| 藤岡&一樹シリーズ番外編 70万ヒット記念。 |
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とある探偵事務所の、ある1日。 |
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「馬鹿か! お前はっ!!」 静かな午後。 事務所に、佐伯の怒鳴り声が響いた。 「うわっ」 コーヒーを運んできたらしい青年は、佐伯の怒鳴り声に持っていたお盆を落としそうになった。 「まぁまぁ、駿。そんなに怒ると、血管切れるぞ?」 のんびりと佐伯をとがめる男に、佐伯は本当に血管が切れそうになる。 「コレで切れてるなら、もう数年前に切れてるよっ。・・・で、彼は?」 渡されたコーヒーを受け取りつつ、それを運んできた青年の事を男に尋ねた。 「あ、そうか。紹介してなかったな。彼は、羽田野一樹君。新しく雇ったバイト君だよ」 「・・・バイト?」 佐伯の把握してる限り、この男が経営する探偵事務所は、ほとんどと言っていいほど仕事が無く、人を雇うほど忙しくも無く、人を雇えるほど余裕もないはずだ。 なのにこの男は、バイトを雇ったらしい。 「お前、フザケルのも・・・ホドホドにした方がいいぞ?」 怒りの為に声が震えるのは、仕方が無いと佐伯は思う。 それほどまでに、この全てを舐めきった男に怒りを覚えていた。 「いや、ふざけてないし。彼、よく出きる子だよ〜。なかなか鋭い推理もしてくれるしね」 ニコニコと人のいい笑いを男はバイト君とやらに、向ける。 「いや、オレ役立たずですから・・・」と、そのバイト君は恐縮しきりだが。 「じゃあ、バイト君を雇うほど忙しくなったんだな。浮気調査とか、行方不明者探しとか・・・」 「そんなの、一切しないって」 「馬鹿っ!」 そう、この探偵事務所の所長という男は、仕事を選り好みするのだ。 貧乏なくせに。 仕事がないくせに。 『せっかく推理小説好きで探偵になったんだ。俺は事件しか扱わねぇ』 とか、寝ぼけた事を抜かしやがる。 事件しか扱わない探偵―――そんなのは、小説の中だけだというのに。
佐伯駿がこのふざけた男と知り合ったのは、大学の時だ。 偶然、授業の時、隣に座ったという出会いだった。 人懐こい男は、隣に座った佐伯に授業中色々と話しかけてきて、佐伯はその話に乗った。 授業が終った頃には、友達になっていた。 佐伯は男を知って、『天は二物を与えず』という諺は、嘘だという事を知った。 なぜなら男は、二物どころか三物も四物も持っていたからだ。 誰の目も引かずにはいない、その容姿。―――一緒に歩いていると、すれ違う人が皆振り返って男を見た。 天才としか言いようのない、その才能。―――日本最高峰というT大の中でも、彼の頭脳はずば抜けていた。 それでもって、男は誰からも『いいヤツだ』と言われる男だった。 その容姿も、その才能も、全く歯牙にかけない人間だったのだ。 佐伯は男の友人として、誇らしかった。 4年間のほとんどを、男と共に過ごした。 その4年間は本当に楽しくて、毎日毎日笑って暮らしていたような気がする。 現役で司法試験に合格した男は、検察官か弁護士になると誰もが思っていたのに、何故か国家試験を受けて警察官になった。 びっくりもしたが、また、一緒に遊べると・・・佐伯は素直に嬉しかった。 なぜなら、佐伯も警察への道を目指し、試験に受かっていたから。 あとで聞いた話だが、男の祖父は昔警視総監をしていた人で、父親もその当時で警視長の職にあったのだから、かなりの警察一家と言ってもいいのだろう。 男は兄弟で誰も警察関係者がいなかった為、父親から半強制的に試験を受けさせられたらしい。 『ま、別に警察も嫌じゃなかったし・・・末っ子は損だよな』と、男は笑っていたが・・・。 T大卒という肩書きと、後ろ盾。 男はエリート街道を突っ走って行った。 佐伯ももちろんエリート街道には乗っていたが、男にはかなわない。 男は誰よりも仕事が出来たし、その出世は当たり前だと思っていた佐伯はそれに関してやっかむ事は無かった。 