『零――――!!あと、1時間以内に俺の所に来てくれなかったら……2丁目行ってやる〜!!浮気してやる〜!!』
深夜、1時。
突然の電話のベルの音に、藤岡はノートから視線を上げた。
―――こんな時間に、誰だ。
広い邸宅。
しかし、この家には藤岡以外誰もいなかった。
―――どちらかが、事件にでも巻き込まれたのか。
1週間以上顔を合わせていない両親の顔を思い出しながら、藤岡は立ち上がり、受話器を取った。
突然の叫び声。
耳の奥がキーンと鳴る。
「ちょ、待て、一樹」
あわてて、相手の名前を呼ぶ。
しかし、受話器の向こうからは、ツーツーツーという音しか聞こえてこなかった。
あいつは、なんと言っていた……?
『零――――!!あと、1時間以内に俺の所に来てくれなかったら……2丁目行ってやる〜!!浮気してやる〜!!』
2丁目に行って浮気?
浮気………。
俺以外のヤツのモノになるという事か――――――!?
―――――そんな事、許さない。
藤岡は、部屋の電気もそのままに自宅を飛び出した。
電車はこの時間、止まっている。
何も迷わず、バイクに乗り込み…発進させた。
イルミネーションが輝いている。
深夜1時を過ぎたというのに、街の中には人が大勢いた。
そうか、今日はクリスマス……。
なるほど、一樹には、悪いことをしたな。
バイクを走らせながら、3週間ほど会っていなかった恋人を思い浮かべた。
受験。
自分では、あまり危機感を持っていなかったが、周りはそう簡単には見てくれなかった。
特に五月蝿かったのが、親族達。
「零さん、もう時間がないのでしょう、予備校申し込んでおきましたからね」
「零は、我が一族の誇りだからな」
これは……祖父母の言葉。
「松華でTOPを維持してるそうね、大学はもちろん、T大よね。」
「零君、K大もなかなかいいぞ。叔父さんの出身校なんだがな…」
これは……親戚達の言葉。
「零、T大でもK大でもいいが、恥のかくような事にならんようにな。」
「零さん、家庭教師お願いしておきましたから。予備校が終わってから来て貰いますよ。」
これは……両親の声。
見栄と虚栄心の固まりの肉親達。
普段は、構わないくせに……こんな時だけ、一端の保護者面をして構ってくる。
馬鹿馬鹿しい。
だが、その人間達に反抗する労力も暇も……俺にはなかった。
一樹には………辛い思いをさせたかも知れないな。
付き合いだしてから、5ヶ月。
学校で会って、休みの日も…ほぼ毎日会って。
会えない日は、必ず電話してた。
2日も顔を合わすことがない、という事が無かった。
それが、顔はまともに3週間合わせてない。
電話も……忙しさにかまけて、1週間ほどしていなかった。
「T大に行くつもりだ」
そう言った時
『零が……、零がK大に行きたいのなら、オレに遠慮なんかすんなよ!』
必死に言い募ってくれた、彼。
不安だ……顔にはそうしっかり書いてあった。
一生懸命、そして健気に自分に気持ちをぶつけてくる。
愛しくて
切なくて
まだ、どこか信じられなくて―――――。
自分のことを好きでいてくれているのは判っている。
だが
あの事件で。
彼の心の隙に俺は漬け込んだのではないか、それを否定できない自分がいる。
だから、
"愛してる"
この言葉が言えない。
彼が、
本当に、心から俺を愛してくれていることが確信できたら、
きっとその時には――――。
不安でいることも判っている――――――。
不安にさせているのは、俺自身。
だが、まだ云えない……。
藤岡は通い慣れた、一樹の家に到着した。
バイクを門の前に着け、メットを取り払う。
『2丁目行ってやる〜!!浮気してやる〜!!』
先ほどの言葉が、不意に思い出される。
許さない。
俺以外が、あいつに触れるなんて
そんな事、許さない。
先ほど反省していたことも全て吹き飛んで
―――藤岡の心と躰は一気に熱くなった。
「だ、誰!!」
一樹は酔っぱらって、部屋のコタツで寝込んでいた所、突然、窓を叩く音で目を覚まされた。
ここは、2階だ。
―――なんなんだよ、冬の幽霊か…?
