A lie and real intention・・・ −嘘と本音と恋心- |
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「お久しぶりです。水野さん―――」 電話口から聞こえてきた声に、渚は眉をひそめた。 己の旧姓を呼ぶ人間。 ―――誰だ。 警戒しつつ聞いた次の男の言葉に、渚は驚きを隠せなかった。 「以前会ったのは、坊の高校卒業前でしたか・・・。」 坊――和泉組組長・和泉博隆――を、そう呼ぶ男を、渚は一人しか知らない。 「お、久しぶりですね。久井さん・・・・」 この受話器の向こう側から聞こえてくる、低い声の持ち主。 それは、前和泉組組長――現泉龍会会長――の右腕・・・久井武蔵。 博隆の教育係でもあった男である。 博隆の家の人間達とは、渚は一切関わりを持たなかったが、この久井とだけは面識があった。 というか、博隆はこの男にだけは渚との関係を隠さなかったのである。 男は、静かに二人の関係を受け入れていた。 ―――坊のする事には、なにも口出しは出来ませんから。 18歳の渚が、己と博隆の関係を止めないか?と問うた時の、久井の台詞である。 他人には冷たい博隆だが、この男だけは無条件で信用しているように、渚には感じた。 「水野さん、コレから迎えに行きます。」 「・・・・久井さん。あの馬鹿に、私は忙しいのでお前に付き合う暇はない。と伝えて下さい。」 最近の誘いを己の忙しさのために、降り続けていた結果、博隆が久井を使ってきたのだと思いこんだ渚は、久井の言葉を断った。 しかし・・・。 「坊が、狙撃されました―――」 「―――!!」 「坊が、貴方を呼んでいます。私は貴方を縛ってでも、坊の所へ連れていきます。」 博隆が、狙撃―――?! きな臭い世界で生きているのだ。 ありえない話ではない。 ―――いや。 今まで、無かった方がおかしいくらいではないか。 渚は、グッと唇を噛んだ。 「今すぐ、来て下さい。お待ちしています。」
――――――。 渚は車の窓から流れ行く夜の街の情景を視線の端でとらえながら、声にならない溜息を吐いた。 俺は、動揺している―――? 軽く瞼を下に落とす。 今までだって、ヤツがいない長い年月を過ごしてきた。 だが別に不便だと、思ったことなどなかった。 あの9年間ヤツの顔を思い出した事なども、ほとんどなかったはずだ。 ―――たとえ今、ヤツが命を落としたとしても以前の生活に戻るだけだ。 変わらない。 俺は、変わらない・・・・・・はず、なのに。 ―――なのに、なんなのだ。 この、落ち着きの無さは。 握り締めた手のひらは、じんわりと湿っている。 ―――博隆を失うと考えただけで、こんなに・・・・・・。 渚は、噛み締めた唇を緩め、今度は大きな溜息を吐いた。 思っていた以上に、俺はヤツに依存してい、という事か。 無理矢理日本に連れて帰られてから。 渚が心から安らげる場所。 それは、和泉博隆という男の腕の中のみであったのだ。 弱味というモノを持たないようにしていた。 それは、己の命取りになるから。 他人を守る余裕など、今の渚にはなかったから。 だから・・・・・ 己の考えに、渚はフッと笑った。 守る・・・。 俺が、ヤツを? 守られていたのは、いつも俺ではないか。 頼りきっていたのは、俺。 ヤツという存在に安らぎを感じ、依存していた。 渚は、真っ直ぐと前を見据えた。 大丈夫。 ヤツに何が起こっていても、俺は―――。 ヤツの前以外では、取り乱したりはしない。 車が止まった所は、病院ではなかった。 「・・・ココは」 何度と来たことがある。 博隆の家の1つだ。 「病院には、連れていけなかったのでね。抱えの医者をこっちに呼んでいるんですよ。」 警察沙汰には、出来ませんので――― 久井の言外の言葉に、渚は博隆の世界を垣間見る。 「こちらへ―――」 招かれたのは、3階の奥の部屋。 久井はドアをあけ、渚に入るように促す。 渚は視線で肯くと、その部屋に入った。 ―――入った部屋の正面に渚が視線をあげた途端、後ろで扉と鍵の閉まる音が耳に響いた。 視線に入ってきた男を、渚は半眼で睨みつける。 その視線を受けた男は、ゆったりと起きあがり、渚に向かって両腕を広げた。 「待ってたぜ、ダーリン」
