「―――お前、何してるんだ・・・・・。」
「何って、見ての通り料理だろう?」
博隆の言葉に、渚の目はどんどん細められ、鋭いモノとなっていく。
重役達との折衝に疲れ果てて帰ってみれば、マンションのドアが開いていた。
義母の差し向けてきた刺客がいるのかと警戒しながら、ドアを開けてみると―――キッチンから、エプロンをしてバタバタと、この男が出てきたのである。
「ほらっ、座れって。コレ見ろよ、近海物の鰹で作ったカルパッチョ―――ツマミには最高だぜ」
いそいそと皿をキッチンから運んでいる博隆を見て、渚は深い溜息を吐いた。
1ヶ月間。
ほぼ、毎日に近い割合で、渚に何らかの接触を取っていた博隆が、いきなり音信不通になったのが1ヶ月前だった。
初めは気にもしていなかったのだが、一向に何の接触も取ってこない博隆に、渚も不審を抱き始め・・・・。
普段自分からは絶対しない、電話をしようとしたくらい―――気にしていた。
なのに、この男は
平然と俺の前に現れて
嬉しそうに、皿なんか運んでやがる―――――
「で、どうやって、部屋に入ったんだ?」
渚はそのままソファーに腰掛けて、座った目で博隆をチラリと見た。
チャラチャラ
博隆はポケットから鍵を取り出し、ヒラヒラと渚の前でそれを振った。
「俺は・・・。お前にこの部屋の鍵を渡した覚えはないぞ―――――」
「作った。」
「作・・・れるものなのか―――普通は」
渚の声には、どんどん剣がこもってくる。
「まあ―――それは、あれだ。それより、さあ食おうぜ!アテは全部出来た」
博隆はキッチンの方へ行くと、木の箱をもって戻ってきた。
「そんなモノ―――この家にはあったか?」
「土産だよ―――み・や・げ」
「―――土産?」
博隆は嬉しそうに、バリバリと釘で打ち付けてある蓋を、無理矢理破った。
そして中から数本の瓶を取り出し、テーブルの上に置く。
「なんだ―――それは?」
「ウォッカだよ、ウォッカ。ロシア土産」
「お前―――ロシアなんぞに行ってたのか」
「ロシアと香港。忙しかったぜ」
ロシアマフィアと香港マフィアか―――
渚と博隆は、お互いの仕事・家業のことについては口を挟まない。
コレが再会してからの、暗黙の了解になっていた。
「ほら、飲めよ―――」
博隆は栓を抜き、グラスにウォッカを並々と注いで、渚の前に差し出した。
―――俺は、コイツに振り回されっぱなしだな。
渚は、もう一度溜息を吐くとグラスを受け取り、ウォッカをあおいだ。
どんどん空になる瓶を見ながら、博隆はニヤついてくる口元を必死に押さえていた。
渚への禁断症状に喘いでいたロシアで、このウォッカを見たとき今回のことを思いついた。
渚は酒に強い。
はっきり云って―――ザルだ。
顔色も変わらなければ、言動も全くと云っていいほど・・・変わらない。
ただ
そんな渚が一度だけ、酔った事があった。
高校3年の寮時代。
博隆の持ち込んだ酒を、明け方まで二人で飲み明かした。
ビール・・・数え切れないほどに
日本酒・・・1升瓶が空になっていた。
ワイン・・・渚は確実に2本は空にしていた。
渚は、博隆の数倍は飲んでいた。
そして、“ソレ”は訪れたのである―――。
その状態になった渚は―――そう、可愛いのだ。
目がとろりと溶け、話し方が『博隆ぁ』と舌っ足らずになる。
そして、非常に・・・素直なのだ。
普段の渚は、はっきりいって自分の感情を表に出さない。
「俺のことを好きか?」と聞いても、無言で冷たい視線を送られるか、鼻で笑われるか、完璧に無視される。
だが、酔っぱらった渚は「渚――俺のこと好きか?」「―――すき」と云う会話をしてくれそうなぐらい、素直なのだ。
ただ、その酔っぱらった記憶は次の日完璧に渚に残ったらしく、その後1週間ほどまともに口を利いてくれなくなった。
そして、渚は博隆の前では浴びるほど酒を飲むこともなくなったのである。
で、今回のウォッカだ。
土産といって飲ませれば、素直に飲むだろう。
チャンポンじゃないから、油断もするだろう。
だが、アルコール度数90%を越えるこのウォッカを1ダースほど飲ませれば、流石に渚も・・・。
もう一度、可愛い素直な渚を―――――!!
