ミスリン大陸物語
You are my sunshine
プロローグ




「始末、するのだ」



 日が傾いたせいで、少し薄暗い部屋。

 そこにあるのは、赤子用のベッドのみだった。

 本来ならその広く豪華な部屋は、ベッドと共に赤子のための遊ぶもので溢れかえっているはずだ。

 しかし、そこには天蓋付きの赤子ベッドしかない。

 ベッドは白いレースによって飾られた、一目見るだけでそれがどれだけ高級なものかを見てとれる。

 しかしそれ以外のものは排除されたように、部屋の中央に浮いたようにそのベッドは置かれていた。

 アンバランスな空間。

 そしてその部屋に、ベッドの他に男が二人。



「…それは」

 ベッドの前に立った男たちの視線は、その中に向けられている。

 そこには銀色と金色の髪をした赤子が二人、これから我が身に何が起こることなど知らぬよう夢の世界を漂っていた。

「これは、不吉の星。私はこれを我が元に置いておくわけにはいかない――」

「……」

 この赤子達は、同時にこの世に生まれ出た。

 この国では出生率が下がってきており、やっと授かった命だったが――双子は凶星のあらわれ。不吉の元。と言われている。

 それゆえ双子で生まれてきたことを隠し、この薄暗い部屋へと閉じ込めたのだ。

 知るのは、数人のみ。

 世間ではそろそろ産まれてくるであろうと、新しい命の誕生をまだかまだかと待っている。

 一人の男が手を伸ばして、金色の髪の色をした子を抱き上げた。

 それまで夢の中にいたはずであったのに己の半身が傍からいなくなったのに気づいたのか、銀色の髪の赤子がうわっと泣き声を上げ始めた。

「これを、始末しろ――シャロン」

「……」

 シャロンと呼ばれたもう一人の男は、差し出された金色の髪の赤子をその手にと受け取った。

 美しい赤子。

 産まれてまだ一か月だというのに、その輝きにシャロンは目を奪われた。

 ベッドに残っている銀色の赤子と違い、この子は安心したようにシャロンの腕の中で眠っている。

「……」

 この世に生まれるまでは、誰もがこの子の誕生を望んでいた。

 結果、望まれていたのはこの子の半身のみだったとしても。

 それでも――この美しい赤子は産声をあげるまでは望まれていたのだ。誰からも。誰よりも。

「これが我の地位を脅かすものとなってはいけないのだ。わかるな、シャロン。双子は不吉の星。そしてこの子は災いの元でもあるのだ」

「……」

 双子――だけでも、凶星の元だと恐れられているのに。

 さらにこの美しき金色の赤子は、その誕生が災いを起こすとこのミスリン大陸歴史上常に言い伝えられている――男と女の性を持った両性具有であった。

「シャロン…!」

 男は促す様に、シャロンの名を呼んだ。

 この子が生まれてくるのを待っていた――それはシャロンであっても例外ではない。

 近くで仕えるからこそ、この一〇ヶ月間――待ちに待っていたのだ、新しい生命の誕生を。

 それは更に続く繁栄のために。目の前の男への忠誠のために。

 シャロンは頭を深く下げると、腕の中の赤子を連れ部屋を出ようとその身を翻した。

 主の命令に従うために。

 だが、その部屋の出入り口には思いがけぬ人がいた。

「どこへ…その子をどこへ連れていくのですか!?」

 顔色の悪い女性――だが、それでも目を奪われずにはいられない美貌していた。

 腰まで伸びた銀色の髪に翠色の瞳。真っ白な肌は雪を思わせる。

 普段は頬をピンク色に染め、紅い唇で優しい笑みを作る女性だ。

