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『楽園』シリーズ番外編

有効なる休日の過ごし方。



―――ふざけた事を・・・!!
顔には出さないが、渚は内心怒り狂っていた。

「渚さん?」
派手な振り袖を着た女性は、不思議そうに渚を見ている。
「いえ、なんでもありませんよ・・・」
相手が見惚れるような、作り笑い。
慣れたものだ。
無理矢理セノ・エンタープライズ社の社長の職を着かされてから、自然と身につけたモノ。
冷ややかな微笑なら昔からしていたが、相手に好印象を与える笑いなど今まで必要なかったから。

思った通り、相手の女性はポッと頬を染める。
たわいもないことだ。
あの男の思惑通りに進める必要はないが、この女は後々使えるかも知れない。
好印象を持たれておくべき、人物だった。

「さ、そろそろ皆さんの所へ戻りましょうか―――?」
「え・・・ええ。」
女は少し残念そうな顔をしたが、慎みを持っていたので渚の言葉に従った。


◇◇◇


「あら、もう戻ってこられたの―――?」
談笑していた両親達は、今日の主役が戻ってきたことで話を止めた。

「もっと色々話すこともあるだろう、渚。ほら、将来のこととか、なぁ。」
瀬野忠雄は、機嫌良く渚に話を振る。
「はははっ、それはまだ早すぎますよ。瀬野さん」
相手の父親も、まんざらではないらしい。
「はっはっは、そうだったかな」

機嫌の良さそうな両親達の中で、1人だけ不機嫌な顔をしている女・渚の義母光江。
この、大手銀行の頭取の娘との縁談がでたとき、光江は自分の息子である3男を指名した。
だが、夫である忠雄は、渚を選んだ。
気に入らない
気に入らない・・・。
どんどん、瀬野の中枢部に入り込んでくる渚を、光江は忌々しそうに見つめていた。



「父さん―――」
今まで黙っていた渚が、口を開いた。
「わたくし、仕事が入ってますので、この辺で失礼します―――」
渚の言葉に、今まで笑っていた忠雄の目つきがスッと厳しくなる。
「聞いていないぞ―――」
「急に入ったのです。それでは急いでいますので・・・」
「渚っ」


忠雄の怒りを含んだ声を背中に受けながら、渚は足早にその場を去る。

―――付き合ってられるか・・・!
あんな猿芝居。

どうせあの父親同志で、結婚式の日取りまでの話は付いているのだろ。
ふざけてやがる。
あの男の思う通り結婚など・・・。
俺があいつのコマになるなんて、絶対認めない。

怒りながらホテルを出たところで、渚は呼び止められた。



「志野―――」
「やばいよ、渚。会長、カンカンだぜ」
云ってることと裏腹に、志野の口元はニヤニヤとしていた。

「志野。俺は昨日お前から“どうしてもはずせないVIPとの懇談”って聞いていたんだがな・・・。」
冷たい渚の視線を受け、志野は「おぉ、恐っ」と呟く。
「ほらっ、だってVIPだろ?宮澤銀行の頭取とその娘なんて・・・」
「ふざけるなっ。せっかくの休みをこんな―――」
「仕方ないだろ。今日のは仕事付き合い上、絶対お前は行かなきゃならなかったんだから。事前に教えてたら、お前最後まで行くの渋っただろう?」
「あたりまえだろう。あんな男の思い通りに・・・」
「じゃ、知っていて抵抗するお前を無理矢理連れていくのと、知らないお前と一緒に行くのなら俺の労力は後者の方が絶対楽だから、そうしたんだ。」
悪びれず云う男の顔を思わず殴りそうになった渚だが、確かにこの有能な男の云う通りなので押し黙る。
こういう志野の合理的な所を、渚は気に入っていた。
どうも自分中心と云うところが、いただけないのだが・・・。

昨日この見合いの話が、忠雄の秘書を通じて志野に入った。
前日ギリギリ、というのも渚側が断れないのを見越しての事だったらしい。
志野も、どうにか手を尽くして断れる道はないか探してみたが、いかんとも時間が足りなかった。
無視するには、相手先が大きすぎる。
それで仕方なく、絶対抵抗するであろう渚を騙して、今日この場に連れてきたのだった。



「しっかし、どうする。コレからどんどんこの話進むぞ―――」
急に真剣になった志野に、渚は不敵に微笑む。
「あの男の、思い通りになってたまるか。」
「ふふっ、お前ならそう云うと思ってたよ・・・」
協力を誓い合ったある意味共同体である二人は、ニヤリと笑みを交わしあった。

「で、ココから何で帰るんだ。父親達と一緒に来るまで帰るの嫌なんだろう?」
早足で歩く渚の後を、志野はついてくる。
「判ってるだろう。もうすぐ駅だ。地下鉄で帰る。」
「お前がねぇ〜地下鉄で・・・。なんか想像つかねぇや」
「云っておくが、俺は元々一般庶民で、中学校も電車で通っていた」
それが今では専属の運転手までつき、自分でドアも開けることもない身分だ。
あの頃ではそれこそ想像もつかなかったな・・・。
渚はフッと笑み浮かべた。

「へぇぇ〜、お前が電車通学。」
大層に驚く志野の顔を渚は呆れ顔で見ながら
「お前はタクシーで帰れよ」
「ヤダよ。社長を電車で帰らせて、秘書がタクシーで帰るなんて聞いたことがない。それに、俺は貧乏性だからタクシーなんて勿体ないね」

二人で軽口をたたき合っている時、激しいクラクションが後ろで鳴った。
振り向くと、真っ黒なベンツがこっちに向かってきている。
志野はキョトンとした顔をし、
渚は頭を抱えた。