これが、今回博隆がロシアで思いついた作戦だった。
「博隆ぁ―――もう一杯〜〜」
グラスを上げる渚の目はたっぷりと潤んでいる。
来た来た―――!!
博隆は内心ガッツポーズをした。
「これ以上は止めとけよ、な、渚?」
普段では出さない優しい声を出して、心配しているフリをする。
コレも作戦。
本心はこれ以上飲まれて、寝られてしまったら元も子もないという焦りだったのだが・・・。
「―――ん。」
空のグラスを隣に座っている博隆に預けると、トロリとした目を博隆に向ける―――。
「どうした?」
何かを訴えたそうな渚の瞳に、博隆は先を促す。
「―――お前、この1ヶ月どうして連絡してこなかったんだよ・・・・・・」
すねたような口調。
可愛い
かわいすぎる―――。
心の中の歓喜をポーカーフェイスで必死に隠して、平然と答える。
「忙しかったんだ。心配したのか―――?」
「―――――した。」
「待っていたのか・・・?」
「―――――待ってた」
ポツリと呟いて、頬を染める渚。
か、神様ありがとう―――。
今まで人にも神にも感謝したことの無かった博隆は、初めて神に感謝をした。
「ほら、来いよ・・・渚」
「ああ―――」
渚は腕を伸ばして、博隆の首に巻き付けた。
「寝室に連れてけ・・・博隆」
最高の誘い文句にクラクラしながら、博隆は渚の躰を抱き上げた。
「んぁ―――」
普段では聞けないような艶っぽい啼き声が、渚の寝室に響き渡っていた。
いつも渚は、甘い声をかみ殺してしまうが、今日は違うのだ。
「ああぁ・・・・・イイ・・・・博隆―――もっと」
「もっと、どうして欲しい?渚―――」
渚の下腹部に顔を埋めていた博隆は、渚の顔の前に自分の顔を持っていき、意地悪そうな顔で聞き返した。
これが、いつも道理の渚なら、ムッとした顔をして、ベットから博隆をけり出してしまうところだろう。
だが・・・
今日は違うのだ―――
「博隆ぁ―――」
「渚。もっと・・・何?」
「――――――舐めて・・・・・・・」
フイッと視線を反らして、ポソリと呟く渚に、博隆は心の中で勝利の雄叫びを上げた。
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プックリと立ち上がった胸の突起物へ刺激を与えつつ、博隆は渚自身を舐め上げる。
すでに濡れていた先端を軽く吸うと、渚は啼き声を上げ首を振って悶えた。
そろそろ、アレの出番だな―――。
博隆は、チューブを取り出して、自分の指にたっぷりソレを出すと、渚の双丘に手をかけ、すでにひくついているピンク色の蕾のヒダ一筋一筋に丹念に塗り込める。
「んぁぁ―――やぁ」
濡れた感触の気持ち悪さに、思わず逃げ出そうとする渚をがっしりと捕まえ、もう一度チューブを絞ると、今度はその指を渚の奥へと滑り込ませた。
渚の内部はひくつく様に収縮を繰り返し、博隆の指を食い締める。
「もう、こんなに誘ってるぜ―――渚」
言葉でも犯していく。
屈辱的に顔をしかめるその表情に―――また、そそられる。
「あ―――」
内部に塗り込めていくウチに、渚の躰に大きな変化が起こった。
体中が震えだし、躰中をピンク色に染めていく。
キたか―――
ニヤリと笑う博隆とは反対に、渚は泣きそうな顔で博隆を睨み付けた。
「博隆・・・お・・・まえ、何を塗ったんだ―――」
「香港土産―――」
「ほ・んこん・・・?」
「中国5000年の歴史―――び・や・く。」
「び、媚薬―――!!」
「そう催淫剤。でも、漢方だから躰には害もないぜ―――」
「は、離せ―――」
ショックで少し正気に戻ったのか、渚は覆い被さっている博隆を押し戻そうと藻掻いた。
