−Knife−



夜中に鳴った電話のべル―――――

イヤな予感がした。
そして、いつもこの“イヤな予感”というのは、当たるものなのだ―――。



「――」
無言で受話器を取る。
コレは、いつものこと。

『和泉さん――ですか?私、飯島です。』

飯島―――――
少し考えた後、一人の顔が思い浮かぶ。
いつも――高校の頃も、そして今も――当然な顔をして、渚の隣にいる男・・・。
「ああ、で、なんだ―――」

『渚さんがケガをしました―――。和泉さん、貴方を呼んでいます。』


◇◇◇◇◇


着いて行く―――と、いう組の者達を振り切って、博隆は自分専用のフェラーリに飛び乗った。
信号など見向きもせず、一般道路を時速200キロで走り抜ける。

キキキィィィ

飯島に云われた、病院の前に車を止めた。
急患用入り口を抜け、ギョッとして足を止めていた看護婦の肩を掴む。
「急患として運ばれた、水野・・・いや、瀬野渚は―――――!!」
博隆の剣幕に、看護婦はしどろもどろで、言葉を繋ぐ
「あ・・・は・・・あの、瀬野さんは・・・・そちらの・・・・・」
看護婦の言葉を最後まで聞かず、博隆は看護婦が指さした方へ走っていった。
角を曲がる―――――。
視線の先に、背広を着た男の背中が見えた。
「飯島―――――」
背広の男が振り返った。



「早かったですね、和泉さん」
「博隆―――――」
その背後で、渚の声が聞こえる。
渚は、飯島の背後にあった病院のベンチに、何人もの黒ずくめの男達に囲まれ座っていた。
シャツの隙間から見える、白い包帯―――。
博隆の眉間にギュッと皺が寄る。
そのまま視線は、飯島の方へ向いた。
目と目がぶつかる。
沈黙の中で、目だけでお互いの意志を主張しあう。

―――気に入らない。

高校の頃から、ずっと気に入らなかった。
こいつの目の奥には、俺と同じものを感じるから―――。

「博隆―――。手を貸せ」
冷たい沈黙を破ったのは、渚の声。
黒ずくめの男達の間から、白く細い手が伸びる。
「渚様」
「SPなんぞ、いらない。自分の身は自分で守る」
「渚様―――!!」
「流石に明日は動けない。仕事の調整を頼む。悪いが、志野にも連絡しておいてくれ―――行こう、博隆」
何か言い募ろうとする飯島を無視して、渚は博隆をせかした。
「―――いいのか、渚」
博隆は渚に話を振りながら、視線は飯島から離さない。
飯島も博隆を、険しい目で見据えていた。
「ああ」
博隆は飯島から視線をはずし、渚を抱え上げようとしたが、それは渚の睨みで抵抗され、仕方なく肩を貸し、飯島とSP達の厳しい視線を背に感じながら、その場を後にした。


◇◇◇◇◇


フェラーリに乗った途端、渚はグッタリとした。
「だいぶ―――弱ってるみたいだな」
「ふん。奴らの前でこんな姿を見せられるか・・・」
渚は瞼を閉じながら、鼻で笑った。
「お前、普通の国産車は持っていないのか。フェラーリなんて・・・。まぁ、組の車に乗ってきていたら、その場で追い返していたがな」
「そう思って、俺の車にしたんだよ―――」
博隆はそういうと、エンジンをかけ、車はゆっくりと走り出した。



「お前をケガさせるなんて、そんなすげぇヤツだったのか?相手は・・・。」
「―――まあまあ、だな。一人だったら相手できたんだが・・・。」
「誰か一緒にいたのか」
「和成といた」
渚は自分の長兄の長男の名をあげた。
「あのガキか―――。さっき居なかったが、よくお前についてるってゴネなかったな」
「帰らせた。それにあいつも流石に今回のことで、誰が俺に差し向けてるのかわかったらしい―――」
渚が煙草をくわえるのを見て、博隆はスッと火を差し出した。
渚はまた瞼を閉じ、フーと溜息をつくように煙を吐き出す。

「最近親族でも裏切り者が出てきて焦ったんだろうな。俺と和成が一緒にいるときに差し向けてくるとは―――」
渚の口元に、酷薄な笑みが浮かぶ
「馬鹿な女だ―――」
冷たく・・・それでいて、なにより渚の美貌をよりひきだたせる残酷な笑み。
博隆は横目でその姿を見ながら、ぐっとハンドルを握りしめた。