 だが今はその美しい赤い唇を噛みしめ、彼女はシャロンとそしてシャロンに命令を下した男を睨みつけた。

「お答えください! 私の子をどこへ連れて行こうというのです!」

 産後、体調を崩して伏せていたはずだ。

 それでも母親の本能なのだろうか――と、シャロンは驚きと共に少し恐れを感じた。

 もしかしたら、腕の中の子が母親を呼んだのだろうか、と。己の身の危険を感じて。

 だが、シャロンの腕の中の子は目を開けない。

 これほどの騒ぎとなっているのに――半身はこの子を求めて泣き叫んでいるというのに。

 穏やかな表情を浮かべたまま、小さな命は未だ夢の中にいた。

「シャロン…返して! わたくし子です! 返して!!」

 彼女は分かっているのだ。これからシャロンが何をしようとしているかを。

 男――己の夫が何をシャロンに命じたのかを。

「リディア…落ち着け。わかっているだだろう、この子は――」

「嫌です。この子は、わたくしの子…クラウディア…わたくしの子」

 ――クラウディア。

 男は名前を名付けていなかった。

 名付けてしまえば、それは誕生したものになってしまうからだ。

 しかし男の妻――リディアと呼ばれた女性は、我が子に己自身で名付けていた。

 それは、いずれ訪れようとしている危機を回避しようとする彼女なりの手段のひとつだったのかもしれない。

 リディアは、シャロンの腕の中で眠る子へと手を伸ばした。

 だが、それを止めたのは夫である男だった。

「シャロン…行け!」

「…し、しかし」

 主の命令はシャロンにとって絶対だった。

 しかし、主の妻のリディアの様子を見て、思わず躊躇した。

「離してっ! わたくしの子っ! 返して…!」

「行けっ!」

 暴れるリディアを抱きしめ、主人である男はシャロンに命じた。

 シャロンは己の躊躇を断ち切るように頭を深く下げると、二人に背を向けた。

 そして、腕の中の子をしっかりと抱えると走り出したのだった。

「いやぁぁっ! 返して…! クラウディアっ!!!」

「うぎゃぁぁぁ」

 母親の叫びに呼応するかのように、ベッドの中の赤子の泣き声が増す。

 それを背にして、振り切るようにシャロンは走り続けた。

 それでもリディアの叫びと赤子の泣き声が、いつまでも耳を木霊して離れなかった。





 シャロンは馬で力いっぱい駆けた。

 主の命令は、腕の中の子の命を絶つ事。

 それは絶対の命令のはずなのに、シャロンは迷っていた。

 この赤子の母親――リディアの声が耳から離れない。

 半身である銀色の髪の赤子の泣き声が、まだ聞こえてくるように感じる。

 それを断ち切るように、シャロンは走り続けた。

 しかし次第にまわりは闇におおわれ、闇雲に走ってきたシャロンはどこが走っているのかさえ分からなくなってきた。

 仕方なく馬の足を止めて、ゆっくり降り立つ。

 首も座っていない子は、それでもしっかりとシャロンの腕の中で暖かかった。

「わたしは…どうしたらいいのだろう」

 この子を殺せるのだろうか。

 自問自答してみる。

 シャロンの迷いを知ってか知らずか、腕の中の赤子は…ゆっくりと目を開けた。

 翠色の瞳は、母親のリディアから受け継がれたものだろう。

 美しいそれは、まだまともにこの世界が見えてはいないはずだ。

 それでもシャロンを感じたのだろう――赤子はゆっくりとシャロンに向けて笑顔を見せた。

「……!!」

 殺せない――。

 シャロンの心に、嵐が吹き荒れた。