「これは、どういう事かな。久井さん」 ドアの向こうに立っているであろう男に、渚は質問を投げかける。 『―――もうしわけございません。』 久井の返事に、渚は額に手を持っていき大きなため息をついた。 ―――久井は、子供のころから博隆の面倒を見ていた人間でもある。 結局、博隆のお願い(というか、わがまま)には、弱いのだ。 渚は博隆の命令で久井が動き、己は騙されてここに連れてこられたことをしみじみと悟った。 ―――毎度の事だが、本当にこいつには・・・・。 渚は相変わらず目の前で手を広げている男を冷たく見やった。 「―――俺は忙しいんだ。帰る。」 冷たい恋人の一言に、男はベットから慌てて立ち上がる。 「待てよ、おい」 男の慌てた言葉を背に受けながら、渚はドアを開こうとすた。 ―――しかし。 ガチャガチャ 何度引っ張っても押しても、ドアは開かない。 「この部屋は外から鍵をかけれるんだぜ。」 背後から笑いを含めた声色で話しかけながら、男は渚の肩に手をかけた。 「うっ。」 その瞬間、渚の肘が博隆のわき腹に入る。 無防備な博隆がまともにその肘鉄をくらい、蹲ったのを横目で確認しつつ、渚はドアをたたく。 「久井さん、ここ、開けてください」 しかし、久井の返事は――― 「すみません・・・・。」 渚はその返事に「クソッ」と舌打ちをして髪の毛をガシガシと右手で乱暴になでると、蹲っている男へ向き直った。 「博隆。今、すぐ、開けろ」 「・・・・・・・・」 反応しない男に、渚はもう一度蹴りでも入れてやろうかと動いた瞬間、男の手が渚の足首にかかった。 引き離そうと、後ろに引いた―――が、瞬間遅かった。 「っ―――!」 足首を強引に引っ張られて、バランスを崩す。 思わず頭を庇いつつ受身を取ったが、渚の躰は無防備に床に倒れこんだ。 渚は躰全体に走った痛みに、顔をゆがめながらその原因である男を睨みつける。 「おとなしく、できのーか。お前は」 腹部を抑えながら、男は肉食獣の目をして、舌で唇を潤しながら渚に一歩ずつ歩み寄っていく。 「それ以上、近寄るな―――」 「びびってんのか、渚」 「近寄って、お前は何をする気だ」 ニヤニヤする男に、渚は必死で威嚇する。 ―――博隆の考えていることなんて、手に取るようにわかる自分が憎い。 「ダーリンのお望みどおり、ベットはやめて、床プレイとしましょうか。」 男は、ニヤリと犬歯を見せる。 倒れている渚の目の前にサラリと落ちた男のシャツを、渚は絶望的な気分で見つめていた。
「おらっ、もっと足あげろ。」 「―――ふざ、けん・・・・うぁっ!」 渚は男に両足を肩抱え上げ、躰の奥を開かれるという屈辱的な格好を取らされていた。 「ギチギチ締め付けやがるぜ、お前のココはよっ。そんなに俺が欲しかったのか?んっ?」 男はペロリと上唇を舐めると、渚の腰を両手で掴み己の腰を使い出す。 「・・・っ。うっ・・・あっ・・・」 久しぶりに男を受け入れる渚に、負担は大きい。 男は、いっぱいいっぱい開いている渚の内壁をさらに広げようと、グングン中で大きくなっていく。 開かされている入り口が、痛い。 圧迫感が、苦しい。 背中も床に擦れて、熱い。 己の上に乗りかかる肉食獣が、渚は憎くて憎くて堪らなかった。 