エリート一家として、なにかと男は注目の的だったのだが―――。 そんな男が、突然26歳での辞職。 みんなが止めた。 もちろん、佐伯も止めた。 男の父親だって止めただろう。 しかし、男は自分の意思を変えなかった。 確かに、あの事件で彼は絶望したのは・・・佐伯は知っていた。 佐伯も、警視庁の闇を知って、ジレンマに陥ったのだから。 しかし、辞めてなにになるのだろう。 彼が変えていけばいいのだ。 彼には、将来それだけのモノを手にする事が出きる力と地位があったのだから。 26歳で、警視の地位まで上り詰めていた彼ならば―――。 ―――だが、誰も彼を止める事は出来なかった。 そして、男は探偵事務所を開いた。 この時点で、男は実家を勘当の身になったらしい。 『やっと、自由になれた・・・』 男の言葉を、佐伯は未だに忘れられずにいる。 警察を辞めたのは、まだ判る。 しかし、何故・・・探偵なのだ。 彼は司法試験に受かっている身である。 弁護士とか・・・他にも、彼の頭脳を持ってすればなんにでもなれただろうに。 佐伯は、理解に苦しんでいた。 彼が辞めて10年以上も経つというのに、未だに判らない。 そして、誰もが止めたその探偵事務所も―――まともにしているとは、とうてい思えないものなのだ。
「あ、佐伯さん。いらっしゃい」 入り口から入ってきたのは、男の甥だった。 「零君・・・か。君も、この男にいい加減真面目になれって言ってくれよ」 「そんなの、今更ですよ・・・」 男の甥である、零という青年は・・・、少し線が細く中性的だが、顔の造形は男の若い頃とそっくりだ。 この事務所を開いて少しした頃から、入り浸っているのだが―――あまりに大人びた少年だったと佐伯は記憶している。 まぁ、彼がいなければこの事務所は成り立っていないだろうという事を佐伯は知っていたが。 「どうされたんですか? なにか仕事でも持ってきてくれたんです?」 彼は佐伯があまりに仕事をしない友人を見かねて、仕事を持ってきてくれる事を知っている。 確かにその通りなのだが・・・。 「ヤツに渡すより、君に渡した方がいいな・・・。コレ、資料。ちょっと調べて欲しいんだ」 「おいおい、駿。所長は俺だぜ? 俺に仕事の話は通せよ」 甥っ子に資料を渡した佐伯に、男は噛み付く。 佐伯はそんな男に肩をすくめて、立ち上がった。 「どうせやるのは、零君だろ? このグウタラ所長め」 「んなこと、ないぜ?」 「どーだか。とっとと弁護士か検察官になるか、もっとバリバリ仕事する探偵事務所になって、早く俺を安心させてくれ―――」 でないとお前が野垂れ死んでないか心配で、毎月のように顔を出すしかないじゃないか。 そう捨て台詞を言うと、佐伯は事務所を出たのだった。 「なぁ、叔父さん。そろそろ佐伯さんにも、ウチはちゃんと仕事があるって教えてあげたら?」 確かに選り好みはしているが、男の顔の広さとその情報量からかなりの仕事が舞い込んでくるのだ。 佐伯は、自分が持ち込む仕事ぐらいしか無いのだと―――信じて疑っていなかったが。 「そんな事したら、あいつココに来る理由がなくなるだろ?」 にやりと笑う男―――藤岡拓巳に、甥・藤岡零は小さく溜息を吐いた。 「可哀相な佐伯さん。こんなヤツと親友になったから―――」 エリート街道を突っ走っている佐伯に、零は深く同情した。 藤岡探偵事務所の一日は、こうして今日も過ぎていく。 |
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主人公は、佐伯駿さんでした。つーか、この人主人公で別シリーズ書けそう(コワッ) ところで、26歳で警視ってなれるのかどうか、謎。(某漫画の明智警視は28歳らしいので、アリかな?と勝手に判断) 藤岡&一樹のシリーズのSSは、最近叔父関連の話ばっかだなぁ。(それしか、ネタがないらしい・汗) 2003.4.23 |
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