 主人の命令を――違えることになっても。

 天使の――天の国の始祖である天使のような赤子を、シャロンは手にかけることなどできなかった。

 けれど、この子をこの天の国に置いておくこともできない。

 なぜなら、この子は災いをもたらす両性具有であり、そして凶星の現れである双子の片割れ。

 そして、シャロンは決断をした。

 それしか方法が思いつかなかったからだった。











 ミスリン大陸。

 東の果てにあるといわれる、伝説の大陸。

 だがそれは決して夢でも幻でもなく、実際に存在する大陸である。

 もちろん、大地があれば生き物は住み着く。

 遙か昔、どこからか流れてきた人々が、ミスリン大陸に二つの国を作った。

 ちょうど大陸の中央にそびえ立つケースィール山脈が大陸を北と南にわけ、北に住み着いた種族が起こした国を天の国。南に住み着いた種族が起こした国を地の国といった。

 金色や銀色の髪に、白い肌。青や緑の目を持ち、華奢な躯に美しい容姿。そして背には白い羽の翼を持ったのが天の国を統べる天の一族。

 黒い髪に、褐色の肌。黒や茶色の目を持ち、逞しい躯と強靭な容姿。そして黒い羽の翼を持った地の国を統べる地の一族。

 野蛮だと天の一族は地の一族を馬鹿にし。何もできないひ弱な存在だと地の一族は天の一族を鼻で笑った。

 決して仲のいい国同士ではなかったが、両国を隔てるケースィール山脈のおかげで、特に大きな戦いを起すこともなくお互いに平和と呼ばれる穏やかな時を長く享受していた。



「父上――!!」

 風に揺れる広い草原。

 ミスリン大陸の最北にあるロジン湖より流れ出でるリジー川は、天の国を横断しケースィール山脈を分断して地の国を横切り大海へと注がれている。

 地の国の北部にある露弯<ロワン>地方は、リジー川の恵みを受けて、豊かな大地だ。

 露弯地方の一部は地の国王室直轄地であり、王家専用の狩猟場でもあった。

 晴れたこの日に地の国の国王である迅雷<ジンライ>は、第一皇子青藍<セイラン>、第二皇子未芯<ミシン>他、第五皇子までのすべての子供たちと正妻、そして家臣たちを連れて、この地へ狩りに来ていた。狩りは王家にとって重要なイベントでもあるから、年に何度かこのような大がかりな狩りが行われる。

 迅雷は一〇歳になる青藍と未芯を連れ、狩るべき獲物を狙っていた。

「青藍! 勝手に遠くまで行くなよっ!」

 長兄であり皇太子でもある青藍は、一〇歳という年齢のわりにかなり落ち着いており己の立場を自覚している頼もしい子である。

 それでもこのような場所にくれば、本来の年齢を取り戻すのか走り回っていた。

 青藍は素早く走る白い獲物を目にして、思わず走り出していた。

 手に携えた弓矢を握りしめ――地の国の狩りは弓矢を使うため幼い頃からその技術を磨いている――腰の位置まである草をかき分けていく。

 ――よし、あそこに…。

 リジー川の岸部に、白い何かが見える。

 獲物である白くて耳の長い厘厘<リンリン>という小動物だと思った青藍は、弓を構えるとそれに狙いを定め弦を思いっきり引いた。

「…っ…きゅっ…」

「え…?」

 ――厘厘の鳴き声…?

 厘厘が鳴くなどと、青藍は聞いたことがなかった。

 弦を緩め弓を降ろすと、青藍は厘厘と思ったそのモノにゆっくりと近づいていく。

 近づいていくと、耳と思っていた白いものは布だとわかった。

 何か…籠みたいなものからその白い布が飛び出しているのだ。

 ――リジー川を、流れてきたんだろうか?