「おらっ、感じろよ。ココだろう、お前のイイ所は。」 そして、渚の躰を知り尽くしている男は、渚がもっとも感じる部分を、己自身で擦り上げる。 「あぁっ―――」 渚の躰は、陸に上がった魚のようにビクビクッと跳ねた。 そこを刺激されると、否が応でも反応してしまう。 痛みに反応を示していなかった渚自身が、グッと力を持ち起ちあがる。 「まわして欲しいか、突いて欲しいのか。お前の望むように動いてやるぜ?」 ニヤリと笑い発達した犬歯を見せ付ける男は、渚に屈辱的な言葉を投げかけた。 ―――ブッ殺してやりたい。 心の中で毒づいても、現実世界では渚はキレギレの喘ぎ声をあげるのが精一杯だ。 男の激しい動きに、久しぶりで悲鳴をあげる躰で必死に耐える。 「こうか―――?」 「ひっ・・・あぁ・・・」 「それとも、こっちか?」 「あっ・・・うぁ・・・・」 何かに縋ろうと、床を引っかく。 「やめろ、爪が傷つく。」 男は床を彷徨う渚の手を掴むと、その手首に歯をたてた。 「あぅ―――。」 その微妙な刺激から逃れようと、渚は必死に暴れるが、掴まれている腕は離れない。 「そろそろ、俺も限界だぜ。久しぶりだから、早えぇな。」 ―――十分だっ! と叫びかけた渚の言葉は、さらに激しく動き始めた男に阻まれてしまった。 「ひっ―――。あぁっ・・・・!」 「こんな・・・もんじゃ、ねぇぞ―――!ほぅらっ、啼けっ!啼けっ!」 「やっ・・・もぅ・・・・あふっ―――ふぁっ、あっ、あぁっ・・・・」 全体重をかけて乗りかかり、獣のように男は最後の求愛ダンスを踊る。 着いていけない渚は、振り落とされないように男に取りすがるしかない。 好きなだけ暴れまわった男自身は、その熱い塊を渚の奥に解き放つ。 渚も、男の肩に爪をたて、達していた。 「痛い。」 「―――ん?」 荒い息を吐いていた二人だが、渚は少し落ち着くと、己の躰の上に圧し掛かっていた男をにらみつける。 「背中が、痛い。今すぐ退けよ。」 男はふふんっと笑うと、渚の腰を持ち上げ己の躰の上に乗せた。 ちょうど対面座位の格好だ。 「なん、だ。この格好は。それより、抜けよ。」 言葉とは裏腹に、渚は力なく男にもたれ掛かった。 自分の躰を支える体力さえ、残っていないのだ。 男は、渚の言葉をにやりと笑うと無視した。 「甘いピロートークっつーやつを、お前はする気ねぇのか?」 「お前相手に、する気はないね。それに、お前・・・よくも・・・」 渚は嘘をつかれて呼び出された事を、ココにきて思い出した。 現状でかなり怒っていたが、さらに不機嫌度は倍増される。 「ダーリン、今日は何日だ?」 「4月1日だ」 「というと、何の日だ。」 ん? と、覗き込んでくる男の顔を見ながら、渚は頭を抱えたくなった。 ―――なるほど、エイプリルフールだな。仕方がないなぁ。 とでも、云って欲しいのか。この男は。 この、俺が。 そんな反応するなど、皆無という事を、10年も付き合ってきたら判るつーものだろう? これ以上相手にしていても、頭が痛くなるだけだ。 渚はそう判断して、とりあえずこの男から――― 「抜けっ!なぜ、でかくなってるんだ、お前はっ!」 渚の中で、どんどん回復していく男自身に、渚は焦って男の上でもがき始める そんな渚に、男はペロリと紅い舌で己の乾いた唇を舐めると、 「第二ラウンドに決まってるだろう?」 渚の首筋をも舐めあげた。 ―――ああ、さっきの時点で、蹴り倒しておくんだった。 それよりなにより・・・俺は、なぜこんな所に来てしまったんだろう。 渚の嘆きは、己の口から出る喘ぎ声に消されていったのだった。
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