ、英治の下半身に必死に愛撫を繰り返していた。
 喉の奥まで飲み込んで、舌で敏感な部分を刺激され、英治は躰中に駆けめぐる悦楽に悶える。
 あいている片手で、水島の髪の毛を掴む。
「駄目だ・・・んんっ、もう・・・・」
「いいよ・・・いって・・・全部飲んでやるから―――」
 水島は英治を根本から先端まで舐め上げ、その先の部分をキュッと吸い上げる―――
「あっあっ、ああぁぁ―――」
 英治は水島の口腔内で自らを解放し、その欲望を解き放った。

 全てを嚥下した水島が、立ち上がり嬉しそうに英治に顔を近付けてくる。
 青臭いキス―――
 だが、自分のモノを飲んでくれた水島の唇を、英治は嫌だとは思えなかった。

 英治はそのまま躰をひっくり返された。
 ガラス窓に手を突くと、水島の手が英治の双丘にかかり、滑った感触の指が英治の蕾を刺激する。
 2本3本と入ってくる指の感触に耐えながら、英治は水島の方を振り返った。
「あっ、亨・・・マジでここで・・・するのか―――」
 そして恨めしそうに、5歩あるけばたどり着けるベットの方を見た―――。
「野暮なこと云うなよ・・・。俺はコレを入れなきゃ、もう1歩も歩けないぜ―――」
 蕾に押し当てた熱いモノを軽く動かし刺激する ―――。
「なっ・・・!!」
 水島のハズカシイ台詞に、英治の頬はカッと染まる。
 その様子を嬉しそうに見ながら、先端をちょっとだけ英治の中に入れ、微妙な動きを繰り返した―――。
 その動きに焦れた英治は、自分の腰を水島に押しつけるが、際どいところでかわされ続ける。
「英治は・・・?このまま、ベットまで行ける―――?」
 耳朶を甘噛みしながら、水島は英治を誘いかける―――。

 ―――い、行けるワケないだろうが・・・・・・・!!

 英治の躰は、その熱いモノで貫いて欲しくて・・・・
 もう、立って歩ける状態ではなかった。

 さっきまで・・・・
 さっきまで弱気で、泣きを入れてて、可愛かった亨と・・・
 コイツは同一人物なんだろうか―――?

「英治―――?」

 くそっ・・・・
 くそぉ―――

「ハヤク・・・・・!!早く挿れてっ、亨―――」
「うん―――」

 グッと奥まで侵入してきた水島の熱いモノに、英治は歓喜の涙を流す―――

「イイッ!!亨ぁ―――イイよぉ・・・」
「英治最高・・・・・熱くって・・・スゲー俺を締め付けてくる」

 ガタガタ揺れる、半開きのガラス窓。
 窓の外に立っているサクラは、風が吹くたび花びらを舞い散らしている―――。

 窓に写るのは―――
 全身がピンク色に染まっている自分。
 口が半分開いて、「ああっ」とか「イイッ」とか日本語じゃない言葉を繰り返している。
 そして、その自分の後ろには、自分を責め立てている、亨。
 キュッと眉間に皺を寄せ、自分の欲望を追い上げている顔は・・・凄く魅力的だ。
 瞳の奥に燃え上がっている、欲望の炎は―――ひどく自分を興奮させる。

 ガラス越しに、眼と眼があった―――。
 亨は挑戦的な笑みを浮かべると、グイッと最奥まで腰を突きいれた。
「ああっ―――」
「くぅっ―――」

>
◇◇◇


 ベットに突っ伏していた英治は、キッチンから取ってきたビールを美味そうに飲む水島をジロリと見た。
「なに?英治―――」
 酷く機嫌が良さそうに聞いてくる―――。"

 さっきの情緒不安定は、ただの要求不満だったのか―――?

「亨・・・頼むから、窓のそれ。拭いてくれないか―――」
 英治の視線の先には、先ほど英治が放った欲望の証が、窓に飛び散っていた。

「いいじゃん。外のサクラと綺麗なコントラストになっていて、情緒があふれて――」
「―――るワケないだろ!早くコレで拭けっ!!」
 手元にあったタオルを投げつける。
 水島は、シブシブと云った感じで窓のそれを吹き始めた。
 その姿を見ながら、英治は起きあがり、引出に置いてあったモノを取り出した。

「コレでいい―――?」
 拭き終わって振り返った水島に、英治はポイッとそれを投げた。
 いきなり飛んできたモノを、反射神経で受け取った水島は、手の中のモノを見て、驚愕に目を開く。
「こ、コレ・・・・」
「ホントは、ずっと渡したかったんだけど、コレを渡すと毎日お前が通ってきそうで、渡せなかった。お前は受験生なのに、こんな毎日オレと遊ばせておくわけにはいかないから・・・」
「英治―――」
「でも・・・どうせ、渡して無くても来るんだろう?じゃあ、せめて部屋の中で待っててくれ・・・。俺が帰ってくるまで勉強しておいてくれ―――」
「英治・・・!!」
「うわっ」
 水島は英治に飛びついてくる。
 英治はその躰を支えきれなくて、そのままベットに二人で転がった―――

「俺・・・・すげーガキ。英治が部屋の鍵くれないの、実はずっと不安で―――。英治がそんな風に思っててくれてたなんて、思いもしなかった・・・・・・・」
「まぁ、だてにお前より年は食ってないよ―――」
「英治が帰ってくるまで、ちゃんと勉強してるから・・・だから、俺が来るの拒まないで―――」
 ギュッとしがみついてくる水島が可愛くて、英治もギューっと抱きかえす。
「ばかっ、拒むワケないだろ?ホントはお前が来てくれるの、俺だってスゲー嬉しいんだから・・・」

「英治、愛してる・・・愛してる―――」
「俺も、愛してるよ―――亨。」BR>
だから、ずっとずっと一緒にいよう。
 誰にも、邪魔なんてさせないから―――



 二人の愛の誓いは、桜の樹だけが知っている―――



END


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