◇◇◇


「ダーリン。偶然だな―――」
真っ黒なベンツから降りてきた男は、黒のスーツに黒のサングラスをしていた。

“いかにも”な格好だ。

志野は、思わず渚を庇うように前に出た。
「あーん?てめぇ、誰だ」
男は、志野を上から下までゆっくりと見る。
サングラスの奥から見える鋭い目つきに、志野は思わず生唾を飲んだ。

―――その時

「博隆。志野に絡むんじゃない。彼は俺の秘書だ。」
渚の声がした瞬間、男の鋭さが一瞬で抜けた。

「秘書?飯島のおっさんは―――?」
「飯島なら、元々あの男の秘書だ。あの男の下で働いてるよ。」
「ふ〜ん。で、コイツが新しい秘書サマか?」
「ああ、だから変なコトするな」
渚が男に対する言葉はあくまでも冷たく、志野は二人の関係がイマイチつかめなかった。



「志野・・・コイツは和泉博隆。―――俺の高校生の時の級友で・・・友人だ」
渚は溜息を吐きながら、志野に博隆のことを紹介した。
「高校の・・・」
しかしその言葉に、博隆は違う意味で反応した。
「友人?!違うだろ。俺は渚のただ一人のハニー・・・・」
博隆の言葉にいち早く反応した渚に、博隆の口は塞がれる。
「志野。というわけで、久しぶりにあった友人と話をするから―――」
先に帰ってくれ!
渚の必死の形相に、納得出来ないながらも志野は渋々肯いくしかなかった。

博隆が乗ってきた車に乗り込む二人を見ながら、志野は駅へと足を向けた。
「和泉博隆・・・。何処かで聞いたことのある名前だ―――和泉・・・和泉・・・」
志野の頭の中の膨大な情報の中で、1つ引っかかった。

「和泉博隆!和泉系の―――」


◇◆◇◆◇


「何故、今日あそこに来た?」
運転する博隆を、渚は助手席でチロリと見た。
運転手がいたのだが(もちろん、博隆の組の者だ)、「運転手がいるのなら乗らない。」と渚が乗車拒否をしたため、運転手はその場で下ろされ博隆が運転しているのであった。
「今日は、お前休みだっただろう?」
「・・・・・どうして知っているんだ」
「それは、企業秘密です」
おどけた口調で云う博隆に苛立ちを覚えながらも、あのままマンションの戻って今日あったことを思い出しては怒りに包まれるくらいなら、博隆とこうしている方が幾分マシだと思い直した。

「さて、久しぶりの休日。二人でドライブにでもしけこみますか?姫君―――」
恭しく渚の片手を取り、手の甲にキスを落としてくる博隆に、渚は「馬鹿」とうっすらと笑いながら答えた。


◇◇◇


「―――の、何処が・・・・!!ドライブって云うんだ・・・あっ」
俯せに腰を高く抱え上げられ貫かれている渚は、必死に身をよじりながらも抵抗していた。
「ココまで来て、抵抗するなって―――」
博隆はギリギリまで抜いた己のモノを、一気に渚の奥へと穿つ。
渚は、声にはならない叫び声を上げた。
「ドライブ、しただろ。横浜まで」

そう、横浜までドライブをし、何故か予約してあったベイサイドのホテルのスウィートへ直行したのだ。
渚の抵抗するヒマは、なかった。

「てめぇ、最初っから―――くぁ・・・」
中でグラインドされ、イイ所を刺激された渚は、弓なりになってシーツに爪を立てる。
「朝迎えに行ったらいねぇから、少し焦ったぜ。見合いはどうだったんだよ・・・ん?」
「んっ・・・くっ・・・うぁ・・・」
渚のイイ所を熟知している博隆は、小刻みに揺すりながらその部分を刺激する。
渚はそのたびビクッピクッと躰を揺らし、博隆にいいように追いつめられていく。
「いい女だったか?ええ?」
ひつこく攻めてくる博隆に、渚は声をかみ殺すので精一杯だった。

博隆は少し機嫌が悪いらしい。
どうやら、“見合い”というのが気に入らないようだ。
自分だって、山ほど女囲ってるくせに―――

「もっ、離せよ―――」
渚の根本を押さえ込む博隆の手に、爪を立てる。
だが、その手は放れようとしない。
熱い熱が躰中に回って、窒息しそうだ。
「結婚するのか―――」
背中に軽く噛みつくと、また激しく出し入れを始めた。

「うっ、あぁっ・・・!」
噛み殺せなくなった声が、渚の口の端から漏れる。
出し入れするときに漏れる濡れた音。
お互いの躰がぶつかり合って出される音。
全てが淫猥に、お互いを高めていく。

「誰がっ、するかっ。あんな、男の、用意した女なんかと―――」
必死に言葉を紡ぐ。
コレを云わなければ、きっと博隆は解放してくれないだろう。
その言葉を口にした途端、博隆は渚を押さえ込んでいた手を解き、逆に上下に擦りだした。

直接の刺激と、後方からの刺激。
渚の頭はスパークする。

「あぅ・・・あぁ・・・くぅっ・・・ひろ・・・ひろたかぁ―――」
男の名を呼びながら渚ははじけた。
その瞬間、渚の奥はキュウと締まり、博隆のモノを絞り込むように収縮する。
「くぅっ―――」
低い唸り声を上げると、博隆は渚の最奥へ全てを放った。


◇◆◇◆◇


久しぶりの休日。
読みたかった本を読んで、貯まっているビデオを見て、ゆっくり過ごそうと思っていた、休日。

なのに―――

午前中、不本意な見合いに付き合わされて。
午後からは、男の思うままに延々と貪られ続けた。



午後11時。
散々渚の躰を貪って満足し寝入っている男の隣で、疲れ果てた躰を抱えながら渚は自分の不幸を嘆くしかなかった。



      
HappyEND?
   

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