だが、酒と媚薬に犯された躰では力が入るわけはなく、どんどん奥が熱くなってきて、渚は苦しそうに喘いだ。
「ホントに離していいのか―――?こんなになってるのに?」
博隆は渚の先端に軽く爪を立てる。
それだけで、渚はビクビクっと痙攣し、博隆の手を濡らした。
「もういっちまったのか・・・。早いな。―――それとも、たまってたのか」
俺と1ヶ月間やってなかったもんな―――と、淫靡な笑みを浮かべる博隆を、渚はきつく睨み付ける。
だが、その目の奥にある欲望の炎は消えていない―――。
そんな渚を簡単に組み伏せると、博隆は自分の指を一気に3本渚の奥に突き立てる。
「ああぁ―――」
仰け反った白い首筋に噛みつく。
「もう、復活してきたぜ。まだまだ、足りないのか―――淫乱な躰になったもんだな、渚。」
「五月蝿い―――」
しかし、渚に出来る抵抗といえば言葉だけで、後は博隆に翻弄される。
侵入してきた3本の指を、渚の内部はギュッと食い締め奥へと誘い込もうと蠢く。
だが、躰はそんなモノでは足りないと訴えていた―――
もっと、自分の中を一杯に満たしてくれるモノ――博隆自身を――求めて、腰は揺らめく。
「ひ・・・ろたか―――」
声が欲望で掠れる。
「なんだ―――渚?どうして欲しい―――」
あくまでも優しい声で聞いてくるが、表情には残酷なモノが浮かんでいる。
満たして欲しい
荒れ狂う熱を押さえて欲しい。
博隆で一杯にして欲しい
欲しい
欲しい―――
酒と媚薬で理性の飛んだ渚は、ついに博隆を求める言葉を口にした
「―――挿れてくれ。」
「何を―――?」
博隆はクスクスと笑いながら聞いてくる。
「これ、博隆の・・・!欲しい―――」
充分に高ぶっている博隆を握りしめて、渚は訴える。
もう、本能だけ
欲しい
欲しい
博隆が欲しい―――。
「じゃ、挿入れるように、濡らしてくれよ。渚のココで―――」
博隆は渚の顎をつかむと、欲望で乾いてしまった唇を、ペロリと舐めた。
「―――え?」
「そ。渚の口で、舐めて―――」
耳元で囁かれる誘惑。
「俺が欲しいのなら―――ほら、俺がいつもやってるだろ」
甘い甘い声。
一瞬の戸惑いが渚の中で起こる。
だが、目の前には自分を満たしてくれるモノがある―――
欲しい―――
渚はおずおずと―――顔を博隆自身の前に持っていく。
ゴクッ
生唾を飲み込むと、すでに高ぶった博隆自身に、渚はそっと舌を這わせた。
「イイぜ―――渚。ほら、もっと奥まで飲み込めよ―――」
博隆の下腹部で揺れる渚の髪の毛を撫でながら、博隆は香港で思いついた作戦も成功したことに内心狂喜乱舞していた。
空いた時間に、部下の一人が漢方薬を買いに行くというので、面白そうだからついていった。
部下は一生懸命何か店員と話し込んでいるのを横目に、博隆は店内を探索していると1人の店員が声をかけてきた。
「お客さん、何欲しいね〜」
「いや、別に欲しいのはねぇな〜」
気も漫ろに博隆はそう答えると、その男はニヤリと笑って1本のチューブを出してきた。
「お客さん。女との夜の生活満足してるか〜?」
「どういうことだ・・・」
「コレつける〜。どんな男も女も朝までねむれなーい。どんな不能でも、一気に回復するね。」
「ほぅ・・・。催淫剤か・・・」
コレは使えるかもしれねぇ―――。
博隆は渚の顔を思い浮かべた。
コレまで、どれだけ『咥えろ』と云っても
「―――殺す」
「絶対、一生そんな事はしない」
と、冷たい視線しか返してこない渚―――。
酒で酔わせて・・・この催淫剤でおかしくすれば―――
「よっしゃ、おやじ。ソレくれよ!」
「もう、いいぜ。渚」
「―――ん。」
渚の紅く濡れた唇は、無意識に誘っているかのように見える。
「足―――開けよ」