 ゆっくりと籠に手を伸ばし、青欄はそれを覗きこんだ。

「…っ!」

 驚きに青藍は思わずのけぞる。

 その籠の中には、金色の髪と翠の目をした赤子が不思議そうに青藍を見上げていたのだった。

「赤子…しかも天の一族の…。なぜ、こんなところに」

 金色の髪、白い肌、翠色の目。天の一族だと一目でわかる赤子だ。

 しかもかなり小さい。

 小さな弟たちがいるおかげで、青藍は赤子に慣れている。

 手を伸ばして抱き上げると、赤子特有の甘い匂いがした。

 赤子はその間もじっと青藍を見上げていたが、青藍が視線を合わせてその顔を覗き込むと、ニコリと笑ってその小さな手を青藍の服へと手を伸ばしギュッと握った。

「…っっ!」

 その赤子の笑った顔に、青藍は雷を打たれた感覚に落ちていた。

 ――守る。俺が、守る。

 己の立場も、年齢さえも、忘れていた。

 ただこの目の前の愛らしくも小さな弱い命を守るという使命感が、青藍の中で渦巻いていたのだ。



「青藍様っ!!」

 一人離れてしまった皇太子を、家臣たちが皆が探し始めた頃、青藍は皆の前に戻ってきた。

「どこに行かれていたのですかっ! 心配したのですよ」

「すまない、桔梗。父上は…?」

「王ならあそこに…と、それは何ですか、青藍様」

 桔梗――王が最も信頼を寄せ、宰相の地位にある男は、皇太子の腕の中にある白い物体を見とがめた。

「赤子だ――」

「赤子…!?」

 桔梗が驚きの声を上げるのを背後に聞きながら、青藍は父がいるという野営地へと向かう。

 きっと母親もそこにいるのは判っていた。

 それなら話は早い。

 二人に己の決意と、最初で最後のお願いを聞いてもらうのだ。

 青藍は次々と家臣に声をかけられながらも、足早に歩いて行った。

「父上」

「おお! 青藍探していたのだぞ」

「皆に心配をかけていたのですよ、青藍」

 父と母。そして弟たちが皆いた。

 昼の休息を取っていたのだ。

 青藍はゆっくりと両親の元へ近寄ると、膝を折った。

「青藍…?」

 頼りになる長男の態度に、迅雷もその妻も首を傾げる。

「父上、母上――お願いがございます。この青藍、今後父上と母上の言いつけを守り、我儘も申しません。ですから、どうか我が願いを叶えて下さい」

「青藍、何を…?」

 深々と頭を下げる皇太子の言葉に、両親だけでなく周りにいた人間すべてが驚きに目を見開いた。

「青藍、顔を上げよ」

 一瞬の沈黙を破ったのは、王であり父親である迅雷だ。

 迅雷は立ち上がると、青藍の前に立ち肩を叩いた。

「お前が膝を折り、頭を下げるほどの願い。申してみよ」

 許しをもらった青藍は立ち上がり、己の腕の中へ視線を向けた。

 そこにいた人間も、自然とそこへ集中する。

「この子――この赤子を、引き取りたいのです。そして最大限に守ってやりたい。ですので、この子をわが子にしたいと思っています」

「それは…!!」

 青藍の腕の中にいるのは、明らかに天の一族の特徴をした赤子。

 そして青藍は地の国の皇太子。

「まて――青藍」

「父上、私は決めたのです。この子を守ると」

 反対されるのは覚悟の上だ。

 それでも、決めた。

 腕の中の小さな命を、守ると。

「いや、お前の言葉を否定するつもりではないのだ」

「あなた…」

 迅雷の妻であり青藍の母親である鳴鈴が、驚いた声をあげる。

「まず、その赤子はどこで見つけてきた。どうみても天の一族の子だ。お前が天の国に行ってどこからか奪ってきたわけではあるまい?」

「…はい。リジー川の川岸にあった籠の中にいたのです。考えられるに、リジー川を流れてここまできたと」

「まぁ、そんな小さな赤子が…」

 鳴鈴が驚きの声をあげる。

「なにか天の国で事故にあったわけではない…のかもしれないな。籠に入れてということは、意図的に流したということか」

 皆の視線は、赤子に集中する。

 それを知ってか知らずか、金色の赤子はその小さな手を伸ばすと青藍の服をギュっと握った。

 そして青藍と目が合うと、ニコリと笑ったのだった。

 その頬笑みに、その場にいた人間すべてが釘付けとなる。

 それは、青藍の両親も例外ではなかった。

「私が凛凛と間違えて見つけたのも何かの縁だと思います。このような赤子を手放した親は何か事情があったのかもしれませんが、それでもこの子に罪はないはず。ですので私が…」

「まて、青藍。お前の子にするというのは、反対だ。なぜならお前は皇太子であり年齢もまだ一〇歳であり我々の保護下にある存在だ。その身で子を得るというのはよくない」

「しかし、父上…!」

 反論しようとする我が子を、迅雷は止める。

「最後まで、聞け。お前がその赤子を見つけたのは、何かの縁があったのであろう。お前の言う通りその子に罪はない。どこか子供を欲しいといっている夫婦に養子として預ける手もある」

「父上…」

 青藍は自分でこの赤子を守ると決めた。養子に出されてしまっては、近くで守ることができない。

「しかしこの国でその子を育てていくのには、難しいものもあろう。我ら地の国と天の国はほぼ断絶状態。過去の歴史から、お互いがお互いを反目し合っている。それは国民すべての意識であるといっても過言ではない」