ドキドキしながら、カーテンを開けると……。
「零!!」
そこには愛しい人の顔があった。
窓の鍵を急いではずす。
「―――どうしたの!?こんな夜中…」
言いかけた言葉は、途中で阻まれた。
零の唇に……。
「やっ…なにっ……あぁっ」
窓から侵入した藤岡は、そのまま一樹をその場で押し倒した。
ビリッ
シャツを両手で引き裂かれ、ボタンが飛び散る。
そのまま藤岡の手は、一樹の体中をまさぐった。
一樹のポイントを的確に、荒っぽく、ついていく。
「零………!!んっ……」
一樹は何が何だかわからない。
ただ、目が……藤岡の目が……怒りに燃えていて、恐かった。
「ああっ…零……!!」
カリッと胸の突起物を咬まれ、痛みとそれを上回る快感で、一樹は身をよじる。
何も言わない藤岡に対し、一樹の不安は募るいっぽうだったが、与えられる快感で頭の中は真っ白になっていく。
藤岡によって高められた一樹自身は、もう限界にうち震えている。
しかし、根本をしっかり押さえられていて、イクにイけなかった。
「やぁっ!だめぇっ…!!れ……い!!」
先走りに濡れている一樹の先端を、チュッと藤岡が吸い上げる。
一樹の背は弓なりになって、大きな目はこれ以上開かないというほどまでに見開かれた。
だが、藤岡はまだ一樹を解放しない。
そのまま藤岡の指は、一樹の奥深くに侵入して内部をかき回し、一樹の感じるところに爪を立てる。
「アアァッ……!!」
もう、感じて。
感じて。
感じすぎて…。
でも、イかせてくれない。
いつもなら、優しい声で名前を呼んでくれて。
でも少し意地悪な声で「どうして欲しい?」とか聞いてきて。
恥ずかしくて、羞恥心に震えながらも「いかせて…」というと、綺麗な顔で笑ってオレを高めてくれる。
でも、今日は……
何も言ってくれない。
一言も声を発していない。
ただ、怒りに燃えた目で、オレの顔を見つめて…責めてる……!
「ごめ…なさ……ゆる……うぇ…えっ…えっ………」
一樹はついに、泣き出してしまった。
それを見た藤岡は、噛みつくように唇を合わせて、耳元で唸るように呟いた。
「こうやって、俺以外のヤツに抱かれるのか」
え?
突然の言葉に頭がついていかない。
しかし次の瞬間、一樹の両足は抱えられ、一気に貫かれた。
「あっ…んあ…ふぁ…」
ギシギシと床にすれて背中が痛い。
だが、あまりの快感にその痛みも感じない。
挿れられた瞬間達してしまった一樹自身は、藤岡に躰を揺さぶられるうちに、もう一度力を取り戻しつつあった。
「2丁目に行って……俺以外のヤツに触れられるのか……」
いつもより数倍激しく一樹を揺さぶり、一樹の白い喉元に噛みつきながら、藤岡は唸るような声を上げる。
2丁目………?
あ…………!!
一樹はようやく、自分が酔っぱらって藤岡の家に電話をかけたときのことを思い出した。
そう言えば、そんな事も言ったような……でも、そんな……
「そ…んな事しない…オレ…んぁっ…れい…だけ…」
「お前が、他のヤツに触らせるなんて…許さない……」
「あぁ…んん……はっ……」
「お前を、他のヤツに触られるなんて…許せない……」
「も…ダメェ……イク…れいぃ……」
「一樹…かずき……」
「ああぁ………」
突き上げられ、引き抜かれ……。
2度目の深すぎる絶頂に、一樹はそのまま自分の意識を飛ばした。
気を失った一樹を見つめながら、藤岡は珍しく自己嫌悪に陥っていた。
こんなに自分の独占欲が激しいなんて思っていなかった。
一樹が他の人間に触られるなんて……許せなかった。
そのまま眠りに落ちて、かすかな寝息を立てている一樹に処理をし、抱きかかえてベットに運ぶ。
ゴメン。
不安にさせているのは俺の方なのにな。
一樹が2丁目に行くわけがないのは、冷静になった今ではすぐわかることだ。
馬鹿馬鹿しい話だが、あの時はカッとして少し本気にした。
藤岡は一樹の瞼にキスを落としながら、ある決意を心に固めた。
これ以上、一樹をほっとけない。
いや、俺がこれ以上一樹に触れれないのは、絶えられない。
今日一樹に酷くしたのも……俺が思った以上に一樹に飢えていたせいだ。
帰ったら、両親と祖父母に連絡を取ろう。
家庭教師も予備校もいらない、と。
めんどくさがって、避けていたことと、少し向かい合ってやろう。
俺が最優先するのは……一樹の事だけなのだから。
流石に朝までいて、一樹の両親と顔を合わすのはマズイ。
藤岡は、一樹の机の上に置いてあったメモ帳にメッセージを残すと、自分が入ってきた窓から部屋を出る。
―――そういえば、靴も脱いでいなかったな。
自分の粗暴さに、藤岡は苦笑した。
『ごめん。一樹の言葉にどうやら我を失ってしまったらしい。顔を合わせると、もう一度抱きしめたくなるので、今日は帰ることにした。また、連絡する・藤岡』
『クリスマス…1人にして、悪かった。』
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