winter kiss
SHINE





「・・・くしゅん」
 隣でクシャミをした遙に、涼はあわてて自分のマフラーを遙の首に巻きつける。
「涼・・・いいよ。寒いだろ」
「遙が風邪ひいちゃ、駄目でしょ?」
 ニコニコ笑う涼に、遙は小さくため息を吐いた。
 どうも、涼は遙に対して過保護すぎるというか・・・。

 ――俺が年上って事、忘れてない?
 以前の事件――遙が手首を切って自我を失う――の事が、尾を引いているのだろうか。

 寒さにチリリと傷口が疼くような気がして、遙は左手首にそっと手を押し当てた。














「おはよーございます。遙さん。涼」
 教室に入ると、既に来ていた智紀が手を挙げる。
「おはよう」
 遙もニコヤカに挨拶をして、己の席に向った。

 留年した遙は、再び高校2年生という1年間を過ごしている。
 笑える事に、涼と智紀と同じクラスだ。
 偶然か・・・それとも必然か。
 それは、遙には判らないけれども。
 二人のおかげで、自然に1つ年下のクラスメイトとも馴染む事が出来た。
「遙さん、今日の英語の課題やってきた?」
 クラスメートに声をかけられ「ああ」と、答える。
 元々、学年トップを走っていた遙である。
 しかも、2年を2回もしていれば・・・今現在、一度も落ちた事の無い不動のトップをキープしている。
 教えてくれというクラスメートのノートを見ながら、的確に説明してやる。
 チラチラと遙の方を見ている涼や、そんな涼を指差して笑っている智紀の事はこの際無視だ。
 そうするうちに、チャイムが鳴り授業が始まる。

 日常的な高校生活。
 その生活を送る事が出来る今の自分の幸せを、遙は噛み締めるのだった。











「あ・・・」
「雪、だね」
 空からチラチラと降って来る白い粉雪に、遙は思わず手を伸ばした。

 放課後の屋上。
 こんな寒空に、生徒達は誰も上がってこない。
 だが、遙と涼はこの場所が好きで、いつも二人の時間(や智紀と雅也を交えた4人の時間)を過すのが常だ。

 伸ばした腕を涼に捕まれ、引き寄せられる。
 手首に唇を落とされ、遙はその場所から心臓まで電流が走ったように躯を震わせた。
「・・・涼」
「もう、すぐ・・・1年だね」
 涼からその事を振ってきたのに、遙は驚いて顔をあげる。
 あの事件の事は、お互いあまり触れないようにしていた。
 遙にとって、あれは・・・あれに関する全ての事は、過去の事して消化しきれていたが、涼に取ってはそうではないようだった。
 手首にある傷を見るたび、時折見せるつらそうな表情に、遙は己の愚かな行動をいつも反省していた。

 ――愛する人に、こんな顔をさせてしまうなんて。
 ・・・と。

「そう、だね・・・。あの時も雪が降っていた。涼の声が俺の奥の奥まで聞こえてきて、目が覚めた」
「遙・・・」
 涼は、チュチュと傷口にキスを落とす。
 触れられた部分が、熱くなる。
 遙は涼の柔らかいその髪に、そっと手を伸ばした。

「遙・・・。今度ある芙蓉のパーティーに出るの?」

 ――なんて情報が早いんだろう。
 遙はそっと心の中で嘆息する。
 正式に決めて返事をしたのは、昨日なのに。

「伯父さんが言ったの?」
「どうして!? あの人の言う事なんか、無視すればいいだろ?」
 遙の質問を無視して、涼は遙を問い詰めた。
 顔を伏せているのは、不安のせいだろうか?

「逃げてばかりじゃ、いけないと思ったから・・・」
 遙の答えに、涼はハッと顔をあげた。

 あの人――芙蓉遙士は、遙が回復したと知るとあの手この手で遙を芙蓉に入れようと画策してきた。
 それを、遙はもちろん涼・・・そして涼の実家である東雲家、遙の伯父であり後見人である省三、その他にも遙に協力する人々が食い止めてきたのだ。
 なのになぜ、遙が突然――敵の中に飛び込むようなマネをするのか、涼には理解出来なかった。

「あの人は、俺が逃げれば逃げるほど・・・追いかけてくるだろう? そして逃げ場はどんどんなくなる。俺は追い込まれていく。周りの人を巻き込んで」
「守るっって! 遙は俺が守るって言ったじゃないかっ! 必ず――」
 肩を掴んで必死に言い募る涼に、遙は人差し指を伸ばして、その唇に触れた。
「ずっと守ってもらうわけには、いかない・・・。コレは俺の問題だし・・・。俺は男だから」
「遙・・・」

 揺ぎ無い遙の瞳に、その決心の強さを感じた。
 何を言っても、無駄――なのだと。
 もう、決めてしまったのだと。

「絶対、ああいう事にはならないから。俺の帰ってくる場所は、ココだけだから――」
 トンッと、遙は涼の胸をその手で触れた。
「涼の側だけだから。俺が呼吸をできるのは・・・」
「遙・・・」
「俺は負けない。あの人の手を振り払ってみせる」

 涼には判っていた。
 こう、決めてしまった遙を説得する事など出来ないという事を。
 己が出来るのは、遙を待つこと。
 遙が動けるように、サポートすること。

「待ってる・・・。ずっとずっとずっと、遙が俺の胸に戻ってくるのを待ってるから。絶対帰ってきて――」
 抱きしめる。
 消えてしまわないように。
 もう、二度とあんな事はゴメンだ。
 心の底から泣き叫ぶ、あの時のような事は――。

「愛している、涼・・・。未来永劫、お前だけを――」
「愛してる、遙。貴方だけを、貴方だけを永遠に愛し続ける――」



 雪の降る屋上で、誓いのキスをしよう。





end



遙の一人称は『俺』 眼鏡をして己を偽っていた頃は『僕』。
そう設定したのは自分なんですが、遙の俺にちょっと違和感・・・(笑)
ま、そういうのも、アリでしょう。

この二人にある未来は・・・あまり明るくないのです。
ロミオとジュリエットみたいなもんでしょうか?
二人して自殺ってのは、ありえませんが。
二人に待つ未来は・・・あえて言わないでおきましょう。
水貴は、アンハッピーエンドな話は書きたくない人間なので、どうも二人の話の続きを書くのは躊躇してしまいます・・・。
2003.12.25
水貴 伽世
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