楽園番外編 70万記念キャラ投票1位SS |
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queen and knight 女王に跪く時。 |
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ピーンと張られた、細い細いピアノ線のような1本の糸。 あいつは、そこを綱渡りしているようだった。 常に安息はなく。 緊張と試練が繰り返される。 だが、あいつはそれを受け入れ。 1人で渡り続けていた。 いつか、あの糸が切れた時。 あいつは、どうなるんだろうか・・・?
「渚っ、そっちだ」 「判ってるっ!」 闇夜に紛れて、襲ってきた人間は4人。 高校生だからといって、馬鹿にしていたんだろう。 返り討ちにあって、焦っているようだ。 「引けっ」 主犯格の1人の男が出した号令に、他の男達が続く。 バシャバシャと、水溜りを踏み蹴散らし男達は夜の街に消えた。 「無事か、渚」 「お前こそ・・・」 乱れた前髪を無造作に掻き上げ、渚は小さく息を吐いた。 「悪かったな。巻き込んだ」 「別に・・・。俺は喧嘩なんぞ慣れてる。高校入ってからは暴れたりないと思ってたとこだ」 俺の言葉に、渚は苦笑する。 「お前、中学の時・・・いいかげん親を泣かしたろ?」 「おやじは五月蝿かったが、じぃさまは奨励してたぜ」 女関係のだらしなさには、じぃさまも五月蝿かったが。 「あの女、こんな所にまで手を伸ばしてくるなんて・・・」 無意識に呟く渚の小さな声。 あの女―――とは誰を指すのか、俺には判らない。 こいつと同室になって、3ヶ月。 そういう話は一切しなかったから。 ―――ただ、渚は・・・あの学校から出ると、トラブルに巻き込まれる事が多かった。 最初は、俺も偶然だと思っていた。 だが、2度3度続くと、偶然とは思えない。 『俺とつるんでいると、捲き込まれるぞ』 渚がある日、俺に言った言葉だ。 要するに渚は、自分が狙われている事を理解していたわけだ。 渚に関する噂。 庶子で、本妻に疎まれてこの学校に入った。 あいつは、一言もその事についてコメントした事はないが、時々口から漏れる「あの女」というのは、渚の義母の事―――なのではないかと、俺にも思えた。 だが俺はこれ以上、深く渚の中に入る事はやめた。 あいつの深淵に触れた時、あいつが俺を拒否するのは・・・目に見えていたから。 優しい笑みで、級友達を受け入れる渚。 だが、俺は知っていた。 それは、全てを拒否しているという事を。 渚の守る世界へは、一歩も踏み入れさせないようにしている壁だという事を。 あえて、俺は踏み込まなかった。 無理矢理踏み込んでも、激しい拒絶にあうのは判っていたから、時間をかけて突破するつもりだった。 俺には、自信があった。 あいつの深淵に触れることが出きるのは俺だけだと。 あの壁を突破できるのは、俺だけだと。 俺はあいつの闇が、それほど深いとは。 あいつの壁が、それほど高いとは。 読みきれなかった。 だから俺は、9年もの間半身を失ったのだ。
「おはよう、ダーリン」 「・・・」 薄っすらと目をあけた渚に、俺は優しく唇を落とす。 この俺が―――和泉組組長・和泉博隆がこんな事をするなんて、俺を見知ってる人間が見たら、卒倒するだろう。 「何、笑ってるんだ」 思わず笑ってしまった俺を見て、不機嫌そうに渚は起き上がった。 低血圧の渚は、寝起きはいつも不機嫌なのだが。 「ん? 思い出し笑い」 「この、エロ男が」 「俺がエロ男だってのは、お前が躯で知ってるだろう・・・?」 俺の笑いに、渚はキッと睨み返してくる。 「散々・・・教えてもらってるよ」 嫌味な口調でそう切り返すと、渚は立ち上がった。 「何処に、行く」 「シャワー」 俺は慌てて、渚を止めた。 「流石に、シャワーはマズイだろ?」 「気持ち悪いんだ」 「我慢しろ」 渚は、昨日・・・肩口を刺され、数針縫っている。 9年前、知らなかった事実。 渚が、瀬野グループの庶子だった事。 そして、義母から命を狙われているという事。 幼い時から、その危険と隣り合わせに生きてきたという事を。 『馬鹿な女だ―――』 ゾクリとさせるような、冷酷な口調。 幼い頃から修羅の道で生きてきた渚は、修羅の道でこそ輝く。 俺たちが惹かれ合ったのも、お互いがその道で生きていたからこそ―――。 唯一の弱点である甥。 あのガキを使う事が出来れば、渚の戦いは有利に運ぶだろう。 渚を強くも弱くもさせる―――瀬野和成。 俺は、注意しなければならない。 渚は気付いていないが。 あいつは、あのガキの目は―――子供などではない。 瀬野の跡取りと言われるだけあるガキなのだ。 甘いだけの、幼いガキではないのだから。 お互いが、お互いに口を出さない。 渚との、暗黙のルール。 だが、渚の身体に危険が伴うのならば 俺は手出しするつもりだ。 瀬野から、渚を奪う。 俺は、俺の半身を失うわけにはいかないのだから―――。 そう、俺は知っている。 最大の敵は、渚を瀬野という名で雁字搦めに縛り付けている―――。 「拭いてやるから、それで我慢しろ」 渚は俺の言葉に、静かに頷いた。
「そっちの腕をあげて」 「・・・」 昨日の夜、中出しした俺の精液は、バスルームへ行って洗い流した。 意識朦朧だった渚は、覚えていないようだ。 湯で濡らしたタオルで、丹念に渚の躯を拭く。 下着だけを着てベットに腰掛けている渚は、珍しく俺のする事に抵抗しない。 上半身を拭き、下半身へ移る。 下着に手をかけると、「触るな」叩かれたりもしたが。 「・・・渚」 俺は跪き、渚の太ももから爪先へとタオルを滑らせる。 腕を組んで俺を見下ろす渚は、まるで頭を下げる事を知らない高慢な女王のようだ。 足の爪先へ、指が触れた時。 俺はそのまま、唇を近づけた。 「博隆・・・」 女王に跪く、騎士よのうに。 その爪先に、唇をつける。 俺は一生、渚以外の人間に膝を折る事はありえない。 俺を従わせる事ができるのは、渚。 ―――お前、だけなのだから。 俺だけの、女王。 もう、お前を失うわけにはいかない。 ―――お前に傷をつける人間は、何人たりとも許しはしない。 |
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2003.4.24 |
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