「くぅっ―――」
渚は屈辱的な表情をするが、おずおずと足を開く。
それを見ながら博隆はゴクリッと喉を鳴らすと、開いた渚の足を抱え込み、誘うようにひくついている蕾に自分のモノを一気に突きいれた。
「んあぁ―――」
待ちこがれていたモノを与えられ、催淫剤を吸収した渚の内部は博隆を締め付け、さらに誘い込むように、もっと飲み込むように収縮を繰り返す。
渚の躰中に、狂喜的な快感の嵐が吹き荒れた。
「イイ!博隆ぁ―――もっと―――」
足を博隆の腰に巻き付け、激しく腰を振る。
「最高だぜ―――渚ぁ」
博隆も、負けじと腰を打ち付け、角度を変えては、知り尽くした渚のイイ所を突き上げた―――
「あはっ・・・・うふぁ・・・」
身悶える渚の頬を両手で押さえ、噛みつくように唇をあわせる。
そして、貪るように舌で蹂躙していく―――。
「ああぁ・・・!博隆ぁ―――!!もう・・・」
高い声で限界を訴え啼く渚に、博隆も頂上めがけて一気に動く。
「最高だぜ、お前はよぉ―――渚ぁ」
「流れ落ちる汗も唾液もそのままに、二人は獣のような荒い息と唸り声を上げ続ける。
このような、二人の獣じみた饗宴は、明け方まで繰り返されたのだった―――
>
だるい―――。
体中の痛みに、渚は眉をひそめた。
隣で寝ている男が、限りなく憎い―――。
昨日の饗宴・・・狂宴を、渚は全て覚えていた。
自分のさせられた、云わされた事を一語一句覚えている・・・。
そう、渚は酔っぱらっても記憶を失うことはない。
忘れられないのだ―――。
今考えると、昨日は博隆の作戦にことごとく乗ってしまった事が、自分でもよく判る。
それ気付かなかったほどに・・・自分は――1ヶ月ぶりに現れたこの男に――喜んでいたのだろう。
こいつの前では、酒はやめようとあれほど誓っていたのに―――。
高校の時の思い出がよみがえる。
あの時は若さに任せて―――何回やられたんだったか・・・・・・。
そして9年後の今は―――回数は減ったが、そのかわり・・・かなり濃厚になった。
今日は・・・仕事いけるだろうか―――。
シャワーを浴びようと立ち上がりかけた渚の腰に、腕が伸びて引き戻された。
「離せ―――博隆。」
「んだよ―――つれないなぁ。昨日はあんなに・・・・」
「―――それ以上云ってみろ。はり倒すぞ。」
「可愛くないなぁぁ―――渚ちゃん」
「何が可愛いだ!!蹴り上げるぞ、ひろた―――あぁ!!」
クチュ
濡れた音が渚の蕾からもれる。
「てめぇ―――何を・・・・」
「昨日の残りの、び・や・く―――」
渚の内部に潜り込んだ博隆の指は、好き勝手に蠢き、内壁に催淫剤を塗り込んでいく。
「ああぁ―――抜け!離せぇ―――」
「もう、こんなになってるのに、ねぇ―――ダーリン?」
「何が、ダーリンだぁ!!ぶ、ぶち殺す―――んぁあ!」
「こっちはそうは云ってないぜ―――ほら」
既に先端から蜜を流しはじめた渚を、博隆は軽く上下に擦る。
渚の躰は打ち震え、口からは熱い吐息と啼き声が漏れ出す。
「挿れて欲しいか―――ん?」
楽しそうな博隆の口調に、渚は怒りと屈辱で倒れそうになったが、それ以上に躰が求めている快感に負け、コクコクと首を縦に振る。
その答えに満足した博隆は、渚の腰を持ち上げ、すでにしっかりと高ぶった己のモノで、溶けきった渚の内部を一気に貫いた―――。
「こ・・・この・・・・・・・絶倫男がぁ―――――」
早朝。
甘い啼き声が、渚の部屋に響き渡った。
数時間後渚を迎えに来た飯島は、バスローブ姿の博隆から渚は一歩も動けない旨を伝えられることになる―――。
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