◇◇◇◇◇


「ほら、水。痛み止めを飲め」
クスリと水を手渡そうとするが、ベットの上で座る渚はフイッと顔を背け受け取ろうとしない。

―――相変わらずの、クスリ嫌いか・・・。

博隆はクスリと水を口に含んで、渚の顎を捕らえ強引に唇を合わせる。
流し込んだ水とクスリが飲み込まれるのを確認して、唇を離した。
―――が、いつの間にか首の後ろに伸ばされていた渚の腕に引き戻される。

「んっ・・・うん・・・」

歯列から舌を差し込まれ、強引に絡められる。
口腔内が熱い・・・熱が出てるのか―――。
思わず身を引こうとするが、渚はそれを許さない。
そこまでされると、押さえていた博隆の躰に一気に火がついて、渚をその場に押し倒した。
「痛っ・・・」
渚の苦痛の声に、ハッと博隆は起きあがった。
「大丈夫だ・・・。来いよ―――博隆」
いつにもなく挑戦的で、熱のせいでだるっぽく動く仕草は扇情的だった。
博隆に押しつけてくる腰は熱くなっているのが、布越しでもわかる。
甘い誘惑に負けた博隆は、喉をごくりと鳴らし、もう一度渚に覆い被さった。

「んぁ・・・あっ・・・」
「今日はいつもより積極的だな、渚」

歯で胸の突起物を掠めると、ぷっくりと立ち上がる。
蕾の奥を指をゆっくりまわして刺激すると、悲鳴のような啼き声をあげた。
目は潤んで、手は博隆自身を高ぶらせようと必死に愛撫を繰り返す。

「博隆・・・・」
「なんだ―――」
渚が欲しがっているのはわかっていたが、博隆は焦らし続けた。
「くぅ・・・博隆ぁ・・・なぁ・・・」
渚の声は欲情で掠れている。
必死にすがって唇を合わせられ、耳元で「欲しい―――」と、普段では決して聞けない言葉を呟かれて・・・

博隆は、キレた―――。



「あっあっあぁっ・・・・・・・・」
渚の白い躰が一気にバラ色に染まる。
内部は熱のためか、いつもより熱く・・・壁は博隆を逃がさないようにからみつく。
渚の弱いところを突くように、博隆は腰を動した。

「んああっ―――!!ああぁ・・・・!」

そうだ―――。
こんな姿を見れるのは、俺だけ。

―――飯島には、見れない・・・・!!

「ああっ、イイ・・・イイよ・・・ひろたかぁ―――」

この、甘えた口調も高い啼き声も聞けるのも・・・俺だけ。

「うぁっ、ぁ―――イク・・・・・・」
見開かれた渚の瞳からは一筋の涙がこぼれだした。

こんな表情見れるのも、そう、俺だけだ―――。

博隆は激しく突き上げ、最奥に欲望を解放する。
同時に渚も吐き出し、2人で脱力してベットに転がった。



「今日は、やけに積極的だったな。やっぱり、死にかけると種の保存に走るのか―――?」
博隆はニヤニヤと笑いながら煙草をふかした。
渚は博隆に背を向けたまま、動かない。
博隆は渚の腰に腕をかけ引き寄せると、右肩に巻かれている白い包帯の上からキスを繰り返す。

「くそ・・・よくも傷つけたな・・・・・。」
「別に・・・男の躰に傷なんか付いたって構わないだろう」
「綺麗な躰だったのに・・・・」
本当に悔しそうな顔をしている博隆をちらりと見て、渚はフワリと笑う。

「どうせ、見るのはお前だけだ―――お前さえ構わなければ、俺は気にしない」

渚の表情と、セリフに、渚の中にいた博隆はまた一気に高ぶった。
「んっ・・・お前・・・」
内部の圧迫感の為、眉を寄せ切ない顔になった渚に、再び欲情する。
「もう一回、いいだろう―――」
軽く揺さぶりをかけながら、博隆はもう1RDをねだる。
「お前・・・この状況でな―――」
渚は足を博隆の腰にまわし、博隆の正面を向くと、額をぶつけて目を覗き込んだ―――。

「来いよ―――」



そして、渚の喘ぎ声と博隆の荒い息使いは、朝までとぎれることがなかった。







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