 天の一族の容姿を持ったこの赤子を健やかに育てることができるのか。

 いわれのない偏見と差別に晒されるのではないのか。

「……鳴鈴」

「はい、あなた」

 妻に向いた迅雷は、口の端を上げた。

 それは夫が何かを思いついた時の癖だと、鳴鈴は知っている。

「我らに子供がもう一人増えても構わないか?」

「ええ」

 鳴鈴には判っていた。

 夫が何を望んでいるのか。

 そして、さきほど長男の腕の中にいる美しい赤子の頬笑みを見たとき、鳴鈴の望みにもなっていた。

「父上…?」

「その子を、我が子として育てよう。王家の一員としてなら、だれもその子を差別しまい。お前は兄としてその子を守ればいい」

「…はい!」

 それは、青藍にも願ってもないことだった。

 地の国の王である父の保護の元であれば、この赤子はきっと健やかに育つはずだ。

 青藍の力が抜けたとたん、腕の中の赤子はクズり始めた。

「ミルクかしら…? 誰か楼華を呼んで」

 さすがに五人の子を産んだ鳴鈴の対応は早かった。

 鳴鈴の五男の乳母である楼華は、今回の狩りに同行しているはずだった。

 すぐに楼華は呼ばれ、赤子に乳が与えられる。

 そして赤子のおしめを変えていた楼華が、驚愕の声をあげた。

「この子は…!!」



 楼華から鳴鈴は赤子の事実を告げられ、夫と長男を呼んだ。

「両性具有…なるほど、な。それがその赤子の秘密だったのか」

 金色の赤子は、鳴鈴の腕の中で気持ちよさそうに眠っている。

 両性具有は、このミスリン大陸でいつの頃からか災いの元であると伝えられてきた。

 その元凶は何であるのかも、歴史の中に埋もれてしまい判らない。

 ただ人の口から人の口へと、長い間伝えられてきた伝承であった。

「父上…! たとえこの子が両性具有だとしても…」

「わかっている。この子に罪はない。それに、災いの元だという根拠もない」

 それでも、この地の国を統べるものとして、災いの元だとされている子を手元に置いておくべきかどうか――迅雷は迷っていた。

「あなた。根拠がないのなら問題はないのでは? わたくし達がこの子を幸せにして、王家を繁栄させれば、両性具有の子たちの不遇の身を救うことだってできるはず」

 いわれのない言い伝えは、両性具有で産まれた子の身に常に危険を負わせてきた。

 産まれたと同時に、産まれなかったこととされるのはよくあることだ。

 その性を隠して育ってきても、両性具有というだけで生きていくのに苦労は堪えない。

「この子が両性というのなら、わたくしこの子を美しく優しい子に育てますわ。わたくし達には女の子がいないのですから」

 鳴鈴はすでに腕の中にいる赤子を、我が子として育てるつもりでいた。

「そう…だな。両性具有の子は美しい子が多いという。そのせいで奪い合いが起こり、それから災いの元とされるようになったいう節もある。この子をみれば、こんな小さな赤子だというのに、思わず目を奪われるほどに美しい。案外そういう理由からの伝承かもしれん」

「そうですわ。私たちの皇太子など、一目で惚れてしまったようですからね」

 鳴鈴の言葉に、青藍は思わず頬を染めて目を逸らした。

「そうよな…この子に皆が夢中になるのかもしれないな。そうだ、名前をつけてやらなくては」

 ずっと赤子としか呼んでいなかったが、地の国の王家の子として正式に発表するべきでもあるし、名付けてやらなくてはならない。

「それがこの子の産着の中に紙が入っていたのを、楼華が見つけたのです」

 鳴鈴が出してきた紙切れには、文字が綴ってあった。

 ――クラウディア

「天の国の名前…だな」


「けれど、この子を本当の親が名付けた名前ですわ。きっと事情があったのかもしれません」

 鳴鈴の言葉に、青藍が反論した。

「でも、その親が捨てたんだ…この子を」

「青藍。我々には計り知れない事情があるのかもしれません。けれどわたくしは我が子を可愛いと思わない親はいないと思っています。名前をつけているのであれば、尚のこと」

「捨てるつもりであれば、名前など付けないだろうからな」

「……」

 父と母の言葉に青藍は口を閉ざした。

「…よし、この子はクラウディアだ。我が地の国王、迅雷の第六子とする」



 こうして、その一週間後に金色の髪と翠色の目をしたクラウディアは、地の国の王である迅雷の第六子として正式に国民に発表されたのであった。




FullMoonの1000年くらい前の話…のはず。
NEXT
Novelへ

素材by月影ロジック